HD(ホールディングス)化は、株式の移転、資産の移転、グループ内の取引が一度に起きるため、その後の税務調査で確認される論点が多くなります。HD化と税務調査で問題になるのは、多くの場合「その取引の理由と金額を説明できるか」です。
この記事では、HD化の後の法人税の調査と、相続税の調査で見られやすいポイントを、判例と準備すべき書類とあわせて整理します。具体的な落とし穴はHD化の落とし穴10もあわせてご覧ください。
- 調査で見られるのは、①組織再編の適格要件と事業目的、②株式の売買価格、③経営指導料・家賃・貸付、④役員退職金、⑤配当の益金不算入、⑥相続税での株価の6つ
- 適格要件を満たしても、濫用と認められれば法人税法132条の2で否認されうる(ヤフー事件・TPR事件)
- オーナーからHDへの株式の売買は、売り手の立場の時価(所得税基本通達59-6)が基準
- 事業会社の社長を退いてHD社長になる場合の退職金は、実質的な退職(法人税基本通達9-2-32)が問われる
- 調査対策は、取引のたびに目的・根拠・金額の算定を書面に残すことに尽きる
調査で見られる6つの領域
| # | 領域 | 主な根拠 | 準備しておく書類 |
|---|---|---|---|
| ① | 組織再編の適格性・事業目的 | 法人税法2条12号の8ほか、132条の2 | 再編の目的書、株主名簿、再編後の計画、議事録 |
| ② | 株式の売買価格 | 所得税法59条、所得税基本通達59-6 | 株価算定書、売買契約書 |
| ③ | 経営指導料・家賃・貸付 | 法人税法37条(寄附金) | 業務委託契約、役務提供の記録、賃料査定、金銭消費貸借契約 |
| ④ | 役員退職金 | 法人税法34条、法人税基本通達9-2-32 | 退職金規程、功績倍率の計算、分掌変更後の職務・報酬の記録 |
| ⑤ | 配当の益金不算入 | 法人税法23条 | 株主名簿の推移、配当の基準日・決議 |
| ⑥ | 相続税での株価 | 財産評価基本通達178〜189-4、6項 | 株価評価明細書、取得の経緯資料 |
① 組織再編:適格要件と事業目的
株式移転・合併・分割が適格かどうかは、株主の構成、支配関係が続く見込み、対価の種類などで判定されます。調査では、再編の時点の株主名簿と、再編後に株式の売却や別の再編が予定されていなかったかが確認されます。要件の基本は組織再編税制の基本と完全支配関係の適格要件をご覧ください。
要件を満たしていても、法人税法132条の2の行為計算否認の対象になることがあります。
- ヤフー事件(最高裁平成28年2月29日判決):最高裁は、組織再編税制を租税回避の手段として濫用するものかを、手順・方法の不自然さと、税負担の減少以外の事業目的の有無などから判断するという基準を示しました。欠損金の引継ぎの要件を満たすための副社長就任が、要件の形式を整えるための不自然なものとされ、否認が認められました(国税庁 税務訴訟資料 順号12813)
- TPR事件(東京高裁令和元年12月11日判決):完全子会社を適格合併で吸収すると同時に、子会社の事業を新設の会社に移していたため、実態は欠損金だけを引き継いだに等しいとして、132条の2による否認が認められました(税務訴訟資料 順号13354)
中小企業のHD化や合併でも考え方は同じです。欠損金のある会社との合併、合併の直前の役員の就任、再編の直後の株式の売却などは、事業上の理由を説明できるようにしておきます。判例の詳細はM&A・組織再編の税務の重要判例、否認の考え方は組織再編の行為計算否認で解説しています。
② オーナーからHDへの株式の売買価格
オーナーが事業会社の株式をHDに売ってHD化する場合、個人から法人への譲渡なので、時価の2分の1未満で売ると時価で譲渡したものとみなされます(所得税法59条)。この時価は、所得税基本通達59-6により、売り手(オーナー)の立場で判定します。オーナーが中心的な同族株主なら小会社として評価し、純資産価額の計算で含み益に対する法人税額等相当額を差し引かないなど、相続税評価より高くなりやすい点に注意が必要です。
反対に、時価より高く買い取ると、HDからオーナーへの利益の移転として問題になります。株価算定書を作り、算定の方法と前提を残しておくことが基本です(新しく作ったHDに株式を売ってHD化する、HDへの株式売却とみなし配当・譲渡所得の違い)。
IBM事件(東京高裁平成27年3月25日判決、国の上告受理申立ては不受理)は、中間持株会社が取得した子会社株式を発行会社に譲渡して生じた損失について、国が法人税法132条1項で否認した事案で、高裁は否認を認めませんでした(税務訴訟資料 順号12639)。中間持株会社を使った取引が調査の焦点になることを示す例です。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る③ 経営指導料・家賃・貸付
HDと子会社の間のお金のやり取りは、寄附金(法人税法37条)とされないかが確認されます。
- 経営指導料:HDが実際にどんな役務を提供しているか。会議の記録、HDの人員、業務委託契約の中身と金額の算定根拠(経営指導料の決め方と税務上の注意)
- 家賃:近隣の相場に照らして妥当か。賃料査定や募集事例(HDが不動産を子会社に貸す:家賃の決め方)
- 貸付:契約書、利率、返済の実績(HDから他のグループ会社へ資金を回す)
法人による完全支配関係がある会社の間では、寄附金は全額損金不算入、受贈益は全額益金不算入になりますが、課税関係がなくなるわけではありません。個人を通じた兄弟会社の間では、寄附金の限度超過額が損金不算入になり、受贈益は課税されます。
④ 役員退職金:分掌変更と金額
事業会社の代表を退き、HDの社長になって退職金を受け取る形はよく使われます。分掌変更による退職金は、地位や職務の内容が激変し、実質的に退職したのと同様の事情がある場合に退職給与として扱われます(法人税基本通達9-2-32)。例として、常勤から非常勤になる、報酬がおおむね50%以上減るなどが示されていますが、その後も経営上主要な地位にあると認められる場合は除かれます。
調査では、退任後も事業会社の取締役会に出て重要な判断をしていないか、取引先や金融機関との折衝を続けていないか、といった実態が確認されます。HDの社長として子会社を監督する立場と、事業会社の経営そのものを担うことの境目を、議事録や職務分担で明確にしておきます。金額は功績倍率などで説明できる水準にします(分掌変更による退職金、役員退職金の適正額、退職金が否認された事例)。
⑤ 配当の益金不算入
受取配当の益金不算入は、株式の保有割合と期間で区分が決まります(法人税法23条)。完全子法人株式等として全額を益金不算入にするには、配当の計算期間を通じて完全支配関係があることが必要です。HD化の直後の配当や、期中に株主構成が変わった場合は、区分の判定が確認されます(HDが子会社から受ける配当は非課税?)。
⑥ 相続税の調査:HD株式の評価
相続税の調査では、HD株式の評価が通達どおりか、株式等保有特定会社・土地保有特定会社の判定、課税時期前3年以内に取得した不動産の評価、含み益の控除の計算などが確認されます。課税時期の前に合理的な理由なく資産の構成を変えて特定の評価会社の判定を免れたと認められる場合は、その変動はなかったものとして判定されます(財産評価基本通達189)。通達どおりの評価が著しく不適当な場合は、6項で評価し直されることもあります(HD化による株価対策と総則6項、不動産を持つHDの相続)。
調査に備える書類の整え方
- HD化の目的書(承継・経営・財務の理由)を作り、取締役会・株主総会の議事録と一緒に保管する
- 株価算定書・賃料査定・経営指導料の算定根拠など、金額の根拠を取引ごとに残す
- グループ内の取引は、契約書と実際の支払の記録をそろえる
- 再編の後の株主名簿と役員の職務分担の推移を記録する
まとめ
HD化の後の税務調査で見られるのは、組織再編の適格性と事業目的、株式の売買価格、経営指導料・家賃・貸付、役員退職金、配当の区分、そして相続税での株価です。要件を満たしていても、濫用と認められれば否認されることは、ヤフー事件やTPR事件が示しています。
どの論点も、取引の目的と金額の根拠を書面で説明できるかが分かれ目です。HD化の設計の段階から、調査で問われることを想定して書類を整えておきましょう。
