ホールディングス(HD)を作ったものの、「会社が2つあるメリットを感じない」「維持の手間とコストだけがかかる」「会社を売ることになり、買い手から1社にまとめてほしいと言われた」——こうした理由で、HD化をやめたいというご相談もあります。
HDの解消は、HDを作るときと同じく組織再編の一つです。やり方によって、税金、許認可、銀行の借入、自社株の評価が大きく変わります。この記事では、HDをやめて1社に戻す3つの方法(順合併・逆さ合併・清算)と、それぞれの税金と注意点を整理します。HDの作り方の全体像はHDの作り方の全体像、HDのデメリットはHD化のデメリットと落とし穴で解説しています。
- HDの解消は、HDが事業会社を吸収する(順合併)、事業会社がHDを吸収する(逆さ合併)、HDを清算するの3つが基本
- 100%親子会社の合併は、要件を満たせば適格合併。帳簿価額で引き継ぐので、合併時の法人税はかからない(法人税法2条12号の8)
- 欠損金の引継ぎは支配関係(50%超)の5年判定。HDを作って間もない場合は特に確認が必要(法人税法57条3項)
- 許認可・契約・口座を残したいなら、事業会社を存続会社にする逆さ合併が実務上は扱いやすい
- HDが借入で株式を買っていた場合、逆さ合併で事業会社の純資産が減ることがある。銀行には事前に相談する
- HDの清算で事業会社株式を個人に分配するとみなし配当の負担が重い。清算は、HDが空の箱になってから
HDをやめたくなる理由と、やめる前に考えること
HDの解消を考える理由は、大きく次の4つです。
| 理由 | よくある状況 | 解消以外の選択肢 |
|---|---|---|
| 維持コスト | 2社分の均等割、決算・申告の費用、登記の手間 | HDに不動産や管理機能を持たせて役割を作る |
| 承継の計画の変更 | 後継者が決まらない、親族外への承継に変わった | HDの株式をそのまま渡す、後継者の会社がHDの株式を買い取る |
| 会社の売却 | 買い手が事業会社だけを買いたい、または1社での買収を望む | 事業会社の株式だけを売り、HDは残す(一部だけ売る方法) |
| 株価の評価 | HDが株式等保有特定会社に当たり、評価が思ったほど下がらない | HDの資産構成を見直す(株式保有特定会社とは) |
コストが理由なら、まずHDの維持コストを正確に計算してみます。合併にも登記や専門家の費用がかかるため、年間の維持コストとの比較が判断の材料になります。また、いったん解消すると、将来もう一度HDを作るときに同じ費用がかかります。承継やM&Aの予定が数年以内にあるなら、急いで解消しないほうがよい場合もあります。
HDを解消する3つの方法
オーナーがHDの株式を100%、HDが事業会社の株式を100%持つ、もっとも多い形で考えます。
3つの方法を比べると、次のようになります。
| 項目 | 順合併(HDが事業会社を吸収) | 逆さ合併(事業会社がHDを吸収) | HDの清算 |
|---|---|---|---|
| 残る会社 | HD | 事業会社 | 事業会社(株式の行き先を別に決める) |
| 株主への対価 | なし(HDが持つ子会社株式は合併で消える) | 事業会社の株式をオーナーに交付 | 残余財産の分配 |
| 法人税 | 要件を満たせば適格合併で課税なし | 要件を満たせば適格合併で課税なし | HDの清算所得に課税。含み益があれば課税される |
| オーナーの税金 | 原則なし | 適格・株式のみの交付なら原則なし | 資本金等の額を超える分配はみなし配当 |
| 許認可・契約 | 事業会社のものは承継手続や再取得が必要な場合がある | 事業会社のものがそのまま残る | 事業会社のものは残る |
| 向く場面 | HDに不動産や許認可が集まっている | 事業会社の許認可・取引口座を動かしたくない | HDに株式以外の資産がほとんどない |
合併で解消するときの税金
100%親子会社の合併は適格合併になりやすい
合併の直前から、合併後も完全支配関係が続くと見込まれる100%親子会社の合併は、合併法人の株式以外の資産(金銭など)を交付しないなどの要件を満たせば適格合併です(法人税法2条12号の8イ、法人税法施行令4条の3第2項)。適格合併では、消滅する会社の資産・負債を帳簿価額で引き継ぐため、合併による譲渡益への課税はありません(法人税法62条の2)。順合併でも逆さ合併でも、この扱いは同じです。適格要件の全体は組織再編税制の基本と完全支配関係の適格要件をご覧ください。
逆さ合併では、オーナーはHDの株式と引き換えに事業会社の株式を受け取ります。適格合併であればみなし配当は生じず(所得税法25条1項1号)、合併法人の株式以外の資産を受け取らない合併であれば、旧株の譲渡益にも課税されず繰り延べられます(国税庁 タックスアンサーNo.1536)。
欠損金の引継ぎは「支配関係5年」で判定する
消滅する会社に繰越欠損金があれば、適格合併により存続会社に引き継げます(法人税法57条2項)。ただし、両社の間に支配関係(50%超)が5年以上前から続いていない場合は、支配関係ができる前の事業年度の欠損金などが引き継げなくなります(法人税法57条3項)。存続会社自身の欠損金にも、同じような使用制限があります(同条4項)。
株式移転でHDを作った場合などは、HDの設立日を含めて支配関係の判定をすることになり、計算が複雑です。「HDを作ってすぐにやめる」場合ほど、合併前に欠損金の判定を確認しておきます。詳しくは合併で欠損金は引き継げる?で解説しています。
適格でも否認された例:TPR事件
要件を形式的に満たしていても、行為計算否認(法人税法132条の2)の対象になることがあります。いわゆるTPR事件では、完全子会社を吸収する適格合併とあわせて、同じ日に新会社を設立し、旧子会社の従業員を転籍させ、事業用の資産を新会社に譲渡・賃貸していました。裁判所は、実態としては事業がほぼ変わらないまま新会社に引き継がれ、欠損金だけを引き継いだに等しいとして、欠損金の引継ぎを否認した処分を適法としました(東京地裁令和元年6月27日判決、税務訴訟資料 順号13285。控訴審の東京高裁令和元年12月11日判決も控訴棄却、同 順号13354)。
HDの解消で問題になる場面は多くありませんが、合併と同時に別会社を作って事業を移すような組み方は避け、合併の目的を議事録などに残しておきます(組織再編の行為計算否認)。
登録免許税と不動産取得税
合併の登記には登録免許税がかかります。存続会社の資本金が増える場合は、増加した資本金の額の1,000分の1.5(一定の部分は1,000分の7、最低3万円)です。消滅会社が不動産を持っていれば、合併による所有権移転登記に固定資産税評価額の1,000分の4がかかります(国税庁 タックスアンサーNo.7191)。一方、合併による不動産の取得には不動産取得税はかかりません(地方税法73条の7第2号)。HDが不動産を持っている場合は、逆さ合併でこの登記費用がかかる点を見込んでおきます(組織再編と不動産取得税・登録免許税)。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る順合併か逆さ合併か:実務での選び方
許認可・契約・口座を残すなら逆さ合併
順合併では、事業会社が消えてHDが事業を引き継ぎます。合併は包括承継なので、契約や借入は原則として引き継がれますが、許認可は業種によって、事前の認可や新たな取得が必要です。取引先との契約に合併を解除事由とする条項があれば、相手方の同意も必要になります(HD化と許認可、チェンジ・オブ・コントロール)。
逆さ合併なら、事業会社の法人格が残るので、許認可、取引口座、取引先の登録、社会保険の適用事業所などはそのままです。従業員の雇用契約も動きません。このため、HDが株式以外にあまり資産を持っていないなら、逆さ合併を選ぶことが多くなります。逆に、HDが本社の土地・建物や複数の許認可を持っているなら、順合併のほうが手続きが少ないこともあります。
逆さ合併で事業会社の純資産が減る場合
注意したいのは、HDが借入で事業会社の株式を買っていた場合です(新しく作ったHDに株式を売ってHD化するの形)。逆さ合併をすると、事業会社はHDの借入を引き継ぐ一方、HDが持っていた事業会社の株式は、事業会社にとっては自己株式になり、会計上は純資産から差し引かれます。
説明のための仮の数字で見てみます。
| 項目 | 合併前の事業会社 | 合併後の事業会社 |
|---|---|---|
| 総資産 | 5億円 | 5億円 |
| 借入金 | 2億円 | 2億円+HDの借入1.5億円 |
| 純資産 | 3億円 | 約1.5億円(自己株式の分だけ減少) |
グループを連結して見ていた銀行から見れば、合併前後で実態は変わりません。しかし、単体の決算書では純資産が大きく減り、自己資本比率や、著書のモデルで使う債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))の見え方が悪くなります。融資の格付けは単体の決算書が出発点になることが多いので、合併前に取引銀行へ説明し、合併後の決算書の見え方を共有しておくことが欠かせません(HD化すると銀行の見方はどう変わる?)。
HDの借入に事業会社が保証している、事業会社の借入にHDが保証している、という場合は、合併で保証の関係も整理されます。担保や保証の差し替えが必要かどうかも、あわせて銀行と確認します(HDと子会社の連帯保証・担保)。
解消すると自社株の評価も変わる
HDがあるときの株価は、HDの株式を評価するときに、子会社株式の含み益に対する法人税額等相当額(令和8年4月1日以後の相続・贈与等は38%)を控除できる場合があります(財産評価基本通達186-2)。HDを解消すると、この控除の前提がなくなり、オーナーが直接持つ事業会社の株式として評価し直すことになります。承継の途中で解消する場合は、HD化で株価が下がる仕組みの逆の動きになることを試算しておきます。
HDを清算する場合
清算の手続き
HDを清算する場合は、株主総会の特別決議で解散し、清算人が財産を処分して債務を払い、残りを株主に分配します。債権者には、2か月以上の期間を定めて官報で公告し、知れている債権者には個別に催告します(会社法499条1項)。最短でも解散から清算結了まで2か月以上かかります。
個人株主への分配はみなし配当になる
清算の難点は、HDが持つ事業会社の株式の行き先です。オーナーに残余財産として分配すると、分配した資産の時価のうち、HDの資本金等の額を超える部分がみなし配当として配当所得になり(所得税法25条1項4号)、残りは株式の譲渡収入とみなされます(国税庁 タックスアンサーNo.1536)。事業会社の株式の時価が高いほど、オーナーの所得税の負担が大きくなります。また、法人から個人への現物分配は適格現物分配にならないため、HDの側でも事業会社株式の含み益に課税されます。
このため、清算が向くのは、事業会社の株式を売却した後や、事業会社をすでに合併した後など、HDが現預金などしか持たない空の箱になっている場合です。事業会社を残したまま「とりあえずHDを清算する」のは、税負担の面からおすすめできません。
子会社を清算してHDを残す場合
反対に、事業をやめて子会社を清算する場合もあります。100%子会社が清算すると、HDでは子会社株式の消却損は計上されません(法人税法61条の2第17項)。その代わり、子会社の繰越欠損金は、5年の支配関係の判定を満たせばHDに引き継げます(法人税法57条2項・3項)。子会社に残余財産がないと見込まれる場合は、期限切れ欠損金の損金算入も認められます(法人税法59条4項)。複数の会社を清算と合併で整理する考え方は、複数の法人を合併で整理するで解説しています。
まとめ
- HDの解消は順合併・逆さ合併・清算の3つ。事業会社を残したいなら合併、空の箱になったHDなら清算
- 100%親子会社の合併は、要件を満たせば適格合併。合併時の法人税はかからず、逆さ合併でもオーナーに原則課税されない
- 欠損金は支配関係5年の判定。合併と同時に事業を別会社へ移すような組み方は、TPR事件のように否認されることがある
- 許認可や契約を残すなら逆さ合併。ただし、HDの借入を引き継ぐと事業会社の純資産が減ることがあり、事前に銀行と相談する
- HDの清算で事業会社株式を個人に分配するとみなし配当の負担が重い
- 解消すると株価の評価も変わる。承継の途中なら試算してから決める
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