ホールディングス(HD)化を終えたあと、次に出てくるのが「HDの下に新しい会社を作りたい」というご相談です。新規事業を始める、不動産を別会社で持つ、後継者に任せる事業を切り出す、M&Aの受け皿を作るなど、理由はさまざまです。
HDの下に新会社を作るときに決めることは、大きく3つあります。どうやって出資するか(お金か、モノか、事業か)、資本金をいくらにするか、そして出資と貸付をどう組み合わせるかです。どれも、税金と銀行の見え方の両方に影響します。
この記事では、HDの子会社を新しく作る場面に絞って、出資の方法と資本金の決め方を整理します。HD自体の資本金の決め方はHDの社名・資本金・役員構成の決め方で解説しています。
- 新会社への出資は、金銭出資・現物出資・会社分割(分社型)の3つ。ふつうは金銭出資で足りる
- 資本金は1,000万円未満が基本。ただし特定新規設立法人に当たると、資本金が小さくても設立当初から消費税の課税事業者になる
- 均等割は「資本金+資本準備金」と「資本金等の額」の大きいほうで決まる。資本準備金に回しても均等割は下がらない
- 資金は「返ってこない部分は出資、返せる部分は貸付」と分ける
- HDの資金の出どころ(事業会社からの配当か、借入か)と、グループ全体の返済能力を銀行に説明できるようにしておく
新会社への出資の方法は3つ
HDが新会社を作る方法は、何を出資するかで3つに分かれます。
| 方法 | 向いている場面 | 法人税 | 手続きの重さ | 主な根拠 |
|---|---|---|---|---|
| 金銭出資 | 新規事業、M&Aの受け皿、ゼロから始める会社 | 課税関係は生じない | 軽い(発起設立) | 会社法25条以下 |
| 現物出資 | HDが持つ不動産・貸付金などを新会社に移す | 完全支配関係があれば適格現物出資として簿価で移転 | 検査役の調査が要る場合あり | 会社法33条、法人税法2条12号の14・62条の4 |
| 新設分割(分社型) | HDが自ら営む事業を、契約や従業員ごと切り出す | 要件を満たせば適格分割として簿価で移転 | 重い(分割計画、債権者保護手続など) | 会社法762条、法人税法2条12号の11 |
金銭出資:もっとも一般的な方法
HDが発起人になって現金を払い込み、株式会社を設立します(発起設立)。定款の作成と公証人の認証、払込み、設立登記という流れで、通常の会社設立と同じです。HDの側では、払い込んだ現金が「子会社株式」に置き換わるだけなので、法人税の課税は生じません。
株式会社ではなく合同会社を選ぶこともできます。定款の認証が不要で、設立の登録免許税も資本金の1,000分の7(最低6万円)と、株式会社(最低15万円)より安く済みます(登録免許税法別表第一24号)。HDの完全子会社で外部の株主を入れる予定がなく、許認可や取引先の事情で株式会社である必要がない場合は、選択肢になります。
現物出資:HDが持つ資産を移したいとき
HDが持っている不動産や、事業会社への貸付金などを新会社に移したいときは、現物出資を使います。HDと新会社の間に完全支配関係があり、それが続く見込みであるなどの要件を満たせば適格現物出資となり、帳簿価額で引き継ぐため、含み益があっても法人税はかかりません(法人税法2条12号の14、62条の4)。
注意したいのは次の2点です。
- 不動産の税金:適格であっても、不動産取得税と登録免許税は原則としてかかります。金額の目安は組織再編と不動産取得税・登録免許税で整理しています
- 検査役の調査:設立時の現物出資は、原則として裁判所が選任する検査役の調査が必要です。出資する財産の価額の総額が500万円以下の場合などは省略できます(会社法33条10項)。不動産を出資するときは、弁護士の証明と不動産鑑定士の鑑定評価で代える方法もあります(同項3号)
手続きが重くなりやすいため、実務では「金銭出資で会社を作り、そのあとで資産を売買や会社分割で移す」ほうが進めやすい場合もあります。どちらがよいかは、移す資産の含み益と、不動産の税金の差で比べます。
分社型分割:HDが自ら営む事業を切り出すとき
HDが事業持株会社で、自ら営んでいる事業(たとえば不動産賃貸業)を独立させたい場合は、新設分割で新会社に切り出します。従業員や契約を包括的に移せる一方で、分割計画の作成、事前開示、債権者保護手続など手続きは重くなります。詳しくは会社分割(分社型・分割型)でHD体制にする方法と債権者保護手続が必要なケースをご覧ください。
資本金の決め方:1,000万円の境目と特定新規設立法人
新会社の資本金でまず意識するのは、消費税の免税と法人住民税の均等割です。境目をまとめると次のとおりです。
| 資本金などの額 | 消費税(設立1期目・2期目) | 均等割(標準税率・従業者50人以下) | 法人税の軽減税率 |
|---|---|---|---|
| 1,000万円未満 | 原則免税。ただし特定新規設立法人、インボイス登録、特定期間の判定などで課税になる場合あり | 年7万円(資本金等の額1,000万円以下) | 所得800万円以下の部分15%(大法人の100%子会社を除く) |
| 1,000万円以上1億円以下 | 新設法人として設立当初から課税 | 年18万円(1,000万円超1億円以下) | 同上 |
| 1億円超 | 設立当初から課税 | さらに高い区分 | 軽減税率なし。事業税の外形標準課税の対象 |
根拠:消費税法12条の2・12条の3(国税庁 タックスアンサーNo.6503)、地方税法52条・312条、国税庁 タックスアンサーNo.5759
HDの子会社で見落としやすい「特定新規設立法人」
資本金を1,000万円未満にすれば消費税が2年間免税になる、と考えがちですが、HDの子会社では特定新規設立法人の判定が欠かせません。
新会社が、HDなど他の者に発行済株式の50%超を直接・間接に持たれていて、その他の者、または他の者が完全支配する他の法人(特殊関係法人)の基準期間に相当する期間の課税売上高が5億円を超える場合は、資本金が1,000万円未満でも設立当初から課税事業者になります(消費税法12条の3)。令和6年10月1日以後に開始する課税期間からは、これらの者の国外分を含む収入金額の合計が50億円を超える場合も対象に加わりました(タックスアンサーNo.6503)。
HD化したグループでは、HD自体の売上は小さくても、HDが100%持つ事業会社の売上が5億円を超えていることがよくあります。この場合、新会社は免税になりません。事業計画の消費税の前提を、設立の前に確認しておきます。
なお、取引先の多くが事業者で、新会社がインボイス(適格請求書)を発行する必要がある場合は、登録した時点で課税事業者になるため、免税のメリットはもともと限られます。
資本準備金に回しても均等割は下がらない
払い込んだお金の2分の1までは、資本金ではなく資本準備金にできます(会社法445条2項・3項)。たとえば2,000万円を払い込んで、資本金990万円・資本準備金1,010万円とすれば、消費税の新設法人の判定(資本金の額で見る)では1,000万円未満になります。
ただし均等割の区分は、税務上の資本金等の額と、資本金と資本準備金の合計額の大きいほうで判定します(地方税法52条・312条)。この例では2,000万円となり、均等割は1,000万円超の区分です。資本準備金への振り分けは、消費税には効いても均等割には効かない、と覚えておきます。会社が増えるほど均等割の固定費は積み上がるので、グループ全体の維持費はHD化の維持コストで確認しておきます。
出資と貸付をどう組み合わせるか
新会社の立ち上げ資金を、全部HDからの出資にする必要はありません。むしろ出資と貸付の組み合わせで考えるのが一般的です。
| 項目 | 出資 | HDからの貸付 |
|---|---|---|
| 新会社の決算書 | 純資産(自己資本)が増える | 負債が増える |
| HDへの戻り方 | 配当(新会社に利益が出てから) | 返済と利息 |
| HDの税金 | 100%子会社からの配当は全額益金不算入(法人税法23条) | 受取利息は益金。新会社では支払利息が損金 |
| 消費税・均等割 | 資本金・資本準備金が増えると区分が上がる | 影響なし |
| 銀行の見え方 | 新会社の自己資本比率が上がる | 新会社単体では負債。HDからの借入は劣後的に見てもらえる場合もある |
HDから新会社への貸付は、100%グループ内の取引なので、利率が低くても寄附金の問題になりにくい場面はありますが、無利息や極端な低金利は、グループ法人税制の寄附金の扱い(法人税法37条2項、25条の2)や経済合理性の説明が必要になります。グループ内の資金の回し方はHDから他のグループ会社へ資金を回す、グループ法人税制の全体像はグループ法人税制とはで解説しています。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る銀行からの見え方:HDの資金の出どころが問われる
HDの下に新会社を作ると、銀行はグループを連結して見るようになります。とくに次の点を聞かれます。
HDの出資のお金はどこから来たか
純粋持株会社のHDには、本来、大きな現預金はありません。新会社に出資するお金は、たいてい次のどれかです。
- 事業会社からの配当:100%子会社からの配当はHDで全額益金不算入になり(法人税法23条1項・5項)、令和5年10月1日以後は源泉徴収も不要です(所得税法177条、212条3項)。ただし事業会社の現預金が減るので、事業会社の取引銀行には「なぜ配当を増やしたか」を説明します
- HDの借入:HDが借りて新会社に出資すると、返済の原資は結局、事業会社からの配当や経営指導料になります。配当を返済原資にする融資の注意点は配当で返済する融資の注意点をご覧ください
- HDが持つ不動産の賃料:不動産を持つHDなら、賃料収入が原資になります
どの場合も、グループ全体でみた返済能力、たとえば著書のモデルで使う債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))が、新会社の立ち上げで悪化しないかを試算しておきます。
新会社の借入と保証
新会社が自ら借入をするとき、創業間もない会社は実績がないため、HDの連帯保証や、HDの決算書の提出を求められることがよくあります。HDが保証をすると、グループ内の保証が網の目のようになり、将来の後継者への承継や、グループ会社の売却のときに外しにくくなります。保証の考え方はHDと子会社の連帯保証・担保で解説しています。
事務所の支援事例でも、本業と不動産業を営む経営者の不動産業の承継で、HD化による組織再編と種類株式の設計、株価算定に加えて金融機関の紹介まで行い、地方銀行から1.6億円を調達しました。新しい会社やグループの形を作るときは、税務の設計と同時に、銀行にどう説明するかを組み立てておくことが、資金調達の成否を分けます。
新会社を作る前のチェックポイント
最後に、HDの下に新会社を作る前に確認しておきたい点をまとめます。
| チェック項目 | 確認すること |
|---|---|
| そもそも別会社にする理由 | リスクの分離、許認可、後継者への承継、M&Aなど、税金以外の目的があるか(新規事業はHDの下の別会社で始めるべきか) |
| 出資の方法 | 金銭で足りるか。移す資産・事業があるなら、現物出資・売買・会社分割のどれが安いか |
| 資本金 | 1,000万円未満にするか。特定新規設立法人の判定(グループの課税売上高5億円)を確認したか |
| 均等割 | 資本金+資本準備金の合計で区分が上がらないか。会社が増えた分の固定費 |
| 資金 | 出資と貸付の配分。HDの資金の出どころ。グループの債務償還年数 |
| 役員 | 新会社の代表を誰にするか。後継者に任せるなら後継者のポジションの設計も |
| 株価への影響 | HDの資産が子会社株式に置き換わることで、HDが株式等保有特定会社に当たりやすくならないか |
最後の株価の点は見落とされがちです。HDが持つ現預金や不動産を新会社の株式に変えると、HDの総資産に占める株式等の割合が上がり、50%以上で株式等保有特定会社と判定されると、原則として純資産価額方式で評価されます(財産評価基本通達189(2))。新会社を作るたびに、HDの資産構成も確認しておきます。
まとめ
- 新会社への出資は金銭出資が基本。資産を移すなら現物出資(適格なら簿価)、HDの事業を切り出すなら分社型分割
- 資本金は1,000万円未満が基本。ただしHDの子会社は、グループの課税売上高が5億円を超えると特定新規設立法人として免税にならない
- 資本準備金への振り分けは消費税には効くが、均等割には効かない
- 資金は出資と貸付の組み合わせで。戻らないお金は出資、返せるお金は貸付
- 銀行には、HDの資金の出どころとグループ全体の返済能力を説明できるようにしておく
- 新会社を作るたびに、HDが株式等保有特定会社に当たらないかも確認する
クレフティの事業承継・M&A支援では、HDグループの設計、新会社の設立と資本政策、株価の試算、金融機関への説明までご相談をお受けしています。代表の相亰と髙橋が構築した独自の財務設計の手法(クレフティメソッド)をもとに、税務と融資の両面から組み立てます。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
