ホールディングス(HD)化を検討すると、債権者保護手続という言葉が出てきます。官報に公告し、銀行や取引先に個別に知らせ、1か月以上待つ手続きで、必要かどうかで日程と費用が大きく変わります。
ただし、すべてのHD化で必要なわけではありません。基準は、その再編で債権者の回収の条件が変わるかです。この記事では、HD化の方法ごとの要否、手続きの進め方、漏れたときのリスク、銀行への説明の順番を整理します。
- 合併は当事会社の全債権者が対象。会社分割は分割後に請求先を失う債権者などが対象(会社法789条、799条、810条)
- 株式移転と、対価が親会社の株式だけの株式交換は、中小企業では原則として不要
- 手続きは官報公告+知れている債権者への個別催告。異議を述べる期間は1か月以上
- 決算公告をしていない会社は、貸借対照表の要旨が官報に載る
- 会社分割で催告が漏れると、分割後の会社が連帯して責任を負うことがある(759条2項・3項、764条2項・3項)
- 異議を述べられない債権者でも、害することを知って分割すれば履行の請求や詐害行為取消しを受ける
- 銀行には公告より前に説明し、同意の形を決めておく
HD化の方法ごとの要否
債権者保護手続が必要かどうかは、方法ごとに条文で決まっています。
| HD化・再編の方法 | 債権者保護手続 | 対象の債権者 | 根拠(会社法) |
|---|---|---|---|
| 株式移転 | 原則不要 | 新株予約権付社債の社債権者のみ | 810条1項3号 |
| 株式交換(対価が親会社の株式だけ) | 原則不要 | 新株予約権付社債の社債権者のみ | 789条1項3号 |
| 株式交換(対価に金銭などを含む) | 親会社で必要 | 親会社の債権者 | 799条1項3号 |
| 新設のHDへの株式譲渡 | 不要 | - | 会社法の組織再編ではない |
| 吸収合併 | 両社で必要 | 消滅会社と存続会社の全債権者 | 789条1項1号、799条1項1号 |
| 新設分割・吸収分割(分割する会社) | 該当者がいれば必要 | 分割後に分割会社へ請求できなくなる債権者 | 789条1項2号、810条1項2号 |
| 吸収分割(承継する会社) | 必要 | 承継会社の全債権者 | 799条1項2号 |
| 分割と同時に株主へ承継会社の株式を配る場合 | 必要 | 分割会社の全債権者 | 789条1項2号、810条1項2号のかっこ書 |
HD化でよく使う方法の比較は、HDの作り方の全体像で整理しています。
新設分割で手続きを省ける場合
分割で移す債務について、分割会社も連帯保証や併存的な債務引受で引き続き責任を負えば、債権者は分割後も分割会社に請求できます。この場合は異議を述べられる債権者に当たりません(810条1項2号のかっこ書)。
分割型の分割を使わず、新設分割で事業を切り出し、移す債務すべてを分割会社が引き続き負うなら、公告と催告を省ける設計です。ただし、分割会社には責任が残るので、銀行が保証の扱いをどう見るかは別に確認します。切り出しの全体像は会社分割でHD体制にする方法をご覧ください。
手続きの流れと期間
合併と分割の場合、手続きの流れは次のとおりです。
| 項目 | 内容 | 根拠(会社法) |
|---|---|---|
| 公告の内容 | 再編をする旨、相手方の商号と住所、計算書類に関する事項、異議を述べられる期間 | 789条2項、799条2項、810条2項 |
| 異議の期間 | 1か月を下ることができない | 同上のただし書 |
| 異議への対応 | 弁済、相当の担保の提供、信託。害するおそれがなければ不要 | 789条5項、799条5項、810条5項 |
| 手続きの終了 | 吸収型は、終わらないと効力が生じない | 750条6項、759条10項 |
| 登記 | 公告と催告をしたことなどを証する書面を添付 | 商業登記法80条、85条、86条 |
官報は申込みから掲載まで日数がかかるので、公告から1か月の期間を足すと、実際は2か月近くを見ておきます。合併の日程と届出は合併の税務申告・届出書類とスケジュールでまとめています。
決算書が官報に載る
公告の「計算書類に関する事項」は、決算公告をしているかどうかで変わります(会社法施行規則188条、199条、208条)。
| 会社の状況 | 公告に載せるもの |
|---|---|
| 決算公告をしている | 掲載した官報の日付と頁など |
| 決算公告をしていない | 最終の貸借対照表の要旨 |
決算公告(会社法440条1項)をしていない会社は、貸借対照表の要旨が官報に載ります。取引先や他の金融機関が見る可能性を前提に、説明の準備をしておきます。
費用
官報の掲載料は、全国官報販売協同組合の料金表で、会社等の行公告は1行(22字)3,589円、税込3,947円です(官報公告掲載料金)。10行で約4万円になります。行数は原稿で変わるので、申込み先で見積もります。この他に、司法書士の報酬がかかります。
公告を2つ出すと個別催告を省ける
定款で公告方法を日刊新聞紙か電子公告にしている会社は、官報に加えてその方法でも公告すると、個別の催告が不要になります(789条3項、799条3項、810条3項)。取引先が多い会社には便利です。
注意点が3つあります。
- 公告方法が定款に定まっていない会社は官報が公告方法で(939条4項)、定款変更が必要
- 電子公告では、調査機関の調査が必要(941条)
- 会社分割の場合、不法行為によって生じた債務の債権者には、個別の催告を省けない(789条3項、810条3項のかっこ書)
「知れている債権者」は誰か
個別に催告する相手は知れている債権者です。一般に、債権者が誰で、債権の原因や内容の大体を会社が把握している相手と解されています。金額が小さいからといって、条文上は除かれません。
| 区分 | 確認の資料 |
|---|---|
| 金融機関 | 金銭消費貸借契約、保証・担保の契約 |
| 仕入先・外注先 | 買掛金・未払金の明細 |
| リース会社 | リース契約の一覧 |
| 賃貸人・賃借人 | 賃貸借契約、敷金や保証金 |
| 係争の相手 | 訴訟や請求の記録、クレームの記録 |
発送先の一覧と発送の記録は残します。誰に送ったかを後から示せるようにするためです。
手続きを誤るとどうなるか
催告が漏れた債権者への責任
会社分割では、個別の催告を受けなかった債権者は、分割契約の定めにかかわらず、次の範囲で請求できます(759条2項・3項、764条2項・3項)。
| 請求の相手 | 範囲 |
|---|---|
| 分割後の分割会社 | 効力発生日に持っていた財産の価額が限度 |
| 承継会社・新設分割の設立会社 | 承継した財産の価額が限度 |
切り離したはずの債務について、グループの2社が責任を負うことになります。
再編の無効の訴えのおそれもあります。合併や分割を承認しなかった債権者は、効力が生じた日から6か月以内に訴えを起こせます(828条1項・2項)。
債権者を置き去りにする分割
分割会社に残る債権者(残存債権者)は、分社型の分割では異議を述べられません。そこで、この債権者を害することを知って分割をした場合は、承継した財産の価額を限度に、承継会社や設立会社に直接請求できます(759条4項、764条4項)。吸収分割の場合、承継会社が知らなかったときを除きます。この責任は、知った時から2年、効力発生日から10年で消滅します(759条6項、764条6項)。
最高裁平成24年10月12日第二小法廷判決(平成22年(受)第622号)も、新設分割で債務が承継されず、異議も述べられない分割会社の債権者は、詐害行為取消権を行使して新設分割を取り消せるとしました(裁判所ウェブサイト)。
優良な事業と資産だけを新会社に移し、返せない借入を元の会社に残す設計は、手続きを踏んでいても、債権者から請求や取消しを受けます。HD化は承継と財務の強化のために使うもので、債務を逃れる手段にはなりません。不動産を切り離すときの注意は本業の会社から不動産を切り離すでも説明しています。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る銀行への説明と決算書の見え方
債権者保護手続で最も大事な債権者は、多くの場合、銀行です。
公告の前に話す
銀行が官報や催告書で再編を知る順番は避けます。融資契約には、合併や会社分割を事前の通知や承諾の対象とし、違反すると期限の利益の喪失につながる条項があることが多いからです。
進める順番は次のとおりです。
- 融資契約の条項を確認する
- 公告の前に、目的と再編後の体制、返済計画を説明する
- 借入の移転、保証、担保の扱いを決める
- 銀行から異議が出ないことを確認してから、公告と催告を行う
説明の進め方はHD化を金融機関にどう説明するか、保証と担保の組み方はHDと子会社の連帯保証・担保をご覧ください。取引先との契約はチェンジ・オブ・コントロール条項の確認も参考にしてください。
分割の後の各社の数字を計算する
銀行は再編の後、グループを合わせて見ますが、借入のある各社の数字も見ます。著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内を健全、20年超を厳しい目安としています。
説明用の仮の数字で、1社を2社に分割した場合を比べます。
| 単位:万円 | 分割前 | 分割後の不動産会社 | 分割後の事業会社 |
|---|---|---|---|
| 借入金 | 30,000 | 25,000 | 5,000 |
| 現預金 | 5,000 | 1,000 | 4,000 |
| 返済の原資(利益+償却−税) | 3,000 | 1,000 | 2,000 |
| 債務償還年数 | 約8.3年 | 24年 | 0.5年 |
グループの合計が同じでも、借入と収益の配分によって、1社だけが厳しい数字になることがあります。公告の前に、分割の後の各社の貸借対照表と返済計画を作り、銀行に見せられる形にしておきます。
まとめ
- 必要かどうかは、債権者の回収の条件が変わるかで考える。合併は全債権者、分割は請求先を失う債権者が中心
- 株式移転と、対価が親会社の株式だけの株式交換は、中小企業では原則不要
- 手続きは官報公告+個別催告+1か月以上。実際は2か月近くを見る
- 決算公告をしていない会社は、貸借対照表の要旨が公開される
- 催告漏れは分割後の両社の責任に、債権者を害する分割は直接請求や取消しにつながる
- 銀行には公告の前に説明し、分割の後の各社の数字を示す
少数株主がいる会社では、債権者だけでなく株主への対応も必要です。反対株主の株式買取請求もあわせてご確認ください。
クレフティの事業承継・M&A支援では、HD化の設計、株価算定、金融機関への説明までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
