ホールディングス(HD)化で最初に確認するのは、株主総会の決議を通せるかです。株式移転も株式交換も会社分割も、原則として特別決議が必要で、オーナーの持株が3分の2に足りなければ、少数株主の協力がないと進みません。
この記事では、HD化の方法ごとに必要な決議を整理し、特別決議の計算、招集から議事録までの進め方、銀行への説明の順番を解説します。計画の中身は株式移転計画の書き方をご覧ください。
- 株式移転・株式交換・会社分割は、原則として特別決議が必要(会社法309条2項12号)
- 特別決議は議決権の過半数の出席+出席した議決権の3分の2以上の賛成。定足数は定款で3分の1まで下げられる
- 新設のHDに株式を売る方法では、総会の特別決議は不要で、譲渡承認を確認する
- 非公開会社の招集通知は1週間前でも、株式移転は事前開示が総会の2週間前から。全体の日程は2週間以上で組む
- 株主全員が同意できるなら書面決議(319条)が使える
- 名義株、未分割の相続株、所在不明の株主を先に確認する。手続きの誤りはHD化そのものの無効につながりかねない
方法ごとに必要な決議
HD化の方法によって、決議の種類と、決議する会社が変わります。
| HD化の方法 | 必要な決議 | 根拠 |
|---|---|---|
| 株式移転 | 事業会社で特別決議 | 会社法804条1項、309条2項12号 |
| 株式交換(既存の会社を親にする) | 子になる会社と親になる会社の両方で特別決議 | 783条1項、795条1項 |
| 新設分割 | 分割する会社で特別決議 | 804条1項 |
| 吸収分割 | 分割する会社と承継する会社の両方で特別決議 | 783条1項、795条1項 |
| 新設のHDへの株式譲渡 | 総会の特別決議は不要。譲渡承認を取締役会(ない会社は総会の普通決議)で | 139条1項 |
株式交換や会社分割には、決議を省略できる例外があります。
- 略式:相手の会社が議決権の90%以上を持つ特別支配会社である場合(784条1項、796条1項)
- 簡易:親や承継会社の側で、交付する対価が純資産の5分の1以下の場合(796条2項)。一定数の株主が反対すれば総会が必要です(同条3項)
- 分割の規模が小さい場合:分割で移す資産が総資産の5分の1以下なら、分割する会社の総会は不要です(784条2項、805条)
ただし、親や承継会社が非公開会社で、対価として自社の譲渡制限株式を渡す場合は、その会社の総会を省略できません(796条1項ただし書、同条2項ただし書)。多くの中小企業はこれに当たるので、自社の株式を対価にする株式交換では、親の側も特別決議が必要と考えておきます。
株式移転には簡易も略式もありません。方法の違いはHDの作り方の全体像で比較しています。
HD化に合わせて行うことが多い手続きの決議も、確認しておきます。
| 手続き | 決議 | 根拠 |
|---|---|---|
| 定款変更(譲渡制限以外、種類株式の新設など) | 特別決議 | 466条、309条2項11号 |
| 特定の株主からの自己株式の取得 | 特別決議。売主は議決権を行使できない | 156条1項、160条1項・4項、309条2項2号 |
| 役員の選任・解任 | 普通決議(選任は定足数を3分の1まで下げられる) | 341条 |
| 役員報酬、退職慰労金 | 普通決議(定款に定めがないとき) | 361条1項 |
特別決議の計算
決議の種類
| 決議 | 定足数 | 賛成 | 主な場面 |
|---|---|---|---|
| 普通決議 | 議決権の過半数(定款で変更可) | 出席した議決権の過半数 | 取締役の選任、配当 |
| 特別決議 | 議決権の過半数(定款で3分の1まで軽減可) | 出席した議決権の3分の2以上 | 株式移転、定款変更 |
| 特殊決議 | 議決権を行使できる株主の半数以上 | その議決権の3分の2以上 | 公開会社の株主に譲渡制限株式を渡す株式移転など |
特殊決議は、事業会社に譲渡制限がなく、HDの株式には譲渡制限を付ける場合に必要です(309条3項3号)。株主の人数も要件に入るため、古い会社で定款に譲渡制限がないときは、最初に確認します。
議決権1,000個の会社で見る
総議決権が1,000個、定足数は法律どおり過半数の会社で計算してみます。
| ケース | 出席 | 賛成 | 必要な賛成 | 結果 |
|---|---|---|---|---|
| オーナー70%、残り30%が出席して反対 | 1,000個 | 700個 | 667個 | 可決 |
| オーナー60%、残り40%が出席して反対 | 1,000個 | 600個 | 667個 | 否決 |
| オーナー60%、10%が出席して反対、30%は欠席 | 700個 | 600個 | 467個 | 可決 |
| オーナー40%、ほかは全員欠席 | 400個 | 400個 | - | 定足数不足で決議できない |
最後のケースでも、定款で定足数を3分の1にしていれば、決議は可能です。定款の定めで結論が変わるので、定款の株主総会の章を最初に確認します。
親族の持株を当てにしているときは、その親族が本当に賛成するかを確認します。税務の判定では親族を合算できても、総会では一人ひとりが別の株主です。 議決権の割合ごとの権利は株式の保有比率ごとの権利にまとめています。
招集から議事録までの進め方
株式移転を例に、総会の前後の流れを示します。
| 段階 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 招集の決定 | 日時・場所・議題などを決める。取締役会設置会社は取締役会の決議 | 298条1項・4項 |
| 招集通知 | 非公開会社は原則1週間前まで。書面投票を採用すると2週間前まで | 299条1項 |
| 通知の方法 | 取締役会設置会社は書面が原則 | 299条2項 |
| 議題の制限 | 取締役会設置会社は、通知した議題以外を決議できない | 309条5項 |
| 事前開示 | 総会の2週間前の日から本店に備え置く | 803条1項・2項 |
| 議事録 | 作成し、10年間本店に備え置く | 318条1項・2項 |
非公開会社の招集通知は1週間前まででよいのですが、株式移転の事前開示は総会の2週間前からです(803条2項1号)。招集通知の期限だけを見て日程を組むと、事前開示が間に合いません。 全体の日程はHD化にかかる費用と期間も確認してください。
株式移転の承認、定款変更、役員の選任など、同じ総会で決めたい議題は招集の前に並べます。
株主全員が同意できるなら書面決議
議決権を持つ株主の全員が賛成するなら、次の方法が使えます。
| 方法 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 招集手続の省略 | 全員の同意で招集通知を省略して、総会を開く | 300条 |
| 書面決議 | 全員が提案に書面または電磁的記録で同意すれば、決議があったものとみなす | 319条1項 |
書面決議でも議事録は作ります。同意書は、決議があったとみなされた日から10年間、本店に備え置きます(319条2項)。株式移転の事前開示は「提案があった日」から始まるので(803条2項1号)、同意書を集める順番と日付を計画と合わせます。
株主全員が賛成しているときの、反対株主への通知(806条3項)の扱いは、登記の日程にも関わります。司法書士や管轄の法務局に確認しておきます。
議事録と株主リスト
株主総会議事録と株主リストは、登記の添付書面です。株主リストには、議決権数の上位10名と、議決権割合の合計が3分の2に達するまでの株主のうち、少ない方の人数を記載します(商業登記規則61条3項、法務局の案内)。
種類株主総会が必要になる場合
種類株式を発行している会社では、通常の総会とは別に種類株主総会が必要になることがあります。
| 場面 | 決議 | 根拠 |
|---|---|---|
| 株式移転などが、ある種類の株主に損害を及ぼすおそれがある | 種類株主総会の特別決議 | 322条1項13号、324条2項4号 |
| 譲渡制限のない種類の株主に、譲渡制限株式を渡す | 種類株主総会の特殊決議 | 804条3項、324条3項2号 |
定款で322条の種類株主総会を不要としていれば、その種類の株主については適用されません(322条2項・3項)。無議決権株式でも省略せず、定款を確認します。
事務所が支援した、本業と不動産業を営む経営者の事例では、不動産業を息子に承継したいというご相談に対して、ホールディングス化による組織再編と種類株式の設計、定款の整備、株価算定、金融機関の紹介を行い、地方銀行から1.6億円を調達して事業承継を実現しました。このように種類株式を組み合わせる場合は、どの決議がいつ必要かを、設計の段階で決めておきます。詳しくはHDで種類株式を使うをご覧ください。
総会の前に株主を確定する
決議を数える前に、誰が議決権を持っているかを確定します。
| 確認すること | 問題 | 対応 |
|---|---|---|
| 名義株 | 名義と実際の株主が違う | 名義人に確認し、整理してから進める |
| 未分割の相続株 | 共有のままでは権利行使者の指定が必要(106条) | 遺産分割、または権利行使者の指定と通知 |
| 所在不明の株主 | 全員の同意が取れず、書面決議が使えない | 株主名簿の住所に通知し、招集手続を踏む |
相続で共有になった株式は、会社の同意があっても権利行使が認められない場合があります。最高裁平成27年2月19日判決を含め、相続で共有になった株式の議決権で解説しています。
手続きの誤りは、あとから争われることがあります。招集の手続きや決議の方法に法令違反があれば、決議の日から3か月以内に取消しの訴えができ(831条1項1号)、株式移転そのものについても、効力が生じた日から6か月以内に無効の訴えができます(828条1項12号)。親族の株主が対立している会社ほど、形式を省略しないでください。実際の裁判の例は株主総会を開かずに取締役を解任した事案をご覧ください。
少数株主が反対した場合の買取請求は、HD化と少数株主で解説しています。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見るHD化の後の決議と銀行への説明
HDの総会で決めること
HDが成立したら、HDの総会でも決議が必要です。特に役員報酬は、HDの定款に定めがなければ総会で決めます(361条1項)。
税務では、定款や総会の決議で定めた限度額を超えた部分は、損金に算入できません(法人税法施行令70条1号ロ)。定期同額給与の改定は、原則として期首から3か月以内に行います(国税庁 No.5211)。報酬の考え方はHD化後のオーナーの役員報酬をご覧ください。
事業会社の総会は誰が決めるか
HD化の後、事業会社の株主はHDだけになります。事業会社の役員の選任や配当は、HDの代表取締役が議決権を行使して決めるので、書面決議で済ませられます。オーナーがHDの社長に残れば、事業会社の社長を譲っても人事権は手元に残ります。 銀行に提出を求められたときに出せるよう、毎期の議事録は整えておきます。
銀行に話すのは招集の前に
金融機関への説明は、総会の招集を決める前に行います。融資契約に、定款の変更や組織再編、株主の変更について通知や承諾の条項があると、総会の後では計画を直せません。
HDが融資で株式を買い取る場合は、総会とは別に次の決定も確認します。
- HDの借入が多額の借財に当たれば、取締役会の決議が必要(362条4項2号)
- 事業会社がHDの借入を保証したり担保を提供したりする場合、取締役の利益相反取引に当たるときは、承認が必要(356条1項3号、365条1項)
銀行から、決議の内容を議事録で確認されることもあります。著書のモデルでは、債務償還年数10年以内が健全の目安で、配当を返済原資にする融資では、事業会社の返済力の見え方が重要になります。説明の準備はHD化を金融機関にどう説明するかを参考にしてください。
まとめ
- 株式移転・株式交換・会社分割は原則特別決議。新設のHDへの株式譲渡は譲渡承認を確認する
- 特別決議は過半数の出席+出席議決権の3分の2以上。自社の定款の定足数を確認する
- 親族の株式は一人ひとり別の議決権。賛成を確認してから進める
- 株式移転は事前開示が総会の2週間前から。全員が同意できるなら書面決議も使える
- 種類株式、名義株、未分割の相続株は総会の前に整理する
- 銀行への説明は招集の前に。HD化の後も、決議と議事録を残し続ける
クレフティの事業承継・M&A支援では、HD化の設計、株価の試算、金融機関への説明までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
