株式移転でホールディングス(HD)を作ることを決めたら、次に確認するのはHD設立の登記と必要書類です。株式移転は、株主総会で決議しただけでは効力が生じません。HDの設立登記をして、初めてHDが成立し、事業会社の株式を取得します(会社法774条1項)。
この記事では、株式移転の登記の添付書面、期限と設立日の決め方、費用、登記後の届出を実務の順に整理します。スケジュール全体と税金は株式移転でHDを作るをご覧ください。
- 株式移転の添付書面は商業登記法90条に定めがある。計画書・定款・総会議事録・資本金の証明書が中心
- 登記の期限は、総会の決議などのうち最も遅い日から2週間以内(会社法925条)
- 登記の日が効力発生の日。設立希望日は法務局の開いている日から逆算する
- 登録免許税は資本金の0.7%、最低15万円。資本金が約2,142万円までは15万円
- 株券を発行している会社は1か月前までの公告が必要。定款の記載だけで判断しない
- 登記後は、税務署・自治体・年金事務所への届出と、金融機関への連絡が続く
登記までの流れ
登記の前提になるのは、事業会社で進める次の手続きです。
| 手続き | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 株式移転計画の作成 | HDの目的・商号・本店・定款・役員・株式の割当て・資本金など | 会社法773条 |
| 事前開示 | 計画の内容を総会の2週間前から本店に備え置く | 会社法803条 |
| 株主総会の決議 | 特別決議で計画を承認 | 会社法804条1項 |
| 株主への通知 | 決議から2週間以内に通知(公告でも可) | 会社法806条3項・4項 |
| 株券の提出手続き | 株券発行会社は効力発生の1か月前までに公告・通知 | 会社法219条 |
少数株主がいる場合の注意点はHD化と少数株主、計画に入れる商号や資本金の考え方はHDの社名・資本金・役員構成の決め方をご覧ください。
登記の添付書面
株式移転による設立登記の添付書面は、商業登記法90条に並んでいます。主なものを、誰が用意するかを含めて整理します。
| 書面 | ポイント | 根拠 |
|---|---|---|
| 株式移転計画書 | 事業会社の取締役(会)が決定したもの | 90条1号 |
| 定款 | 事業会社が作成。公証人の認証は不要 | 90条2号、会社法814条 |
| 設立時代表取締役の選定を証する書面 | 計画や定款で定めていない場合など | 90条3号、47条2項7号 |
| 設立時役員の就任承諾書 | 設立時取締役などの分 | 90条3号、47条2項10号 |
| 資本金の額の計上に関する証明書 | 法務局の記載例あり | 90条4号 |
| 事業会社の登記事項証明書 | HDの本店が同じ登記所の管轄なら不要 | 90条5号 |
| 事業会社の株主総会議事録 | 計画の承認を証する | 90条6号 |
| 株主リスト | 議決権の多い順の上位株主を記載 | 商業登記規則61条3項 |
| 株券の公告の書面、または株券を発行していないことを証する書面 | 株券発行会社の場合 | 90条8号 |
| 印鑑証明書・本人確認の書面 | 就任する役員の分 | 商業登記規則61条4項・5項・7項 |
| 委任状 | 代理人が申請する場合 | 商業登記法18条 |
このほか、新株予約権を発行している場合(90条9号)や、新株予約権付社債を引き継ぐ場合の債権者保護手続き(90条7号、会社法810条1項3号)は、追加の書面が必要です。通常の中小企業の株式移転では、借入金の債権者である銀行に対する債権者保護手続きはありません。ただし、それは会社法上の話で、銀行への説明は別に必要です(後述)。
法務局の商業・法人登記の申請書様式には、株式移転の資本金の証明書の例が掲載されています。ただし、確認した時点で株式移転専用の申請書様式は見当たりません。個別性が高い登記のため、登記申請の代理を依頼する場合は司法書士に頼むのが通常です。計画の中身(資本金や株式の割当て)は税務や株価にも影響するので、司法書士と税理士が同じ計画案を見ながら進めます。
株券の確認を最初にする
見落としやすいのが株券です。古い会社では、定款に「株券を発行する」と書かれたままのことがあります。この場合は株券発行会社として、次のように分かれます。
| 状況 | 必要な対応 |
|---|---|
| 定款に株券発行の定めがなく、株券不発行 | 公告は不要 |
| 株券発行会社だが、実際には全株式で株券を発行していない | 公告は不要。発行していないことを証する書面を添付(株主名簿など) |
| 実際に株券を発行している | 効力発生の1か月前までに公告・株主へ通知(会社法219条1項) |
株券の発行状況は、登記の前に株主名簿と定款、過去の登記事項で確認します。1か月の公告が必要になると、設立希望日に間に合わないことがあります。定款の見直しはHDの定款で決めておくこともご覧ください。
期限と設立日の決め方
登記の期限
設立の登記は、次のうち最も遅い日から2週間以内に、HDの本店の所在地を管轄する登記所で行います(会社法925条)。
- 株主総会の決議の日
- 種類株主総会の決議が必要なときは、その決議の日
- 反対株主への通知または公告をした日から20日を経過した日
- 新株予約権者への通知または公告をした日から20日を経過した日(該当する場合)
- 債権者保護手続きが終わった日(該当する場合)
- 事業会社が定めた日
最後の「事業会社が定めた日」を設立希望日に合わせれば、その日を基準に申請の段取りを組めます。株主全員が賛成している場合に、通知や20日の期間をどう扱うかは、計画の段階で司法書士や管轄の法務局に確認してください。
設立日は法務局の開いている日で
株式移転に、吸収合併のような「効力発生日」の定めはありません。会社は本店の所在地で設立の登記をすることで成立するため(会社法49条、814条1項)、実務では登記の申請日が設立日になります。土日祝日は申請の受付が行われないため、月初の日付にこだわる場合は暦を確認します。
設立希望日から逆算すると、目安は次のとおりです。
| 設立希望日からの時期 | 作業 |
|---|---|
| 8〜12週前 | 目的の整理、株価の試算、資本金・役員・定款の案、金融機関への相談 |
| 5週前まで | 取締役会で計画を決定、事前開示の書面を備置き、総会の招集 |
| 4週前 | 株主総会の特別決議、すぐ後に株主へ通知 |
| 当日 | 設立登記の申請 |
| 当日以後 | 登記完了後に登記事項証明書を取得し、届出と口座開設へ |
反対株主への通知から20日を経過する日が、設立希望日より前に来るように組みます。期間の目安全体はHD化にかかる費用と期間で解説しています。
登録免許税と資本金
HDの設立登記の登録免許税は、資本金の額の1,000分の7で、15万円に満たないときは15万円です(国税庁 No.7191)。
| HDの資本金 | 0.7%で計算 | 納める税額 |
|---|---|---|
| 500万円 | 3.5万円 | 15万円 |
| 2,000万円 | 14万円 | 15万円 |
| 3,000万円 | 21万円 | 21万円 |
| 5,000万円 | 35万円 | 35万円 |
HDの資本金は、株主資本変動額の範囲内で、株式移転計画の定めに従って決めます(会社計算規則52条2項)。株主資本変動額そのものは大きくなることがありますが、全額を資本金にする必要はありません。資本金が約2,142万円までなら税額は15万円のままです。
資本金を決めるときは、登録免許税のほか、消費税の判定も見ます。資本金1,000万円以上の新設法人は、設立当初から消費税の納税義務があります。1,000万円未満でも、グループの売上規模によって特定新規設立法人に当たることがあります。詳しくは新設法人の消費税をご覧ください。
本店の住所を事業会社と同じにする場合は、商号が同じにならないようにします。同じ本店所在地で同じ商号の登記はできません(商業登記法27条)。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る登記の後にする届出
登記が完了して登記事項証明書を取得したら、HD名義の届出を進めます。主なものは次のとおりです。
| 提出先 | 書類 | 期限の目安 |
|---|---|---|
| 税務署 | 法人設立届出書 | 設立の日以後2か月以内 |
| 税務署 | 青色申告の承認申請書 | 設立の日以後3か月を経過した日と、第1期の事業年度終了の日のいずれか早い日の前日 |
| 税務署 | 減価償却資産の償却方法などの届出書 | 第1期の確定申告書の提出期限まで |
| 税務署 | 事前確定届出給与の届出書(使う場合) | 設立の日以後2か月を経過する日まで |
| 税務署 | 給与支払事務所等の開設届出書(HDが給与を払う場合) | 開設の日から1か月以内 |
| 都道府県・市区町村 | 法人の設立の届出 | 自治体ごとの定めによる |
| 年金事務所 | 新規適用届(HDから役員報酬を払う場合など) | 事実発生から5日以内 |
税務署の書類と期限は、国税庁 No.5100で確認しました。HDの受取配当は消費税の課税対象外で、経営指導料は課税売上げになるため、消費税の届出やインボイスの登録は、HDの収入の内容を見て判断します。
事業会社の側では、次の作業が残ります。
- 株主名簿を書き換え、株主をHDにする
- 事業会社とHDが共同で事後開示の書面を作り、成立の日から6か月間本店に備え置く(会社法811条、815条3項3号)
- 取引先や許認可の届出が必要なものを確認する(HD化と許認可)
銀行への連絡は登記の前に
株式移転は、銀行の債権者保護手続きがないので、法律上は銀行の承諾なしで進められます。しかし、金銭消費貸借契約や保証の契約に、株主や支配関係の変更を通知または承諾の対象とする条項が入っていることがあります。登記が済んでから銀行に伝えるのは避けてください。
銀行に説明するときは、次の資料を用意すると話が進みやすくなります。
- HD化の前後の資本関係図
- 目的(承継、グループの整理など)と、役員の変更の有無
- HDと事業会社のお金の流れ(配当、経営指導料、家賃)
- 事業会社の財務が変わらないこと、または変わる場合はその内容
事業会社の借入や資産はそのままでも、配当をHDに吸い上げれば事業会社の純資産は減ります。著書のモデルでは、銀行は純資産や債務償還年数(10年以内が健全の目安)を見るため、配当の方針まで説明できると安心材料になります。説明の進め方はHD化を金融機関にどう説明するかをご覧ください。
HDの口座開設には、登記事項証明書や定款などを求められるのが一般的です。金融機関ごとに必要書類が違うため、HDが配当や経営指導料を受け取る時期に間に合うように準備します。
そもそもHDと資産管理会社のどちらを作るか迷っている場合は、登記の準備に入る前にHDと資産管理会社、どちらを作るかを確認してください。
まとめ
- 株式移転はHDの設立登記で効力が生じる。添付書面は商業登記法90条を確認する
- 登記の期限は、総会の決議などの最も遅い日から2週間以内。設立希望日は法務局の開いている日から逆算する
- 定款の認証は不要。登録免許税は資本金の0.7%、最低15万円
- 株券の発行状況を最初に確認する。公告が必要だと1か月以上かかる
- 登記の後は、税務署・自治体・年金事務所への届出と、事業会社の事後開示が続く
- 銀行の債権者保護手続きはないが、契約の条項を確認し、登記の前に説明する
クレフティの事業承継・M&A支援では、HD化の設計、株価の試算、金融機関への説明までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
