「HDを作ったほうがいいと言われた」「資産管理会社を作れと言われた」。相談先によって勧められる形が違い、HDと資産管理会社のどちらを作るかで迷う方は少なくありません。
ホールディングス(HD)と資産管理会社は、法律で決まった区分ではありません。違いは、会社に何を入れるかです。子会社の株式を入れればHD、不動産や預金を入れれば資産管理会社と呼ばれます。この記事では、目的別の選び方と、入れるときの税金、株価、融資の違いを整理します。両者の関係の基本は資産管理会社とHDの違いで解説しています。
- 選ぶ基準は名前ではなく入れるもの。事業会社の株式ならHD、不動産や金融資産なら資産管理会社
- 承継・株式の集約・M&Aが目的ならHD。不動産の取得と保有が目的なら資産管理会社
- 株式移転なら株主の負担なくHDを作れるが、個人の不動産を法人に移すと譲渡所得と流通税がかかる
- 38%控除はどちらでも使えるが、株式移転で受け入れた時の含み益や、取得後3年以内の不動産には注意
- 銀行は形にかかわらずグループ全体を見る。どの会社で借りても、合算の債務償還年数で説明できるようにする
まず「何を入れる会社か」で考える
2つの違いを並べると、次のようになります。
| 項目 | HD | 資産管理会社 |
|---|---|---|
| 入れるもの | 事業会社の株式 | 不動産・預金・有価証券 |
| 主な収入 | 配当・経営指導料 | 家賃・運用収入 |
| 主な作り方 | 株式移転・株式譲渡 | 新設して物件を購入、個人の不動産を売却 |
| 作るときの税金 | 株式移転なら通常は課税なし | 個人の不動産を移すなら譲渡所得・流通税 |
| 株価の評価で注意する区分 | 株式等保有特定会社 | 土地保有特定会社 |
| 主な借入 | 株式の買取資金 | 物件の取得資金 |
種類の整理はHDの種類、資産管理会社そのものの長所と短所は資産管理法人のメリット・デメリットもご覧ください。
目的別の選び方
どちらが得かではなく、何を解決したいかで考えます。
| 目的 | 向く形 | 理由 |
|---|---|---|
| 後継者に株式をまとめて渡したい | HD | 株主をHD1社にでき、株式の分散を防ぎやすい |
| 複数の事業会社を束ねたい | HD | 子会社の管理と資金の配分を1か所に集められる |
| M&Aで会社を買いたい・売りたい | HD | 買収の受け皿になり、子会社単位で売却もできる |
| オーナーが株式を現金化したい | HD(株式譲渡) | HDが融資で株式を買い取る形をとれる |
| 不動産を買い進めたい | 資産管理会社 | 取得と借入を事業会社の財務から切り離せる |
| 個人の不動産の収入を法人で受けたい | 資産管理会社 | ただし移転の税金と費用を先に試算する |
| 本業と不動産で後継者が違う | 2社に分ける | 会社ごとに株式を渡せる |
判断に迷いやすいのは、資産管理会社がすでにある場合です。新しくHDを作らず、資産管理会社が事業会社の株式を持てば役割を兼ねられます。ただし、不動産と事業が同じ会社の株式に入るため、子どもごとに分けて継がせることは難しくなります。1社にまとめる前に、10年後に誰が何を持っていたいかを確認します。
会社に入れるときの税金が大きく違う
HDと資産管理会社の最も大きな差は、作るときの税金です。
HD:株式移転なら現金が出ない
株式移転で作る場合、株主がHD株式だけを受け取れば譲渡所得の課税はなく(所得税法57条の4)、現金も動きません。費用の中心は、設立の登録免許税(資本金の0.7%、最低15万円。国税庁 No.7191)と専門家の報酬です。手順は株式移転でHDを作る、作り方の比較はHDの作り方の全体像をご覧ください。
オーナーが株式をHDに売る方法を選ぶと、個人に譲渡所得の課税が生じます。その代わり現金が入るため、退職金との比較はオーナーのExit:HDへの株式売却と退職金の比較で確認します。
資産管理会社:個人の不動産を移すと課税される
新しく買う物件を最初から法人で取得するなら、移転の税金はありません。一方、すでに個人で持っている不動産を法人に移すと、次の負担が生じます。
| 税金 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 譲渡所得(長期) | 譲渡した年の1月1日で所有期間5年超:税率20.315% | 国税庁 No.3208 |
| 譲渡所得(短期) | 同5年以下:税率39.63% | 国税庁 No.3211 |
| 登録免許税 | 売買による所有権移転。土地は原則2%で、令和11年3月31日までは1.5%の軽減あり | 国税庁 No.7191 |
| 不動産取得税 | 法人が取得する時に都道府県が課税 | 地方税法 |
「税金を抑えるために安く売る」ことはできません。個人が法人に時価の2分の1未満で売ると、時価で譲渡したものとして計算されます(所得税法59条、国税庁 No.3217)。2分の1以上でも、時価より低ければ法人側に受贈益の問題が生じ、株主の間で贈与の問題が出ることがあります。現物出資も譲渡に当たり、同じように課税されます(国税庁 No.3117)。
新設の法人で物件を買うときの融資は、新設法人で不動産を買うときの融資で扱っています。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る株価への効き方の違い
HDも資産管理会社も、純資産価額の計算では、含み益から38%の法人税額等相当額を控除できます(2026年4月1日以後の相続・贈与。財産評価基本通達186-2、国税庁 通達)。ただし、どちらにも注意点があります。
HD:効くのは移転後の値上がり分
株式移転で著しく低い価額で受け入れた事業会社株式は、受入れ時の相続税評価額と帳簿価額の差(現物出資等受入れ差額)が評価差額から除かれます(同通達186-2(2))。つまり、38%控除が効くのは、原則としてHD化した後に増えた部分だけです。この差額の加算は、総資産に占める受入れ資産の割合が20%以下なら適用されません(同(注)3)。
たとえば、株式移転の時点で事業会社の評価額が1.5億円、15年後に4億円になったとします(HDにほかの資産・負債はなく、帳簿価額は相続税評価額より低いものとします)。
| 項目 | 直接保有 | HD経由 |
|---|---|---|
| 事業会社の評価額 | 4億円 | 4億円 |
| 控除額 | なし | (4億円−1.5億円)×38%=0.95億円 |
| オーナーの株式の評価 | 4億円 | 3.05億円 |
事業が伸びなければ効果はありません。計算の考え方はHD化で株価が下がる仕組みで詳しく解説しています。
資産管理会社:3年以内に取得した不動産は取引価額
資産管理会社の株式を純資産価額で評価する場合、課税時期の前3年以内に取得・新築した土地建物は、路線価などではなく、原則として通常の取引価額で評価します(財産評価基本通達185)。買ってすぐは評価が下がらないということです。
特定会社の区分
総資産に占める株式等の割合が50%以上だと株式等保有特定会社、土地等の割合が高いと土地保有特定会社となり、原則として純資産価額で評価されます(財産評価基本通達189)。HDは前者、不動産を多く持つ資産管理会社は後者に当たりやすく、兼ねる形は組み合わせで判定します。判定は株式保有特定会社に注意と土地保有特定会社とHDをご覧ください。
株価を下げること自体を目的にした設計は危険です。最高裁令和4年4月19日判決(令和2年(行ヒ)第283号)は、相続税の負担を大きく減らす取引について、通達の評価額によらない課税を是認しました。承継や財務の強化という本来の目的が説明できることが前提です。リスクの整理はHD化による株価対策と総則6項で取り上げます。
銀行からの見え方:どちらでもグループで見られる
会社を分けても、オーナーが支配する会社を金融機関はグループ全体で見ます。代表の相亰の著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内が健全の目安です。たとえば次のグループを考えます。
| 項目 | 事業会社 | 資産管理会社 | 合算 |
|---|---|---|---|
| 借入金 | 3億円 | 2億円 | 5億円 |
| 現預金 | 1億円 | 0.2億円 | 1.2億円 |
| 返済原資(経常利益+減価償却費−法人税等) | 0.3億円 | 0.14億円 | 0.44億円 |
| 債務償還年数 | 約6.7年 | 約12.9年 | 約8.6年 |
資産管理会社の単体では長く見えても、合算すれば10年以内に収まります。不動産を買い進める会社は、単体の数字だけでなく、合算の数字と、家賃がどの会社の返済原資になっているかを説明できるようにしておきます。
もう1つ見落としやすいのは純資産です。減価償却の速い物件を多く持つと、貸借対照表の資産(簿価)より負債のほうが大きい債務超過の状態になることがあります。代表の相亰も、2019年にこの状態で融資が止まりました。資産管理会社の決算書も、融資を受け続けられる形にしておく必要があります。
HDは、オーナーから株式を買い取る資金を借りる場合に論点が多くなります。返済原資は事業会社の配当で、完全子法人株式等の配当は全額益金不算入です(法人税法23条)。ただし、配当の元になる子会社の利益と分配可能額で返済が回るかを確認します。公庫には事業承継・集約・活性化支援資金があり、使える資金の範囲は窓口で確認します。銀行の説明の考え方はHD化すると銀行の見方はどう変わる?をご覧ください。
両方使うことも多い:順番の決め方
実務では、どちらか一方に決めず、段階的に組み合わせることもあります。
事務所の支援事例に、本業と不動産業を営む経営者から、不動産業を息子に承継したいと相談を受けたケースがあります。当面は金融機関との折衝に本人も関わりつつ、経済面の相続は先に終えたいという要望でした。ホールディングス化による組織再編、種類株式の設計、定款の整備、株価算定、金融機関の紹介を行い、地方銀行から1.6億円を調達して事業承継を実現しました。詳しくはクレフティの支援事例をご覧ください。
順番は、次のように考えると整理しやすくなります。
- 誰に、どの事業・不動産を継がせるかを決める
- 今ある会社で役割を兼ねられるか確認する(新しい会社は維持コストも増える)
- 移転の税金、株価、借入の条件を、複数の形で試算する
- 金融機関に、形を変える理由とグループの返済計画を説明する
まとめ
- HDと資産管理会社の違いは入れるもの。事業の株式か、不動産・金融資産か
- 承継・集約・M&AならHD、不動産の取得と保有なら資産管理会社、後継者が違うなら分ける
- 株式移転のHDは現金が出ないが、個人の不動産の移転には譲渡所得と流通税がかかる
- 38%控除にはHD化後の値上がり分、3年以内の不動産という制限がある
- 銀行はグループ合算で見る。形を変える前に、債務償還年数と返済原資を試算する
クレフティの事業承継・M&A支援では、代表の相亰と髙橋が構築した独自の財務設計の手法(クレフティメソッド)をもとに、税金・株価・融資を並べて形を比較します。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
