株式移転計画は、ホールディングス(HD)をどんな会社にするかを決める設計図です。HDの商号や本店だけでなく、定款、最初の役員、株主に渡す株式の数、資本金までを1つの書面で決めます。株主総会でこの計画を承認し、登記をすると、HDが成立して事業会社の株式を取得します。
この記事では、株式移転計画の記載事項と、迷いやすい割当比率・資本金の決め方を、数字の例で整理します。手続き全体は株式移転でHDを作る、登記の書類はHD設立の登記と必要書類をご覧ください。
- 記載事項は会社法773条1項の10項目。中小企業の単独の株式移転では、実質的には6項目前後を書く
- 割当ては持株数に応じたものに限られる(773条4項)。持株比率は計画では変えられない
- 資本金は株主資本変動額の範囲内で自由に決められる。事業会社と同じにする必要はない
- 法定の様式はない。定款を別紙に付け、総会の日、成立予定日、変更・中止の定めを加える
- 計画書の数字は登記と税務の両方に使われる。司法書士と税理士が同じ案を見る
- HD株式以外の金銭などを渡すと適格を外れる。計画の段階で確認する
株式移転計画で決める3つのこと
計画を作るのは、株式移転をする事業会社です。取締役会がある会社は取締役会で決定し(会社法362条2項1号)、取締役会がない会社は取締役の過半数で決定します(同法348条2項)。HDの定款も、発起人ではなく事業会社が作ります(同法814条2項)。
株主総会の決議の進め方は、HD化に必要な株主総会の決議で解説しています。
記載事項10項目
会社法773条1項の項目を、中小企業の実務に引き直して整理します。
| 号 | 記載事項 | 中小企業の実務 |
|---|---|---|
| 1号 | HDの目的・商号・本店の所在地・発行可能株式総数 | 必須。下記のとおり |
| 2号 | そのほかHDの定款で定める事項 | 定款を別紙で付けることが多い |
| 3号 | 設立時取締役の氏名 | 必須。取締役会を置くなら3人以上 |
| 4号 | 設立時監査役・会計参与・会計監査人の氏名 | 置く場合のみ。取締役会を置くなら原則として監査役が必要 |
| 5号 | 株主に交付するHD株式の数または算定方法、HDの資本金・準備金の額 | 必須。この記事の中心 |
| 6号 | 5号の株式の割当て | 必須。持株数に応じて割り当てる |
| 7号・8号 | 株式に代えて社債等を交付するときの内容と割当て | 通常は書かない |
| 9号・10号 | 新株予約権に代えてHDの新株予約権を交付するときの内容と割当て | 新株予約権があるときだけ検討 |
新株予約権や社債を使わない単独の株式移転なら、書く項目は1〜3号、5号、6号に、監査役を置く場合の4号を加えた範囲に収まります。
目的:HDの実態に合わせて書く
目的には「株式の保有」や「子会社の経営管理」だけでなく、HDが実際に行う業務を入れます。経営指導料を受け取る、グループの不動産を持って貸す、といった予定があれば、その業務も入れておきます。あとから加えることもできますが、定款変更の特別決議と登記が必要です。
発行可能株式総数と譲渡制限
非公開会社であれば、設立時に発行する株式が発行可能株式総数の4分の1未満でもかまいません(会社法37条3項ただし書)。増資に備えて余裕をみて決めます。
HDの定款に譲渡制限を入れるのを忘れないことが大切です。入れないとHDは公開会社となり、取締役会の設置が必要になるなど(同法327条1項1号)、機関設計が重くなります。相続人への売渡請求や種類株式を含め、定款の設計はHDの定款で決めておくことをご覧ください。
役員:承継の設計が表れるところ
設立時取締役は、HDの経営を誰が担うかを示します。オーナーがHDの社長になり、後継者を事業会社の社長にするのか、後継者もHDの取締役に入れるのかを、ここで決めます。
取締役会を置く場合は取締役3人以上(会社法331条5項)と、原則として監査役が必要です(同法327条2項)。親族の人数が足りないときは、取締役会を置かない設計も選べます。代表取締役は計画書か定款で定めておくと、登記の書面をまとめやすくなります。考え方はHDの社名・資本金・役員構成の決め方で解説しています。
割当比率の決め方
持株数に応じて割り当てる
割当ての定めは、株主の持株数に応じたものでなければなりません(会社法773条4項)。計画で動かせるのは「1株に何株渡すか」という比率だけで、株主どうしの持分の割合は変わりません。
中小企業の単独の株式移転では、株主の顔ぶれも持分も変わらないため、1株につき1株とする例も、将来の贈与で分けやすいように1株につき10株などとする例もあります。比率そのものは、財産の価値に影響しません。
比率を決めるときの注意点は次の3つです。
- 端数が出ない比率にする:1株未満の端数は、まとめて競売などで現金化する手続きになります(会社法234条1項8号)。HD株式以外の資産の交付と紛らわしくならないよう、整数倍にしておくのが無難です
- 自己株式を確認する:事業会社が自己株式を持ったままだと、事業会社にHD株式が割り当てられ、子会社が親会社の株式を持つ形になります。計画の前に消却しておくのが通常です
- 名義株を整理する:株主名簿の名義と実際の株主が違うと、割当ての相手を間違えます。計画の前に確認します
種類株式を発行している場合
種類株式発行会社は、種類ごとに割当てをしない、または異なる扱いをすると定めることができます(会社法773条3項)。ただし、種類株主総会の決議が必要になる場合があります(同法804条3項、322条1項13号)。種類株式の内容をHDの株式にどう引き継ぐかは、HDで種類株式を使うも確認してください。
資本金の決め方
HDの資本金と資本剰余金は、株主資本変動額の範囲内で、計画の定めに従って決まります(会社計算規則52条2項)。オーナー一族が支配する単独の株式移転では、株主資本変動額は事業会社の簿価を基礎に計算するのが基本で(同条1項2号)、利益剰余金は引き継がずゼロになります。
たとえば、事業会社の簿価純資産が1億円なら、次のように分けられます。
| HDの資本金の案 | 資本剰余金 | 登録免許税 | 確認すること |
|---|---|---|---|
| 900万円 | 9,100万円 | 15万円 | 特定新規設立法人に当たらないか |
| 1,000万円 | 9,000万円 | 15万円 | 設立当初から消費税の納税義務あり |
| 3,000万円 | 7,000万円 | 21万円 | 登録免許税が増える |
登録免許税は資本金の0.7%、最低15万円です(国税庁 No.7191)。消費税の判定は新設法人の消費税を確認してください。法人住民税の均等割は資本金等の額で決まるため、資本金を小さくしても、資本剰余金を含む額で区分が決まることがあります。
計画書には「資本金の額」「資本準備金の額」と、残りの扱いを具体的に書きます。資本金の額は登記事項で、資本金の額の計上に関する証明書の内容とも一致している必要があります。
銀行から見ると、HDの資本金を厚くしてもグループの財務は強くなりません。 株式移転ではお金が入ってこないため、事業会社の株式がHDの資産になるだけです。資本金の大きさではなく、事業会社の純資産と返済力を説明する方が伝わります。
計画書の文例
法定の様式はないので、次のような構成で作ります。法定の事項に加えて、実務で書いておく事項も入れています。
| 条 | 見出し | 文例の要点 |
|---|---|---|
| 第1条 | 株式移転 | 当社は、株式移転の方法により、当社の発行済株式の全部を新たに設立するHDに取得させる |
| 第2条 | HDの目的等 | 目的・商号・本店の所在地・発行可能株式総数は別紙定款のとおり |
| 第3条 | 設立時取締役等 | 設立時取締役は○○、○○、○○。設立時代表取締役は○○ |
| 第4条 | 交付する株式 | 当社の株主に、その持株1株につきHDの普通株式10株を交付する |
| 第5条 | 資本金等 | 資本金900万円、資本準備金0円。残額はその他資本剰余金とする |
| 第6条 | 成立の日 | HDの成立の日は令和○年○月○日を予定する。手続きの進行に応じ変更できる |
| 第7条 | 総会の承認 | 令和○年○月○日開催の株主総会で本計画の承認を求める |
| 第8条 | 変更・中止 | 事情の変更があるときは、取締役会の決議により変更または中止できる |
実際の条文は、定款の内容や株主の状況に合わせて作ります。成立の日は、登記を申請する日に合わせて法務局の開いている日にします(HD設立の登記と必要書類)。なお、承認後に計画の中身を大きく変える場合は、改めて株主総会の承認をとる前提で考えます。
計画書は、総会の2週間前の日から、HDの成立の日後6か月を経過する日まで、事業会社の本店に備え置きます(会社法803条1項・2項)。このとき、交付する株式の数や資本金の定めが相当である理由も開示します(会社法施行規則206条1号)。持株数に応じた割当てで、株主の持分が変わらない点を説明します。
計画書と税務:適格を外さないために
計画書に書く内容は、税務の結論に直結します。
| 確認すること | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| HD株式以外を渡さない | 金銭などを交付すると適格を外れる。反対株主の買取請求による金銭は除かれる | 法人税法2条12号の18 |
| 単独の株式移転 | HDと事業会社の完全支配関係が続く見込みであること | 法人税法施行令4条の3第22項 |
| 共同の株式移転 | 同一の者による完全支配関係が、株式移転の後も続く見込みであること | 同条21項 |
| 個人株主の課税 | HD株式だけを受け取れば、譲渡はなかったものとされる | 所得税法57条の4第2項 |
非適格になると、事業会社の一定の資産に時価評価課税が生じることがあります(法人税法62条の9)。計画の数字を動かす前に、HD化の後に事業会社の株式を売る、合併する、といった予定がないかも確認します。適格の判定は完全支配関係の適格要件で解説しています。
もう1つ、HDが受け入れる事業会社株式の金額と、HDの資本金等の額の計算もこの段階で確認します。過去に高い価格で株式の売買があった会社などは、均等割の区分が想定より上がることがあります。
銀行に見せる前に確認すること
計画書を確定する前に、金融機関に相談します。株式移転では銀行に対する債権者保護手続きはありませんが、融資契約に株主の変更についての通知や承諾の条項が入っていることがあります。総会の招集後に銀行に伝えると、計画を直す余地がなくなります。
銀行が計画書から読み取るのは、主に次の3点です。
- 経営体制:代表者が変わるのか、後継者がどのポジションに入るのか
- お金の流れ:HDへの配当や経営指導料で、事業会社の純資産が減らないか
- 保証と担保:経営者保証や、株式の担保の扱いをどうするか
著書のモデルでは、債務償還年数は10年以内が健全の目安です。HDへの配当が増えると事業会社の現預金が減り、この年数が悪化します。計画書とあわせて、配当の方針と資本関係図を用意しておくと説明が進みます。話の進め方はHD化を金融機関にどう説明するかをご覧ください。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見るまとめ
- 株式移転計画の記載事項は会社法773条1項の10項目。単独の株式移転では1〜3号、5号、6号が中心
- 割当ては持株数に応じたものに限られる。持株比率を変えたいなら別の手続きを組み合わせる
- 比率は端数が出ない整数倍にする。自己株式と名義株は計画の前に確認する
- 資本金は株主資本変動額の範囲内で決める。登録免許税、消費税、均等割を見る
- HDの定款には譲渡制限を入れ、計画書の別紙にする
- 確定する前に、税理士の適格の確認と金融機関への説明を済ませる
クレフティの事業承継・M&A支援では、HD化の設計、株価の試算、金融機関への説明までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
