ホールディングス(HD)化を進めるとき、株式の一部を親族や元役員が持っていると、反対株主の株式買取請求を考えておく必要があります。オーナーが3分の2以上を持っていれば総会の決議は通っても、反対した株主は、会社に公正な価格で買い取るよう請求できるからです。
この記事では、HD化の場面に絞って、請求が起きる方法、株式移転の期限、支払う会社と資金、価格、税金、銀行の見方を整理します。制度全般と最高裁の判断の流れは反対株主の株式買取請求と価格決定、少数株主に退いてもらう方法はHD化と少数株主で解説しています。
- 株式移転・株式交換・会社分割には買取請求がある。新設のHDへの株式譲渡にはない
- 反対株主になるには、総会の前の通知と総会での反対の両方が必要。議決権のない株主は不要
- 株式移転の請求期間は、通知または公告から20日以内。支払うのはHDではなく事業会社
- 組織再編の買取請求には、分配可能額による上限がない。資金が足りなくても支払う
- HD化で企業価値が増えない場合、価格の基準は計画がなかったときの株価。収益還元法では非流動性ディスカウントはできない(最高裁平成27年決定)
- 売り手には原則みなし配当。適格の判定には影響しない
- 最も大切なのは、HD化の前に説明と任意の買取りを進めること
HD化の方法ごとの買取請求
買取請求があるかどうかは、HD化の方法で決まります。
| 方法 | 買取請求 | 請求の相手 | 例外 | 根拠(会社法) |
|---|---|---|---|---|
| 株式移転 | あり | 事業会社(完全子会社) | - | 806条 |
| 株式交換 | あり | 子会社と親会社 | 親会社の側が簡易の場合は、親会社の株主に請求権なし | 785条、797条 |
| 会社分割 | あり | 分割会社、承継会社 | 分割する資産が少ない場合の分割会社 | 785条、797条、806条 |
| 事業譲渡 | あり | 譲渡する会社 | 解散決議と同時の場合など | 469条 |
| 新設のHDへの株式譲渡 | なし | - | 譲渡承認を拒めば、会社か指定買取人の買取り | 140条 |
| 定款変更で全株式に譲渡制限を付ける | あり | 会社 | - | 116条1項1号 |
見落としやすいのは最後の行です。HD化の準備で譲渡制限を新設するときにも、買取請求の対象になります。古い定款の会社は、HD化の前のチェックリストで確認しておきます。
新設のHDに売る方法
オーナーが作ったHDに株式を売る方法には、買取請求がありません。HDが少数株主の株式まで買わなければ、少数株主は事業会社の株主のまま残ります。少数株主を残したくないときは、任意の買取りを組み合わせます。資金と税金は新しく作ったHDに株式を売ってHD化するをご覧ください。
請求の流れと期限
株式移転の場合の流れです。
| 段階 | 内容 | 根拠(会社法) |
|---|---|---|
| 反対株主の要件 | 総会の前の通知+総会での反対。議決権を行使できない株主はどちらも不要 | 806条2項 |
| 会社からの通知 | 決議の日から2週間以内に、全株主へ。公告でも可 | 806条3項・4項 |
| 請求 | 通知または公告の日から20日以内に、株式の数を示して | 806条5項 |
| 撤回 | 会社の承諾が必要。ただし、60日以内に裁判所への申立てがなければ撤回できる | 806条7項、807条3項 |
| 計画の中止 | 請求は効力を失う | 806条8項 |
| 利息 | 裁判所が決めた価格に、60日の期間満了後の法定利率による利息 | 807条4項 |
| 先払い | 公正と認める額を、価格が決まる前に支払える | 807条5項 |
議決権のない株主にも権利がある
議決権制限株式を発行している会社では、議決権のない株主は、事前の通知なしに買取請求ができます。承継のために議決権を後継者に集める設計をしていると、総会では発言力がない株主から請求が来ることがあります。種類株式を組み合わせるときは、HDで種類株式を使うを確認のうえ、誰に請求権があるかも設計の段階で確認します。
反対通知の扱いを決めておく
最高裁令和5年10月26日第一小法廷決定(令和4年(許)第11号)は、会社が送った委任状用紙の「否」に〇をつけて返送したことが、反対の通知に当たるとしました(裁判所ウェブサイト)。書面や委任状の様式を作るときは、反対の通知として扱われることを前提にします。
決議の進め方はHD化に必要な株主総会の決議をご覧ください。
支払うのは事業会社、上限はない
買取請求の相手は事業会社です。HDが資金を用意するわけではありません。 買い取った株式は事業会社の自己株式になるので、HDの株式の割当てとの関係を、株式移転計画の作成の段階で確認します。
もう一つの注意点は、財源の規制です。
| 買取りの原因 | 分配可能額との関係 | 根拠(会社法) |
|---|---|---|
| 組織再編の買取請求(785条、797条、806条) | 超過額の支払義務の規定なし | 464条1項の対象外 |
| 定款変更などの買取請求(116条)、株式併合の買取請求(182条の4) | 分配可能額を超えると、業務執行者に支払義務 | 464条1項 |
| 合意による自己株式の取得 | 分配可能額の範囲内 | 461条1項 |
組織再編の場合、分配可能額が少なくても、決まった価格は支払います。手元資金が薄い会社ほど、請求を想定して資金を確保する必要があります。
価格はどう決まるか
価格の考え方は、最高裁の決定で示されています。
| 決定 | 内容 |
|---|---|
| 最高裁平成24年2月29日第二小法廷決定(平成23年(許)第21号)裁判所ウェブサイト | 株式移転に反対した株主の事案。企業価値の増加がないときは、買取請求の日に株式移転がなければ有したであろう価格 |
| 最高裁平成27年3月26日第一小法廷決定(平成26年(許)第39号)裁判所ウェブサイト | 非上場会社で、裁判所が収益還元法を用いるときは、非流動性ディスカウントはできない |
オーナーが1社だけでHDを作る場合、事業の中身は変わりません。企業価値が増えないと考えれば、基準はHD化の話がなかったときの価値になります。
非上場株式には市場株価がないので、どの評価方法を使うかが争点です。ここで2つのことに注意します。
- 相続税の評価額はそのまま使えない:税務上の配当還元価額や類似業種比準価額は、会社法の「公正な価格」とは別の基準です。非上場株式の評価の基本の金額を前提に話を進めると、大きな差が出ることがあります
- 譲渡制限株式の売買価格の決定とは別の手続き:最高裁令和5年5月24日決定は、会社法144条2項の手続でDCF法の評価額から非流動性ディスカウントを認めました。買取請求の平成27年決定とは手続きが違うので、同じ減額を前提にはできません
裁判の例は株式の買取価格が裁判で争われた事例にまとめています。価格の協議に備えて、独立した株価算定を早めに取っておくと、説明の根拠にもなります。
税金:売り手、会社、適格要件
売り手はみなし配当
反対株主が会社に売ると、自己株式の取得として、資本金等の額を超える部分がみなし配当になります(所得税法25条1項5号)。同じ買取請求でも、再編の種類で扱いが違います。
| 取引 | みなし配当 | 根拠 |
|---|---|---|
| 株式移転・株式交換・会社分割の反対株主の買取請求 | 生じる | 所得税法25条1項5号 |
| 合併に反対する消滅会社の株主の買取請求 | 生じない | 所得税法施行令61条1項8号 |
| 株式併合に反対する株主の買取請求 | 生じない | 同項9号 |
| 第三者への売却(オーナー、新設のHDなど) | 生じない | 全体が譲渡所得 |
仮の数字で比べます。1,000株を1株3,000円で売る個人株主で、1株当たりの資本金等の額と取得費はどちらも500円とします。
| 単位:円 | 買取請求で事業会社に売る | 新設のHDに売る |
|---|---|---|
| 受取額 | 3,000,000 | 3,000,000 |
| みなし配当 | 2,500,000 | - |
| 譲渡所得 | 0 | 2,500,000 |
| 課税の方法 | 総合課税(配当控除あり) | 申告分離課税 |
| 税額 | 累進税率で計算(源泉510,500) | 507,875(20.315%) |
非上場株式のみなし配当は、20.42%で源泉徴収され、総合課税の対象です(国税庁 No.1330)。他の所得が多い株主ほど、税額の差が開きます。
相続で取得した株式を一定の期間内に発行会社に売る場合は、みなし配当としない特例があります(国税庁 No.1477)。要件を確認します。
会社の処理
事業会社には源泉徴収の義務があります。価格が協議で決まった段階で、源泉の金額と納付の時期を確認します。みなし配当と譲渡の違いはHDへの株式売却とみなし配当・譲渡所得の違いで説明しています。
適格要件への影響
買取請求の対価は、適格の判定で問題になる「株式以外の資産」から除かれています。
- 株式交換:法人税法2条12号の17
- 株式移転:法人税法2条12号の18
1社だけの株式移転は、HDと事業会社の完全支配関係が続く見込みがあれば適格です(法人税法施行令4条の3第22項)。少数株主がいても、買取請求があっても、この判定は変わりません。ただし、買取請求の対価以外の現金を計画の中で渡すと、話が変わります。適格要件の全体は株式交換・株式移転の税務をご覧ください。
買取請求を起こさない進め方
買取請求は権利なので、止めることはできません。実務の目標は、請求に至らないように準備することです。
- 株主を確定する:名義株、相続で共有の株式、所在不明の株主を確認する
- 目的を説明する:承継のためであること、配当や権利がどう変わるかを、総会の前に伝える
- 任意の買取りを提案する:HD化の前に、オーナーか新設のHDが買い取る。進め方は分散した株式をHDに集めるをご覧ください
- 全員の同意を目指す:全株主が同意すれば、書面決議が使える
- 反対が残る場合の資金を確保する:最大の金額を試算し、資金の出どころを決める
順番には注意します。株式移転の後に、HDが少数株主から買い取ると、HDの自己株式の取得になり、売り手にみなし配当が生じます。少数株主はHDの株主になっているためです。買い取るなら、HD化の前に動くのが基本です。
価格は、税務上の時価との差も確認します。個人から法人への譲渡で、時価の2分の1未満の価格なら、時価で譲渡したとみなされます(所得税法59条1項2号、所得税法施行令169条)。低すぎても高すぎても、別の課税の問題が生じることがあります。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る銀行の見方
買取請求は、事業会社から現金が出ていき、純資産が減る取引です。銀行は次の点を確認します。
| 銀行の確認点 | 準備すること |
|---|---|
| 反対株主はいるか、請求の可能性はあるか | 株主の一覧と、説明の状況 |
| 買取りの資金はどこから出すか | 手元資金か融資か。運転資金と分ける |
| 純資産はどれだけ減るか | 買取り後の貸借対照表の試算 |
| 争いが長引かないか | 株価算定書と協議の方針 |
著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内を健全の目安にしています。仮の数字で、手元資金から2,000万円を買取りに使った場合を見ます。
| 単位:万円 | 買取りの前 | 買取りの後 |
|---|---|---|
| 借入金 | 10,000 | 10,000 |
| 現預金 | 3,000 | 1,000 |
| 返済の原資(利益+償却−税) | 1,000 | 1,000 |
| 債務償還年数 | 7年 | 9年 |
裁判になると、支払いの時期も金額も読めなくなります。だからこそ、HD化の説明の段階で、株主の状況を銀行に伝えておくほうが、後の融資の相談がしやすくなります。説明の順番はHD化を金融機関にどう説明するか、資本関係の変化が融資に与える影響はHD化すると銀行の見方はどう変わるかをご覧ください。合併や分割を組み合わせる場合は、債権者保護手続も必要になります。
まとめ
- 株式移転・株式交換・会社分割には買取請求がある。新設のHDへの株式譲渡にはない
- 反対株主は事前の通知+総会での反対。議決権のない株主は通知なしで請求できる
- 株式移転の請求は通知または公告から20日以内。支払いは事業会社で、組織再編では分配可能額の上限がない
- 価格はHD化がなかったときの価値が基準。税務の評価額とは別に考える
- 売り手には原則みなし配当。買取請求だけでは非適格にならない
- 任意の買取りはHD化の前に。後でHDが買うと自己株式の取得になる
- 銀行には資金と純資産への影響を試算して伝える
クレフティの事業承継・M&A支援では、HD化の設計、株価算定、少数株主への説明の資料づくり、金融機関への説明までご相談をお受けしています。大手FASでバリュエーションを手がけてきた公認会計士・税理士が所属しています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
