ホールディングス(HD)の下に会社が増えてくると、「HDの下にもう一段、持株会社を置きたい」「事業会社の下に子会社を作りたい」というご相談が出てきます。HDから見れば、子会社の下の孫会社をもつ多層構造です。
多層構造は、事業ごとにグループを分けたり、M&Aで買った会社をまとめたり、後継者ごとに任せる範囲を分けたりするときに役立ちます。一方で、配当が2段階になる、株価の計算が複雑になる、銀行から見て資金の流れが見えにくくなる、といった注意点もあります。
この記事では、多層構造のHDの作り方と、税務・株価・銀行の3つの視点からの注意点を整理します。HDの基本的な形はHDの種類、新しく子会社を作る方法はHDの下に新会社を作るで解説しています。
- 多層構造は、事業部門ごとの中間持株会社か、事業会社の下の孫会社の2つの形が多い
- 作り方は、会社の設立・株式移転・株式の現物出資や売買。100%グループ内なら適格やグループ法人税制で課税を繰り延べやすい
- 100%関係なら、孫会社→子会社→HDの配当は各段階で全額益金不算入、源泉徴収も不要。ただし分配可能額と時間差に注意
- 株価では、各段階の含み益に38%の控除はない(財産評価基本通達186-3注)。中間持株会社も株式等保有特定会社に当たりやすい
- 中間持株会社はIBM事件のように税務調査の焦点にもなる。事業上の目的を記録しておく
- 銀行には、グループの資金の流れと、孫会社の借入・保証を図で説明できるようにする
多層構造のHDとは:2つの代表的な形
多層構造には、大きく2つの形があります。
形1(中間持株会社)は、たとえば「本業のグループ」と「不動産のグループ」を分けて、それぞれ別の後継者や責任者に任せたいときに使います。中間持株会社の単位で業績を見たり、将来その単位ごと売却・承継したりできます。
形2(事業会社の下の孫会社)は、事業会社が新規事業の会社を作ったり、M&Aで会社を買ったりした結果として生まれることが多い形です。事業会社の取引銀行から借りて買収する場合などは、買い手が事業会社になるため、自然に孫会社になります。M&Aの場面での組み方はHDでM&A資金を借りるをご覧ください。
多層構造にする目的と、向かない場面
| 目的 | 多層構造が役立つ理由 | フラット(HDの直下に並べる)で足りる場合 |
|---|---|---|
| 事業部門ごとの管理・承継 | 中間持株会社の株式を渡せば、その部門をまとめて承継できる | 後継者が1人で、部門ごとに分ける必要がない |
| M&Aの受け皿 | 買収した会社を、関連する事業会社の下に置いて一体で運営できる | 買収先が本業と関係が薄い |
| リスクの分離 | 事業会社の下で新規事業を切り離せる | HDの直下に置いても同じ効果がある |
| 将来の部門売却 | 中間持株会社の株式を売れば、子会社群をまとめて売れる | 売却の予定がない |
逆に、「なんとなく会社を増やす」「株価対策のために階層を増やす」という理由なら、多層構造は向きません。会社の数だけ均等割や決算・申告の費用がかかり(HDの維持コスト)、後で説明するように株価の計算でも有利になるとは限らないからです。
多層構造の作り方
多層構造にする方法は、主に次の3つです。
| 方法 | 内容 | 税務の扱い | 主な根拠 |
|---|---|---|---|
| 孫会社を設立する | 事業会社が金銭出資して新会社を作る | 課税関係は生じない | 会社法25条以下 |
| 子会社が株式移転をする | HDの子会社が株式移転で中間持株会社を作り、HD→中間持株→子会社の形にする | 完全支配関係が続く見込みなどの要件を満たせば適格株式移転 | 会社法772条、法人税法2条12号の18 |
| 子会社株式を中間持株会社に移す | HDが中間持株会社を作り、子会社株式を現物出資または売却する | 現物出資は要件を満たせば適格現物出資。売却は100%グループ内なら譲渡損益調整資産として繰延べ | 法人税法2条12号の14、61条の11 |
いずれも100%グループの中での移動なので、要件を満たせば法人税の課税は繰り延べられます。ただし、株式の移動に伴う手続き(株主総会の決議、株式移転の登記、子会社の取引先との契約の確認)は省けません。主要な取引先との契約に支配権の変更条項(チェンジ・オブ・コントロール)があると、中間持株会社を挟むだけでも通知や承諾が必要になることがあります。HD化で取引先との契約はどうなる?で確認ポイントを整理しています。
税務の注意点:配当・グループ法人税制・行為計算否認
配当は各段階で益金不算入、ただし時間差がある
100%の資本関係が配当の計算期間を通じて続いていれば、孫会社から子会社、子会社からHDへの配当は、どちらの段階でも完全子法人株式等の配当として全額が益金不算入になります(法人税法23条1項・5項)。完全支配関係は、直接・間接を問わないので、孫会社もこの扱いの対象です。令和5年10月1日以後に支払う配当は、源泉徴収も不要です(所得税法177条、212条3項)。詳しくはHDが子会社から受ける配当は非課税?をご覧ください。
ただ、税金がかからなくても、お金がHDに届くまでには2段階の手続きが必要です。
各社の決算期をそろえておかないと、孫会社の利益がHDの返済資金になるまでに1年近くかかることもあります。HDが借入をしていて、子会社からの配当を返済原資にしている場合は、決算期と配当の時期をグループで設計しておきます(配当で返済する融資の注意点)。
グループ法人税制は孫会社にも及ぶ
グループ法人税制は、直接・間接の完全支配関係がある法人の間に適用されます。HD・子会社・孫会社の間の資産の売買(譲渡損益調整資産の繰延べ、法人税法61条の11)、寄附金と受贈益(37条2項、25条の2)などは、階層に関係なくグループ内取引として扱われます。全体像はグループ法人税制とはで解説しています。
中間持株会社とIBM事件
多層構造で必ず意識しておきたいのが、IBM事件(東京高裁平成27年3月25日判決、国の上告受理申立ては不受理)です。外資系グループの中間持株会社が、取得した子会社株式の一部を発行会社に譲渡して多額の譲渡損を計上し、国が同族会社の行為計算否認(法人税法132条1項)で否認した事案です。高裁は、中間持株会社を置いた経緯に事業上の目的があったことなどから、否認を認めませんでした(国税庁 税務訴訟資料 順号12639)。
この判決で否認されなかったからといって、同じことができるわけではありません。100%グループ内で発行会社に株式を譲渡したときの譲渡損益は、平成22年度の改正で計上しない扱いになっています(法人税法61条の2)。また、組織再編を使って欠損金などを動かす場合は、ヤフー事件(最高裁平成28年2月29日判決、税務訴訟資料 順号12813)が示したとおり、法人税法132条の2の濫用の判断が問題になります。
実務上の教訓は、中間持株会社を置く事業上の理由を、議事録や事業計画の形で残しておくことです。詳しくは組織再編の行為計算否認をご覧ください。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る株価の注意点:控除は各段階で効かない
多層構造で誤解が多いのが、自社株の評価です。
子会社・孫会社の含み益に38%の控除はない
非上場株式の純資産価額は、相続税評価額で計算した純資産から、評価差額(含み益)に対する法人税額等相当額を控除して求めます。この割合は、令和8年4月1日以後に相続・贈与等で取得する財産について、防衛特別法人税の創設に伴い37%から38%に改正されました(財産評価基本通達186-2、国税庁 資産評価企画官情報)。
ところが、HDが持つ子会社株式を純資産価額で評価するときは、子会社の段階では法人税額等相当額を控除しないとされています(財産評価基本通達186-3注、国税庁 財産評価基本通達 第8章第1節)。孫会社の株式を子会社の段階で評価するときも同じです。
数字で見てみます(説明のための仮の例です)。
| 項目 | フラット(HD→子会社) | 多層(HD→中間持株→子会社) |
|---|---|---|
| 子会社の含み益(土地など) | 1億円 | 1億円 |
| 子会社の段階での38%控除 | なし | なし |
| 中間持株会社の段階での38%控除 | - | なし |
| HDの段階での38%控除 | HDが持つ株式の評価額と帳簿価額の差に対してのみ | 同左 |
| 含み益1億円がHDの純資産に反映される額 | 1億円 | 1億円 |
階層を増やしても、子会社の含み益が評価から差し引かれる額は増えません。さらに、株式移転などで受け入れた子会社株式の受入れ時の差額(現物出資等受入れ差額)は、HDの段階でも控除の対象外です(財産評価基本通達186-2(2))。38%の控除が効くのは、主にHDが株式を受け入れた後に子会社の価値が上がった部分です。仕組みはHD化で株価が下がる仕組みで試算しています。
中間持株会社は株式等保有特定会社になりやすい
中間持株会社の資産は、ほとんどが子会社株式です。総資産に占める株式等の割合が50%以上なら株式等保有特定会社に当たり、原則として純資産価額方式で評価されます(財産評価基本通達189(2))。HDも中間持株会社の株式しか持たなければ同じです。類似業種比準価額を使える余地がなくなるため、階層の数より、どの会社にどんな資産を置くかのほうが株価への影響は大きくなります(株式保有特定会社とは)。
株価の対策だけを目的に構造を作ると、財産評価基本通達6項(総則6項)で通達の評価が否定されるリスクもあります。構造は承継と経営管理の目的から決め、株価はその結果として試算する、という順番が大切です(HD化による株価対策と総則6項)。
会社法と銀行の注意点
多重代表訴訟:親族の少数株主がいるHDで注意
HDに親族などの少数株主がいる場合、一定の要件のもとで、HDの株主が完全子会社の取締役の責任を追及できる制度があります(特定責任追及の訴え、いわゆる多重代表訴訟。会社法847条の3)。HDの総資産に占める、その子会社の株式の帳簿価額が5分の1を超える重要な子会社が対象です。中間持株会社を挟んでいても、最終の完全親会社であるHDの株主が対象になります。親族間の関係が微妙なグループでは、子会社の役員構成と意思決定の記録にも気を配ります。
銀行は「お金の流れ」と「保証の連鎖」を見る
多層構造にすると、銀行からはどこで利益が出て、どこに借入があり、どの経路で返済されるのかが見えにくくなります。銀行はグループを連結して見るので、次の点を図にして説明できるようにしておきます。
- グループの連結の姿:連結での純資産(実態純資産)と、著書のモデルで使う債務償還年数((借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等))
- 返済原資の経路:孫会社の借入は孫会社の利益で返すのか、子会社やHDからの支援が前提なのか
- 保証の連鎖:孫会社の借入に子会社が保証し、子会社の借入にHDが保証する、という形になっていないか。連鎖が長いほど、将来の部門売却や承継のときに外しにくくなります(HDと子会社の連帯保証・担保)
事務所の支援事例でも、本業と不動産業を営む経営者の不動産業の承継で、HD化による組織再編・種類株式の設計・株価算定・金融機関の紹介を行い、地方銀行から1.6億円を調達しました。グループの形を変えるときは、税務と同時に銀行への説明の筋道を用意しておくことが欠かせません(HD化を金融機関にどう説明するか)。
多層構造をやめたくなったら
部門の売却や承継が終わり、階層が不要になったら、フラットに戻すことも考えます。子会社が持つ孫会社株式をHDに配当として渡す現物分配は、完全支配関係のある法人間なら適格現物分配として帳簿価額で移り、課税されません(法人税法2条12号の15、62条の5)。中間持株会社と子会社を合併させる方法もありますが、欠損金の引継ぎには支配関係(50%超)の5年判定などの制限があります(法人税法57条3項。合併で欠損金は引き継げる?)。
まとめ
- 多層構造は中間持株会社型と孫会社型。事業部門ごとの承継・管理、M&Aの受け皿などの目的があるときに使う
- 作り方は設立・株式移転・株式の現物出資や売却。100%グループ内なら適格やグループ法人税制で課税を繰り延べやすい
- 配当は各段階で全額益金不算入・源泉徴収なし。ただし分配可能額と決算期で時間差が出る
- 株価では、子会社・孫会社の段階の含み益に38%の控除はない。中間持株会社は株式等保有特定会社になりやすい
- IBM事件のように中間持株会社は調査の焦点になる。事業上の目的を記録しておく
- 銀行には連結の姿、返済原資の経路、保証の連鎖を図で説明する
- 不要になったら、適格現物分配や合併でフラットに戻せる
クレフティの事業承継・M&A支援では、HDグループの構造の設計、組織再編の税務、株価の試算、金融機関への説明までご相談をお受けしています。大手FASでバリュエーションを手がけてきた公認会計士・税理士が所属しています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
