ホールディングス(HD)体制の会社で新しい事業を始めるとき、最初に迷うのが「今ある会社の一部門として始めるか、HDの下に新しい会社を作るか」です。HDを作った目的の一つが事業ごとのリスクの分離なら、別会社が自然に見えます。一方で、立ち上げ期の赤字、会社を増やすコスト、融資の受けやすさを考えると、事業部で始めたほうがよい場合もあります。
この記事では、新規事業を事業部で始める場合と別会社で始める場合を、税金・融資・撤退や売却のしやすさの面から比べ、判断の基準と、途中で切り替える方法を整理します。事業を分けることのリスク分離の効果と限界そのものは事業ごとにリスクを分けるHD体制、新会社の出資と資本金の決め方はHDの下に新会社を作るで解説しています。
- 事業部で始めると、立ち上げ期の赤字を本業の黒字と相殺できる。別会社では相殺できず、新会社の欠損金として繰り越す(法人税法57条1項)
- 別会社は、撤退・売却・外部からの出資・後継者への任せ方で有利。事業の成績も決算書でそのまま見える
- 会社を増やすと、均等割・決算申告の費用などの固定費が毎年かかる。消費税は特定新規設立法人の判定に注意
- 迷うときは「事業部で始めて、軌道に乗ったら分社」か「別会社で始めて、だめなら合併・清算」。どちらにも組織再編税制の出口がある
- 銀行は、新会社の単体では実績がないため、HDや本業の会社の保証を求めることが多い。保証でつながると、リスク分離の効果は弱くなる
事業部で始めるか、別会社で始めるか
まず、二つの形の違いを図で確認します。
主な違いを表にまとめます。
| 項目 | 事業部で始める | 別会社で始める |
|---|---|---|
| 立ち上げ期の赤字 | 本業の黒字と相殺できる | 相殺できない。新会社で繰り越す |
| 毎年の固定費 | ほぼ増えない | 均等割、決算・申告の費用、登記の費用などが増える |
| 消費税 | 本業の会社の納税義務のまま | 新会社ごとに判定。免税にならない場合もある |
| 事業の成績の見え方 | 部門別の管理会計が必要 | 決算書でそのまま見える |
| 失敗したときの影響 | 本業の決算書に直接出る | 原則として新会社の中にとどまる(保証がなければ) |
| 撤退・売却 | 事業譲渡や会社分割が必要 | 株式の売却、清算、合併で整理できる |
| 外部のパートナーの出資 | 受けにくい | 新会社に出資してもらえる |
| 許認可 | 本業の会社で追加の取得・変更 | 新会社で新たに取得 |
| 融資 | 本業の会社の実績で借りられる | 新会社の実績がないため、保証を求められやすい |
どちらが正しいということはありません。事業の規模・リスクの大きさ・将来の出口によって選びます。
税金の違い:赤字の扱いと会社を増やすコスト
立ち上げ期の赤字は、別会社では本業と相殺できない
法人税は会社ごとに計算します。新会社の赤字は、HDや本業の会社の黒字と相殺できません。グループ通算制度を選べば相殺できますが、手続きと事務の負担が大きく、中小企業では選ばない場合がほとんどです(グループ通算制度は中小企業に必要?)。
新会社の赤字は欠損金として、10年間繰り越して新会社自身の将来の所得から差し引きます(法人税法57条1項。平成30年4月1日以後に開始した事業年度に生じた欠損金)。中小法人であれば、所得の全額まで控除できます(同条11項)。
仮の数字で比べてみます。本業の会社の所得が毎年3,000万円、新規事業の損益が1年目▲1,000万円、2年目▲500万円、3年目以降は黒字という例です。
| 項目 | 事業部で始める | 別会社で始める |
|---|---|---|
| 1年目の課税所得 | 本業3,000万円-1,000万円=2,000万円 | 本業3,000万円、新会社0円(欠損金1,000万円) |
| 2年目の課税所得 | 本業3,000万円-500万円=2,500万円 | 本業3,000万円、新会社0円(欠損金計1,500万円) |
| 3年目以降 | 新規事業の黒字にそのまま課税 | 新会社の黒字は、欠損金1,500万円を使い切るまで課税されない |
| 新規事業が失敗した場合 | 赤字はすでに本業の利益と相殺済み | 欠損金は使われないまま残る(清算時の扱いは後述) |
新規事業が成功すれば、別会社でも最終的に欠損金を使えるので、差は税金を払う時期のずれにとどまります。失敗した場合に差が出ます。ただし、100%子会社を清算したときに、残余財産が確定すれば、子会社の欠損金を親会社が引き継げる場合があります(法人税法57条2項)。
会社を増やすと毎年かかるコスト
別会社にすると、赤字でも次のような費用がかかります(会社を維持するコストの全体はHDの維持コスト)。
- 法人住民税の均等割:赤字でも課税されます。資本金等の額1,000万円以下・従業者50人以下の区分で、標準税率では道府県民税2万円+市町村民税5万円の年7万円(地方税法52条、312条。自治体によって超過課税あり)
- 決算・申告の費用:会計事務所への報酬、会計ソフトの費用など
- 消費税:新会社ごとに納税義務を判定します。HDグループの子会社は、資本金1,000万円未満でも特定新規設立法人として設立当初から課税事業者になる場合があります(消費税法12条の3、国税庁 タックスアンサーNo.6503)。判定の方法はHDグループと消費税の免税・簡易課税で解説しています
また、資本金5億円以上の法人との間に完全支配関係がある会社は、資本金が1億円以下でも法人税の軽減税率などの中小法人の特例が使えません(国税庁 タックスアンサーNo.5759)。HDの資本金が大きい場合は、新会社でも特例が使えるかを確認します。
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事業承継・M&A支援を見る別会社のほうが有利になる場面
税金だけを見ると事業部が有利に見えますが、次のような場面では別会社のほうが向いています。
撤退・売却の出口が見えやすい
別会社であれば、うまくいかないときは清算や合併、うまくいったときは株式の売却で、事業ごと整理できます。事業部のままだと、事業譲渡や会社分割で切り出す手間がかかり、資産・負債・契約・社員を一つずつ分ける必要があります。将来、事業を売る可能性がある場合や、他社と組む可能性がある場合は、最初から別会社にしておくほうが進めやすくなります(HD体制でM&Aの買い手になるメリット)。
外部のパートナーや後継者に任せやすい
新会社であれば、事業のパートナーに一部の株式を持ってもらう、後継者を新会社の社長にして経営を任せる、といった設計ができます。後継者に小さな会社の経営を一通り経験させる場として、新会社を使う方法もあります(後継者のポジションの作り方)。
リスクの大きい事業を本業から切り離せる
許認可が本業と違う事業、在庫や設備への投資が大きい事業、損害賠償のリスクがある事業は、別会社にしておくと、失敗の影響を新会社の中にとどめやすくなります。ただし、HDや本業の会社が新会社の借入を連帯保証していれば、リスクはつながったままです。
融資の違い:新会社は実績がない
銀行から見た新会社
銀行は、新会社の単体の決算書では実績がないため、HDや本業の会社の決算書を見て判断します。グループで見て返済できるかを確かめ、HDや本業の会社の連帯保証を求めることが多くなります(HDグループの保証とクロス保証)。
著書のモデルでは、債務償還年数を(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)で見ます。事業部で始めると、新規事業の赤字は本業の会社の経常利益を直接押し下げ、本業の会社の債務償還年数が悪化します。別会社であれば、本業の会社の単体の数字は守られますが、銀行はグループを連結して見るため、グループ全体の数字は同じように悪化します(HD化すると銀行の見方はどう変わる?)。
公庫の制度
新規事業の資金では、日本政策金融公庫の制度が候補になります。
| 制度 | 対象(公庫の案内の要旨) | 向く場面 |
|---|---|---|
| 新規開業・スタートアップ支援資金 | 新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方 | 新会社で借りる場合 |
| 新事業活動促進資金 | 経営革新計画の承認を受けた方、第二創業(経営多角化・事業転換・新市場進出)を図る方など | 既存の会社が新しい分野に進出する場合 |
グループの子会社として作った新会社が、新規開業向けの制度の対象として扱われるかは、事業の中身やグループとの関係も含めて審査されます。どちらの会社で、どの制度を使うかは、事前に公庫に相談して確認します。
迷うときは「途中で切り替える」前提で考える
最初の形を一度決めても、後から組織再編で切り替えられます。
事業部で始めて、軌道に乗ったら分社する
本業の会社の中で始め、事業が軌道に乗ってから分社型分割で新会社に切り出す方法です。100%の資本関係の中で、一定の要件を満たす分割は適格分割となり、移す資産を簿価で引き継げます(法人税法2条12号の11、62条の2)。立ち上げ期の赤字を本業と相殺しつつ、出口の準備もできます。ただし、許認可は引き継げないものもあり、契約や社員の移籍の手続きも必要です(会社分割の税務)。
別会社で始めて、うまくいかなければ合併・清算する
新会社で始めて、撤退するときに本業の会社と合併するか、清算する方法です。HDが新会社を設立し、設立のときから支配関係が続いている場合は、合併による欠損金の引継ぎの制限(支配関係が5年以内の場合の制限、法人税法57条3項)の例外に当たることがあります。ただし、例外が使えない場合もあるため、事前に要件を確認します(合併と欠損金の引継ぎ)。
赤字の会社との合併は、欠損金を使うことだけが目的に見えると、組織再編の行為計算否認(法人税法132条の2)が問題になることがあります。合併には、事業の統合や管理の効率化といった事業上の理由を用意しておきます(組織再編の包括的租税回避防止規定)。
判断の目安
| 事業の性格 | 向く形 |
|---|---|
| 本業の延長で、規模が小さく、すぐに黒字化が見込める | 事業部 |
| 立ち上げ期の赤字が大きく、成否が読めない | 事業部で始めて分社、または別会社(撤退の形を決めておく) |
| 許認可・リスクが本業と大きく違う | 別会社 |
| 将来の売却や、パートナーの出資を予定している | 別会社 |
| 後継者に任せて経営を経験させたい | 別会社 |
まとめ
- 事業部で始めると、立ち上げ期の赤字を本業と相殺できる。別会社では、新会社の欠損金として10年間繰り越す
- 別会社は、撤退・売却・パートナーの出資・後継者の育成で有利。事業の成績が決算書でそのまま見える
- 会社を増やすと、均等割(標準税率で年7万円から)や申告の費用が毎年かかる。消費税は特定新規設立法人の判定に注意
- 銀行はグループを連結して見る。新会社の借入にはHDや本業の会社の保証を求められやすい
- 迷ったら、事業部→分社、別会社→合併・清算のどちらかの出口を前提に始める。組織再編の要件と事業上の理由を事前に確認する
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