ホールディングス(HD)化を考えるとき、「会社を分ければ、中小法人の軽減税率を何回も使えるのでは」という質問をよく受けます。たしかに、法人税は会社ごとに計算するため、所得800万円以下に適用される15%の税率も会社ごとに使えます。ただし、それを目的に会社を増やすのはお勧めしません。会社が増えるコストと税務上のリスク、銀行からの見え方を合わせると、得になる場面は限られるからです。
この記事では、HDグループで見た法人税の税率を、軽減税率の要件・大法人の子会社の除外・防衛特別法人税・所得の付け替えのリスクの順に整理します。会社が増えると増える地方税は会社を増やすと増える税金:均等割と事業税、毎年の維持費はHDの維持コストで取り上げています。
- 資本金1億円以下の中小法人は、所得のうち年800万円以下の部分に15%(本則19%)、超える部分は23.2%。所得が年10億円超の事業年度は17%(令和7年度改正)
- 軽減税率は会社ごとに適用される。グループ通算制度を使うと、800万円の枠はグループで1つになる
- 資本金5億円以上の法人の100%子会社は、自社の資本金が小さくても中小法人から外れる
- 防衛特別法人税(令和8年4月1日以後開始事業年度)は、法人税額から年500万円を控除した残りに4%。中小法人の多くは負担なし
- 実態のない会社への所得の付け替えは、寄附金や行為計算否認(法人税法132条)のリスク。税率を目的にHD化しない
中小法人の法人税率
法人税の本則の税率は23.2%です。資本金1億円以下の普通法人などは、所得のうち年800万円以下の部分について19%に軽減され(法人税法66条2項)、さらに租税特別措置で15%に下げられています(租税特別措置法42条の3の2)。
| 区分 | 年800万円以下の部分 | 年800万円超の部分 |
|---|---|---|
| 中小法人(所得が年10億円以下の事業年度) | 15% | 23.2% |
| 中小法人(所得が年10億円超の事業年度) | 17% | 23.2% |
| 中小法人以外の普通法人 | 23.2% | 23.2% |
令和7年度税制改正で、この特例は適用期限が2年延長されたうえで、所得が年10億円を超える事業年度は17%とされ、グループ通算制度の通算法人は対象から外されました(通算法人は800万円をグループ内で配分し、その部分は19%)。法人税額には、別に地方法人税(法人税額の10.3%)がかかります。
HDグループでは、軽減税率は会社ごと
仮の数字で比べる
法人税は会社ごとに計算するため、グループ通算制度を使わない限り、800万円の枠も会社ごとにあります。仮に、グループ全体の所得が2,400万円で、1社にまとまっている場合と、3社に800万円ずつ分かれている場合を比べます(いずれも中小法人、所得10億円以下)。
| 1社に2,400万円 | 3社に800万円ずつ | |
|---|---|---|
| 800万円以下の部分(15%) | 120万円 | 120万円×3社=360万円 |
| 800万円超の部分(23.2%) | 1,600万円×23.2%=371.2万円 | なし |
| 法人税の合計 | 491.2万円 | 360万円 |
| 差額 | — | 131.2万円少ない |
計算の上では差が出ます。ただし、この差は3社がそれぞれ実際に事業をして、その所得を稼いでいることが前提です。会社が2つ増えれば、均等割、会計・申告の費用、登記などの維持費が毎年かかります。事業税の軽減税率も会社ごとですが、これも同じ前提です。
グループ通算制度を使うと枠は1つ
グループ通算制度を選ぶと、通算グループの中で損益を通算できる一方、軽減税率の800万円はグループ全体で1つを分け合います。中小企業のHDグループでグループ通算制度を使う場面は多くありません。詳しくはグループ通算制度は中小企業に必要?をご覧ください。
中小法人から外れるケース
資本金5億円以上の親会社の100%子会社
資本金が1億円以下でも、各事業年度終了の時に、資本金5億円以上の法人(大法人)による完全支配関係がある会社は中小法人から外れます(法人税法66条5項2号)。複数の大法人に100%持たれている場合も同じです(同項3号)。
中小法人から外れると、軽減税率のほか、欠損金の繰越控除の100%控除、交際費の定額控除限度額、貸倒引当金などの中小法人向けの扱いも使えなくなります。
株式移転で作るHDの登記上の資本金は、株式移転計画で決めます。子会社の株式の価値が大きくても、資本金を5億円以上にする必要はありません。計画を作る段階で資本金の額を確認しておきます(株式移転計画の記載事項)。
所得が年10億円を超える事業年度
令和7年4月1日以後に開始する事業年度から、所得が年10億円を超える事業年度は、800万円以下の部分の税率が17%になりました。HDが子会社の株式を売却して大きな譲渡益が出る年などは、こちらに当たることがあります。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る防衛特別法人税と会社の数
令和8年4月1日以後に開始する事業年度から、防衛特別法人税が課されています。法人税額(一定の税額控除をする前の基準法人税額)から年500万円の基礎控除を差し引き、残りに4%をかけます(防衛力強化財源確保法14条・15条、国税庁 令和7年度 法人税関係法令の改正の概要)。
- 基礎控除は会社ごと。法人税額が500万円以下なら、防衛特別法人税は生じない
- 税額がゼロでも申告は必要(いわゆる零申告)
- グループ通算制度の通算法人は、500万円をグループ内で法人税額の比で配分する
法人税額500万円は、中小法人なら所得でおよそ2,400万円に当たります(120万円+1,640万円×23.2%≒500万円)。多くの中小企業のHDグループでは負担はありませんが、子会社の数だけ申告書の作成が増える点は、維持コストとして見ておきます。
所得の付け替えのリスク
会社ごとに税率が違うからといって、グループ内の取引の価格を動かして所得を移すと、次の問題が生じます。
| 取引 | 起こりうる問題 | 根拠 |
|---|---|---|
| 実態のない経営指導料・業務委託料 | 対価性のない支払は寄附金。100%グループ内なら払った側は全額損金不算入 | 法人税法37条2項 |
| 相場とかけ離れた家賃・売買 | 時価との差額が寄附金・受贈益として扱われる | 法人税法37条、22条2項 |
| 税負担の軽減だけを目的にした会社の分割・設立 | 同族会社の行為計算否認で、税務署長が所得を計算し直す | 法人税法132条 |
HDが受け取る経営指導料は、提供している業務の中身と金額の根拠を残しておくことが前提です(HDが子会社から受け取る経営指導料)。HD化や会社分割の目的は、承継・リスクの分離・M&Aなど、事業上の理由として説明できるものにしておきます。
銀行から見た「会社を分ける」
銀行は、HDグループを1社ずつではなく、グループの決算書を合算して見ます。税率を下げるために所得を各社に分けると、1社ごとの利益は小さく見え、どの会社で借りるかによっては審査で不利になることもあります。
著書のモデルでは、債務償還年数を(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)で見ます。グループで見て利益が同じなら、会社を分けても債務償還年数はほとんど変わりません。銀行の評価を上げるのは、税率の差よりも、税金を払ったうえで残る利益と純資産の厚みです。著書では「払った税金の2倍、会社は強くなる」と表現しています。グループでの銀行の見方はHD化すると銀行の見方はどう変わる?で解説しています。
まとめ
- 中小法人の法人税は、所得年800万円以下の部分が15%(所得10億円超の年は17%)、超える部分は23.2%
- 軽減税率は会社ごと。ただしグループ通算制度を使うと枠は1つ
- 資本金5億円以上の親会社に100%持たれると中小法人から外れる。株式移転のHDの資本金は計画の段階で確認する
- 防衛特別法人税は法人税額から年500万円を控除。中小法人の多くは負担なしだが申告は必要
- 実態のない所得の付け替えは、寄附金・行為計算否認のリスク。税率の差を目的にHD化しない
- 銀行はグループの合算で見る。分けても評価は上がらない
クレフティの事業承継・M&A支援では、HD化の設計にあわせて、各社の税率・維持コスト・金融機関への説明まで含めたグループの組み方をご相談いただけます。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
