ホールディングス(HD)の下に新しい会社を作るとき、「資本金を1,000万円未満にすれば、設立から2年間は消費税が免税になる」と考えていないでしょうか。単独で会社を作る場合はおおむねその通りですが、HDグループの子会社は事情が違います。親会社や兄弟会社の売上が大きいと、資本金が小さくても特定新規設立法人として、設立した期から消費税の課税事業者になります。
この記事では、HDグループで新会社を作るときの消費税の納税義務の判定を、新設法人・特定新規設立法人・特定期間・インボイス登録の順に整理し、簡易課税を選ぶときの注意点もまとめます。新会社の出資と資本金の決め方はHDの下に新会社を作る、合併や会社分割をしたときの消費税は組織再編と消費税をご覧ください。
- 資本金1,000万円以上の新会社は、新設法人として設立当初から課税事業者(消費税法12条の2)
- 資本金1,000万円未満でも、50%超を持つ親会社などのグループに、課税売上高5億円超の会社があれば特定新規設立法人として課税事業者(同法12条の3)。国内外の収入の合計50億円超の基準もある
- 免税でも、2期目は特定期間(前期の最初の6か月)の売上と給与がともに1,000万円を超えると課税事業者(同法9条の2)
- 取引先がインボイスを求めるなら、登録した時点で課税事業者。免税のメリットは小さい
- 簡易課税は設立期から選べるが、100万円以上の設備(調整対象固定資産)や1,000万円以上の資産(高額特定資産)を買うと制限がかかる
新会社の消費税:判定の順番
基準期間(法人の場合は原則として前々事業年度)がない設立1期目・2期目の会社は、原則として消費税が免税です(消費税法9条1項)。ただし、次の順で判定し、どれかに当たれば課税事業者になります。
単独で会社を作る場合は、①の資本金だけを気にすれば足りることが多いのですが、HDグループの子会社では②の特定新規設立法人の判定が中心になります。
特定新規設立法人の判定
二つの要件
資本金1,000万円未満の新会社が、次の二つをともに満たすと、特定新規設立法人として基準期間がない課税期間は課税事業者になります(消費税法12条の3第1項、国税庁 タックスアンサーNo.6503)。
- 特定要件:その事業年度の開始の日に、他の者(個人・法人)が、新会社の株式などの50%超を直接または間接に持っていること(親族などの特殊な関係にある者が持つ分も合わせて判定)
- 売上の要件:その他の者と、その他の者が完全に支配する法人など(特殊関係法人)のうちいずれかの、新会社の事業年度開始の日を基準にした基準期間相当期間の課税売上高が5億円超であること
令和6年10月1日以後に開始する課税期間からは、判定対象者の国内外の売上・収入の合計が50億円を超える場合も対象に加わりました(No.6503)。
HDグループに当てはめると
HDが新会社の株式を100%持つ場合、①の特定要件は満たします。問題は②です。判定の対象になるのは、HD自身だけではありません。HDやオーナーが完全に支配している兄弟会社も特殊関係法人として判定に入ります。国税庁の質疑応答事例でも、判定の基礎となった者の売上が5億円以下でも、特殊関係法人の売上が5億円を超えれば特定新規設立法人に当たるとしています(国税庁 質疑応答事例「特定新規設立法人の納税義務免除の特例」)。
仮のグループで確認します。オーナーがHDの株式を100%持ち、HDが事業会社A・Bの株式を100%持っています。HDが新会社Cを資本金500万円で設立する例です。
| 会社 | 基準期間相当期間の課税売上高 | 判定 |
|---|---|---|
| HD(新会社Cの株主) | 3,600万円(経営指導料・家賃) | 5億円以下 |
| 事業会社A(HDが100%保有) | 8億円 | 5億円超 |
| 事業会社B(HDが100%保有) | 1億2,000万円 | 5億円以下 |
| 新会社C(資本金500万円) | — | Aの売上で特定新規設立法人に当たる |
この場合、新会社Cは資本金が1,000万円未満でも、設立した期から課税事業者です。グループの中で売上が5億円を超える会社が一つでもあれば、新会社を作るたびに同じ判定になると考えておきます。
逆に、事業会社Aの売上が5億円以下で、グループのどの会社も5億円を超えず、収入の合計も50億円以下であれば、新会社Cは原則どおり免税で始められます。ただし、③の特定期間や④のインボイス登録で課税事業者になることはあります。
届出を忘れない
特定新規設立法人に当たる場合は、「消費税の特定新規設立法人に該当する旨の届出書」を速やかに所轄の税務署に出します(No.6503)。届出を出していなくても、要件に当たれば課税事業者です。申告をしないまま過ぎると、無申告加算税や延滞税の対象になります。
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2期目は特定期間で判定する
特定新規設立法人に当たらず免税で始めた場合でも、2期目は特定期間で判定します。原則として前事業年度開始の日から6か月間の課税売上高が1,000万円を超え、かつその期間の給与等の支払額も1,000万円を超える場合は、2期目は課税事業者です(消費税法9条の2)。給与等の支払額が1,000万円以下であれば、給与で判定して免税を続けることもできます。
インボイスを求められるなら、免税のメリットは小さい
新会社の取引先が事業者で、仕入税額控除のためにインボイス(適格請求書)を求める場合は、新会社が適格請求書発行事業者の登録をすることになります。登録をすれば、その期間は免税の要件に当たっていても課税事業者です。HDグループの中の取引(事業会社が新会社に払う業務委託料など)でも、払う側が課税事業者なら、インボイスがないと仕入税額控除が制限されます。
免税事業者がインボイス登録をした場合の2割特例は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する課税期間に限られた経過措置です(国税庁 タックスアンサーNo.6498)。2026年11月以後に作る新会社では使えない前提で、計算方法を選びます。
簡易課税を選ぶときの注意
設立した期から選べる
簡易課税は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の課税期間に、事前に届出をして選ぶ制度です(国税庁 タックスアンサーNo.6505)。基準期間がない設立1期目・2期目は、この要件を満たすものとして扱われます。設立した課税期間の末日までに簡易課税制度選択届出書を出せば、その期から適用できます(消費税法施行令56条1項1号)。一度選ぶと、原則として2年間は続ける必要があります。
設備を買う年は一般課税と比べる
簡易課税では、仕入れや設備投資の実額ではなく、みなし仕入率で仕入税額を計算します。新規事業の立ち上げ期に大きな設備投資をするなら、一般課税のほうが還付を受けられて有利な場合があります。
ただし、一般課税で設備を買って還付を受けた後は、次の制限がかかります。
| 制限 | 対象となる資産 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 調整対象固定資産 | 税抜100万円以上の建物・機械・車両などの固定資産 | 新設法人・特定新規設立法人が基準期間のない課税期間に買い、一般課税で申告した場合、買った期の初日から3年を経過する日の属する期まで免税にならず、その間は簡易課税の届出もできない | 消費税法12条の2第2項、12条の3第3項、37条3項、No.6503 |
| 高額特定資産 | 税抜1,000万円以上の棚卸資産・固定資産(建物など) | 一般課税の期間中に買った場合、買った期の初日から3年を経過する日の属する期まで免税にならず、簡易課税の届出もできない | 消費税法12条の4、37条3項 |
新会社で不動産を取得する場合は、とくに高額特定資産の制限に注意します。事業の計画の段階で、どの期に何を買うかと、一般課税・簡易課税のどちらを選ぶかを、あわせて決めておきます。
銀行から見た新会社の消費税
消費税は、売上とともに預かり、申告のときにまとめて納めるお金です。新会社が設立当初から課税事業者なのに、資金計画に消費税の納税を入れていないと、最初の申告で資金が足りなくなることがあります。
銀行は、決算書の未払消費税や、納税証明書で税金の滞納がないかを確認します。消費税の滞納があると、新会社だけでなく、グループ全体の融資の審査に影響します。新会社の事業計画には、次の点を入れておきます。
- 課税事業者かどうかの判定結果と、その理由(特定新規設立法人に当たるか)
- 一般課税・簡易課税のどちらを選ぶか、設備投資の時期
- 消費税の納税(中間申告を含む)を入れた資金繰り
著書のモデルでは、債務償還年数を(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)で見ます。消費税の納税資金は現預金を減らすため、借入をしている会社では、納税の時期も含めて返済計画を立てておくと説明しやすくなります(HD化すると銀行の見方はどう変わる?)。新規事業を別会社で始めるかどうかの判断は新規事業はHDの下の別会社で始めるべきかで解説しています。
まとめ
- 資本金1,000万円以上の新会社は新設法人、1,000万円未満でもグループに課税売上高5億円超の会社があれば特定新規設立法人として、設立当初から課税事業者
- 判定には、親会社だけでなく、親会社やオーナーが完全に支配する兄弟会社の売上も入る
- 免税で始めても、2期目は特定期間、取引先がインボイスを求めるなら登録で課税事業者になる
- 2割特例は令和8年9月30日を含む課税期間までの経過措置。これから作る新会社では使えない
- 簡易課税は設立期から選べるが、調整対象固定資産・高額特定資産の制限に注意。設備投資の時期と合わせて決める
- 資金計画には消費税の納税を入れておく。滞納はグループ全体の融資に響く
クレフティの事業承継・M&A支援では、HDグループでの新会社の設立にあわせて、消費税の納税義務の判定、簡易課税の選択、金融機関への説明までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
