ホールディングス(HD)化で会社が増えると、「交際費の800万円枠は会社ごとに使えるのか」という質問をよくいただきます。答えは、原則として会社ごとに使えます。ただし、親会社の資本金の大きさや、グループ通算制度を選ぶかどうかで扱いが変わり、使えなくなる会社や、枠を分け合う会社が出てきます。
この記事では、HDグループの交際費の扱いを、中小法人の判定・グループ通算制度・費用の付け替えのリスクの順に整理し、仮のグループで試算します。会社の数と法人税の関係は中小法人の軽減税率と会社の数、地方税は法人住民税の均等割と事業税もあわせてご覧ください。
- 中小法人(期末資本金1億円以下など)は、交際費のうち年800万円までを損金にできる。HDグループでも会社ごとに判定する(措置法61条の4第2項)
- ただし、資本金5億円以上の法人の100%子会社は、自社の資本金が小さくても800万円枠を使えない(法人税法66条5項2号)
- グループ通算制度を選ぶと、800万円はグループで1つ。各社の交際費の比で按分する
- 枠を使うために交際費を別の会社に付け替えると、寄附金(100%グループ内は全額損金不算入)や行為計算否認の問題になる
- 交際費の枠を目的に会社を分けない。グループの経常利益と返済能力への影響で考える
交際費の損金不算入のしくみ
法人が支出した交際費は、原則として損金になりません(措置法61条の4第1項)。そのうえで、次の特例があります(国税庁 タックスアンサーNo.5265)。
| 区分 | 損金にできる額 | 主な要件 |
|---|---|---|
| 中小法人の定額控除限度額 | 年800万円まで(事業年度が1年未満なら月数で按分) | 期末の資本金の額等が1億円以下。資本金5億円以上の法人の100%子法人等を除く |
| 接待飲食費の特例 | 接待飲食費の50% | 期末の資本金の額等が100億円以下 |
| 交際費の範囲から除く飲食費 | 全額(交際費に当たらない) | 1人あたり1万円以下(令和6年4月1日以後の支出)。日付・相手先・人数などを記載した書類の保存が必要 |
中小法人は、800万円の定額控除と接待飲食費の50%のどちらか有利なほうを選べます。この制度は、令和6年度改正で適用期限が3年延長され、令和9年3月31日までに開始する事業年度に適用されます。
1人1万円以下の飲食費の除外は、専ら自社の役員・従業員やその親族のための飲食(社内飲食費)には使えません。交際費になるもの・ならないものの区別は交際費の範囲、1社の場合の基本は法人の交際費はいくらまで経費にできるかで解説しています。
HDグループでの中小法人の判定
会社ごとに判定するのが原則
交際費の損金不算入は、法人ごとの制度です。グループ通算制度を選んでいなければ、HDも子会社も、それぞれの期末の資本金の額で中小法人かどうかを判定し、それぞれ800万円の枠を持ちます。
大法人の100%子会社は外れる
注意したいのが、親会社の資本金です。資本金5億円以上の法人(大法人)との間に、その大法人による完全支配関係がある法人は、自社の資本金が1億円以下でも中小法人の特例から外れます(法人税法66条5項2号、措置法61条の4第2項)。100%グループ内の複数の大法人に全株式を持たれている法人も同じです(同項3号)。
株式移転でHDを作るとき、HDの資本金の額は株式移転計画で定めます。子会社株式の価額が大きくても、その全額を資本金にする必要はなく、資本準備金やその他資本剰余金に振り分けられます。資本金の決め方はHDの社名・資本金・役員の決め方、資本金の水準が税金と融資に与える影響は資本金はいくらにすべきかをご覧ください。
M&Aで大きな会社の子会社になる場合
HD体制で事業会社の一部を売却し、売却先が資本金5億円以上の会社なら、売却後のその子会社は800万円枠を使えなくなります。買い手の側から見ても、買収した会社の交際費の扱いが変わる点は、統合後の計画に入れておく項目です(HD体制なら事業の一部だけ売れる)。
グループ通算制度を選ぶと800万円は1つになる
グループ通算制度を選ぶと、交際費の扱いが次のように変わります(国税庁 グループ通算制度に関するQ&A 問73)。
- 800万円を通算グループ全体で1つとし、各社の交際費の額の比で按分した金額が、各社の定額控除限度額になる
- 通算グループ内のいずれかの法人の資本金の額等が1億円を超えると、グループ全社が800万円の特例を使えない
- いずれかの法人の資本金の額等が100億円を超えると、グループ全社が接待飲食費50%の特例を使えない
仮のグループで試算する
オーナーが100%保有するHD(資本金1,000万円)の下に、事業会社Aと不動産会社Bがある例です。各社の資本金は1億円以下とします。交際費は、HD 200万円、A 1,100万円、B 100万円(合計1,400万円)です。
| 会社 | 交際費 | 通算なし:損金不算入 | 通算あり:限度額 | 通算あり:損金不算入 |
|---|---|---|---|---|
| HD | 200万円 | 0円 | 約114万円 | 約86万円 |
| 事業会社A | 1,100万円 | 300万円 | 約629万円 | 約471万円 |
| 不動産会社B | 100万円 | 0円 | 約57万円 | 約43万円 |
| 合計 | 1,400万円 | 300万円 | 800万円 | 600万円 |
通算制度を選ばなければ、Aだけが800万円を超えた300万円を損金にできません。通算制度を選ぶと、グループの800万円を分け合うため、損金不算入は600万円に増えます(この試算は800万円の特例を選んだ場合で、各社が接待飲食費50%の特例を選ぶほうが有利なこともあります)。
グループ通算制度には、赤字と黒字を通算できる利点がありますが、交際費の枠や中小法人の判定はグループで見ることになります。制度全体の比較はグループ通算制度とはをご覧ください。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る枠を使うための付け替えは危ない
「Aの交際費が800万円を超えるなら、HDやBに付け替えればよい」と考えるのは危険です。
交際費は、支出した会社の事業に関係する得意先や仕入先などへの接待等のための費用です。交際費に当たるかどうかは、支出の相手方、支出の目的、行為の形態を見て判断するとした裁判例があります(東京高裁平成15年9月9日判決、いわゆる萬有製薬事件)。HDが事業会社Aの取引先を接待した費用は、HDの事業のための支出とは言いにくく、HDがAの費用を肩代わりしたもの(寄附金)と見られるおそれがあります。
法人による完全支配関係がある会社の間の寄附金は、出した側で全額損金不算入、受けた側で益金不算入になります(法人税法37条2項・25条の2)。HDの下の子会社同士も、HDによる完全支配関係があるため、この扱いになります。付け替えで交際費の枠を広げたつもりでも、寄附金として全額が損金にならない結果になりかねません。
HDの交際費として説明できるのは、たとえば次のような支出です。
- HDの役員が、グループ全体の金融機関や出資先との関係のために行う接待
- HDが行う不動産賃貸やM&Aの検討に関係する相手先との会食
いずれも、相手先・目的・参加者を記録しておくことが前提です。HDと子会社の費用負担のルールは、経営指導料(マネジメントフィー)とあわせて決めておくと、説明がしやすくなります。HD化後の税務調査で見られる点はHD化と税務調査で整理しています。
銀行から見た交際費
金融機関は、交際費の税務上の扱いよりも、販管費の中身と経常利益を見ます。交際費が多いと経常利益が減り、損金にならない部分があれば法人税等も増えます。著書のモデルでは、債務償還年数の分母は(経常利益+減価償却費-法人税等)なので、交際費の増加は返済能力の見え方を二重に下げます。
HDグループでは、金融機関はグループ全体を合算して見ることが多く、交際費をどの会社に計上しても、合算した利益は変わりません。むしろ、HDや不動産会社に事業と関係の薄い交際費が計上されていると、「経費の付け回しをしているのではないか」と見られることがあります。グループ全体でどう見られるかはHD化と銀行融資をご覧ください。
まとめ
- 中小法人の交際費の800万円枠は、HDグループでも会社ごとに判定する
- 資本金5億円以上の法人の100%子会社は、自社の資本金が小さくても800万円枠を使えない。HDの資本金の決め方に注意する
- グループ通算制度を選ぶと、800万円はグループで1つ。各社の交際費の比で按分する
- 枠を使うための付け替えは、寄附金(100%グループ内は全額損金不算入)や行為計算否認のリスクがある
- 交際費は「どの会社の事業のための支出か」で計上する会社を決め、相手先・目的・参加者を記録する
- 銀行はグループ合算の経常利益を見る。交際費の枠を目的に会社を分けない
クレフティの事業承継・M&A支援では、HD化や分社化を検討する段階で、資本金の決め方、グループ通算制度の要否、グループ内の費用負担のルールまでご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
