キャッシュレス決済が増えたとはいえ、駐車場代、少額の備品、取引先への手土産、現金で受け取る売上など、事業ではまだ現金のやり取りが残ります。口座やカードの取引は会計ソフトの連携で取り込めますが、現金の取引は自分で入力しないかぎり帳簿に残りません。現金払いの記帳が抜けると、経費の計上漏れになるだけでなく、帳簿の現金残高が手元の現金と合わなくなり、税務調査でも説明に困ります。
この記事では、個人事業主・ひとり会社の方に向けて、現金払いの記帳の仕方と、現金出納帳の書き方を、国税庁のパンフレット「帳簿の記帳のしかた(事業所得者用)」の記帳例に沿って解説します。
- 現金の出し入れは、現金出納帳に取引順に、日付・相手先・内容・金額を書き、残高も記入する。会計ソフトなら「現金」の口座に入力すれば現金出納帳になる
- 国税庁は、毎日記帳し、その日のうちに帳簿の残高と実際の現金を突き合わせることを勧めている
- 白色申告では、売上・経費を日々の合計で書く簡易な方法も認められている
- 事業用の現金と生活費は分ける。生活費に回した分は事業主貸、個人のお金で払った経費は事業主借(ひとり会社は社長との貸し借り)
- 帳簿の現金がマイナスになる・手元と合わないときは、記帳漏れのサイン。引出しの入金漏れや、個人のお金で払った分の処理を確認する
現金出納帳とは:現金の出し入れを取引順に書く帳簿
現金出納帳は、事業用の現金の出し入れを、取引の順番に書いていく帳簿です。国税庁のパンフレットでは、青色申告者の標準的な簡易帳簿として、現金出納帳・売掛帳・買掛帳・経費帳・固定資産台帳の5つが挙げられており、現金出納帳はその1つ目です。現金で売ったり仕入れたりした場合には、売上帳・仕入帳の役割も兼ねるとされています。
青色申告で複式簿記(正規の簿記)を使っている方や、会計ソフトで記帳している方も、「現金」という勘定科目の元帳が、そのまま現金出納帳になります。紙の帳簿を別に作る必要はありません。
帳簿の保存期間は、国税庁のパンフレットによると次のとおりです。
| 区分 | 現金出納帳などの帳簿 | 領収書などの現金取引の書類 |
|---|---|---|
| 青色申告(個人) | 7年 | 7年(前々年分の事業所得・不動産所得が300万円以下なら5年) |
| 白色申告(個人) | 収入・経費を書いた帳簿は7年 | 5年 |
保存期間は、帳簿はその閉鎖の日の属する年の翌年3月15日の翌日から、書類は作成・受領の日の属する年の翌年3月15日の翌日から数えます。保存のルールは領収書の保存期間は何年?(個人事業主)で詳しく解説しています。
現金出納帳の書き方:国税庁の記帳例に沿って
国税庁の記帳例では、現金出納帳は次の欄で構成されています。
| 欄 | 書くこと |
|---|---|
| 月日 | 取引の日 |
| 摘要 | 相手先の名前、品名・内容(売上なら数量・単価も) |
| 入金 | 「現金売上」と「その他」(預金からの引出し、売掛金の回収、事業主借など)に分ける |
| 出金 | 「現金仕入」と「その他」(経費、買掛金の支払い、事業主貸など)に分ける |
| 現金残高 | その時点の手元の現金の額 |
最初の行は「前年より繰越」か「元入金」
年の最初の行の摘要欄には「前年より繰越」と書き、前年末の現金の残高を記入します。年の途中で開業した場合は、最初の行に「元入金」と書き、開業時に事業用として用意した現金の額を記入します。
入金と出金の書き方の例
たとえば、ある月の現金の動きが次のようだったとします(金額は説明のための例です)。
| 月日 | 摘要 | 入金 | 出金 | 残高 |
|---|---|---|---|---|
| 11/1 | 前月より繰越 | 30,000 | ||
| 11/5 | 預金引出し ○○銀行 | 50,000 | 80,000 | |
| 11/8 | 駐車場代 △△パーキング | 1,200 | 78,800 | |
| 11/12 | 現金売上 □□様 作業代 | 22,000 | 100,800 | |
| 11/20 | 事務用品 ◇◇文具店 | 3,300 | 97,500 | |
| 11/25 | 事業主貸 生活費 | 40,000 | 57,500 |
ポイントは3つです。
- 預金からの引出しは「入金」。売上ではありません。口座側の帳簿では同じ金額が「出金」になり、両方そろって初めて残高が合います
- 経費の出金は、摘要に相手先と内容を書く。後で勘定科目を確認するときや、税務調査で説明するときの手がかりになります
- 生活費に回した分は「事業主貸」として出金に書く。経費ではありません
消費税の課税事業者の方は、軽減税率(8%)の対象となる取引や、インボイス発行事業者以外からの仕入れ(経費)を区分して記帳する必要があります。国税庁の記帳例では、摘要欄に「※」「★」などの記号を付けて区分する方法が示されています。簡易課税や2割特例を使っている場合は、仕入れ(経費)側の区分は必要ありません。
日々の合計で書いてよい場合と、1件ずつ書くべき場合
国税庁のタックスアンサー(No.2080 白色申告者の記帳・帳簿等保存制度)では、白色申告者は、売上や経費を一つ一つの取引ごとではなく、日々の合計金額だけをまとめて書くなど、簡易な方法で記載してもよいとされています。青色申告の場合は、記帳の方法(複式簿記か簡易帳簿か)や取引の内容によって、どこまでまとめてよいかの判断が分かれます。小売店のレジ売上を日計で記帳するのは一般的ですが、迷う取引は1件ずつ書くのが安全です。
| 取引 | 書き方の目安 |
|---|---|
| 小売店・飲食店などの、多数の少額な現金売上 | レジの日計(1日の合計)で1行。レジのジャーナルや日計表を保存 |
| 取引先ごとに請求する売上を現金で受け取った | 1件ずつ、相手先を書く |
| 少額の経費(駐車場代、文具など) | 原則1件ずつ。白色申告では日々の合計でまとめる方法も |
| 金額の大きい経費、交際費、家族への支払い | 1件ずつ、相手先と内容を必ず書く |
まとめて書く場合でも、元になるレシートやレジの記録は保存しておくことが前提です。現金売上の管理の仕方は現金で売上をもらったときの管理の仕方で詳しく解説しています。
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オンライン記帳・申告サポートを見る領収書がない現金払いはどう記帳する?
自動販売機での購入、慶弔の香典、公共交通機関の運賃など、領収書が出ない、または受け取れない現金払いもあります。この場合も、支払った事実を記録すれば、経費として記帳すること自体はできます。
- 支払った日、支払先、内容、金額、事業との関係を、現金出納帳の摘要や出金伝票などに書く
- 香典なら会葬礼状、交通費なら移動の経路や用件など、支払いを裏付けるものを一緒に残す
- 後でまとめて思い出して書くのではなく、支払ったその日に記録する
ただし、記録があれば必ず経費として認められるわけではなく、事業に必要な支出であることを説明できるかどうかが問われます。消費税の課税事業者が仕入税額控除を受けるには、原則としてインボイスなどの保存が必要で、帳簿だけで足りるのは一定の場合に限られます。領収書をなくした場合の対応は領収書をなくしたときはどうする?、残すべき書類は経費の証拠として残すべきものをご覧ください。
事業の現金と財布のお金を分ける
現金の記帳で一番の悩みは、事業用の現金と生活費が同じ財布に入っていることです。分けないまま記帳すると、どこまでが事業のお金か分からなくなり、残高が合わなくなります。
| お金の動き | 個人事業主 | ひとり会社 |
|---|---|---|
| 事業用の現金から生活費に回した | 事業主貸(出金) | 社長への貸付金など(出金) |
| 個人の財布で事業の経費を払った | 経費/事業主借 | 経費/社長からの借入金(未払金)など |
| 個人のお金を事業用の現金に足した | 事業主借(入金) | 社長からの借入金など(入金) |
個人の財布で払った経費を、うっかり事業の「現金」から出金したことにすると、帳簿上の現金が実際より少なくなり、ひどいときにはマイナスになります。個人のお金で払った経費は、相手科目を事業主借にすると覚えておきましょう。事業主貸・事業主借の考え方は事業主貸・事業主借とはを、口座・カードの分け方は事業用の口座とカードを分けるべき?をご覧ください。
ひとり会社の場合は、会社と社長個人は別の人格です。社長が立て替えた経費は精算するまで会社の未払金(社長からの借入金)になり、会社の現金を社長が個人的に使えば社長への貸付金になります。詳しくはひとり会社の役員貸付金・役員借入金で解説しています。
帳簿の現金残高が手元と合わないときの直し方
国税庁のパンフレットは、現金出納帳は毎日記帳し、現金残高も必ず記入して、その日のうちに実際の現金と突き合わせることを勧めています。毎日が難しくても、少なくとも月末には照合しましょう。合わないときは、次の順で確認します。
- 預金からの引出しの入金が漏れていないか:口座側には出金があるのに、現金側に入金がないケースが最も多い
- 個人の財布で払った経費を、現金から出金していないか:事業主借で処理し直す
- レシートの入力漏れ・二重入力がないか:ずれた金額と同じ金額のレシートを探す
- 生活費として持ち出した分を記録しているか:事業主貸の記帳漏れ
それでも原因が分からない少額の差額を、毎月「雑損失」などで埋めるのはおすすめしません。現金の残高が合わない帳簿は、税務調査で売上の計上漏れを疑われるきっかけになります。年に1回まとめて記帳する方ほど現金は合わなくなるので、記帳の頻度は記帳はどれくらいの頻度でやればいい?(個人事業主)も参考にしてください。
現金の取引そのものを減らす
現金の記帳の手間とミスを減らす一番の方法は、事業の支払いをできるだけ事業用のカードや口座振込にすることです。カードや口座の取引は連携で取り込めるので、手入力は現金で払うしかないものだけになります。ただし、連携した明細にも二重計上などの間違いが起きやすいので、口座連携・カード連携の記帳でよくある間違いもあわせてご確認ください。
まとめ
- 現金の出し入れは、現金出納帳(会計ソフトなら「現金」の口座)に、日付・相手先・内容・金額を取引順に書き、残高を記入する
- 最初の行は「前年より繰越」、年の途中で開業したら「元入金」
- 預金からの引出しは入金、生活費に回した分は事業主貸、個人のお金で払った経費は事業主借
- 白色申告では、売上・経費を日々の合計で書く方法もある。元のレシートは保存する
- 領収書がない支払いは、その日のうちに、日付・支払先・内容・金額・事業との関係を記録する
- 毎日、少なくとも月末に、帳簿の残高と手元の現金を照合する。マイナスや不一致は記帳漏れのサイン
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