個人事業を始めたばかりの方の多くは、もともと持っていた個人の口座やクレジットカードで、売上の入金も経費の支払いも生活費も、まとめて処理しています。これでも確定申告はできますが、記帳のたびに「これは仕事?それとも私用?」と判断することになります。
結論から言うと、事業用の口座とカードは、それぞれ1つずつ分けることを強くおすすめします。この記事では、分けるべき理由と、実際の分け方を具体的に紹介します。
- 個人事業主に口座を分ける法律上の義務はない。ただし国税庁も、事業用の現金と個人的な現金の区分、口座ごとの預金出納帳の作成をすすめている
- 分けると、記帳の手間と誤りが減る、家事按分の根拠が明確になる、税務調査や融資で入出金を説明しやすい
- 分け方の基本は、売上の入金と経費の支払いは事業用、生活費は月1回まとめて事業用から個人用へ移す
- 所得税・住民税・国民健康保険料は経費にならない。事業用口座から払うなら事業主貸で処理する
口座を分ける義務はないが、国税庁も区分をすすめている
個人事業主には、事業用の口座を作らなければならないという法律上の決まりはありません。個人名義の口座1つで事業と生活の両方を回していても、正しく記帳していれば申告はできます。
ただ、国税庁が青色申告者向けに公表している「記帳のしかた」では、事業用の現金と個人的な現金を区分すること、預貯金については口座別に預金出納帳を作成し、取引順に記載することをすすめています。事業と生活のお金が混ざっていると、この「区分」を取引のたびに行う必要があるわけです。
事業用の口座とカードを分ける4つの理由
1. 記帳の手間と誤りが減る
口座とカードを分けておけば、会計ソフトに取り込まれる明細はほぼすべて事業の取引になります。確認するのは勘定科目だけで済みます。混在していると、スーパーの買い物、家族の通信費、子どもの習い事など、私的な取引を1件ずつ除外する作業が毎月発生し、除外漏れ(経費の過大計上)や、逆に事業の経費の計上漏れが起きやすくなります。
2. 家事按分の根拠がはっきりする
自宅の家賃や電気代、スマホ代のように、事業と生活の両方に使う支出(家事関連費)は、業務に必要な部分を明らかに区分できる場合に、その部分だけを経費にできます(所得税法施行令96条)。どの支出を何割経費にしたかを、口座の動きと帳簿で説明できるようにしておくと安心です。按分の考え方は賃貸の自宅で仕事:家賃はいくら経費にできる?で解説しています。
3. 税務調査で入出金を説明しやすい
税務調査では、帳簿の売上や経費が通帳の入出金と合っているかを確認されます。事業専用の口座があれば、その通帳と帳簿を照らし合わせるだけで説明できます。生活費と混ざった口座では、親族からの振込や個人的な入金についても「これは売上ではないのか」と確認されることがあり、説明の手間が増えます。通帳の動きの説明の仕方は通帳の動きと税務調査も参考になります。
4. 融資の審査で事業の実態を示しやすい
事業資金の借入れを申し込むと、確定申告書のほかに、通帳のコピーを求められることがあります。売上の入金と経費の支払いが事業用の口座にまとまっていれば、売上の実態や資金の流れを示しやすくなります。
何をどちらの口座で払うか:分け方の具体例
| お金の動き | 事業用の口座・カード | 個人用の口座・カード |
|---|---|---|
| 売上の入金(振込) | ○ | |
| 仕入れ・外注費・広告費・ソフトの利用料 | ○ | |
| 事務所の家賃(事業専用) | ○ | |
| 自宅の家賃・電気代など(家事按分するもの) | どちらでもよい(下記参照) | |
| 個人事業税・消費税 | ○(経費・租税公課) | |
| 所得税・住民税・国民健康保険料 | 払う場合は事業主貸 | ○ |
| 生活費 | 月1回まとめて個人用へ移す(事業主貸) | ○ |
| 家族の買い物・私的な食事 | ○ |
家事按分する支出の扱い
自宅の家賃や電気代を事業用口座から払うか、個人用口座から払うかは、どちらでも構いません。事業用口座から払う場合は、全額をいったん経費の科目で記帳し、生活分を事業主貸に振り替えます。個人用口座から払う場合は、事業分だけを経費とし、相手科目を事業主借にします。どちらの方法でも、毎年同じやり方で続けることが大切です。
生活費は「月1回・定額」で移す
事業用口座から生活費を引き出すときは、毎月決まった日に、決まった金額を個人用口座へ振り替えるのがおすすめです。帳簿では事業主貸として1件記録するだけで済みます。事業主貸・事業主借の使い方は事業主貸・事業主借とはで詳しく解説しています。
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オンライン記帳・申告サポートを見る税金のうち、経費になるもの・ならないもの
口座を分けるときに迷いやすいのが税金の扱いです。国税庁の「令和8年分 白色申告者の決算の手引き(一般用)」では、次のように整理されています(必要経費になる税金の範囲は青色申告でも同じです)。
- 必要経費になる:個人事業税、固定資産税(事業用部分)、自動車税(事業用部分)、印紙税など。税込経理の場合の消費税等の納付税額
- 必要経費にならない:所得税・復興特別所得税、住民税、国民健康保険料(税)、延滞税・加算税など
経費にならない税金を事業用口座から払った場合は、事業主貸で処理します。
ひとり会社の場合
法人の場合は、そもそも会社の口座は会社のもので、社長個人の口座とは別です。ただし、ひとり会社では社長が個人のカードで会社の経費を立て替えたり、会社の口座から社長の個人的な支払いをしたりして、お金が混ざりがちです。この場合は役員借入金・役員貸付金の問題になります(役員借入金・役員貸付金)。法人口座の開設については法人口座の開設と審査をご覧ください。
まとめ
- 口座を分ける法律上の義務はないが、国税庁も事業と個人のお金の区分と、口座ごとの記帳をすすめている
- 分けると、記帳・家事按分・税務調査・融資のすべてで説明がしやすくなる
- 売上と経費は事業用、生活費は月1回定額で個人用へ。経費にならない税金は事業主貸
- 屋号付き口座でなくても、個人名義の口座を事業専用にすれば十分
記帳の頻度の目安は個人事業主の記帳の頻度をご覧ください。
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