株価・相続・贈与

HD株式の類似業種比準方式|使える場合と使えない場合、判定の順番

ホールディングス(HD)の株価の話になると、「HDは純資産価額方式でしか評価できない」と言われることがあります。たしかに、子会社株式が資産の大半を占めるHDは、株式等保有特定会社として純資産価額方式が原則になります。しかし、HDの資産構成や事業の内容によっては、事業会社と同じく類似業種比準方式を使えるケースもあります。

この記事では、HD株式に類似業種比準方式を使えるかどうかを、判定の順番に沿って整理します。HDの株価の全体像はHD化で株価はどう変わるか、非上場株式の評価の基本は非上場株式の評価の基本をご覧ください。

この記事の結論
  • 類似業種比準方式は、上場会社の業種別の株価をもとに、配当・利益・純資産(簿価)の3要素を比べて評価する方式(評基通180)
  • HDで使えるのは、まず特定の評価会社に当たらない場合。とくに株式等の割合が50%以上だと株式等保有特定会社になり、原則は純資産価額方式(評基通189(2))
  • 特定の評価会社でなければ、会社規模(大・中・小)に応じて類似業種比準価額の割合が決まる
  • HDの利益金額には、子会社からの受取配当の益金不算入額が加算される(評基通183(2))
  • 判定を免れるための資産の組み替えは、評基通189のなお書や総則6項のリスクがある。国税庁は類似業種比準方式の見直しも検討中

類似業種比準方式のしくみ

類似業種比準方式は、評価する会社と同じ業種の上場会社の平均株価に、1株当たりの配当金額・利益金額・純資産価額(簿価)の比率を掛けて評価する方式です(国税庁 タックスアンサーNo.4638、財産評価基本通達180〜184)。

算式は、次のとおりです(1株当たりの資本金等の額を50円とした金額で計算します)。

類似業種比準価額 = A ×(b/B + c/C + d/D)÷ 3 × 斟酌率

記号内容計算の基礎
A類似業種の株価課税時期の月・前月・前々月の各平均、前年平均、課税時期以前2年間の平均のうち最も低いもの(評基通182)
b・B1株当たりの配当金額直前期末以前2年間の平均(記念配当など臨時的なものを除く)
c・C1株当たりの利益金額直前期の課税所得をもとに、受取配当等の益金不算入額などを調整。2年平均も選べる
d・D1株当たりの純資産価額直前期末の資本金等の額と利益積立金額(簿価)
斟酌率大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5評基通180

純資産が簿価で計算され、斟酌率で割り引かれるため、含み益の大きい会社や利益を内部に留めてきた会社では、純資産価額より低くなる傾向があります。

HDで使えるかどうかの判定の順番

HDの株式を評価するときは、次の順番で判定します。

HD株式の評価方式の判定
① 特定の評価会社か清算中・開業前・開業後3年未満・土地保有・株式等保有・比準要素数1
↓ 当たる場合は原則として純資産価額方式(株式等保有特定会社はS1+S2も選べる)
② 会社規模の判定総資産・従業員数・取引金額
↓ 規模に応じた割合で併用
大会社類似業種比準
中会社類似業種×L+純資産
小会社純資産(L=0.5の併用も可)
いずれの区分でも、純資産価額のほうが低ければ純資産価額によれる(評基通179)

特定の評価会社に当たる場合

財産評価基本通達189は、次の会社を「特定の評価会社」とし、原則として純資産価額方式で評価するとしています(評基通189〜189-6)。

区分判定の基準HDで当たりやすい場面
株式等保有特定会社総資産(相続税評価額)に占める株式等の割合が50%以上子会社株式のほかに大きな資産がない純粋持株会社
土地保有特定会社土地等の割合が、大会社70%以上、中会社90%以上など不動産をHDに集めた場合
比準要素数1の会社直前期末の3要素のうち2つが0、かつ直前々期末の3要素のうち2つ以上が0無配で、課税所得も受取配当もほとんどないHD
開業後3年未満の会社等開業後3年未満、または直前期末の3要素がすべて0株式移転で作ったばかりのHD

株式移転で新しく作ったHDは、まず開業後3年未満の会社に当たります。3年を過ぎても、資産の大半が子会社株式なら株式等保有特定会社です。つまり、HD化の直後に類似業種比準方式を使える場面は限られます。

株式等保有特定会社は、純資産価額方式のほか、納税義務者の選択でS1+S2方式も使えます(評基通189-3)。S1は株式等とその配当を除いた部分を類似業種比準方式などで評価した額、S2は株式等の部分を純資産価額で評価した額です。HDが自ら事業や不動産賃貸を営んでいる場合は、比較してみる価値があります。

特定の評価会社に当たらない場合

HDが不動産賃貸業や、グループ外からの受託事業などを営み、総資産に占める株式等の割合が50%未満なら、株式等保有特定会社には当たりません。この場合は、事業会社と同じく会社規模(大会社・中会社・小会社)を判定し、規模に応じた割合で類似業種比準価額を使います(評基通178・179)。

会社規模評価の方法
大会社類似業種比準価額(純資産価額のほうが低ければ純資産価額)
中会社類似業種比準価額×L+純資産価額×(1-L)。Lは0.90・0.75・0.60
小会社純資産価額。L=0.50として類似業種比準価額との併用も選べる

HDの規模区分の考え方はHDの会社規模の判定で解説しています。HDの取引金額は、経営指導料や賃料などHD自身の売上で判定するため、総資産は大きくても取引金額が小さく、規模区分が下がることがあります。

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HDの3要素はどう計算されるか

利益金額には受取配当の益金不算入額が入る

類似業種比準方式の利益金額は、法人税の課税所得そのものではありません。固定資産売却益などの非経常的な利益を除き、受取配当等の益金不算入額(所得税額相当を除く)と繰越欠損金の控除額を加えて計算します(評基通183(2))。

HDの「1株当たりの利益金額」の組み立て
課税所得経営指導料・賃料など
+受取配当の益金不算入額子会社からの配当
+繰越欠損金の控除額
-非経常的な利益
↓ 直前期の発行済株式数(50円換算)で割る
利益金額(c)
子会社からの配当で課税所得がほぼ0でも、利益金額は0にならない

100%子会社からの配当は、完全子法人株式等として全額が益金不算入になります(法人税法23条1項)。法人税はほとんどかかりませんが、類似業種比準方式の利益金額には加算されます。子会社から多くの配当を吸い上げるほど、HDの利益金額は大きくなり、株価が上がる方向に働きます。配当の吸い上げの考え方はHDへの配当は無税で吸い上げられるかをご覧ください。

配当金額と純資産価額

配当金額は、HDが株主(オーナー)に支払った配当の直前期末以前2年間の平均です。HDが無配なら0です。純資産価額は簿価の資本金等の額と利益積立金額なので、株式移転で受け入れた子会社株式の帳簿価額によって大きさが変わります。

無配で、経営指導料の水準も低く課税所得が0、子会社からの配当もないHDは、配当と利益の2要素が0となり、比準要素数1の会社に当たることがあります。この場合は純資産価額方式(L=0.25の併用も選択可)になります(評基通189-2)。

資産の組み替えと総則6項のリスク

株式等保有特定会社を外れるために、相続の直前にHDで不動産を借入れで買うなどして資産構成を変える方法が語られることがあります。しかし、評基通189のなお書は、合理的な理由のない資産構成の変動で特定の評価会社の判定を免れようとした場合、その変動はなかったものとして判定するとしています。

さらに、評価通達どおりの評価額が実質的な租税負担の公平に反するといえる事情があれば、財産評価基本通達の総則6項により、別の方法で評価されることがあります。不動産の評価について、通達の評価額を上回る鑑定評価額での課税を認めた最高裁令和4年4月19日判決があります。考え方は総則6項と株価とHD化と総則6項のリスクで解説しています。

純資産価額方式で評価する場合の評価差額の法人税額等相当額の控除は、令和8年4月1日以後、38%になりました(評基通186-2)。ただし、株式移転などで著しく低い価額で受け入れた株式の含み益は控除の対象になりません。計算は38%控除の計算例をご覧ください。

なお、国税庁の有識者会議は2026年8月に、類似業種比準方式と純資産価額方式の体系を見直す骨子を示しています。結論は今後の税制改正の議論で決まるため、現行ルールと案の両方で試算しておくことが大切です(非上場株式の評価見直しの議論とHD)。

銀行は株価をどう見るか

類似業種比準価額は、相続税・贈与税を計算するための評価額です。金融機関は、HDグループの融資を検討するとき、評価通達上の株価ではなく、グループ合算の実態純資産や債務償還年数を見ます。著書のモデルでは、プロパー融資の目安は「正常先+純資産1億円」です。

株価を下げることだけを目的に、利益を抑えたり、配当を止めたりすると、銀行から見た収益力や返済原資は弱く見えます。後継者がHD株式を取得するための融資を受ける場面では、株価の評価額と、銀行が見る返済能力の両方を説明できる設計が必要です(HD株式の買取資金の融資)。

まとめ

  • 類似業種比準方式は、配当・利益・純資産(簿価)を上場会社と比べる方式。HDでも使えることがある
  • 判定の順番は、①特定の評価会社か、②会社規模。株式等の割合が50%以上なら株式等保有特定会社
  • 株式移転で作ったHDは、まず開業後3年未満の会社に当たる
  • HDの利益金額には、子会社からの受取配当の益金不算入額が加算される
  • 株式等保有特定会社は、純資産価額方式のほかS1+S2方式も選べる
  • 判定を免れるための資産の組み替えは、評基通189のなお書と総則6項のリスクがある。評価ルールの見直しの動きにも注意する

クレフティの事業承継・M&A支援では、HD化の前後の株価の試算、評価方式の判定、後継者への株式移転と金融機関への説明までご相談をお受けしています。大手FASでバリュエーションを手がけてきた公認会計士・税理士が所属しています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。

よくある質問

HDの株式は、必ず純資産価額方式で評価されるのですか?
必ずではありません。HDの総資産(相続税評価額)に占める株式等の割合が50%未満で、土地保有特定会社・比準要素数1の会社・開業後3年未満の会社などにも当たらなければ、事業会社と同じく会社規模に応じて類似業種比準方式を使えます(財産評価基本通達178・179・189)。
子会社から受け取った配当は、HDの類似業種比準価額に影響しますか?
影響します。類似業種比準方式の「1株当たりの利益金額」は、法人税の課税所得に、受取配当等の益金不算入額(所得税額相当を除く)を加えて計算します(財産評価基本通達183(2))。子会社からの配当で課税所得がほぼゼロでも、利益金額はゼロにならないことがあります。
株式等保有特定会社にならないよう、相続の直前に不動産を買えばよいですか?
おすすめしません。財産評価基本通達189のなお書は、合理的な理由のない資産構成の変動で株式等保有特定会社の判定を免れようとした場合、その変動はなかったものとして判定するとしています。さらに、評価額が著しく低くなれば、総則6項による否認のリスクもあります。

※本記事は2026年11月7日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
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