株価・相続・贈与

純資産価額方式の計算手順|HD株式の評価と評価差額の38%控除を数字で確認

ホールディングス(HD)の株式は、子会社株式が資産の大半を占めるため、株式等保有特定会社として純資産価額方式で評価する場面が多くなります。純資産価額方式は「会社を今日解散したら、株主にいくら残るか」を相続税の評価のルールで計算する方式ですが、実際の計算には、決算書の数字をそのまま使えない場面がいくつもあります。

この記事では、財産評価基本通達185〜186-3に沿って、純資産価額方式の計算の手順を、作例の数字で一つずつ確認します。とくに、評価差額に対する法人税額等相当額の控除(令和8年4月1日以後は38%)と、株式移転で受け入れた子会社株式の扱いは、HDの株価に大きく効くポイントです。HDの株価の全体像はHD化すると自社株の評価はどう変わる?、38%控除がHD化でどう効くかの考え方はHD化で株価が下がる仕組みもあわせてご覧ください。数字はすべて説明用に作った例です。

この記事の結論
  • 純資産価額=(相続税評価額による総資産−負債−評価差額に対する法人税額等相当額)÷発行済株式数(財産評価基本通達185)
  • 資産は相続税評価額に置き換える。ただし課税時期前3年以内に取得した土地・建物は通常の取引価額で評価する
  • 引当金・準備金は負債に入れない。未払いの法人税等(期間按分)・固定資産税、死亡退職金は負債に入れる(186)
  • 評価差額×38%(令和8年4月1日以後)を控除できる(186-2)。ただし子会社株式を純資産価額で評価する段階では控除しない(186-3)
  • 株式移転などで著しく低い価額で受け入れた株式は、受け入れ時の含み益が帳簿価額に足されるため、その分は38%控除の対象にならない

純資産価額方式の算式

財産評価基本通達185は、1株当たりの純資産価額(相続税評価額)を次のように定めています(財産評価基本通達185〜186-3、国税庁 タックスアンサーNo.4638)。

(相続税評価額による総資産価額 − 負債の合計額 − 評価差額に対する法人税額等相当額)÷ 課税時期の発行済株式数
評価差額に対する法人税額等相当額 = {(相続税評価額による総資産 − 負債)−(帳簿価額による総資産 − 負債)}× 38%

計算は、国税庁の「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」の第5表で行います。左側に相続税評価額、右側に帳簿価額(税務上の簿価)を並べ、資産と負債を1行ずつ置き換えていく作業です。

純資産価額の計算の流れ(第5表)
① 資産を相続税評価額に置き換える土地は路線価、建物は固定資産税評価額など
↓ 負債を差し引く(引当金は除く)
② 相続税評価額による純資産
帳簿価額による純資産税務上の簿価
↓ 差額(評価差額)×38%を控除
③ 純資産価額÷発行済株式数=1株当たり
財産評価基本通達185・186・186-2をもとに作成

手順1:資産を相続税評価額に置き換える

資産の部は、決算書の金額ではなく、財産評価基本通達で評価した価額に置き換えます。HDでよく出てくる科目の扱いを整理します。

科目相続税評価額の考え方根拠など
現預金・売掛金・貸付金原則として額面(預金は既経過利息も含む)評基通203・204
土地(子会社に貸している本社用地など)路線価方式・倍率方式。貸家建付地なら借地権割合・借家権割合で減額評基通13以下・26
建物固定資産税評価額。貸家なら借家権割合(30%)を控除評基通89・93
課税時期前3年以内に取得・新築した土地・建物通常の取引価額(帳簿価額が通常の取引価額に相当すれば帳簿価額)評基通185かっこ書
子会社株式(非上場)子会社の規模に応じた原則の方式で評価。純資産価額で評価する場合は38%を控除しない評基通186-3
保険積立金(法人契約の生命保険)課税時期の解約返戻金の額を基に評価評基通214
財産性のない繰延資産・繰延税金資産計上しない評価明細書の記載方法

ポイントは2つです。

1つは、3年以内に取得した土地・建物です。路線価や固定資産税評価額は時価より低いことが多いため、相続の直前に会社で不動産を買って株価を下げることを防ぐ目的で、取得から3年以内のものは通常の取引価額で評価します。HDが本社ビルや賃貸物件を取得した直後は、純資産価額がほとんど下がらないと考えておく必要があります。

もう1つは、子会社株式です。HDが持つ子会社株式を純資産価額で評価するとき、その計算では評価差額の38%を控除しません(186-3の注)。子会社の段階とHDの段階で2回控除することはできず、控除はHD自身の評価差額の1回だけです。子会社株式の評価方法の選び方はHD株式の類似業種比準方式で整理しています。

手順2:負債に入るもの・入らないもの

負債の部は、帳簿の負債をそのまま使えるわけではありません。財産評価基本通達186は、引当金・準備金は負債に含めないとし、反対に、帳簿に載っていなくても次の金額は負債に含めるとしています。

区分主なもの
負債に入れない貸倒引当金、退職給与引当金、納税引当金その他の引当金、準備金、繰延税金負債
帳簿になくても負債に入れる課税時期の事業年度の法人税・消費税・事業税・住民税のうち、期首から課税時期までに対応する未払いの金額
同上課税時期以前に賦課期日のあった固定資産税・都市計画税の未払いの金額
同上被相続人の死亡により、相続人などに支給することが確定した退職手当金・功労金など

オーナーが亡くなり、HDから死亡退職金を支給することが決まった場合、その金額はHDの負債になり、株価を下げます。退職金そのものは相続税の課税対象(非課税枠あり)になるため、株価と退職金の両方を通して考えることになります。退職金の水準の考え方は役員退職金の適正額をご覧ください。

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手順3:評価差額の38%を控除する

相続税評価額による純資産が、帳簿価額による純資産を上回る場合、その差額(評価差額)に38%を掛けた金額を控除します(186-2)。会社が資産を売って清算すれば、含み益に法人税等がかかるはずなので、その分を差し引くという考え方です。

38%は、法人税(地方法人税・防衛特別法人税を含む)、事業税(特別法人事業税を含む)、道府県民税・市町村民税の税率の合計に相当する割合で、令和8年の通達改正で37%から引き上げられました。令和8年4月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した株式に適用されます。

作例:不動産も持つHDの純資産価額

子会社株式のほか、子会社に貸している本社の土地・建物と、2年前に取得した賃貸マンション1室を持つHDの例です(発行済株式数1,000株、単位:万円)。

資産相続税評価額帳簿価額
子会社株式(純資産価額で評価、38%控除なし)30,0005,000
本社用地(貸家建付地)8,00012,000
本社建物(貸家)3,5006,000
2年前に取得した賃貸マンション(通常の取引価額=帳簿価額)5,0005,000
現預金3,0003,000
保険積立金(解約返戻金ベース)2,0001,500
繰延資産(財産性なし)計上しない計上しない
資産合計51,50032,500
負債相続税評価額帳簿価額
借入金15,00015,000
未払法人税等(課税時期までの期間対応分)300300
未払固定資産税100100
退職給与引当金(500)入れない入れない
負債合計15,40015,400
  • 相続税評価額による純資産:51,500 − 15,400 = 36,100
  • 帳簿価額による純資産:32,500 − 15,400 = 17,100
  • 評価差額:36,100 − 17,100 = 19,000
  • 法人税額等相当額:19,000 × 38% = 7,220
  • 純資産価額:36,100 − 7,220 = 28,880(1株当たり28万8,800円)

土地・建物は帳簿価額より評価額が低く、マイナスの評価差額になっていますが、子会社株式の含み益が大きいため、全体の評価差額はプラスです。評価差額は資産ごとではなく純資産の合計どうしの差で計算するので、不動産の含み損と子会社株式の含み益は相殺されます。

株式移転で作ったHDの注意点:現物出資等受入れ差額

ここまでの作例では、子会社株式の帳簿価額を5,000万円としていました。株式移転でHDを作ると、HDが受け入れた子会社株式の帳簿価額は、子会社の簿価純資産などを基にした金額になることが多く、受け入れた時点の相続税評価額よりかなり低くなります。

この差をすべて38%控除の対象にすると、HD化しただけで株価が下がってしまいます。そこで財産評価基本通達186-2(2)は、株式交換・株式移転・株式交付・現物出資・合併で著しく低い価額で受け入れた資産・株式(現物出資等受入れ資産)について、受け入れた時の相続税評価額と帳簿価額の差(現物出資等受入れ差額)を、帳簿価額に加算して評価差額を計算するとしています。

項目内容
加算する金額受け入れた時の相続税評価額 − 帳簿価額(課税時期の評価額のほうが低ければ、課税時期の評価額 − 帳簿価額)
加算しない場合現物出資等受入れ資産の課税時期の評価額が、総資産の評価額の20%以下のとき
結果HD化の時点の含み益は控除の対象外。HD化の後に増えた含み益だけが38%控除の対象

作例で、HDが株式移転で子会社株式を受け入れ、その時点の相続税評価額が1億8,000万円だったとします。子会社株式の評価額は総資産の約58%(30,000÷51,500)なので20%を超え、加算が必要です。

項目加算しない場合加算する場合
帳簿価額による総資産32,50032,500 + 13,000 = 45,500
帳簿価額による純資産17,10030,100
評価差額19,0006,000
法人税額等相当額(38%)7,2202,280
純資産価額28,88033,820
1株当たり28万8,800円33万8,200円

加算の結果、控除できる金額は7,220万円から2,280万円に減ります。株式移転でHDを作った場合、38%控除が効くのはHD化の後に子会社の価値が増えた部分です。一方、後継者が設立した新しいHDがオーナーから株式を時価で買い取る場合は、帳簿価額が買取価格になるため、この加算の問題は生じにくくなります(後継者の新会社が株式を買い取るスキーム)。

議決権50%以下なら80%評価、そして総則6項

株式を取得した人とその同族関係者の議決権の合計が、議決権総数の50%以下の場合は、計算した純資産価額の80%で評価します(185ただし書)。兄弟で株式を分けるなど、議決権の持ち方で評価が変わる点は、種類株式の設計とあわせて検討します(種類株式の設計)。

また、純資産価額を下げることだけを目的にした取引には注意が必要です。3年以内取得の土地・建物のルールは、まさに相続直前の不動産取得への対応ですが、それ以外でも、通達どおりに評価すると著しく不適当な場合には総則6項で別の評価が行われることがあります。借入れで不動産を取得した相続について、最高裁令和4年4月19日判決(判決文)は、通達の評価額を上回る価額での課税を適法としました。詳しくはHD化と総則6項のリスクをご覧ください。

銀行は純資産をどう見るか

純資産価額方式の数字は、相続税の評価のためのものです。銀行が融資の審査で見る実態純資産とは、考え方が違います。

項目純資産価額方式(相続税)銀行の実態純資産(一般的な見方)
不動産路線価・固定資産税評価額時価や収益価格で見直すことが多い
含み益への税金38%を控除控除しないことが多い
子会社子会社株式の評価額HDと子会社を合算した連結の姿で見る
保険積立金解約返戻金ベース解約返戻金ベースで見ることが多い

株価を下げる工夫が、銀行から見た純資産や債務償還年数を悪くするなら本末転倒です。著書のモデルでは、プロパー融資の目安を「正常先+純資産1億円」としています。HDの株価の試算は、承継の時期・方法を決めるための材料であり、グループ全体の財務を強くすることとセットで考えるべきです。HDと銀行の関係はHDと銀行融資、非上場株式の評価の基本は非上場株式の相続税評価の基本をご覧ください。

まとめ

  • 純資産価額は、資産を相続税評価額に置き換え、負債と評価差額の38%を差し引いて計算する(評基通185・186-2)
  • 課税時期前3年以内に取得した土地・建物は通常の取引価額で評価する
  • 引当金・準備金は負債に入れない。未払いの法人税等(期間対応分)、固定資産税、死亡退職金は負債に入れる(186)
  • 子会社株式を純資産価額で評価するときは、子会社の段階で38%を控除しない(186-3)
  • 株式移転などで受け入れた株式は、受け入れ時の含み益が帳簿価額に加算され、HD化後の値上がり分だけが控除の対象になる(186-2(2))

クレフティでは、HDの純資産価額・類似業種比準価額の試算から、承継の時期と方法、金融機関との調整まで、事業承継・M&A支援の中でご相談をお受けしています。大手FASでバリュエーションを手がけてきた公認会計士・税理士も所属しています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。

よくある質問

評価差額に対する法人税額等相当額の控除割合は、いくらですか?
令和8年4月1日以後に相続・遺贈・贈与で取得した株式は38%です(財産評価基本通達186-2、令和8年の通達改正)。それより前は37%でした。評価差額(相続税評価額による純資産と帳簿価額による純資産の差)にこの割合を掛けた金額を、純資産価額から控除します。
HDが持つ子会社株式を純資産価額で評価するときも、38%を控除できますか?
できません。評価会社が持つ取引相場のない株式を純資産価額で評価する場合は、その子会社の段階では評価差額に対する法人税額等相当額を控除しないこととされています(財産評価基本通達186-3の注)。控除するのは、HD自身の評価差額の段階の1回だけです。
退職給与引当金や賞与引当金は、負債に入れてよいですか?
入れられません。純資産価額の計算では、貸倒引当金・退職給与引当金・納税引当金その他の引当金と準備金は負債に含めません(財産評価基本通達186)。一方、課税時期の事業年度の法人税等のうち課税時期までの期間に対応する未払いの金額や、未払いの固定資産税、死亡により支給が確定した退職手当金は負債に含めます。

※本記事は2026年11月8日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
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