社長が一人で経営する「ひとり会社」は、会社のお金と社長個人のお金の境目があいまいになりやすい会社です。国税庁の「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」によると、法人税等の実地調査は5万4千件行われました。ひとり会社の調査で見られるポイントは、その「境目」に集中します。
結論から言うと、ひとり会社の税務調査でよく確認されるのは「役員報酬」「私的な経費」「役員貸付金」の3つです。いずれも、社長と会社の間のお金の流れが、ルールどおりに処理されているかという点です。この記事では、それぞれ何を見られ、どう準備すればよいかを解説します。個人事業主の場合は個人事業主の税務調査をご覧ください。
- 役員報酬:期首から3か月以内に決め、毎月同じ額を払う定期同額給与か。期中の増額分は損金にならないことがある
- 私的な経費:社長の私的な支出を会社で払うと、役員給与とされ、法人税(損金不算入)と源泉所得税の両方に影響する
- 役員貸付金:使い道・返済予定・利息を説明できるか。説明できないと役員給与とされることがある
- 社長個人の通帳も、事業との関係が疑われれば確認を求められる
- 準備の基本は、会社と社長のお金を分ける、議事録と精算の記録を残す
ひとり会社でよく見られるポイント
| 論点 | よく確認されること | 誤っていたときの扱い |
|---|---|---|
| 役員報酬 | 期首から3か月以内の改定か、毎月同額か、議事録があるか | 定期同額でない部分は損金不算入 |
| 私的な経費 | 家族との飲食、私的な旅行、車、自宅の費用などの混入 | 役員給与として損金不算入、源泉所得税の徴収漏れ |
| 役員貸付金 | 使い道、返済予定、利息の有無 | 役員給与(賞与)とされる、利息の計上を求められる |
| 売上 | 期末の売上の計上時期、社長個人の口座への入金 | 計上漏れとして法人税・消費税を追加 |
| 社宅・車 | 賃料相当額を社長から受け取っているか、私的利用 | 差額が役員給与とされる |
役員報酬:定期同額給与のルール
法人が社長に払う役員報酬のうち、損金になるのは、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与のいずれかにあたるものです(法人税法第34条)。ひとり会社の場合は、ほとんどが定期同額給与です。
定期同額給与とは、毎月同じ額で払う給与のことです。金額を変えられるのは、原則として事業年度の開始の日から3か月以内の改定に限られます(法人税法施行令第69条)。例外として、役職の変更などの臨時改定事由や、経営状況の著しい悪化による減額は認められることがあります。
調査では、次の点が確認されます。
- 株主総会などの議事録で、役員報酬の額を決めているか
- 期の途中で、理由なく増額していないか
- 決算前に利益が出たからといって、臨時のボーナスを払っていないか
- 未払いのまま計上している役員報酬が、実際に払われているか
期中に増額した場合、増額分は損金になりません。事前確定届出給与としてボーナスを払う場合は、届け出た日・届け出た額どおりに払う必要があります。役員報酬の決め方はひとり会社の役員報酬の決め方で詳しく解説しています。
私的な経費:役員給与とされると二重の影響
ひとり会社の調査で最も指摘されやすいのが、社長の私的な支出の混入です。
- 家族との外食を、会議費や交際費にしている
- 家族旅行や、観光が中心の旅行を、出張旅費にしている
- 社長や家族が私的に使う車の費用を、全額経費にしている
- 社長の自宅の家賃や光熱費を、社宅のルールによらず会社で払っている
こうした支出は、会社の経費ではなく、社長への経済的な利益の提供(役員給与)とみられます。役員給与は、毎月おおむね一定額でなければ定期同額給与にあたらず、損金になりません。さらに、社長への給与ですから、会社が源泉所得税を徴収して納める必要があり、その徴収漏れも指摘されます。法人税と源泉所得税の両方に影響が出るのが、ひとり会社の私的な経費の怖いところです。
社長の自宅を社宅にする場合は、社長から賃料相当額を受け取るなど、ルールにそって処理すれば問題はありません。考え方はひとり会社は自宅を社宅にや役員社宅の賃料相当額と法人の処理、交際費の範囲は法人の交際費はいくらまで経費にできる?で解説しています。
なお、私的な支出を、わざと事業の経費に見せかけるために書類を書き換えたり、架空の名目をつけたりすると、事実の仮装として重加算税(35%)の対象になりえます(国税通則法第68条)。
AIを活用した記帳で、日々の経理から決算・確定申告までをまとめてお引き受けします。訪問なしのオンライン完結で、困ったときはチャットでいつでも質問できます。
オンライン記帳・申告サポートを見る役員貸付金:使い道を説明できるか
ひとり会社では、会社の口座から社長個人にお金を移し、帳簿上「役員貸付金」や「仮払金」にしているケースがよくあります。調査では、次の点を聞かれます。
- 何に使ったお金か:生活費、個人の投資、借入の返済など
- 返済の予定があるか:金銭消費貸借の契約書や、返済の実績があるか
- 利息を受け取っているか:無利息の場合、適正な利息を計上するよう求められることがある
使い道や返済の実態を説明できないと、貸付金ではなく、社長への役員給与(賞与)とみられることがあります。その場合は損金にならず、源泉所得税の対象にもなります。
また、役員貸付金は、銀行が決算書を見るときにも、回収の見込みが低い資産として厳しく見られやすい項目です。税務調査の対策としてだけでなく、融資を受け続けるためにも、計画的に解消しておきたいところです。解消の方法は役員借入金・役員貸付金や役員貸付金の解消方法で解説しています。
社長個人の口座と、期末の売上
法人の調査でも、社長個人の預金口座について事業との関係が疑われる場合は、その通帳を見せるよう求められることがあります(FAQ問7)。会社の売上が社長個人の口座に入っていないか、会社の経費を社長個人が立て替えて精算していないかなどが確認されます。
期末の売上の計上時期も、法人の調査の定番です。期末に仕事が終わった売上を、入金した翌期の売上にしていないか、請求書と入金を照らし合わせて確認されます。同じ誤りが前の期にもあると疑われれば、対象の期間が広がることもあります(FAQ問32)。
調査の前に整えておきたいこと
| チェック項目 | できているか |
|---|---|
| 役員報酬を決めた議事録があり、毎月同額を払っている | □ |
| 会社の口座・カードを、社長個人の支出に使っていない | □ |
| 飲食費・旅費に、相手と目的の記録がある | □ |
| 社長が立て替えた経費は、領収書をつけて精算している | □ |
| 役員貸付金に、契約書・返済の実績・利息の計上がある | □ |
| 社宅・車の私的利用について、ルールにそって処理している | □ |
| 期末の売上を、その期に計上している | □ |
まとめ
- ひとり会社の調査は、社長と会社の間のお金の流れに集中する
- 役員報酬は、期首から3か月以内に決めて毎月同額。期中の増額分は損金にならないことがある
- 私的な経費は役員給与とされ、法人税と源泉所得税の両方に影響する
- 役員貸付金は、使い道・返済予定・利息を説明できるようにする
- 会社と社長のお金を分け、議事録と精算の記録を残すことが最大の備え
調査の連絡を受けたあとの準備は税務調査と言われたら、まず何をすればいい?、加算税の目安は税務調査で最悪どうなる?をご覧ください。
クレフティの「オンライン記帳・申告サポート」では、月額5,000円程度から(取引量や申告の内容で変わります)、AIを活用した記帳から決算・申告までをオンラインでお引き受けしています。社長個人と会社のお金の線引きも、チャットでいつでもご相談いただけます。
