「会社員の通勤手当は非課税だけど、個人事業主が事務所に通う電車代はどうなるの?」――自宅とは別に事務所や店舗を構えたとき、多くの方が迷うところです。
結論からいうと、自宅と別の事務所・店舗へ仕事のために通う交通費は、旅費交通費として経費に計上するのが一般的です。ただし、事業主本人には「通勤手当」という考え方がなく、私用の部分は経費から除きます。この記事では、個人事業主本人の交通費の考え方と、家族従業員やひとり会社の社長に払う通勤手当の非課税限度額を整理します。
- 必要経費は「事業のための費用」(所得税法37条)。自宅と別の事務所・店舗へ通う交通費は、旅費交通費として計上するのが一般的
- 事業主本人は自分に給与を払えないので、通勤手当や非課税限度額の話にはならない。実費を経費にする
- 定期券やマイカーを私用にも使うなら、私用の部分は除く(家事関連費)
- 家族従業員・従業員・ひとり会社の社長に払う通勤手当は、電車・バスは月15万円まで、マイカー・自転車は片道の距離に応じた金額まで非課税
個人事業主本人の「通勤費」の考え方
個人事業主の必要経費は、売上を得るために直接かかった費用や、事業のための販売費・一般管理費などです(所得税法37条、国税庁タックスアンサー No.2210)。一方で、私生活のための費用(家事費)は経費になりません。仕事と私用の両方にかかわる費用(家事関連費)は、仕事の部分を明らかに区分できる場合だけ、その部分を経費にできます(所得税法45条、同法施行令96条)。
会社員の通勤は「勤め先へ行くための移動」ですが、個人事業主が自分の事務所や店舗へ行くのは、自分の事業を行う場所への移動です。そのため、自宅とは別に事務所・店舗・作業場があり、そこへ仕事のために通う交通費は、旅費交通費として経費に計上するのが一般的な扱いです。
ただし、この点について個人事業主の通勤費を直接定めた規定はありません。事務所の実態が乏しい場合や、移動の目的が私用と区別できない場合は、個別の事情によって判断が分かれます。
| ケース | 経費の考え方 |
|---|---|
| 自宅とは別に借りた事務所・店舗へ電車で通う | 旅費交通費として計上するのが一般的 |
| 自宅兼事務所から取引先・現場へ行く | 仕事の移動なので旅費交通費 |
| 借りているコワーキングスペースへ通う | 仕事のために使っている実態があれば旅費交通費 |
| 定期券を休日の買い物や旅行にも使う | 区間外の利用や私用のチャージは除く |
| 事務所を借りているが、ほとんど使っていない | 事業のための移動と説明しにくい |
コワーキングスペースの利用料そのものの扱いは、コワーキングスペース・シェアオフィスの費用で解説しています。
事業主本人には「通勤手当」がない
個人事業主は、自分自身に給与を払うことができません。そのため、事業主本人について「通勤手当を払う」「非課税限度額の範囲で」という考え方はなく、実際にかかった交通費を経費にするだけです。
逆にいえば、非課税限度額のような上限もありません。新幹線で通っていても、その移動が事業に必要なものであれば、実費が経費の対象になります。ただし、私用の移動が混ざっていないことを説明できるようにしておくことが前提です。
定期券・ICカード・マイカーで通う場合
定期券・ICカード
定期券やモバイルSuicaなどのICカードで通っている場合は、利用履歴が一番の記録になります。
- 定期券の購入代金:事務所への通勤区間であれば旅費交通費
- ICカードへのチャージ:チャージした時点ではなく、仕事で使った分を経費にするのが原則
- 区間外の移動や休日の私用:経費から除く
チャージや定期券の処理は、モバイルSuica・定期券の経費処理とSuicaのチャージは経費になる?で詳しく解説しています。
マイカー・自転車
車や自転車で事務所に通う場合は、ガソリン代や駐車場代、減価償却費などを、仕事に使う割合で按分します。事務所への移動も、仕事のための走行として割合に含めて考えるのが一般的です。割合は、走行距離や使用日数など合理的な基準で決め、根拠を残します。
車の按分は個人事業主が車を買ったら:経費にできる割合と家事按分、自転車・バイクは自転車・バイクの経費と按分をご覧ください。
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オンライン記帳・申告サポートを見る家族従業員・従業員に払う通勤手当
青色事業専従者などの家族従業員や、雇っている従業員に通勤手当を払う場合は、給与を受け取る人の通勤手当として、一定額まで所得税が非課税になります(所得税法9条、同法施行令20条の2)。
| 通勤の方法 | 1か月あたりの非課税限度額 | 出典 |
|---|---|---|
| 電車・バスだけ | 最も経済的かつ合理的な経路・方法による運賃等の額(上限15万円) | タックスアンサー No.2582 |
| マイカー・自転車だけ | 片道の通勤距離に応じた金額(下表) | タックスアンサー No.2585 |
| 電車・バスとマイカー・自転車の併用 | 両方の合計(上限15万円) | タックスアンサー No.2582 |
マイカー・自転車通勤の非課税限度額は、片道の通勤距離に応じて次のとおりです(令和8年4月1日現在法令等)。
| 片道の通勤距離 | 1か月あたりの非課税限度額 |
|---|---|
| 2km未満 | 全額課税 |
| 2km以上10km未満 | 4,200円 |
| 10km以上15km未満 | 7,300円 |
| 15km以上25km未満 | 13,500円 |
| 25km以上35km未満 | 19,700円 |
| 35km以上45km未満 | 25,900円 |
| 45km以上55km未満 | 32,300円 |
| 55km以上65km未満 | 38,700円 |
| 65km以上75km未満 | 45,700円 |
| 75km以上85km未満 | 52,700円 |
| 85km以上95km未満 | 59,600円 |
| 95km以上 | 66,400円 |
勤務先の周辺などの一定の要件を満たす駐車場を使う場合は、駐車場料金に相当する額を1か月5,000円まで加算できます(片道2km未満の人は対象外)。限度額を超えた部分は給与として課税され、支払った月の給与に上乗せして源泉徴収します。
家族に給与を払うときの要件は、家族への給与(青色事業専従者給与)の要件で解説しています。
ひとり会社の社長の通勤手当
ひとり会社の社長も、会社から給与(役員給与)を受け取る人です。会社が社長に通勤手当を払う場合も、上の表の非課税限度額がそのまま当てはまります。限度額の範囲内なら社長個人に所得税はかからず、会社は費用として計上できます。
| 項目 | 個人事業主(本人) | ひとり会社(社長) |
|---|---|---|
| 通勤手当という考え方 | ない(自分に給与を払えない) | ある(会社から社長に払える) |
| 経費にする金額 | 実際にかかった交通費 | 会社が払った通勤手当・定期代 |
| 非課税限度額 | 関係ない | 電車・バスは月15万円まで、マイカー・自転車は距離に応じた金額まで |
| 私用の部分 | 経費から除く | 通勤の実態がない部分は給与として課税されることがある |
| 残しておく記録 | 利用履歴・事務所の契約書 | 通勤経路・距離、給与規程・旅費規程 |
ひとり会社では、社長の自宅を社宅として借り上げ、そこを本店にしているケースもあります。自宅で仕事をしている日に通勤手当を払っていると、通勤の実態がないとみられるおそれがあります。社長の給与の決め方はひとり会社の役員報酬の決め方、自宅の扱いは社長の自宅を社宅にする方法もご覧ください。
なお、通勤手当のうち通勤に通常必要と認められる部分は、消費税の課税仕入れになります。会社が消費税の課税事業者として一般課税で申告している場合は、仕入税額控除の対象になるかどうかもあわせて確認しましょう。
まとめ
- 個人事業主が自宅と別の事務所・店舗へ仕事のために通う交通費は、旅費交通費として計上するのが一般的
- 事業主本人には通勤手当や非課税限度額の考え方はない。実費を経費にし、私用の部分は除く
- 定期券・ICカードは利用履歴、マイカーは走行距離など、仕事の移動だと説明できる記録を残す
- 家族従業員・従業員・ひとり会社の社長への通勤手当は、電車・バスは月15万円まで、マイカー・自転車は片道の距離に応じた金額まで非課税
- 事務所の実態が乏しい場合や、自宅で仕事をしている社長への通勤手当は、判断が分かれるので注意する
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