「妻に経理を手伝ってもらっているので、給与を払って経費にしたい」。個人事業主から非常に多いご相談です。
結論から言うと、個人事業主が同じ生計の家族に払う給与は、原則として経費になりません。例外として、青色申告の「青色事業専従者給与」なら、一定の要件を満たせば経費にできます。この記事では、要件と届出の期限、白色申告の場合の扱い、よくある注意点を整理します。
- 生計を一にする家族への給与は、原則として経費にならない(所得税法56条)
- 例外は青色事業専従者給与。15歳以上、その年を通じて6か月を超えて専ら従事、届出書を3月15日まで(年の途中で開業などした場合は2か月以内)に提出、労務の対価として相当な金額が条件
- 白色申告は給与を経費にできないが、事業専従者控除(配偶者は最高86万円、その他の親族は最高50万円)がある
- 専従者になった家族は、配偶者控除や扶養控除の対象外になる
原則:同じ生計の家族への給与は経費にならない
所得税法56条では、個人事業主と生計を一にする配偶者その他の親族が事業から受け取る対価は、事業主の経費にならず、家族の側でも所得にならないとされています。家族間で給与を払って所得を分散させることを防ぐための規定です。
逆に言えば、生計を別にしている親族(たとえば独立して別に暮らし、生活費も別の子ども)に払う給与は、通常の従業員と同じく、働きに見合う金額であれば経費になります。「生計を一にする」かどうかは、同居しているかだけでなく、生活費の負担の実態で判断されます。
例外:青色事業専従者給与の要件
青色申告の個人事業主は、次の要件をすべて満たせば、家族に払った給与を経費にできます(国税庁タックスアンサーNo.2075)。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族 |
| 年齢 | その年の12月31日時点で15歳以上 |
| 従事期間 | その年を通じて6か月を超える期間、その事業に専ら従事(開業・廃業・病気などの場合は、従事できる期間の2分の1超) |
| 届出 | 「青色事業専従者給与に関する届出書」を、経費にしたい年の3月15日まで(1月16日以後の開業や、新たに専従者ができた場合は2か月以内)に提出 |
| 支払い | 届出書に書いた方法・金額の範囲内で、実際に支払う |
| 金額 | 労務の対価として相当な金額。過大な部分は経費にならない |
「専ら従事」の判断
「専ら従事」しているかどうかは、その年を通じて6か月を超えるかで判定します。このとき、次の期間は専ら従事する期間に含まれません(所得税法施行令165条2項)。
- 昼間の学校に通う学生・生徒である期間(夜間に通学して昼間に事業に従事する場合などは除く)
- ほかに職業を持っている期間(その職業の時間が短いなど、専ら従事することが妨げられない場合は除く)
- 老衰や心身の障害で、事業に従事する能力が著しく損なわれている期間
「相当な金額」の判断
給与の額は、従事した期間、仕事の内容と程度、ほかの従業員の給与、同業で同規模の事業の専従者の給与、事業の規模と収益の状況などに照らして判断されます(所得税法施行令164条)。「同じ仕事を他人に頼んだらいくらか」を基準に考えると分かりやすいでしょう。
不動産の貸付けの場合は、貸付けが事業として行われていること(アパートならおおむね10室以上などが目安)が前提になります。不動産賃貸での扱いは不動産投資で家族に給与は払える?で解説しています。
白色申告の場合:事業専従者控除
白色申告では、家族に払った給与は経費にできません。その代わり、家族が専ら事業に従事している場合は、事業専従者控除を差し引けます。控除額は次のうち低いほうです。
- 配偶者は86万円、配偶者以外の親族は1人につき50万円
- 控除前の事業所得等の金額 ÷(専従者の数 + 1)
| 比較 | 青色事業専従者給与 | 事業専従者控除(白色) |
|---|---|---|
| 経費にできる額 | 届出の範囲内で、労務に見合う金額 | 配偶者86万円・その他50万円が上限 |
| 事前の届出 | 必要(3月15日まで等) | 不要(確定申告書に記載) |
| 実際の支払い | 必要 | 給与の支払いは要件ではない |
| 配偶者控除・扶養控除 | 受けられない | 受けられない |
働いている時間が長く、相当な金額が大きくなる家族がいる場合は、青色申告にして専従者給与を払う方法が検討の対象になります。青色申告の手続きは開業届と青色申告承認申請書をご覧ください。
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オンライン記帳・申告サポートを見る専従者給与を払うときの実務の注意点
1. 配偶者控除と比べて判断する
専従者になった家族は、配偶者控除・配偶者特別控除や扶養控除の対象になりません。給与を少額しか払わないなら、配偶者控除を受けたほうが有利な場合もあります。どちらが得かの考え方は配偶者控除と専従者給与、どちらが得?で解説しています。
2. 給与の支払者として源泉徴収をする
専従者給与は家族にとって給与所得です。事業主は給与の支払者として、毎月の源泉徴収と年末調整を行う必要があります。給与の支払いを始めるときは、税務署への届出も確認しましょう。源泉所得税の納付を年2回にまとめる方法は源泉所得税の納期の特例で扱います。
3. 実際に振り込み、仕事の記録を残す
給与は、届出書に書いた支給日に、家族名義の口座へ実際に振り込むのが基本です。未払いのまま積み上げたり、事業主の財布から生活費と一緒に渡したりすると、給与の実態を説明しにくくなります。あわせて、いつ、どんな仕事を、何時間したかを業務日報などで残しておきます。税務調査で否認された事例では、届出書の記載と説明の食い違いや、記録の乏しさが問題になっています。詳しくは家族への給与が否認された事例と記録の残し方をご覧ください。
4. 仕事が減ったら金額を見直す
外注やクラウド会計の活用で家族の仕事が減ったのに、給与だけ据え置くと、相当な金額を超えるおそれがあります。金額を変えるときは変更届出書を遅滞なく出します。
なお、法人(ひとり会社)で家族に給与を払う場合は、ルールの骨格がまったく違います。ひとり会社で家族に給与を払う:役員・従業員にする場合の注意点と、個人と法人を並べた家族への給与:個人事業主と法人の比較もあわせてご覧ください。
まとめ
- 同じ生計の家族への給与は原則として経費にならない。生計が別の親族なら通常の給与として扱える
- 青色申告なら青色事業専従者給与として経費にできる。15歳以上・6か月超の専従・3月15日までの届出・相当な金額が条件
- 白色申告は事業専従者控除(配偶者最高86万円、その他最高50万円)
- 専従者は配偶者控除・扶養控除の対象外。源泉徴収、実際の振込、仕事の記録まで整えておく
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