「家族に給与を払っていたら、税務調査で否認された」。家族への給与は、税務調査で否認されやすい項目の一つです。金額を自由に決めやすく、仕事の実態が外から見えにくいためです。
この記事では、国税不服審判所の公表裁決事例から、家族への給与が否認された5件を取り上げます。何が問題とされたのかを知れば、否認されないために残すべき記録が見えてきます。基本の要件は、個人事業主は青色事業専従者給与の要件、法人はひとり会社で家族に給与を払うをご覧ください。
- 否認の理由は大きく3つ:①事業や職務の実態がない(専ら従事していない)、②金額が労務に比べて過大、③届出・説明・記録が食い違う
- 個人では「夫婦の相互扶助の範囲」や「日常生活の一環」とされた手伝いは、事業への従事と認められなかった
- 金額は「ほかの従業員や同業者ならいくらか」と比べられる。パソコンのログのような客観的な記録が判断に使われた
- 法人でも、出社が月1〜2回程度の親族役員の報酬は、非常勤役員の水準を超える部分が損金不算入とされた
事例1:「専ら従事」の主張に一貫性がないとされた例
国税不服審判所 平成7年5月30日裁決(裁決事例集No.49 76頁)出典:国税不服審判所 公表裁決事例
不動産貸付業と理容業を営む個人が、配偶者を青色事業専従者として給与を経費にしていた事案です。配偶者が駐車場の台帳記入、賃料の督促、預金への入金、契約書の作成などを行い、1日10時間以上従事していると主張しました。
審判所は、業務を一つずつ検討し、駐車場の台帳記入などの事務量は限られること、賃料の多くが振込であることなどを認定しました。さらに、従事時間について届出書には1日5時間と書かれ、調査では3〜4時間と述べたあと8時間に訂正していたことから、主張には信ぴょう性がないとしました。結論として専ら従事していたとは認められず、専従者給与の経費算入は否認されました。
ポイント:届出書、調査での説明、実際の記録が食い違わないことが重要です。なお、この事例では、給与が否認された結果、配偶者の所得がなくなったため、配偶者控除の適用は認められています。
事例2:自宅での手伝いは「相互扶助の範囲」とされた例
国税不服審判所 平成19年1月18日裁決(裁決事例集No.73 168頁)出典:国税不服審判所 公表裁決事例
法律事務所に所属する弁護士の夫から、青色事業専従者給与を受けていた妻が審査請求をした事案です。妻は夫の事務所には勤務しておらず、自宅で確定申告の準備、銀行での手続き、現金の出納、書信のやり取りなどをしていると主張しました。
審判所は、確定申告書の作成準備や書信のやり取りなどは、夫婦の相互扶助の範囲内の行為、あるいは日常生活の一環として行われている行為であり、事業に従事しているとはいえないとしました。試算表の作成や銀行での手続きも、裏付けがなく、一時的・臨時的なものとされました。また、自宅に備え付けた「出勤簿」は、業務に従事したと本人が認識した日に押印するものにすぎず、夫婦で泊まりがけで出かけていた日にも押印があるなど、判断の根拠にならないとされました。
ポイント:家庭の中で行う手伝いは、事業の仕事として区別して記録しないと、事業への従事と認められにくくなります。自分たちで押印するだけの記録は、裏付けとしては弱いと考えてください。
事例3:金額が「労務の対価として過大」とされた例
国税不服審判所 平成21年6月3日裁決(裁決事例集No.77 42頁)出典:国税不服審判所 公表裁決事例
税理士業を営む個人が、資格のない妻を専従者とし、年1,240万〜1,280万円の専従者給与を経費にしていた事案です。
審判所は、妻と従業員それぞれの専用パソコンの起動・停止の記録(ログ)から稼働時間を集計し、妻の従事時間は、従業員のうち最も長い人の約1.21倍と認定しました。そのうえで、①その従業員の給与を1.21倍した金額、②同業で規模が似ている事業者の専従者の給与の平均をもとにした金額を算定し、高いほうを相当な金額としました。相当な金額は年約520万〜547万円とされ、これを超える部分は経費にならないとされました。
ポイント:金額の相当性は、ほかの従業員や同業者の給与と比べて判断されます。客観的な記録があったことで、従業員より長く働いていた点は認められました。記録は否認を防ぐだけでなく、正当な金額を説明する材料にもなります。
事例4:法人の親族役員の報酬が「不相当に高額」とされた例
国税不服審判所 平成20年11月14日裁決(裁決事例集No.76 285頁)出典:国税不服審判所 公表裁決事例
同族会社が、代表取締役の妻である取締役に役員報酬を払い、損金にしていた事案です。会社は、妻は経営方針の相談を受け、接待なども担う常勤役員だと主張しました。
審判所は、経営方針の決定や資金繰りなどの重要事項は他の役員が担っていたこと、妻の本社への出社は、従業員が充実してからは月に1〜2回程度だったこと、会社の作成した勤務実態の一覧でも接待などの従事日数は月平均2.5〜3.5日であり、それ以外の職務を裏付ける証拠がないことなどから、非常勤役員に当たると判断しました。そして、同業で売上規模が似ている法人の非常勤役員の報酬の平均額を超える部分は、不相当に高額として損金にならないとしました。
ポイント:法人なら専従の要件はありませんが、職務の実態と報酬の釣り合いは同じように問われます。
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オンライン記帳・申告サポートを見る事例5:不動産の貸付けが「事業」に当たらないとされた例
国税不服審判所 平成8年7月31日裁決(裁決事例集No.52 41頁)出典:国税不服審判所 公表裁決事例
建物1棟を1社に貸し、年約1,607万円の賃料収入を得ていた個人が、子を青色事業専従者として300万円を経費にしていた事案です。審判所は、貸付物件は1棟で借主も1社、貸付面積も22.8平方メートルにすぎず、維持管理の程度も低いことなどから、収入が大きくても貸付けは事業に当たらないとし、専従者給与の経費算入を否認しました。
ポイント:副業で不動産を貸している個人事業主が家族に給与を払う場合は、貸付けが事業として行われているか(アパートならおおむね10室以上などが目安)が前提になります。不動産賃貸での否認事例は家族への給与が否認された裁決事例(不動産賃貸)で詳しく扱っています。
否認された理由の整理
| 事例 | 個人/法人 | 否認の理由 | 判断に使われたもの |
|---|---|---|---|
| 1 平成7年5月30日 | 個人 | 専ら従事していない | 届出書の時間と説明の食い違い、業務量 |
| 2 平成19年1月18日 | 個人 | 相互扶助の範囲・日常生活の一環 | 業務の内容と頻度、自宅の出勤簿の信用性 |
| 3 平成21年6月3日 | 個人 | 金額が過大 | パソコンのログ、従業員・同業者の給与 |
| 4 平成20年11月14日 | 法人 | 親族役員の報酬が不相当に高額 | 出社日数、業務分担、類似法人の非常勤役員報酬 |
| 5 平成8年7月31日 | 個人 | 貸付けが事業に当たらない | 物件数、借主数、管理の程度 |
否認されないための記録
裁決事例で問題になった点を裏返すと、残すべき記録は次のとおりです。
- 業務日報:日付、時間、業務の内容を記録し、成果物(作成した請求書、帳簿の入力履歴、送信したメールなど)と対応させる
- 客観的なログ:会計ソフトや業務システムの操作履歴、パソコンのログ、メールの送信記録など、第三者が後から確認できるもの
- 届出書・契約と説明の一致:届出書に書いた仕事の内容・時間、雇用契約書、税務調査での説明が食い違わないようにする
- 金額の根拠:同じ仕事を外部に頼んだ場合の費用、時給換算、ほかの従業員の給与との比較をメモに残す
- 支払いの記録:毎月、家族名義の口座へ振り込む。生活費とまとめて現金で渡さない
- 毎年の見直し:仕事の量が減ったら金額も見直す
税務調査で家族への給与について聞かれたときの対応は、税務調査で言ってよいこと・言ってはいけないことも参考にしてください。
まとめ
- 家族への給与は、専ら従事・職務の実態、金額の相当性、説明と記録の一貫性の3点で否認されている
- 家庭の中の手伝いは「相互扶助の範囲」とされやすい。自分たちで押印するだけの記録は裏付けとして弱い
- 金額はほかの従業員や同業者の水準と比べられる。ログなどの客観的な記録は、正当な金額を説明する材料になる
- 法人でも、出社や職務の実態が乏しい親族役員の報酬は、相当額を超える部分が損金にならない
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