「会社にしたので、妻にも給与を払って所得を分けたい」。法人成りしたひとり会社の社長から、よくいただくご相談です。
個人事業主と違って、法人は家族に払う給与も原則として損金(経費)になります。ただし、家族を役員にするか、従業員にするかで守るべきルールが変わり、どちらの場合も職務に見合わない高額な部分は損金になりません。この記事では、ひとり会社で家族に給与を払うときの注意点を整理します。
- 法人には、個人事業主のような「同じ生計の家族への給与は経費にならない」という規定はない。実際に働き、職務に見合う金額なら損金になる
- 家族を役員にすると、定期同額給与・事前確定届出給与などの形でないと損金にならない。賞与は原則として損金にならない
- 社長が株式を持つひとり会社では、社長の配偶者は使用人兼務役員になれないのが一般的
- 家族を従業員にしても、役員の親族は特殊関係使用人として、不相当に高額な部分は損金にならない
- 社会保険は勤務の実態で加入が決まる。手取り・会社負担・配偶者控除への影響まで含めて金額を決める
法人なら家族への給与も損金になる、ただし条件つき
個人事業主の場合、生計を一にする家族への給与は原則として経費になりません(所得税法56条)。例外は青色事業専従者給与だけです(個人事業主の青色事業専従者給与)。
法人にはこの規定がないため、家族に払う給与も、ほかの役員・従業員と同じく損金になり得ます。一方で、家族への給与は金額を自由に決めやすいため、税務では職務の実態と金額の釣り合いが厳しく見られます。
| 項目 | 家族を役員にする | 家族を従業員にする |
|---|---|---|
| 主な規定 | 法人税法34条(役員給与) | 法人税法36条(過大な使用人給与) |
| 支給の形の制限 | 定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のいずれかでないと損金不算入 | 制限なし(毎月の給与・賞与とも可) |
| 金額の制限 | 不相当に高額な部分は損金不算入 | 特殊関係使用人の不相当に高額な部分は損金不算入 |
| 賞与 | 事前確定届出給与として届け出たものなどに限り損金 | 職務に見合う金額なら損金 |
| 期中の金額変更 | 原則として期首から3か月以内など | 原則として自由(相当性は必要) |
家族を役員にする場合
定期同額給与が基本
役員への給与は、定期同額給与(毎月同じ額)、事前確定届出給与(届け出た時期・金額どおりの支給)、一定の業績連動給与のいずれかに当たらないと損金になりません(法人税法34条1項、国税庁タックスアンサーNo.5211)。毎月の金額を変えられるのは、原則として事業年度開始から3か月以内の改定などに限られます。役員報酬の決め方と変更できる時期はひとり会社の役員報酬の決め方で詳しく解説しています。
不相当に高額な部分は損金にならない
形式を守っていても、役員の職務の内容、会社の収益、従業員の給与、同業で規模が似ている法人の役員給与などに照らして不相当に高額な部分は損金になりません(法人税法34条2項、同施行令70条)。
国税不服審判所の公表裁決では、代表者の配偶者である取締役が、月1〜2回程度しか出社せず重要な職務に従事していないとして、同業類似法人の非常勤取締役の報酬の平均額を超える部分が損金不算入とされた例があります(平成20年11月14日裁決、裁決事例集No.76)。この事例を含む否認事例は家族への給与が否認された事例で紹介しています。
配偶者は使用人兼務役員になれないのが一般的
取締役でも、部長などの使用人としての仕事を兼ねる使用人兼務役員なら、使用人分の給与・賞与は通常の従業員と同じように扱えます。ただし、同族会社の役員で、一定の持株要件を満たす人は使用人兼務役員になれません(法人税法施行令71条1項5号)。この持株の判定では、本人の配偶者の持株も合わせて判断します。社長が株式の100%を持つひとり会社で、社長の配偶者が取締役になる場合は、この要件に当たり、使用人兼務役員にはなれないのが一般的です。
家族を従業員にする場合
特殊関係使用人の給与
家族を役員にせず、従業員として雇うこともできます。この場合、支給の形の制限はありませんが、役員の親族、事実上の婚姻関係にある人などは特殊関係使用人に当たり(法人税法施行令72条)、職務の内容、会社の収益、ほかの従業員の給与、同業同規模の法人の従業員の給与に照らして不相当に高額な部分は損金になりません(法人税法36条、同施行令72条の2)。
「みなし役員」に注意
登記上は役員でなくても、会社の経営に従事している人は、税務上「みなし役員」として役員の扱いを受けることがあります(法人税法2条15号、同施行令7条)。同族会社の従業員で、一定の持株要件を満たし、経営に従事している家族も同様です。社長と一緒に経営の判断をしている配偶者を「従業員」として扱っても、役員給与のルールが適用される可能性がある点に注意が必要です。
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オンライン記帳・申告サポートを見る社会保険と配偶者控除への影響
社会保険は勤務の実態で決まる
法人は、ひとり会社でも健康保険・厚生年金保険の適用事業所です。家族を役員にして報酬を払う場合や、従業員として1週の所定労働時間と1か月の所定労働日数が通常の従業員の4分の3以上の場合は、原則として被保険者になります(日本年金機構「適用事業所と被保険者」)。被保険者になれば、社長の健康保険の被扶養者からは外れ、保険料は会社と本人で負担します。社会保険の考え方はひとり会社でも社会保険に入らないといけない?をご覧ください。
配偶者控除
配偶者に給与を払うと、社長本人の配偶者控除・配偶者特別控除に影響します。令和8年分は、配偶者の給与収入が136万円以下(合計所得金額62万円以下)なら配偶者控除の対象です(国税庁タックスアンサーNo.1191。令和8年12月1日施行の改正による金額)。それを超えると配偶者特別控除に移り、所得に応じて控除額が減っていきます。
給与を払うことで会社の損金は増えますが、家族の所得税・住民税、社会保険料、社長の配偶者控除まで合わせて見ると、世帯全体の手取りがどう変わるかは個別に計算しないと分かりません。
認められるための記録
- 役員なら:株主総会・取締役会の議事録、担当業務(経理、総務、営業など)の分担表、実際に作成した書類や送ったメール
- 従業員なら:雇用契約書(労働条件通知書)、勤務時間の記録、業務日報
- 共通:給与は家族名義の口座へ毎月振り込む。金額を決めた根拠(同じ仕事を外部に頼んだ場合の費用、時給換算など)をメモに残す
家族への給与を個人事業主と法人で比べた整理は、家族への給与:個人事業主と法人の比較にまとめています。
まとめ
- 法人なら家族への給与も損金になり得る。前提は実際の職務と、それに見合う金額
- 家族を役員にすると、定期同額給与などの形が必要で、賞与は事前確定届出給与でないと原則として損金にならない。社長の配偶者は使用人兼務役員になれないのが一般的
- 従業員にしても、特殊関係使用人として不相当に高額な部分は損金不算入。経営に従事していればみなし役員になることもある
- 社会保険・配偶者控除への影響まで含めて金額を決め、議事録・勤務記録・振込の記録を残す
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