家族への給与

家族への給与は個人事業主と法人でどう違う?要件・賞与・社会保険・否認時の影響を比較

「個人事業主のままと、法人にするのとでは、家族への給与の扱いはどう違うの?」。法人成りを検討している方から、よくいただく質問です。

個人事業主は、同じ生計の家族への給与を原則として経費にできず、青色事業専従者給与の要件を満たした場合だけ経費になります。法人は家族への給与も損金になり得ますが、役員給与のルールと金額の相当性が問われます。この記事では、両者を表で並べて比べます。

この記事の結論
  • 個人事業主:原則は経費にならない。青色申告で、15歳以上・年6か月超の専従・事前の届出・相当な金額がそろえば経費になる
  • 法人:原則として損金になり得る。ただし家族が役員なら定期同額給与などの形が必要で、役員でも従業員でも不相当に高額な部分は損金不算入
  • 個人は「専ら従事」が必要なのでパート的な関わりでは使いにくい。法人は短時間の勤務でも、働いた分に見合う給与なら損金になり得る
  • 否認されたときは、法人のほうが会社と家族の両方に税負担が残りやすい

個人事業主と法人の比較表

項目個人事業主法人(ひとり会社)
基本の考え方生計を一にする親族への対価は経費にならない(所得税法56条)家族への給与も損金になり得る
経費にする方法青色事業専従者給与(同57条)/白色は事業専従者控除役員給与または従業員の給与
事前の手続き届出書を原則3月15日までに提出役員は株主総会等で報酬を決議。賞与は事前確定届出給与の届出
働き方の条件年6か月超、専ら従事(学生・他に職業がある期間は原則除く)専従の要件はない。職務の実態は必要
金額の基準労務の対価として相当な金額職務に照らして不相当に高額な部分は損金不算入(法人税法34条2項・36条)
毎月の金額の変更変更届出書を提出役員は原則として期首から3か月以内などに限る
賞与届出書に記載した範囲で支給可役員は事前確定届出給与などに限り損金。従業員は可
不動産賃貸の場合事業的規模(アパートおおむね10室以上など)が前提規模の要件はない
配偶者控除専従者は対象外給与収入に応じて対象になり得る(令和8年分は給与収入136万円以下で配偶者控除)
社会保険個人事業の家族は会社の社会保険とは別(国民健康保険・国民年金が基本)役員報酬あり、または4分の3基準を満たす従業員は原則加入
否認されたとき事業主の経費から外れ、家族の所得もなかったものとされる会社で損金不算入。家族側は給与所得として課税されたまま

個人事業主の要件の詳細は個人事業主の青色事業専従者給与、法人の詳細はひとり会社で家族に給与を払うをご覧ください。

違い1:「専ら従事」の有無

個人事業主の専従者給与は、家族がその年を通じて6か月を超えて専ら事業に従事していることが前提です。ほかの会社でパートをしている、学生である、といった期間は原則として専ら従事する期間に含まれません(所得税法施行令165条)。週に数時間だけ経理を手伝うような関わり方では、専従者給与を使うのは難しいのが実情です。

法人には専従の要件がありません。週に数日、数時間の勤務でも、働いた時間と内容に見合う給与なら損金になり得ます。家族の関わり方が「ときどき手伝う」程度なら、法人のほうが実態に合った給与を払いやすいといえます。

違い2:金額の決め方と変更のしやすさ

個人事業主は、届出書に記載した金額の範囲内で支給し、増額するときは変更届出書を出します。法人で家族を役員にした場合は、期首から3か月以内に決めた金額を毎月同額で払う定期同額給与が基本で、期の途中で業績を見ながら増減することはできません。役員報酬の決め方はひとり会社の役員報酬の決め方で解説しています。

どちらの場合も、金額は「同じ仕事を他人に頼んだらいくらか」が基準です。国税不服審判所の公表裁決では、個人の専従者給与でも、法人の親族役員の報酬でも、ほかの従業員や同業者の給与水準と比べて相当額を超える部分が否認された例があります。具体的な事例は家族への給与が否認された事例で紹介しています。

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違い3:否認されたときの影響

個人事業主の専従者給与が否認されると、事業主の経費から外れますが、所得税法56条により家族の側でもその給与はなかったものとされます。公表裁決(平成7年5月30日裁決、裁決事例集No.49)では、専従者給与が否認された結果、配偶者の所得がなくなり、配偶者控除の適用が認められた例もあります。

法人では、家族の給与の一部が損金不算入とされても、受け取った家族の側では給与所得として課税されたままです。会社の法人税が増え、家族の所得税も減らないため、税負担の面では二重の影響が残ります。

どちらが向いているか:判断のポイント

  • 家族がフルタイムで事業に関わっている:個人の専従者給与でも、法人の給与でも対応できる。利益の水準と社会保険の負担で比べる
  • 家族の関わりが週数日・短時間:個人では専従の要件を満たしにくい。法人なら働いた分の給与を払える
  • 配偶者控除を受けている:個人で専従者にすると配偶者控除がなくなる。法人で給与を払う場合も、給与収入の水準で控除が変わる
  • 社会保険の負担を抑えたい:法人で役員にしたり、一定以上の時間働く従業員にしたりすると社会保険の加入が必要になる

家族への給与だけで法人化を決めるのではなく、法人の維持費や社会保険料も含めて比べることが大切です。法人化の目安は法人成りの目安はいくらから?をご覧ください。

まとめ

  • 個人事業主は、家族への給与は原則として経費にならず、青色事業専従者給与の要件を満たした場合だけ経費になる
  • 法人は家族への給与も損金になり得るが、役員なら定期同額給与などの形が必要で、不相当に高額な部分は損金不算入
  • 個人は専ら従事が条件、法人は短時間の勤務でも実態に見合う給与を払える
  • 否認されたときは、法人のほうが会社と家族の両方に税負担が残りやすい。社会保険・配偶者控除まで含めて設計する

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よくある質問

家族への給与のためだけに法人化するのは得策ですか?
家族への給与の自由度だけで法人化を決めるのはおすすめしません。法人には、均等割、社会保険料、税理士費用などの維持費がかかり、役員給与には期中に変えにくいという制約もあります。家族の働き方、事業の利益の水準、社会保険の負担を含めて比べたうえで判断してください。
個人事業主のときの専従者給与と同じ金額を、法人でもそのまま払えますか?
職務の内容が同じで、金額がその職務に見合っていれば、同じ水準で払うこと自体は問題ありません。ただし、法人では家族を役員にするか従業員にするかで支給の形のルールが変わり、役員なら事業年度開始から3か月以内に決めた毎月同額の給与が基本です。社会保険の加入や配偶者控除への影響も変わるため、法人成りのタイミングで改めて設計し直すのが安全です。
否認されたときの影響は、個人と法人でどちらが大きいですか?
一般に法人のほうが影響が大きくなりやすいといえます。個人事業主の専従者給与が否認されると、事業主の経費から外れる一方、家族の側でもその給与はなかったものとされます。法人で家族の給与の一部が損金不算入とされても、受け取った家族の側では給与所得として課税されたままなので、会社と家族の両方で税負担が残ります。

※本記事は2026年10月25日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
※本記事の無断転載・複製、商用目的での利用はお断りします。引用の際は、出典(税理士法人クレフティ・記事URL)を明記してください。

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