不動産とHD

小さなビル・アパートを持つ会社のHD化は得か?向くケース・向かないケースと費用の目安

「小さなビルを1棟持っている会社でも、HD(ホールディングス)にした方がよいのか」。不動産を持つ会社のオーナーから、よくいただく質問です。HD化の効果を紹介する記事は多いものの、小さなビル・アパートを持つ会社のHD化が得かどうかは、会社の規模と今後の計画で答えが変わります。

結論から言えば、物件が1〜2棟で、今後も大きく増やす予定がない会社では、HD化の効果は限られることが多くなります。この記事では、その理由と、HD化が向くケース、HD以外の選択肢を整理します。

この記事の結論
  • 小さな不動産会社は小会社に区分されやすく、総資産が少なければ土地保有特定会社にも当たらない。もともと評価の選択肢がある
  • HDを上に置くと、HDは株式等保有特定会社として純資産価額で評価されやすい
  • 含み益の38%控除が効くのは、HD化の後に増えた価値だけ。価値が伸びない会社では効果が小さい
  • HDには毎年の維持コスト(均等割・申告・税理士報酬)がかかる
  • 1社だけなら、株式の生前贈与・種類株式・遺言の方が手軽なことが多い。複数法人や本業がある場合はHD化を検討する

小さな不動産会社の株価はどう評価されるか

取引相場のない株式は、会社の規模(大会社・中会社・小会社)で評価方法が変わります。不動産賃貸業は「卸売業、小売・サービス業以外」に区分され、従業員が5人以下で、年間の取引金額(家賃収入など)が8,000万円未満なら、総資産にかかわらず小会社です(財産評価基本通達178)。

区分(卸売業、小売・サービス業以外)主な基準評価方法
小会社総資産5,000万円未満または従業員5人以下で、取引金額8,000万円未満純資産価額、または類似業種比準価額×0.5+純資産価額×0.5の低い方
中会社従業員70人未満で、総資産5,000万円以上(従業員5人超)または取引金額8,000万円以上類似業種比準価額と純資産価額の併用

小会社の場合、土地保有特定会社の判定は総資産の規模で変わります(同189(3))。

  • 総資産(帳簿価額)が5,000万円未満の小会社:土地の割合が高くても、土地保有特定会社には当たらない
  • 総資産が5,000万円以上15億円未満の小会社:土地等の割合が90%以上なら土地保有特定会社
  • 総資産が15億円以上の小会社:土地等の割合が70%以上なら土地保有特定会社

土地保有特定会社に当たると、純資産価額で評価されます。判定の詳細は土地保有特定会社とHDをご覧ください。

HDを上に置くと何が変わるか

小さなビル会社をHD化した場合の評価のイメージ
HD化しない
オーナー
↓ 100%
ビル会社小会社として評価
HD化する
オーナー
↓ 100%
HD資産はビル会社株式だけ→株式等保有特定会社
↓ 100%
ビル会社
HDの株価は純資産価額が中心。38%控除が効くのはHD化の後のビル会社の値上がり分だけ

HDの資産がビル会社の株式だけなら、HDは株式等の割合が50%以上の株式等保有特定会社となり、原則として純資産価額で評価されます(財産評価基本通達189(2)・189-3)。HDの純資産価額の中で、ビル会社の株式はビル会社自体の評価額で計上されます。

HD化の株価の効果は、主に含み益の38%控除から生まれます(同186-2)。ただし、株式移転などで受け入れた時点の含み益にはこの控除が働かず(同186-2(2)の現物出資等受入れ差額)、効くのはHD化の後にビル会社の価値が増えた分です。

小さなビル会社は、家賃収入が大きく伸びることは少なく、建物は毎年減価償却されます。利益を内部に貯めていけば純資産は増えますが、急成長する事業会社ほどの値上がりはありません。そのため、38%控除による評価の差は、数十年単位で見ても大きくならないことが多いのです。考え方と試算はHD化で株価が下がる仕組みで解説します。

HDにかかる維持コスト

HDを1社増やすと、毎年次のようなコストがかかります。

項目中身
法人住民税の均等割赤字でもかかる。資本金等と従業者数で決まる
決算・申告法人税・地方税の申告、税理士報酬
登記・総会役員の任期ごとの変更登記、株主総会の運営
銀行・事務口座の管理、グループ内の契約書(経営指導料・貸付など)

費用の全体像はHDの維持コスト:均等割・会計・申告・管理料、HD化そのものの費用はHD化にかかる費用と期間をご覧ください。小さなビル会社では、この毎年のコストが株価の効果を上回ることもあります。

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HD化が向くケース・向かないケース

向くケース向かないケース
本業の事業会社と不動産会社の両方がある1〜2棟のビル・アパートを持つ会社だけ
物件法人が複数あり、株主を1社にまとめたい物件を今後増やす予定がない
物件を買い増し、会社の価値を伸ばしていく会社の価値が大きく伸びる見込みがない
事業と不動産を別の家族に継がせたい後継者が1人で、株式をそのまま渡せばよい
グループで借入を組み、融資を受け続けたいHDの維持コストを負担に感じる

本業がある経営者や、物件法人が複数ある投資家なら、HD化には承継の単位をまとめる、グループで借入を組むといった効果があります(不動産投資家のHD化、資産管理会社とHD)。一方、小さなビル会社が1社だけなら、次のような方法の方が手軽です。

  • 株式の生前贈与:株価が低いうちに、後継者へ少しずつ、または相続時精算課税で贈与する(HD株式を後継者に贈与する)
  • 種類株式:議決権のない株式や拒否権付き株式で、経営権と財産を分ける(事業承継での種類株式の活用)
  • 遺言・家族信託:誰が株式を継ぐかを決め、認知症などに備える

銀行から見た小さなビル会社

金融機関は、小さなビル会社をHD化したかどうかより、家賃で借入を返せているか、純資産が積み上がっているかを見ます。HDを挟んで法人が増えると、決算書が2社分になり、かえって説明が複雑になることもあります。今後、物件を買い増して融資を受け続けたいなら、まずはビル会社の決算書を強くすること、著書のモデルでいう「正常先+純資産1億円」を目指すことの方が効果的です(純資産1億円を目指す不動産会社)。

まとめ

小さなビル・アパートを持つ会社は小会社に区分されやすく、総資産が少なければ土地保有特定会社にも当たりません。HDを上に置いても、HDは株式等保有特定会社として純資産価額で評価されやすく、38%控除が効くのはHD化の後の値上がり分だけです。物件が少なく、今後も大きく増やさない会社では、HDの維持コストに見合う効果が出にくいことが多いでしょう。

HD化が意味を持つのは、本業がある、法人が複数ある、物件を増やしていく、事業と不動産を分けて継がせたい、といったケースです。自社がどちらに当たるかを、株価の試算と維持コストを並べて判断することをおすすめします。

よくある質問

アパート1棟を持つ法人でも、HD化した方がよいですか?
多くの場合、急いでHD化する必要はありません。HDの株式は株式等保有特定会社として純資産価額で評価されやすく、含み益の38%控除が効くのはHD化の後に増えた価値の分だけです。物件の価値が大きく増えない1棟だけの法人では、HDの維持コストに見合う効果が出にくいことがあります。後継者への株式の贈与や種類株式の方が手軽な場合もあります。
小さな不動産会社の株価は、どう評価されますか?
従業員が5人以下などで小会社に区分されることが多く、純資産価額か、類似業種比準価額と純資産価額を半分ずつ使う方法の低い方で評価します(財産評価基本通達179)。総資産が少ない小会社は、土地の割合が高くても土地保有特定会社には当たりません。総資産が5,000万円以上(卸売業・小売・サービス業以外)の小会社は、土地等の割合が90%以上だと土地保有特定会社になります。
HD化が向いているのはどんな会社ですか?
本業の事業会社と不動産会社の両方がある、法人が複数ある、今後も物件を買い増して会社の価値を伸ばしていく、事業と不動産を別の家族に継がせたい、といった会社です。こうした場合は、承継の単位をHD株式にまとめる効果や、将来の値上がり分に38%控除が効く効果が大きくなります。

※本記事は2026年10月30日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
※本記事の無断転載・複製、商用目的での利用はお断りします。引用の際は、出典(税理士法人クレフティ・記事URL)を明記してください。

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