「個人事業はそのままにして、小さな会社も作ると社会保険料が下がるらしい」——いわゆるマイクロ法人、個人事業と法人の二刀流についてのご質問が増えています。仕組みとしては成り立ちますが、事業をどう分けるかを誤ると、税務調査で否認されたり、手間とコストだけが増えたりします。
この記事では、国税庁・日本年金機構などの一次情報をもとに、マイクロ法人の仕組みと注意点を整理します。個人事業を会社に切り替える一般的な法人成りについては、法人化のメリット・デメリットをご覧ください。
- マイクロ法人は、個人事業を続けたまま会社も持ち、別々の事業を行う形
- 社長は会社の健康保険・厚生年金に入り、保険料は役員報酬だけで決まる。個人事業の所得は保険料の計算に入らない
- 前提は、個人と会社の事業が実態として分かれていること。同じ事業を名義だけ分けると否認されるおそれがある
- 会社には赤字でも住民税の均等割がかかり、帳簿・申告も2つ分になる
- 役員報酬が低いと、将来の厚生年金や傷病手当金なども少なくなる
マイクロ法人の仕組み
マイクロ法人という言葉は法律用語ではありません。一般に、社長1人の小さな会社を作り、個人事業とは別の事業を会社で行う形を指します。
| 項目 | 個人事業 | 会社(マイクロ法人) |
|---|---|---|
| 行う事業 | 例:デザイン業 | 例:コンサルティング業、不動産賃貸業 |
| 税金 | 所得税・住民税・個人事業税 | 法人税・法人住民税・法人事業税 |
| 社会保険 | 個人としては加入しない(会社の社会保険に入るため) | 健康保険・厚生年金保険(役員報酬から計算) |
| 帳簿・申告 | 確定申告(青色申告) | 法人の決算・申告 |
| 消費税 | 個人として判定 | 会社として判定 |
なぜ社会保険料が変わるのか
社長は会社の社会保険に入る
日本年金機構の「適用事業所と被保険者」では、法人の事業所は事業主のみの場合でも厚生年金保険の適用事業所になるとされています。役員報酬を受け取る社長は被保険者になり、国民年金の第2号被保険者になるため、個人で国民年金保険料を払う必要がなくなり、国民健康保険からも外れます。
保険料は役員報酬だけで決まる
会社の社会保険料は、役員報酬から決まる標準報酬月額に保険料率をかけて計算します。厚生年金保険料率は18.3%で、標準報酬月額は1等級8万8千円から32等級65万円まで(日本年金機構「厚生年金保険の保険料」)。個人事業の所得は、この計算に入りません。
一方、国民健康保険料は前年の所得をもとに計算されるため、個人事業の所得が大きいほど高くなります。マイクロ法人が注目されるのはこの違いからです。保険料の具体的な比べ方は、国民健康保険・国民年金と社会保険の比較と役員報酬と社会保険料の関係で解説しています。
注意点1:事業の実態を分ける
最も大切なのは、個人と会社で別々の事業を、実態をもって行うことです。
税法には、名義上の人ではなく、実際に収益を得ている人に課税するという考え方があります(所得税法12条、法人税法11条の実質所得者課税)。また、同族会社の取引で税負担を不当に減らすものは、税務署長が否認できる規定もあります(法人税法132条)。
| チェックする点 | 分かれている状態の例 |
|---|---|
| 契約・請求 | 会社の仕事は会社名で契約し、会社名で請求している |
| 仕事の内容 | 個人と会社で、提供するサービスや取引先がはっきり違う |
| お金の流れ | 入金口座・支払口座が個人と会社で分かれている |
| 経費 | 共通の経費(家賃・通信費など)を、根拠をもって按分している |
| 個人と会社の取引 | 業務委託料などは契約書を作り、相場に見合った金額にしている |
同じ仕事の売上の一部を会社に付け替えたり、実態のない業務委託料を個人から会社に払ったりすると、税務調査で否認されるおそれがあります。社会保険の加入についても、労務の対償として報酬を受けているかなど、実態で判断されます。どこまで分ければよいかは、個別の事情によって判断が分かれます。
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オンライン記帳・申告サポートを見る注意点2:会社の維持費と手間
会社は、利益が出ていなくても費用がかかります。
- 法人住民税の均等割:赤字でもかかる。東京都の特別区だけに事務所がある小さな会社では年7万円(東京都主税局)
- 社会保険料:役員報酬に応じて、会社負担と本人負担の両方がかかる
- 帳簿・申告:個人の確定申告と、会社の決算・法人税申告の2つが必要
- 源泉徴収・年末調整:役員報酬から源泉徴収し、納付する
会社の維持費はひとり会社の維持費で詳しく整理しています。社会保険料の差額が、これらの費用と手間を上回るかを、実際の数字で確かめることが出発点です。
注意点3:給付が少なくなる・消費税の判定
役員報酬を低く抑えると、保険料が下がる分、将来の厚生年金、病気やけがで休んだときの傷病手当金などの給付も小さくなります。保険料だけでなく、給付も含めて考えましょう。
消費税は、個人と会社でそれぞれ課税事業者かどうかを判定します。ただし、同じ事業を2つに分けて売上を小さく見せるような形は、前の章の実態の問題になります。インボイス登録の判断はインボイス登録はすべき?をご覧ください。
まとめ
- マイクロ法人は、個人事業と会社で別々の事業を行う形。社会保険料は役員報酬だけで決まる
- 契約・仕事・お金の流れが分かれていないと、実質所得者課税などで否認されるおそれがある
- 会社には均等割などの維持費があり、帳簿と申告も2つになる
- 保険料が下がる分、厚生年金などの給付も小さくなる
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