「法人化すると社会保険に入ることになるけれど、国民健康保険・国民年金と比べて損なのか得なのか」。法人化を考える個人事業主の方から、必ずといっていいほど出るご質問です。
結論からいうと、保険料の額だけを比べると、国民健康保険・国民年金のほうが安くなることが多いです。一方、社会保険(健康保険・厚生年金保険)は、家族の扶養、病気や出産のときの手当金、将来の厚生年金といった給付が手厚くなります。
また、どちらに入るかは自由に選べるわけではなく、個人事業か法人かという事業の形で決まります。この記事では、両者の違いを表で比べ、判断の考え方を整理します。
- 個人事業主本人は国民健康保険・国民年金。法人の役員報酬を受け取る社長は社会保険に加入する
- 保険料は、国民年金は定額、国民健康保険は前年の所得と人数、社会保険は報酬で決まる
- 社会保険は会社負担分を含めると保険料は高くなりやすいが、扶養・手当金・厚生年金の給付がある
- 「保険料が安いほうが得」とは言い切れない。家族構成、将来の年金、働けなくなったときの備えで考える
どちらに入るかは事業の形で決まる
| 立場 | 医療保険 | 年金 |
|---|---|---|
| 個人事業主本人 | 国民健康保険(または業種の国民健康保険組合) | 国民年金(第1号被保険者) |
| 法人の社長(役員報酬あり) | 健康保険(協会けんぽなど) | 厚生年金保険(国民年金の第2号被保険者) |
| 法人の社長(役員報酬なし) | 国民健康保険 | 国民年金 |
法人の事業所は、社長1人でも健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所です(日本年金機構「適用事業所と被保険者」)。役員報酬を受け取る社長は被保険者になるため、「国民健康保険のままでいたい」という選択はできません。詳しくはひとり会社でも社会保険に入らないといけない?をご覧ください。
保険料の決まり方の違い
| 項目 | 国民健康保険・国民年金 | 社会保険(健康保険・厚生年金) |
|---|---|---|
| 年金の保険料 | 定額:月17,920円(2026年度) | 報酬(標準報酬月額)×18.3%を会社と本人で折半 |
| 医療保険の保険料 | 前年の所得に応じた所得割+加入者ごとの均等割など。市区町村ごとに違う | 報酬×健康保険料率(東京都は9.85%)を折半 |
| 保険料の上限 | 国民健康保険は年間合計113万円(2026年度、介護分を含む) | 標準報酬月額の上限(健康保険139万円、厚生年金65万円) |
| 家族の保険料 | 加入者1人ごとに均等割がかかる | 被扶養者は追加の保険料なし |
| 配偶者の年金 | 配偶者も自分で国民年金を納める | 要件を満たせば第3号被保険者(自分で納めない) |
出典:日本年金機構「国民年金保険料」、協会けんぽ「令和8年度保険料率」、横浜市・新宿区の国民健康保険料の案内(令和8年度の賦課限度額)
2026年4月分からは、健康保険に子ども・子育て支援金(協会けんぽは0.23%を折半)が加わり、国民健康保険にも子ども・子育て支援金分が新設されています。
試算例:所得300万円の個人事業主と、月30万円のひとり会社の社長
単身・40歳未満で、東京都新宿区の2026年度の国民健康保険料の概算早見表と、協会けんぽ東京支部の保険料額表をもとにした年額の目安です。
| 個人事業主(総所得金額等300万円) | ひとり会社の社長(役員報酬 月30万円) | |
|---|---|---|
| 医療保険 | 国民健康保険 約33.9万円 | 健康保険(子ども・子育て支援金を含む) 約36.3万円(会社と本人の合計) |
| 年金 | 国民年金 約21.5万円 | 厚生年金 約65.9万円(会社と本人の合計) |
| その他 | ― | 子ども・子育て拠出金 約1.3万円(会社のみ) |
| 合計 | 約55.4万円 | 約103.5万円(うち本人負担 約51.1万円) |
※国民健康保険料は前年の所得をもとに計算され、市区町村によって大きく変わります。
本人負担だけを見ると近い水準ですが、ひとり会社では会社負担分も自分の事業の利益から出るため、合計では社会保険のほうが重くなります。ただし、その差の大部分は厚生年金で、将来の年金として返ってくる部分です。
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オンライン記帳・申告サポートを見る給付の違い
| 給付 | 国民健康保険・国民年金 | 社会保険 |
|---|---|---|
| 病院での自己負担 | 原則3割 | 原則3割 |
| 傷病手当金(病気・けがで働けないとき) | 原則なし(市区町村の条例で定める任意給付) | あり(報酬に応じて支給) |
| 出産手当金 | 原則なし(任意給付) | あり |
| 老後の年金 | 老齢基礎年金のみ | 老齢基礎年金+老齢厚生年金 |
| 障害・遺族の年金 | 基礎年金のみ | 基礎年金+厚生年金の上乗せ |
ひとり会社や個人事業主にとって、自分が働けなくなったときの備えは大切です。社会保険の傷病手当金は、国民健康保険にはない(原則として任意給付)大きな違いです。
どう考えて選べばいいか
社会保険の加入は、法人化するかどうかとセットで決まります。判断のポイントは次のとおりです。
- 家族構成:扶養する家族が多いほど、社会保険の扶養のメリットが大きくなる
- 将来の年金:老後の収入を厚くしたいなら、厚生年金はその手段の一つ。国民年金だけの場合は、付加年金や国民年金基金、iDeCo、小規模企業共済などで自分で備える
- 働けなくなったときの備え:傷病手当金の有無を、民間の保険とあわせて考える
- 事業の利益の水準:保険料の負担と、法人化による税金の変化を合わせて比べる(個人と法人、どっちが税金はお得?)
なお、個人事業主が、会費などを払って別の法人の役員になり、少額の報酬で社会保険に加入するといった仕組みについて、厚生労働省は2026年3月と9月に通知を出しています。役員報酬を上回る会費などを法人に払っている場合は、原則として業務の対価としての経常的な支払いとは認められず、被保険者資格を有しないとする取扱いが示されています(令和8年9月14日付 保保発0914第1号・年管管発0914第1号)。保険料を下げることだけを目的にした仕組みには注意が必要です。
役員報酬と保険料の関係は役員報酬と社会保険料の関係、従業員の社会保険の任意適用については個人事業の従業員を社会保険に入れられる?もご覧ください。
まとめ
- 個人事業主本人は国民健康保険・国民年金、役員報酬を受け取る社長は社会保険に加入する
- 保険料の額だけなら、国民健康保険・国民年金のほうが安くなることが多い
- 社会保険は、扶養、傷病手当金・出産手当金、厚生年金といった給付が手厚い
- 家族構成、将来の年金、働けなくなったときの備え、事業の利益の水準を合わせて判断する
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