「個人事業主と法人、どちらが税金は安くなるのか」。法人化を考えるとき、最初に気になるのがこの疑問です。
結論からいうと、税金だけを比べれば、利益が大きいほど法人のほうが有利になります。ただし、法人化すると社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が必要になり、その負担を含めると、法人が有利になる所得の水準は上がります。さらに、法人の試算では、会社に残った利益を後でどう使うかという問題も残ります。
この記事では、2026年時点の税率と給与所得控除で、個人と法人の負担を所得別に試算します。
- 税金だけなら、この記事の前提では事業の利益500万円でほぼ同じ水準、それより上では法人のほうが軽い
- 社会保険料を含めると、500万円では個人のほうが負担は小さく、法人が有利になるのは800万円前後から
- 法人の試算には「会社に残る利益」があり、個人に移すときに再び税金がかかる
- 社会保険料は給付にもつながる。税金だけ、保険料だけで決めない
個人と法人の税金の仕組み
| 項目 | 個人事業主 | 法人(ひとり会社) |
|---|---|---|
| 利益にかかる国の税金 | 所得税(5〜45%の累進)+復興特別所得税(所得税額の2.1%) | 法人税:年800万円以下の部分15%、超える部分23.2%(中小法人)+地方法人税(法人税額の10.3%) |
| 地方の税金 | 住民税10%(所得割)+均等割、個人事業税(多くの業種で5%、事業主控除290万円) | 法人住民税(法人税割+均等割)、法人事業税(3.5%〜7.0%)+特別法人事業税 |
| 社長の給料 | 経費にならない | 役員報酬は会社の費用。社長個人は給与所得控除を使える |
| 社会保険 | 国民健康保険・国民年金 | 健康保険・厚生年金(社長1人でも加入義務) |
出典:国税庁タックスアンサーNo.2260(所得税の税率)、No.5759(法人税の税率)、東京都主税局「法人事業税・法人都民税」
2026年分の主な控除
2026年(令和8年)分の所得税では、基礎控除と給与所得控除が引き上げられています(国税庁タックスアンサーNo.1199、No.1410)。
| 控除 | 2026年分の内容 |
|---|---|
| 基礎控除(所得税) | 合計所得金額489万円以下は104万円、489万円超655万円以下は67万円、655万円超2,350万円以下は62万円 |
| 給与所得控除 | 最低74万円(給与収入220万円まで)、上限195万円(給与収入850万円超) |
| 基礎控除(住民税) | 43万円(合計所得金額2,400万円以下) |
役員報酬を受け取る社長は、この給与所得控除を使えることが、法人化で税金が軽くなる理由の一つです。
所得別の試算
試算の前提
- 「事業の利益」は、個人なら青色申告特別控除前の所得、法人なら役員報酬と社会保険料の会社負担を払う前の利益
- 単身、40歳未満、東京都(法人は23区内)、ほかの所得や控除はなし。個人は青色申告特別控除65万円
- 国民健康保険料は東京都新宿区の2026年度の概算早見表、社会保険料は協会けんぽ東京支部の2026年度の保険料額表で計算
- 法人は資本金1,000万円以下、12か月の事業年度、地方税は標準税率。消費税、税理士費用、配当は考えない
- 役員報酬は、利益の6割前後を毎月同額で払う設定
個人事業主の場合
| 事業の利益 | 所得税 | 住民税 | 個人事業税 | 税金の合計 | 国民健康保険+国民年金 | 総負担 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 500万円 | 16.8万円 | 32.8万円 | 10.5万円 | 60.1万円 | 69.2万円 | 129.2万円 |
| 800万円 | 73.2万円 | 59.6万円 | 25.5万円 | 158.3万円 | 100.9万円 | 259.2万円 |
| 1,000万円 | 112.6万円 | 78.0万円 | 35.5万円 | 226.1万円 | 117.1万円 | 343.1万円 |
| 1,500万円 | 266.2万円 | 127.9万円 | 60.5万円 | 454.6万円 | 117.5万円 | 572.1万円 |
| 2,000万円 | 434.6万円 | 177.9万円 | 85.5万円 | 698.1万円 | 117.5万円 | 815.6万円 |
国民健康保険料は年間の上限(2026年度は介護分を除き96万円)に達すると頭打ちになります。
法人(ひとり会社)の場合
| 事業の利益 | 役員報酬(年) | 会社に残る利益(税引前) | 法人税等 | 社長の所得税・住民税 | 税金の合計 | 社会保険料(会社+本人) | 総負担 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 500万円 | 312万円 | 142.6万円 | 38.9万円 | 16.0万円 | 54.9万円 | 89.7万円 | 144.6万円 |
| 800万円 | 492万円 | 236.4万円 | 59.9万円 | 33.1万円 | 93.1万円 | 141.4万円 | 234.5万円 |
| 1,000万円 | 600万円 | 312.7万円 | 77.0万円 | 46.5万円 | 123.5万円 | 172.4万円 | 296.0万円 |
| 1,500万円 | 900万円 | 480.5万円 | 116.6万円 | 118.8万円 | 235.4万円 | 236.3万円 | 471.6万円 |
| 2,000万円 | 1,176万円 | 690.6万円 | 168.8万円 | 201.4万円 | 370.2万円 | 264.1万円 | 634.3万円 |
法人税等には、法人税・地方法人税・法人住民税(均等割7万円を含む)・法人事業税・特別法人事業税を含めています。
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オンライン記帳・申告サポートを見る比べると何が分かるか
| 事業の利益 | 税金だけの差(個人−法人) | 社会保険料を含めた差(個人−法人) |
|---|---|---|
| 500万円 | 5.1万円 | −15.4万円(個人のほうが軽い) |
| 800万円 | 65.2万円 | 24.7万円 |
| 1,000万円 | 102.5万円 | 47.2万円 |
| 1,500万円 | 219.2万円 | 100.5万円 |
| 2,000万円 | 327.9万円 | 181.3万円 |
- 税金だけなら、500万円でほぼ同じ水準、800万円以上では法人のほうがはっきり軽くなる
- 社会保険料を含めると、500万円では法人のほうが負担が重い。法人の社会保険料は会社負担分があり、国民健康保険・国民年金より高くなるため
- 所得が大きくなるほど、個人の所得税の累進がきいて、法人との差が広がる
試算を見るときの3つの注意点
1. 会社に残る利益は、社長のお金ではない
法人の試算では、「会社に残る利益」から法人税等を払った残りが会社に貯まります。たとえば事業の利益1,000万円のケースでは、約236万円が会社に残ります。これを個人に移すには、役員報酬を増やす、配当を払う、将来の退職金にするなどの方法があり、そのときに税金や社会保険料がかかります。会社に残したお金で設備投資や返済をする予定がある場合に、法人の有利さが生きてきます。
2. 役員報酬の決め方で結果が変わる
役員報酬を低くすると社会保険料は下がり、会社に残る利益と法人税等は増えます。逆に高くすると、社長の所得税と社会保険料が増えます。役員報酬は原則として期首から3か月以内に決め、その期は毎月同額です。役員報酬と社会保険料の関係は役員報酬と社会保険料の関係で詳しく解説しています。
3. 社会保険料は給付にもつながる
法人で増える社会保険料の多くは厚生年金で、将来の老齢厚生年金に反映されます。健康保険の傷病手当金・出産手当金もあります。保険料が増える=そのまま損ではありません(国民健康保険・国民年金と社会保険はどっちがいい?)。
このほか、法人には赤字でもかかる均等割、決算・申告の費用といった維持費があります(ひとり会社の維持費)。40歳以上の方は介護保険料、家族を扶養している方は国民健康保険の均等割や扶養の扱いでも結果が変わります。
法人化の目安と判断の考え方は法人成りの目安はいくらから?税金だけで決めない判断をご覧ください。不動産所得の場合の比較は不動産所得は個人と法人どちらが得?で解説しています。
まとめ
- 税金だけなら、事業の利益が大きいほど法人のほうが軽くなる。この記事の前提では500万円でほぼ同じ水準
- 社会保険料を含めると、500万円では個人のほうが負担は小さく、法人が有利になるのは800万円前後から
- 法人の試算では会社に利益が残り、個人に移すときに再び税金がかかる
- 役員報酬の決め方、年齢、家族、地域で結果は変わる。自分の数字で試算してから決める
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