再生回数やフォロワーが増え、配信の収入が大きくなると、「そろそろ法人化したほうがいいのでは?」と考える方が増えます。所得税は所得が増えるほど税率が上がるため、法人化で税負担が軽くなる場面があるのは事実です。
ただ、配信者の法人化は、税率の比較だけでは決められません。この記事では、判断材料と、法人化の前後で失敗しやすいポイントを整理します。
- 法人化の判断は、税率の差に加えて、社会保険料、固定費、収入の安定性で決まる。「所得〇〇万円で法人化」という一律の基準はない
- 法人化しても、契約や収益の受取人が個人のままなら、収入は個人に課税される(実質所得者課税)。契約・アカウント・請求書を法人にそろえる
- 役員報酬は原則として期首から3か月以内に決め、毎月同額にする(定期同額給与)。収入の波が大きい配信者は特に注意
- 会社で払っても、役員個人のための支出は会社の経費にならない。美容代や私的な旅行は個人のときより厳しく見られることもある
個人と法人の税金の違い
| 項目 | 個人(事業所得) | 法人(ひとり会社) |
|---|---|---|
| 所得にかかる国の税 | 所得税:所得に応じて5%〜45%の累進税率 | 法人税:資本金1億円以下の法人は所得800万円以下の部分15%、超える部分23.2% |
| 地方の税 | 住民税(所得割はおおむね10%)、個人事業税 | 法人住民税、法人事業税など。赤字でも均等割がかかる |
| 自分への報酬 | 事業の利益がそのまま所得 | 役員報酬として受け取り、個人の給与所得として所得税・住民税がかかる |
| 社会保険 | 国民健康保険・国民年金 | 健康保険・厚生年金に加入(役員1人の会社でも、報酬を受けていれば原則加入) |
| 事務の手間・費用 | 確定申告 | 法人の決算・申告、給与計算、社会保険の手続、税理士費用など |
法人税率は国税庁タックスアンサーNo.5759で確認できます(所得が年10億円を超える事業年度は、800万円以下の部分の税率が17%になる特例があります)。法人住民税の均等割は、資本金1,000万円以下で従業者50人以下の法人なら、標準的な税率で年7万円程度です(自治体によって異なります)。
法人化すると、利益を「法人に残す分」と「役員報酬として個人で受け取る分」に分けられます。税率の高い個人の所得を減らせるのが法人化の主な効果ですが、社会保険料(会社負担分と本人負担分)が増えることも多く、手取りで比べると差が小さくなることもあります。所得別の比較は「個人と法人、どっちが税金はお得?」をご覧ください。
配信者ならではの判断材料
| 判断材料 | 法人化に向きやすい状態 | 慎重に考えたい状態 |
|---|---|---|
| 収入の安定性 | 広告収入・メンバーシップ・継続案件で毎月の収入が読める | 案件やバズで月ごとの波が大きい |
| 契約の移しやすさ | プラットフォームの収益受取人や企業案件の契約者を法人にできる | 個人名義でしか契約できないサービスが中心 |
| 経費・人件費 | 編集者・マネージャーへの外注や人件費が多い | 経費の大半が個人の生活と重なる |
| 将来の計画 | スタッフを雇う、グッズ販売など事業を広げる | 活動を続けるか未定 |
| 社会保険 | 厚生年金・健康保険への加入を前向きに考えられる | 国民健康保険などのままのほうが負担が軽い |
収入を法人に移すには「契約の実態」が大切
法人を作っても、YouTubeなどの収益受取人、企業案件の契約、イベント出演の請求書が個人名義のままなら、その収入は個人の所得です。所得税法12条は、名義人ではなく実際に収益を享受する人に課税するという考え方(実質所得者課税)を定めています。
収入が誰のものかが争われた公表裁決には、次のようなものがあります。
| 裁決 | 事案 | 判断 |
|---|---|---|
| 平成26年7月1日裁決 | 請求人が代表を務める内国法人と外国法人の業務委託契約。税務署は「仮装の契約で、報酬は請求人個人の給与」と主張 | 契約は法人が代表者に業務を行わせて対価を受け取る内容で、法人が実際に義務を履行して報酬を受け取っていたため、報酬は法人に帰属。処分を全部取消し |
| 平成12年1月25日裁決(裁決事例集No.59) | 眼科医院の院長の妻の名義で申告していたコンタクトレンズ販売事業 | 事業が医院と明確に分離されておらず、院長が経営に支配的な影響力を持っていたため、収益は院長に帰属 |
| 平成28年11月15日裁決 | 飲食店の営業許可や契約の名義人が請求人 | 資金管理・利益の処分・運営を行っていたのは別の人で、名義人である請求人には収益が帰属しない |
いずれも、名義ではなく、誰が事業を支配し、誰が収益を享受しているかで判断されています。
逆に言えば、法人化した配信者も、次の点がそろっていないと「実態は個人の収入」と指摘される可能性があります。
- プラットフォームの収益の受取人・口座が法人になっている
- 企業案件の契約書の当事者が法人で、請求書も法人から出している
- 配信者本人と法人の間で、役員としての業務内容が整理されている
- 個人時代の契約から法人の契約への切り替え日が明確
役員報酬は「最初に決めて、毎月同額」が原則
ひとり会社の役員報酬は、原則として事業年度の開始から3か月以内に決め、毎月同じ額を支払う「定期同額給与」でないと、法人税の計算で損金になりません(例外的に、事前確定届出給与などの方法もあります)。
配信者は収入の波が大きいため、次のような失敗が起きがちです。
- バズって収入が増えたので、期の途中で報酬を上げた → 増額分が損金にならないおそれ
- 収入が減ったので報酬を払わない月があった → 定期同額の要件から外れるおそれ
- 法人の口座から個人の生活費を引き出した → 役員への貸付金や役員給与の問題になる
役員報酬の決め方は「ひとり会社の役員報酬の決め方」で詳しく解説しています。
会社で払っても経費にならない支出
「法人なら何でも経費にできる」というのは誤解です。会社の業務に必要な支出かどうかは、個人のときと同じように問われます。役員個人の体や生活のための支出(美容代、私的な旅行、家族の食事など)を会社が負担すると、役員への給与(経済的な利益)と判断され、損金にならず、役員個人の所得税の問題も生じる可能性があります。
美容代については「配信者の美容代・整形費用は経費になる?」で、公表裁決の考え方を紹介しています。
法人化の前後でやること
- 試算:今の所得で、個人のままの場合と法人化した場合の税金・社会保険料・固定費を比べる
- 消費税の確認:法人を新しく作ると、資本金などの条件によって消費税の免税期間が生じることがある。インボイス登録の有無も含めて確認する(「法人成りと消費税:免税期間をどう考えるか」)
- 契約の切り替え:プラットフォーム、事務所、企業案件、口座を法人にそろえる
- 個人事業の廃業手続:個人事業の廃業届などを出し、個人の最後の確定申告をする
- 会計の分離:法人の口座とカードを作り、個人のお金と混ぜない
法人化そのもののメリット・デメリットは「小さな事業の法人化のメリット・デメリット」も参考にしてください。
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オンライン記帳・申告サポートを見るまとめ
- 配信者の法人化は、税率の差、社会保険料、固定費、収入の安定性をあわせて判断する。一律の金額基準はない
- 収入を法人に移すには、契約・受取口座・請求書を法人にそろえ、法人が義務を負う実態をつくる
- 役員報酬は原則として期首から3か月以内に決め、毎月同額で支払う
- 会社が払っても、役員個人のための支出は会社の経費にならない
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