「顔出しで配信しているから、美容院代も化粧品代も仕事の経費になるのでは?」。ライバーやVTuberの中の人、YouTuber、配信者の方から、とても多いご質問です。整形やホワイトニングについて聞かれることもあります。
結論から言うと、美容代・整形費用は、原則として私的な支出(家事費)と見られます。「これは経費になる」と言い切れるものはほとんどありません。この記事では、国税不服審判所の公表裁決や裁判所の判決が、どんな考え方で線を引いているかを整理します。
- 必要経費になるのは「業務の遂行上必要な支出」。体そのものへの支出は私生活にも効果が及ぶため、原則は家事費とされる
- 平成26年5月22日の公表裁決では、ライブチャット業務の請求人の化粧品・健康用品・ダイエット用品などの美容費を必要経費と認めなかった。「画面できれいに見せるため」という説明は主観的な事情にすぎないとされた
- 同じ裁決でも、パソコン・ウェブカメラ・インターネット接続料は、業務に欠かせないとして必要経費に算入された。業務との関係を客観的に示せるかが分かれ目
- 整形費用は効果が一生続くため、業務部分を区分するのが特に難しい。経費になると考えて計画を立てないほうが安全
なぜ美容代は「原則、私的な支出」なのか
所得税では、事業所得や雑所得の必要経費は、収入を得るために直接かかった費用や、業務について生じた費用とされています(所得税法37条1項)。一方で、家事上の経費(家事費)とこれに関連する経費(家事関連費)は、原則として必要経費になりません(同法45条1項1号)。
家事関連費のうち必要経費にできるのは、業務の遂行上必要な部分を明らかに区分できる場合のその部分だけです(所得税法施行令96条)。国税庁の所得税基本通達45-2では、業務に必要な部分が50%を超えるかどうかで判定し、50%以下でも必要な部分を明らかに区分できれば、その部分を必要経費にしてよいとしています。
美容代が難しいのは、次の理由からです。
- 髪型、肌、体型は、配信の時間だけでなく私生活でもずっと効果が続く
- 「配信のために使った割合」を、客観的な数字で示しにくい
- 同じ支出を、配信をしていない人も日常的にしている
つまり、配信に役立っていることは否定されなくても、業務に必要な部分を区分して示せないため、全体が家事費とされやすいのです。経費の基本的な考え方は「配信者・クリエイターの経費の考え方」もご覧ください。
公表裁決・判決は何を基準にしているか
配信者の美容代そのものが正面から争われ、公表されている例は多くありません。ただ、考え方の参考になる公表裁決・判決はいくつかあります。
| 裁決・判決 | 事案 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 平成26年5月22日裁決(国税不服審判所) | ウェブカメラで映像を見せながら会員と会話するライブチャット業務。衣服、部屋の装飾、化粧品などを必要経費と主張 | 化粧品・健康用品・ダイエット用品などの美容費は、本人の体に関する支出で家事費。「ウェブカメラに映る自分をきれいに見せるため」という説明は主観的事情にすぎない。一方、パソコン・ウェブカメラ・ネット接続料は業務に不可欠として算入 |
| 平成13年3月30日裁決(裁決事例集No.61) | 同窓会費、英会話研修費、旅行参加費などを必要経費と主張 | 家事関連費に当たるとしても、業務に直接必要な部分を明らかにできないので算入できない |
| 平成15年10月27日裁決(裁決事例集No.66) | 弁護士が大学院の授業料を必要経費と主張 | 業務と関連はあっても、自己研鑽のための支出で業務遂行上直接かつ通常必要とはいえない |
| 東京高裁平成24年9月19日判決(平成23年(行コ)第298号) | 弁護士会役員としての懇親会費などを必要経費と主張 | 業務に密接に関係し、社会通念上、業務の遂行上必要な支出といえる一部を必要経費と認めた |
| 令和4年3月4日裁決(国税不服審判所) | デジタルコンテンツの販売あっせん業務で、コンテンツの購入代金などを必要経費と主張 | 支出のうち、活動に不可欠と客観的に認められる部分は必要経費に算入 |
これらに共通するのは、本人が「仕事のため」と思っているかではなく、客観的に業務の遂行上必要といえるか、そしてその部分を区分して示せるかという基準です。平成26年の裁決では、請求人が購入品に「仕事用」とメモを付けていましたが、それだけでは業務との関係は認められませんでした。
なお、平成26年の裁決は、購入の事実を示す書類が不十分だった費用や、説明が一貫していなかった点も重視しています。配信者の経費は、支出の中身だけでなく、記録の質で結論が変わることも分かります。
支出ごとの考え方:説明しやすいもの・しにくいもの
次の表は、「経費になる・ならない」の一覧ではありません。業務との関係をどこまで客観的に説明しやすいかの目安です。最終的には個別の事情で判断が分かれます。
| 支出の例 | 私生活にも効果が及ぶか | 説明のしやすさ | 説明に必要なもの |
|---|---|---|---|
| 撮影日に外部のヘアメイクに依頼した費用 | 撮影当日に限られる | 比較的説明しやすい | 撮影日と一致する請求書、企画書、公開した動画 |
| 撮影用の特殊メイク材、舞台用のかつらなど日常で使わないもの | 小さい | 比較的説明しやすい | 使った企画・動画との対応 |
| 日常使いもする化粧品、スキンケア | 大きい | 説明しにくい | 配信専用であることの根拠(使い分けの実態) |
| 美容院の定期的なカット・カラー | 大きい | 説明しにくい | 撮影前日の予約など、配信との具体的な対応 |
| エステ、ジム、ダイエット用品 | 大きい | 説明しにくい | 平成26年裁決では美容・ダイエット用品が家事費とされた |
| 整形手術、歯列矯正、ホワイトニング | 一生続く | 非常に説明しにくい | 業務部分を区分する方法がほぼない |
ポイントは「その支出の効果が、配信の場面だけに限られるか」です。撮影日のヘアメイクのように、効果がその日の撮影で終わるものは、企画書や動画と結び付けて説明しやすくなります。反対に、毎月の美容院やエステは、配信をしていなくても多くの人がしている支出で、効果も生活全体に及びます。
整形費用を経費にしにくい理由
整形費用は、美容代の中でも特に説明が難しい支出です。
- 効果が体そのものに残り、仕事を辞めた後も続く
- 配信の時間と私生活の時間で「使用割合」を分ける考え方がなじまない
- 費用が大きく、否認されたときの影響(追加の税金、加算税、延滞税)も大きい
整形費用そのものを必要経費と認めた公表裁決・判決は、この記事の執筆時点で確認できていません。「仕事のためだから」と経費に入れて申告し、調査で否認されると、本来の税金に加えて加算税・延滞税がかかります。整形は経費にならない前提で資金計画を立てるのが安全です。
ひとり会社が払った場合はどうなる?
法人化している配信者が、会社のお金で美容代や整形費用を払うケースもあります。この場合、支出が役員個人の体や容姿のためのものと判断されると、会社の経費ではなく、役員への給与(経済的な利益の提供)とみなされる可能性があります。そうなると、定期同額給与などの要件を満たさないため法人税の計算で損金にならず、さらに役員個人の所得として源泉所得税の問題も生じます。
「会社で払えば経費になる」わけではなく、会社の業務に必要かどうかという考え方は個人と同じです。法人化の判断は「配信者・インフルエンサーの法人化はいつ?」で整理しています。
説明できる記録の残し方
美容関連の支出を一部でも経費として申告するなら、次の記録をそろえておきましょう。
- 撮影・配信のスケジュール:いつ、どの企画で撮影したか(カレンダーや企画書)
- 公開した動画・配信のURL:その支出が画面にどう反映されたか
- 支出の証拠:日付・金額・内容がわかる領収書や購入履歴(平成26年の裁決では、商品ページを印刷しただけの書類は購入の証拠と認められなかった)
- 配信専用であることの根拠:私物と分けて保管している、撮影現場でしか使わない、など
- 按分した場合の計算根拠:何を基準に割合を決めたか
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オンライン記帳・申告サポートを見るまとめ
- 美容代・整形費用は、体そのものへの支出で私生活にも効果が続くため、原則は家事費とされる
- 平成26年5月22日の公表裁決は、ライブチャット業務の美容費を家事費とし、「きれいに見せるため」という説明を主観的事情として退けた
- 審判所・裁判所が見ているのは、客観的に業務の遂行上必要か、その部分を区分して示せるか
- 撮影当日のヘアメイクのように効果が撮影に限られるものは説明しやすく、整形のように一生続くものは極めて説明しにくい
- 迷う支出は、申告の前に記録をそろえて税理士に相談するのが確実
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