「機材は経費だとして、服やメイク、食事は?」「旅行の動画を撮ったら、旅費は経費?」。YouTuber、ライブ配信者、Vtuber、イラストレーターなど、クリエイターの方から一番多くいただくのが経費の質問です。
先にお伝えすると、クリエイターの経費は「これは経費になる」「これはならない」と一律には言えません。同じ服でも、配信専用の衣装と普段着とでは扱いが違いますし、同じ旅行でも撮影の中身しだいで結論が変わります。この記事では、判断の土台になる考え方と、国税不服審判所の公表裁決・裁判例を紹介します。
- 経費になるのは、事業(配信・制作)の遂行上必要な支出。「仕事に役立つ」「画面に映る」だけでは足りない
- 生活のための支出(家事費)は経費にならない。仕事と生活の両方に使うもの(家事関連費)は、仕事の部分を明らかに区分できる場合に限り、その部分だけ経費になる(所得税法45条、所得税法施行令96条)
- ライブ配信者の衣服・美容・部屋の装飾・食品が否認された裁決がある一方、パソコンの減価償却費やネット回線料は必要経費とされた
- 判断の分かれ目は、事業との関係、私的な部分との区分、説明できる記録の3つ
経費になる支出の3つの条件
所得税法37条は、必要経費を、収入を得るために直接かかった費用や、業務について生じた費用と定めています。一方、所得税法45条は、生活のための支出(家事費)と、それに関連する支出(家事関連費)を原則として必要経費にしないとしています。
これをクリエイターの実務に置き換えると、次の3つがそろったときに経費として説明できます。
| 条件 | 確認すること | 記録の例 |
|---|---|---|
| ①事業との関係 | その支出がなければ、その配信・作品は作れなかったか | 企画書、撮影日・投稿日、動画のURL |
| ②私的な部分との区分 | 普段の生活でも使うか。使うなら、仕事の割合はどれくらいか | 使用時間・日数の記録、按分の計算 |
| ③説明できる記録 | いつ、どこで、何を、いくらで買ったか | 領収書・購入履歴・インボイス |
「直接の関係」をどこまで求めるか
国税不服審判所の裁決では、必要経費といえるには「単に業務と関連があるというだけでなく、客観的にみてその費用が業務と直接の関係を有し、かつ、業務の遂行上必要なもの」であることが求められる、という考え方がよく示されています。一方で、東京高裁平成24年9月19日判決(平成23年(行コ)第298号)は、弁護士会の役員活動に伴う懇親会費の一部を必要経費と認めており、どこまで認めるかは個別の事情によって判断が分かれるところです。
ただ、どの考え方でも、本人の「仕事のつもりだった」という主観だけでは足りないという点は共通しています。
裁決・判決にみる実例
ライブ配信者の経費が争われた例
ウェブカメラを使って会員とライブチャットをする業務で報酬を得ていた人の経費が争われた公表裁決(国税不服審判所 平成26年5月22日裁決)は、配信者の経費を考えるうえでとても参考になります。
| 支出 | 判断 | 理由の要旨 |
|---|---|---|
| 衣服・バッグ・時計など | 否認 | 特殊な衣装や小道具ではなく日常使うものとして売られている。業務で着たのか私的に着たのか区分できない |
| スーツケース・ミシン・裁縫用品など(衣装関連) | 否認 | 購入しただけでは業務に使ったと認定できない |
| 家具・カーテン・寝具など(部屋の装飾) | 否認 | 画面に背景として映ることがあっても、それだけで業務に必要とはいえない。家族が生活する自宅でもある |
| 化粧品・健康用品・ダイエット用品など(美容) | 否認 | 本人の身体のための支出で、私的な費用(家事費) |
| 食品・調理器具 | 否認 | 業務と直接の関係があるとは認められない |
| パソコン(取得価額10万円以上は減価償却) | 必要経費 | パソコン・ウェブカメラ・ネット接続は業務に必要不可欠 |
| ウェブカメラ | 必要経費 | 購入日と金額が分かる通販の購入履歴で、購入の事実が裏付けられた |
| インターネット接続料金 | 必要経費 | 業務を始めた月以後の料金 |
| パソコンの周辺品など(パソコン関連費用) | 否認 | 業務との関連の説明があいまいで具体性に欠ける |
この裁決では、購入日や購入先が分からない商品リストや商品画像の印刷物は、そもそも購入の事実を示す資料と認められませんでした。また、本人の説明が場当たり的で一貫しないことも、否認の理由になっています。
服飾品・化粧品が否認された裁判例
東京地裁平成25年10月17日判決(税務訴訟資料第263号-187)では、代理店業を営む人が「仕事用品」として計上したバッグや婦人服、化粧品の発送費用について、一般には家事費にあたり、服装に費用をかけないと売上が上がらないという抽象的な主張だけでは、業務上客観的に必要とは認められないとされました。
事業のための仕入れが全額認められた例
反対に、事業との関係を示せた例もあります。ネットで商品を販売していた人が仕入れた商品の一部について、税務署は「私的に収集する目的だった」と主張しましたが、国税不服審判所は、販売サイトへの掲載状況や販売実績から販売目的の仕入れと認め、全額を必要経費としました(令和8年1月14日裁決)。詳しくはフィギュアなどの転売、仕入れが「趣味の購入」とされたら?で解説しています。実際に事業で使った事実を示す記録があるかどうかが、結論を分けたといえます。
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オンライン記帳・申告サポートを見る支出の種類ごとの考え方
| 支出 | 考え方のポイント | 詳しい記事 |
|---|---|---|
| カメラ・パソコン・マイクなどの機材 | 配信・制作に使う割合。10万円以上は減価償却などの処理 | 配信の機材・スタジオ・自宅の撮影スペースの経費処理 |
| 自宅の家賃・電気代・ネット代 | 撮影・編集に使う面積や時間で按分 | 自宅の電気代・水道代・ネット代・スマホ代の按分の仕方 |
| 海外・国内の撮影旅行 | 撮影・取材の日程と観光の日程の区分 | 配信者の海外渡航は経費になる? |
| 食事 | 企画の素材か、打ち合わせか、自分の食事か | 配信者の食事代は経費になる? |
| 衣装・服 | 配信専用か、普段も着られるか | 配信者の衣装・服代は経費になる? |
| 美容・整形 | 本人の身体に関する支出として家事費とされやすい | 配信者の美容代・整形費用は経費になる? |
どの支出も、「なる/ならない」の結論より先に、この支出と配信・作品のつながりを第三者に説明できるかを考えてみてください。
今日からできる記録のコツ
- 事業用の口座とカードを分ける:私的な支出が混ざらないだけで、説明の手間が大きく減ります
- 購入した物と動画・配信を結びつける:会計ソフトのメモ欄に「◯月◯日配信の企画用」「動画URL」などを残す
- 按分の根拠を残す:配信に使う時間・日数の記録や、部屋の面積の計算をメモしておく
- 購入履歴を保存する:ネット通販の購入履歴や領収書をPDFで保存。商品画面のスクリーンショットだけでは不十分
- 迷ったら申告前に相談する:あとから理由を考えると、説明が一貫しなくなりがちです
配信収入が事業所得か雑所得かは配信収入は事業所得か雑所得かで解説しています。
まとめ
- クリエイターの経費は、事業の遂行上必要な支出だけ。「画面に映る」「仕事に役立つ」だけでは足りない
- 生活にも使うものは、仕事の部分を明らかに区分できる場合に限り、その部分が経費になる
- ライブ配信者の衣服・美容・部屋の装飾・食品が否認された裁決がある一方、パソコンやネット回線は認められた
- 結論を分けるのは、事業との関係、私的な部分との区分、説明できる記録の3つ
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