配信者・クリエイター

配信者の海外渡航は経費になる?撮影・取材と観光の区分と按分の考え方

「海外の街歩き動画を撮りに行った」「現地のイベントを取材した」。旅行や海外を題材にする配信者・クリエイターにとって、渡航費は大きな支出です。これは経費になるのでしょうか。

結論からいうと、渡航が事業の遂行上直接必要な部分は経費になり得ますが、観光が混ざれば按分が必要で、「動画を出したから全額経費」とは言い切れません。この記事では、国税庁の所得税基本通達と公表裁決をもとに、海外渡航費の区分の考え方と、残しておくべき記録を整理します。

この記事の結論
  • 事業者本人の海外渡航費は、渡航が事業の遂行上直接必要と認められる場合に限り、その部分が必要経費になる(所得税基本通達37-16)
  • おおむね全期間が事業のためなら全額、事業と観光が混ざれば期間の比などで按分(同37-18・37-21)
  • 直接の動機が特定の取引先との仕事なら、往復の旅費は全額、残りを按分する考え方がある(同37-21ただし書)
  • 旅行会社のパッケージツアーなどは、原則として事業に直接必要な渡航に当たらない(同37-19)。家族の同伴費用は原則として経費にならない(同37-20)
  • 家族旅行と変わらない「慰安旅行」が家事費とされた裁決などがある。日程表・撮影記録・投稿との対応を残すことが大切

海外渡航費の基本ルール

国税庁の所得税基本通達37-16〜37-22は、個人事業者の海外渡航費について次のように定めています。

通達内容
37-16事業者本人の海外渡航費は、渡航が事業の遂行上直接必要と認められる場合に限り、交通・宿泊などの費用(家事上の経費を除く)を必要経費にする
37-18旅行期間のおおむね全期間を通じて明らかに事業に直接必要なら、不当に多額でない限り全額を必要経費にできる
37-19直接必要かどうかは、旅行の目的・旅行先・経路・期間などを総合して実質的に判定する。観光渡航の許可を得て行う旅行、旅行あっせん業者などが行う団体旅行に応募する旅行、同業者団体などが主催する主に観光目的の団体旅行は、原則として該当しない
37-20親族や事業に常時従事していない人を同伴した費用は、原則として必要経費にしない
37-21事業に必要な旅行と必要でない旅行を併せて行った場合は、期間の比などで按分する。直接の動機が特定の取引先との商談などで、その機会に観光した場合は、往復の旅費は事業の旅費とし、残りを按分する
37-2237-19の旅行に当たる場合でも、事業に直接関連する部分の旅行に直接かかった費用は必要経費にする

ポイントは「直接必要」という言葉です。旅行の経験がいつか配信のネタになる、という程度のつながりでは足りないと考えてください。

撮影と観光が混ざったときの按分

日数で按分する考え方

撮影・取材の日と観光の日が混ざっている場合は、37-21により、期間の比などで按分します。たとえば次のような7日間の渡航を考えます。

日程内容区分
1日目移動移動日
2〜4日目現地の工房・市場を撮影、店主へのインタビュー撮影・取材
5〜6日目撮影なしで観光・買い物観光
7日目移動移動日

撮影・取材が3日、観光が2日です。ホテル代などは、撮影・取材の日数に対応する部分(この例では5分の3を目安)が経費の候補になります。移動日の扱いや、半日だけ撮影した日の数え方は、実際の行動に応じて判断します。

団体旅行の通達が示す「業務従事割合」

国税庁の個別通達「海外渡航費の取扱いについて」(平成12年10月11日)は、同業者団体などが行う視察の団体旅行について、旅行日程を「視察等」「観光」「旅行日」「その他」に区分し、昼間の通常の業務時間(おおむね8時間)を1日として、おおむね0.25日単位で数える方法を示しています。業務従事割合が90%以上なら全額、10%以下なら全額不算入、50%以上なら往復の交通費は全額とし残りに割合を掛ける、という考え方です。

この通達は団体旅行を対象としたものですが、日程を時間単位で区分して記録するという発想は、個人の撮影旅行でも説明の組み立てに役立ちます。

往復の航空券

37-21のただし書は、渡航の直接の動機が特定の取引先との商談や契約などの事業で、その機会に観光した場合は、往復の旅費を事業の旅費とするとしています。たとえば、企業から依頼された現地での撮影案件が渡航の目的であれば、この考え方が参考になります。一方、主な目的が観光で、ついでに撮影した場合は、往復の航空券も按分の対象になると考えるのが自然です。どちらに当たるかは、個別の事情によって判断が分かれるところです。

裁決例にみる判断の分かれ目

事例判断出典
業務の傍ら一部を観光に充てた海外渡航。旅行の経路・日程や旅行てん末書から業務上の旅行と判断航空運賃の全額を損金と認めた(法人)国税不服審判所 昭和45年10月7日裁決(裁決事例集No.1)
個人事業主が専従者の配偶者・子と家族4人で毎年行った「慰安旅行」通常の家族旅行と変わらず家事費平成3年11月19日裁決(裁決事例集No.42)
同窓会主催の旅行の参加費など業務に直接必要な部分を明らかにできず否認平成13年3月30日裁決(裁決事例集No.61)
会社が負担した、代表者が青年会議所の会議に出るための交通費・宿泊費・日当取引先の確保などは副次的な効果にすぎず、代表者への給与平成27年7月28日裁決

昭和45年の裁決では、旅行の経路・日程と旅行てん末書が判断の決め手になりました。反対に、家族旅行の事例では、家族の都合や希望で毎年同じ時期に行われていたこと、ほかの旅行との違いが説明できなかったことが否認の理由になっています。

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残しておくべき記録

  1. 旅行前の企画書:撮影の目的、撮影場所、取材先、公開予定の動画の内容
  2. 日程表:日ごと(できれば時間ごと)の撮影・取材・移動・観光の区分
  3. 撮影の記録:撮影データの日時・場所、取材先とのやりとり
  4. 公開した動画・記事との対応:URL、公開日、再生数や案件の報酬
  5. 領収書・予約記録:航空券、ホテル、現地の交通費、撮影許可の費用など

これらは、帰国後すぐにまとめておくのが鉄則です。時間がたつと、日程の区分を説明するのが難しくなります。

法人の場合

法人で配信をしている場合も、法人税基本通達9-7-6以下に同じ趣旨の定めがあります。業務に必要と認められない部分の渡航費を会社が負担すると、役員への給与とされ、会社で損金にならないうえ、本人にも源泉所得税がかかるおそれがあります。

国内の出張ついでの観光の扱いは出張ついでの観光の費用はどうなる?、不動産の視察旅行の考え方は物件視察・遠方物件の旅費交通費は経費になるかでも取り上げています。配信者の経費の全体像は配信者・クリエイターの経費の考え方をご覧ください。

まとめ

  • 海外渡航費は、渡航が事業の遂行上直接必要な場合に限り、その部分が経費になる
  • 撮影と観光が混ざれば期間の比などで按分。直接の動機が取引先との仕事なら往復の旅費は事業の旅費とする考え方がある
  • パッケージツアーへの参加や家族の同伴費用は、原則として経費にならない
  • 裁決では、経路・日程・旅行てん末書などの記録が結論を分けている

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よくある質問

旅行系の動画を投稿していれば、旅行代は全部経費になりますか?
投稿したことだけで全額が経費になるとは限りません。所得税基本通達では、旅行の目的、旅行先、経路、期間などを総合して、事業の遂行上直接必要かどうかを実質的に判断するとされています。撮影の中身と日程、私的な観光の日程を区分して説明できるかが問われます。
家族と一緒に行った撮影旅行の家族分は経費になりますか?
原則としてなりません。所得税基本通達37-20は、親族や事業に常時従事していない人を同伴した費用は必要経費に算入しないとしています。外国語に堪能な人や高度な専門知識をもつ人が必要で、ほかに適任者がいない場合など、渡航の目的を達するために明らかに必要な同伴に限って例外があります。
海外の航空券やホテル代に消費税はかかりますか?
国際線の航空運賃は輸出免税の対象で、海外のホテル代や現地での飲食は国外の取引なので、いずれも日本の消費税の仕入税額控除の対象にはなりません。所得税の必要経費になるかどうかとは別の話です。

※本記事は2026年10月25日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
※本記事の無断転載・複製、商用目的での利用はお断りします。引用の際は、出典(税理士法人クレフティ・記事URL)を明記してください。

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