配信やYouTubeの動画制作には、パソコン、カメラ、マイク、照明などの機材が欠かせません。自宅の一室を撮影スペースにしている方も多いでしょう。「機材は全部経費でいいの?」「家賃も経費にできる?」というご質問に、国税不服審判所の公表裁決の考え方を交えて答えます。
機材は金額によって処理の仕方が変わり、私的にも使うなら按分が必要です。自宅の撮影スペースは、生活の場と重なるため、業務部分を説明できる根拠が大切になります。
- 機材は10万円未満なら原則その年の経費。10万円以上は減価償却が原則で、青色申告者なら40万円未満(令和8年4月1日以後の取得)を年300万円まで一括で経費にできる特例がある
- 公表裁決(平成26年5月22日)では、ライブチャット業務のパソコン・ウェブカメラ・ネット接続料は業務に欠かせないとして必要経費に算入された。ただし10万円以上のパソコンは一括ではなく減価償却とされた
- 同じ裁決で、自宅の部屋の装飾費用、家具、家電などは必要経費と認められなかった
- 自宅の撮影スペースは、面積や使用時間などの合理的な基準で按分し、その根拠を記録に残す
機材は金額で処理が変わる
パソコンやカメラのように1年以上使う機材は「減価償却資産」です。取得価額によって、経費にする方法が次のように分かれます(国税庁タックスアンサーNo.2100)。
| 取得価額 | 処理の方法 | 注意点 |
|---|---|---|
| 10万円未満(または使用可能期間1年未満) | 使い始めた年に全額を必要経費 | 白色申告・雑所得でも使える |
| 10万円以上20万円未満 | 一定の要件のもと、3年間で3分の1ずつ必要経費にできる(一括償却資産) | 選ばなければ通常の減価償却 |
| 10万円以上40万円未満(令和8年3月31日までの取得は30万円未満) | 青色申告者などの中小事業者は、年間合計300万円まで使い始めた年に全額を必要経費にできる(令和11年3月31日まで) | 白色申告・雑所得では使えない |
| 上記以外 | 耐用年数に応じて減価償却 | パソコン(サーバー用を除く)の耐用年数は4年 |
取得価額に消費税を含めるかどうかは、税込経理か税抜経理かによって変わります。
買った年ではなく「使い始めた年」に経費になる点にも注意してください。12月に注文して1月に届いたカメラは、翌年の経費です。小さな資産の処理は「パソコンを買ったら:10万円・20万円・30万円の違い」でも詳しく解説しています。
公表裁決:パソコンとネット代は認められ、部屋の装飾は否認
自宅で配信をする業務について、機材や部屋の費用がまとめて争われた公表裁決があります。平成26年5月22日裁決です。
請求人は、自宅でウェブカメラを使って会員と会話をするライブチャット業務を行い、パソコン、ウェブカメラ、衣服、部屋の装飾、家電、食品などの購入費用を必要経費と主張しました。審判所の判断は次のとおりです。
| 費用 | 審判所の判断 | 理由 |
|---|---|---|
| パソコン | 必要経費に算入(10万円以上のものは減価償却) | 業務の遂行上必要不可欠。ただし一括での必要経費算入は認めず、法令どおりの償却 |
| ウェブカメラ | 必要経費に算入 | 購入日・金額が記載された購入履歴で、購入の事実が客観的に裏付けられた |
| インターネット接続料 | 業務期間に対応する金額を算入 | 審判所が通信会社に調査し、月額を確認 |
| 家具、カーテン、自作家具の材料など(部屋の装飾) | 算入できない | 業務に通常必要とは客観的に認められず、自宅は家族が家庭生活を営む場所でもある |
| 掃除機、空気清浄機、照明器具、書籍など(仕事場環境) | 算入できない | 業務の場所が自宅で、業務に通常必要とは認められない |
この裁決から分かるのは、業務に欠かせないことが客観的に明らかな機材は認められやすく、生活でも使う物は認められにくいということです。また、商品ページを印刷しただけの書類は、購入の証拠と認められませんでした。購入履歴や領収書を残すことが前提になります。
私的にも使う機材は按分する
配信用に買ったパソコンでも、私的な調べものや動画視聴に使うなら、その分は家事費です。家事関連費は、業務に必要な部分を明らかに区分できる場合にその部分だけが必要経費になります(所得税法45条1項、所得税法施行令96条)。
按分の基準には、たとえば次のようなものがあります。
- 使用時間:配信・編集に使う時間と私的に使う時間の比率
- 使用日数:1週間のうち配信・編集に使う日数
- 用途の分離:配信専用のアカウント・ソフトしか入れていない、など
賃貸物件の駐車場業務に関して、自動車関係費用の業務部分を取引の記録等で明らかにできず、必要経費と認めなかった平成30年2月1日裁決もあります。割合を決めた根拠を記録しておくことが、按分の前提です。
外部スタジオと自宅の撮影スペース
外部のスタジオ・撮影場所
撮影のために借りたレンタルスタジオ代は、業務との関係を説明しやすい支出です。予約確認メール、請求書、撮影した動画を対応させて残しておきましょう。
賃貸の自宅を撮影スペースにする場合
自宅の家賃は、配信に使う部分を合理的に按分します。
| 按分の考え方 | 例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 床面積 | 60㎡の住まいのうち、配信専用の部屋が12㎡なら20% | 専用で使っている部屋であることが前提 |
| 床面積×使用時間 | 共用のリビングで1日数時間だけ撮影 | 割合は小さくなり、説明も難しくなる |
| 電気・ネット代 | 使用時間や機材の消費電力などで按分 | 毎年同じ考え方で計算する |
家族と共用している部屋や、撮影以外の時間は寝室として使っている部屋は、業務部分を区分しにくくなります。按分の詳しい考え方は「賃貸の自宅で仕事:家賃はいくら経費にできる?」と「自宅の電気代・水道代・ネット代・スマホ代の按分の仕方」で解説しています。
持ち家の場合
持ち家の場合、住宅ローンの返済額そのものは経費になりません。建物の減価償却費、ローン利息のうち建物部分に対応する額、固定資産税などを、業務部分の割合で按分します。詳しくは「持ち家で仕事をしている場合」をご覧ください。
背景セット・装飾はどう考えるか
撮影用の背景布、照明スタンド、配信専用の机など、撮影でしか使わない物は、業務との関係を説明しやすくなります。一方、ソファー、カーテン、観葉植物、インテリア雑貨など、生活でも使う物は、画面に映っていたとしても、平成26年の裁決のように家事費とされやすい支出です。「画面に映るから」だけでは足りず、撮影以外では使っていないことを示せるかがポイントです。
記録の残し方チェックリスト
- 機材の購入履歴・領収書(日付・金額・品名がわかるもの)
- 使い始めた日のメモ(減価償却の開始時期になる)
- 按分の根拠(部屋の間取り図と面積、使用時間の記録)
- 撮影専用の物は、撮影でしか使っていないことがわかる写真や保管場所の記録
- 固定資産台帳(10万円以上の機材を一覧にしておく)
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オンライン記帳・申告サポートを見るまとめ
- 機材は取得価額で処理が変わる。10万円未満は原則その年の経費、10万円以上は減価償却が原則
- 青色申告者などは、令和8年4月1日以後に取得した40万円未満の資産を年300万円まで一括で経費にできる(令和11年3月31日まで)
- 平成26年5月22日の公表裁決では、パソコン・ウェブカメラ・ネット代は業務に不可欠として認められ、部屋の装飾や家電は認められなかった
- 私的にも使う機材や自宅の撮影スペースは、合理的な基準で按分し、根拠を記録する
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