「法人成りすれば、消費税がまた2年間免除されると聞いた」。売上が伸びた個人事業主の方から、よく出てくる話です。
たしかに、個人事業のときの売上は、新しく作る会社の消費税の判定には使いません。ただし、インボイス制度が始まってから、この「免税期間」のメリットは使える場面が限られています。この記事では、法人成りと消費税の関係を、国税庁の資料をもとに整理します。
- 個人事業の課税売上高は、法人の基準期間の課税売上高に含まれない(タックスアンサーNo.6531)
- 資本金1,000万円未満・特定期間の基準を超えない・インボイス登録なし、なら設立1期目・2期目は免税になり得る
- ただし取引先が会社中心でインボイス登録が必要なら、免税は使えない
- 2割特例は令和8年9月30日を含む課税期間で終了。3割特例は個人だけ。これからの法人成りは、本則課税か簡易課税で考える
個人と法人は「別の事業者」
消費税の納税義務は、事業者ごとに判定します。個人事業主と、その人が作った会社は別の事業者です。国税庁タックスアンサーNo.6531でも、個人事業者が法人成りにより新規に法人を設立した場合、個人事業者であった期間の課税売上高は、その法人の基準期間の課税売上高には含まれないとされています。
そのため、新しい会社は、次の条件をすべて満たせば、設立1期目・2期目は原則として免税事業者になります(判定の詳細は消費税はいつから納める?(法人))。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 資本金 | 各事業年度の期首の資本金が1,000万円未満 |
| 特定期間(2期目の判定) | 1期目の最初の6か月の課税売上高と給与等の支払額が、どちらも1,000万円超ではない |
| インボイス | 登録をしていない |
| 課税事業者の選択 | 課税事業者選択届出書を出していない |
インボイス制度でメリットが小さくなった理由
取引先が会社なら、登録を求められる
取引先が課税事業者の会社で、仕入税額控除のためにインボイスを必要としている場合、会社がインボイス登録をしないと、取引先は控除できる消費税が減ります。登録していない相手からの仕入れの経過措置は、令和8年10月1日から70%、令和10年10月1日から50%、令和12年10月1日から30%と縮小し、令和13年10月1日以後は0%です(インボイスQ&A問113)。
登録すれば、その日から課税事業者です(タックスアンサーNo.6503)。「法人成りで免税」と「インボイス登録」は両立しません。
2割特例はもう使えない
免税事業者がインボイス登録をした場合の2割特例は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日を含む課税期間に限られます(国税庁「2割特例特設ページ」)。令和8年10月1日以後に始まる事業年度の会社には使えません。
個人事業主には、令和9年分・令和10年分に3割特例(売上の消費税の3割を納める)が設けられましたが、法人は対象外です(国税庁「令和8年度税制改正特集」)。3割特例は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であることなどが条件なので、すでに売上が大きい個人事業主には関係しません。
方式別に見た、法人成り後の消費税
| 会社の状況 | 消費税の扱い | ポイント |
|---|---|---|
| 一般消費者向けで、インボイス不要 | 設立1期目・2期目は免税になり得る | 免税期間のメリットがそのまま生きる |
| 会社向けで、インボイスが必要 | 登録日から課税事業者 | 本則課税か簡易課税を選ぶ |
| 会社向けだが、取引先が簡易課税・免税事業者中心 | 登録しない選択もあり得る | 取引先の事情を確認する |
| 資本金1,000万円以上で設立 | 1期目から課税事業者 | 消費税の観点では不利 |
課税事業者になる会社は、簡易課税を検討
インボイス登録をして課税事業者になる会社は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下なら、簡易課税を選べます。簡易課税は、売上の消費税に業種ごとのみなし仕入率(卸売業90%、小売業80%、製造業等70%、飲食店業等60%、サービス業等50%、不動産業40%)を掛けて仕入れの消費税とみなす方法です(タックスアンサーNo.6505)。
免税事業者が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日を含む課税期間に登録を受け、登録日から課税事業者になる場合は、その課税期間中に簡易課税制度選択届出書を出せば、その課税期間から簡易課税を使えます(タックスアンサーNo.6505)。仕入れや外注費が少ないサービス業などでは、本則課税より納税額が少なくなることがあります(簡易課税は選ぶべき?)。
個人側で忘れやすいこと
最後の年の消費税の申告
個人事業主が課税事業者だった場合、法人成りした年も、廃業日までの個人の売上について消費税の申告が必要です。事業用の車・備品・在庫などを会社に売った代金も、個人の事業用資産の譲渡として課税売上になります。帳簿価額や時価を踏まえた金額の決め方は、所得税・法人税の扱いとあわせて決める必要があります。
届出の整理
- 個人事業の廃業届(所得税)
- 消費税の事業廃止届出書(個人が課税事業者だった場合)
- インボイス登録をしていた場合は、個人の登録の扱い(事業廃止による失効など)を確認
- 会社側で、インボイス登録申請・簡易課税の届出などを新たに出す
個人の登録番号を会社が引き継ぐことはできません。取引先には、会社の登録番号を改めて伝える必要があります。
免税だけで法人化を決めない
法人成りの判断は、消費税の免税期間だけで決めるものではありません。所得税と法人税の税率差、社会保険料、役員報酬の決め方、会社の維持費、金融機関からの信用など、ほかの要素のほうが影響の大きいことも多くあります。
| 判断の材料 | 確認すること |
|---|---|
| 所得税・法人税 | 利益の水準で、個人と法人のどちらが税負担が軽いか |
| 社会保険 | 会社にすると、社長1人でも健康保険・厚生年金に加入する |
| 維持費 | 法人住民税の均等割、税理士費用など |
| 消費税 | インボイスの要否、免税期間を使えるか、簡易課税が有利か |
| 信用・融資 | 決算書の見え方、金融機関との取引 |
所得の目安は法人成りの目安はいくらから?、個人と法人の税金の比較は個人と法人、どっちが税金はお得?で解説しています。融資の観点からの法人化のタイミングは個人事業主の法人化のタイミングと目安も参考にしてください。
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オンライン記帳・申告サポートを見るまとめ
- 個人事業の売上は法人の基準期間に含まれず、条件を満たせば設立2期まで免税になり得る
- インボイス登録をすれば、免税は使えない
- 2割特例は令和8年9月30日を含む課税期間で終了し、3割特例は個人だけ。法人は本則課税か簡易課税で考える
- 個人の最後の年の申告と、資産の移し方も忘れずに
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