消費税の課税事業者になったとき、最初に決めたいのが計算方法です。実際の仕入れや経費の消費税を差し引く本則課税(一般課税)と、業種ごとの割合で仕入れの消費税をみなす簡易課税があります。
簡易課税は、計算が簡単なだけでなく、経費や仕入れが少ない業種では納税額も少なくなることがあります。一方で、届出の期限が早く、選ぶと2年間はやめられないという「縛り」もあります。この記事では、国税庁タックスアンサーNo.6505などをもとに、選ぶかどうかの判断材料を整理します。
- 簡易課税は、基準期間の課税売上高5,000万円以下の課税期間に使える。売上の消費税×みなし仕入率を仕入れの消費税とみなす
- 経費・仕入れの割合がみなし仕入率より小さい業種(サービス業、コンサル、デザインなど)は有利になりやすい
- 届出は原則として、使いたい課税期間の初日の前日まで。インボイス登録・2割特例の終了などには期限の特例がある
- 選ぶと2年間はやめられない。大きな設備投資で還付を受けたい年がある場合は要注意
簡易課税のしくみ
簡易課税では、仕入れにかかる消費税を、実際の金額ではなく、売上にかかる消費税×みなし仕入率で計算します(タックスアンサーNo.6505)。
| 事業区分 | 主な業種 | みなし仕入率 | 納める消費税(売上の消費税に対する割合) |
|---|---|---|---|
| 第1種 | 卸売業 | 90% | 10% |
| 第2種 | 小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡) | 80% | 20% |
| 第3種 | 農業・林業・漁業(飲食料品以外)、建設業、製造業など | 70% | 30% |
| 第4種 | 飲食店業など、ほかの区分に当たらない事業 | 60% | 40% |
| 第5種 | 運輸通信業、金融・保険業、サービス業(飲食店業を除く) | 50% | 50% |
| 第6種 | 不動産業 | 40% | 60% |
事業区分は、原則として売上ごとに判定します。2種類以上の事業をしている場合、売上を事業ごとに区分していないと、区分していない部分には一番低いみなし仕入率が適用されます(タックスアンサーNo.6505)。帳簿や請求書で、どの事業の売上かが分かるようにしておくことが大切です。業種ごとの区分の考え方はタックスアンサーNo.6509で詳しく説明されています。
有利になるかどうかの判断
簡易課税が有利かどうかは、実際の仕入れ・経費(課税仕入れ)の割合と、みなし仕入率の比較で決まります。
計算例:個人のWebデザイナー(第5種、税抜売上800万円)
| 項目 | 本則課税 | 簡易課税 |
|---|---|---|
| 売上の消費税 | 80万円 | 80万円 |
| 仕入れの消費税 | 実額:課税仕入れ税抜150万円×10%=15万円 | 80万円×50%=40万円 |
| 納める消費税 | 65万円 | 40万円 |
(地方消費税を含めた概算です。給与や住宅家賃など、消費税のかからない支出は課税仕入れに入りません。)
この例では、実際の課税仕入れは売上の約19%しかなく、みなし仕入率50%より小さいため、簡易課税のほうが25万円少なくなります。
本則課税のほうが有利になりやすいケース
- 仕入れ・外注費の割合が大きい(売上に対する課税仕入れの割合がみなし仕入率を上回る)
- 大きな設備投資(車、機械、内装工事など)を予定している。本則課税なら、仕入れの消費税が売上の消費税を上回れば還付を受けられるが、簡易課税では還付は生じない
- 輸出など、消費税が免除される売上が中心
届出の期限
原則:使いたい課税期間の初日の前日まで
簡易課税を使うには、その課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を出します(タックスアンサーNo.6505)。個人事業主が令和9年分から使うなら、令和8年12月31日までです。申告の時点で「やっぱり簡易課税にしたい」と思っても、原則として間に合いません。
期限の特例
| 場面 | 提出期限 | 出典 |
|---|---|---|
| 免税事業者が、令和5年10月1日〜令和11年9月30日の日を含む課税期間にインボイス登録し、登録日から課税事業者になる | 登録日を含む課税期間中に出せば、その課税期間から適用 | タックスアンサーNo.6505 |
| 2割特例・3割特例を使った翌課税期間から簡易課税にする | その翌課税期間の確定申告期限まで(翌課税期間が令和8年9月30日以前に終わる場合はその末日まで) | インボイスQ&A問117 |
| 事業を始めた課税期間 | その課税期間中に出せば、その課税期間から適用 | 国税庁「D1-22 消費税簡易課税制度選択届出手続」 |
| 災害その他やむを得ない事情 | 期限の特例を受けられる場合がある | タックスアンサーNo.6505 |
2割特例は令和8年9月30日を含む課税期間で終わり、個人事業主は令和9年分・10年分に3割特例が使えます(インボイスの2割特例はいつまで?)。特例のあとに簡易課税へ移る場合は、上記の期限の特例が使えます。
2年縛りと、届出が出せなくなる場合
2年間は続ける
簡易課税をやめるには、やめたい課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を出します。ただし、事業を廃止した場合を除き、簡易課税の届出の効力が生じた課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ出せません(タックスアンサーNo.6505)。つまり、最低2年間は簡易課税で申告します。
また、届出は出し直さない限り効力が続きます。基準期間の課税売上高が5,000万円を超えた期は自動的に本則課税になり、5,000万円以下に戻れば再び簡易課税になります。
高額な資産を買うと届出が出せなくなることがある
課税事業者を選択した直後や、新設法人の基準期間がない期間に、調整対象固定資産(税抜100万円以上の固定資産)を本則課税で取得した場合などは、一定期間、簡易課税の届出を出せません(タックスアンサーNo.6501・6503)。税抜1,000万円以上の高額特定資産を取得した場合も、簡易課税の選択が制限されます。設備投資の前に、計算方法の計画を立てておきましょう(課税事業者選択届出と2年・3年の縛り)。
そのほかの注意点
- 帳簿は必要:簡易課税でも、課税事業者として帳簿の記帳・保存が必要(一部の記載は省略できる。タックスアンサーNo.6621)
- 仕入れのインボイス:納税額の計算に使わないので、保存がなくても消費税は変わらない。所得税・法人税のための保存は必要(クレジットカードの明細と消費税)
- 飲食料品の税率引下げ:国税庁は、令和9年4月1日から令和11年3月31日までの2年間、飲食料品の譲渡について消費税率が引き下げられることに伴い、飲食料品を販売する事業者向けの簡易課税の計算方法や届出時期の特例を「消費税率引下げ特設サイト」で案内しています。飲食料品を扱う事業者は最新の情報を確認してください
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オンライン記帳・申告サポートを見るまとめ
- 簡易課税は基準期間の課税売上高5,000万円以下で使え、経費・仕入れが少ない業種ほど有利
- 届出は原則として使いたい課税期間の前日まで。インボイス登録や2割特例・3割特例のあとには期限の特例がある
- 選んだら2年間は続ける。設備投資で還付を受けたい年がある場合は慎重に
- 事業区分ごとに売上を分けて記帳する
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