「HD化は大企業の話で、うちのような年商数億円の会社には関係ないのでは」。こうした疑問をよく伺います。結論からいえば、中小企業でもHD化に意味がある会社はあります。ただし、すべての会社に向いているわけではなく、維持コストや手間のほうが大きくなる会社もあります。
この記事では、HD化に向いている会社・向いていない会社を整理し、効果とコストを比べる考え方を解説します。HDの基本はHD(ホールディングス)とはをご覧ください。
- 判断の軸は年商ではなく、利益の積み上がり・承継までの時間・事業や不動産の数
- 向いているのは、株価が上がり続けている、承継まで数年以上ある、本業と不動産など性格の違う事業を持つ会社
- 向いていないのは、利益が少なく株価も低い、すぐ贈与で渡せる、目的が節税だけの会社
- 株価の効果はHD化後の値上がり分×38%。時間をかけて効く。維持コストと比べて判断する
- 銀行には承継・財務の目的とグループのお金の流れを説明できることが前提
向いている会社・向いていない会社
| 観点 | 向いている会社 | 向いていない会社 |
|---|---|---|
| 利益と株価 | 毎年しっかり利益が出て、純資産と株価が上がり続けている | 利益が少なく、株価も低い |
| 承継までの時間 | 承継まで5年、10年とある。後継者は決まっているが、まだ早い | すぐに後継者に渡せる、または後継者がいない |
| 事業の数 | 本業と不動産、本業と新規事業など、性格の違う事業を持つ | 事業が1つで、今後も増やす予定がない |
| 承継の形 | 事業ごとに後継者を分けたい、経営への関与を残しつつ財産面を先に渡したい | 株式をそのまま1人に渡せば足りる |
| M&A | 会社を買い増す、事業の一部を売る予定がある | 予定がない |
| 管理体制 | グループの経理・契約・議事録を管理できる | 1社の経理で手一杯 |
| 目的 | 承継・経営体制・財務の改善を説明できる | 株価を下げることだけが目的 |
効果の試算:株価の上昇を抑える
HDを作ると、オーナー一族が持つのはHDの株式になります。HDが持つ事業会社株式を純資産価額で評価するとき、HD化した後に増えた含み益から法人税額等相当額(2026年4月1日以後の相続・贈与は38%)を控除できます(財産評価基本通達186-2、国税庁「純資産価額方式における法人税額等相当額」)。
たとえば、HD化の時点で事業会社の評価額が1億円、その後、毎年2,500万円ずつ純資産が増えて10年後に3.5億円になったとします(HDにほかの資産・負債はないものとし、事業会社の評価額は純資産と同じとして単純化しています)。
| 項目 | 直接保有のまま | HD経由 |
|---|---|---|
| 10年後の事業会社の評価額 | 3.5億円 | 3.5億円 |
| 控除できる額 | なし | (3.5億円−1億円)×38%=0.95億円 |
| オーナー一族が持つ株式の評価 | 3.5億円 | 2.55億円 |
この効果は、利益が積み上がるほど、時間がたつほど大きくなります。逆に、利益が少なく株価がほとんど上がらない会社では、控除の対象になる値上がり分が小さく、効果は限られます。また、HDは当初、開業後3年未満の会社や株式等保有特定会社として純資産価額で評価されるのが通常で(財産評価基本通達189)、事業会社に含み益の大きい不動産があると、HD化の直後にかえって評価が上がる場合もあります。試算は必ずHD化の前後と、数年後の見込みで行います。仕組みの詳細はHD化で株価が下がる仕組みをご覧ください。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見るコストとの比較
効果と比べるのは、次のコストです。
- 一時的な費用:株式移転なら、HD設立の登録免許税(資本金の0.7%、最低15万円)と、株価の算定・書類作成などの専門家の報酬
- 毎年の費用:HDの均等割(標準税率で最低でも年7万円)、決算・申告、役員変更の登記など
- 手間:会社間の契約、取締役会・株主総会の議事録、経営指導料や配当の管理
費用の詳細はHD化にかかる費用と期間、毎年の費用はHDの維持コストで取り上げます。
贈与で足りるケース
株価が低い今のうちに後継者へ株式を渡せるなら、HD化せずに、暦年贈与や相続時精算課税で株式を渡すほうが簡単な場合があります。経営権を残したいなら、普通株式の大半を贈与し、オーナーは拒否権付株式を持つ、といった方法もあります。HD化はあくまで選択肢の一つで、贈与・譲渡・HD化を並べて比較することが大切です。贈与税の計算は自社株を贈与するときの贈与税の計算をご覧ください。
株価以外の効果も大きい
中小企業のHD化では、株価よりも次の効果が決め手になることが少なくありません。
- 承継の形を整える:事業会社ごとに社長を分け、オーナーはHDの代表として全体を見る
- 事業会社の決算書を軽くする:不動産や借入をHDに移し、本業の会社の自己資本比率や許認可の基準を保つ
- 資金を集める:100%子会社からの配当は、要件を満たせば全額益金不算入(法人税法23条)。HDに資金を集めて新規事業やM&Aに回せる
- M&Aの受け皿:買った会社を兄弟会社として置ける
銀行からの見え方
銀行は、HD化を「何のためにするのか」を必ず確認します。承継の筋道、HDと事業会社の役割、配当などグループ内のお金の流れを説明できれば、HD化そのものが評価を下げるとは限りません。代表の相亰の著書のモデルでは、銀行は返済能力と安全性を重く見ており、債務償還年数10年以内が健全の目安です。HD化の前後で、グループ全体の純資産と債務償還年数がどう変わるかを示せるようにしておきます。
一方、「株価を下げたいだけ」のHD化は、銀行にとっても税務署にとっても説明がつきません。株価対策は、総則6項や行為計算否認のリスクとセットで考える必要があります(総則6項と自社株評価)。
まとめ
- 判断の軸は年商ではなく、利益の積み上がり・承継までの時間・事業の数
- 株価の効果はHD化後の値上がり分×38%。利益が厚く、時間があるほど効く
- 株価が低く、すぐ渡せるなら贈与のほうが簡単なこともある
- 承継の形・決算書の軽量化・資金の集約など、株価以外の効果も判断材料にする
- 銀行には目的とお金の流れを説明できることが前提
HD化の前に確認すべき点はHD化の前に確認するチェックリストにまとめています。クレフティの事業承継・M&A支援では、HD化・贈与・譲渡の比較から株価の試算、金融機関への説明までご相談をお受けしています。初回のご相談は無料です。担当者がお話を伺い、その後は担当の公認会計士・税理士やコンサルタントが対応します。
