「社員がいない会社でも、年末調整は必要ですか?」は、ひとり会社の社長からよくいただく質問です。
先に結論を言うと、社長が役員報酬を受け取っていて、扶養控除等申告書を会社に出していれば、社長1人でも年末調整が必要です。作業そのものは難しくありません。ただ、令和8年分は基礎控除の引上げなどが12月に効いてくるので、例年どおりの計算では合いません。この記事では、ひとり会社の年末調整のやり方を、手順と期限に沿って整理します。
- 社長の役員報酬も給与なので、社長1人でも年末調整の対象になる
- 1年の給与と源泉徴収税額を集計し、年税額を計算して、その年最後の給与で差額を精算する
- 令和8年分は、12月の年末調整で改正後の基礎控除などを使う。11月までの源泉徴収は改正前のまま
- 納付期限は令和9年1月12日。納期の特例を受けていれば1月20日
- 令和8年分から、税務署への源泉徴収票の提出範囲が広がった一方、市区町村に給与支払報告書を出せば、税務署への提出は不要になった
ひとり会社に年末調整は必要か
年末調整は、扶養控除等申告書を提出している人について、給与の支払者が行うものです。社長への役員報酬も給与なので、役員か従業員かで違いはありません(国税庁タックスアンサーNo.2665、所得税法190条)。
| 社長の状況 | 年末調整 |
|---|---|
| 役員報酬があり、扶養控除等申告書を出して年末まで在任 | 必要 |
| その年の給与の総額が2,000万円を超える | できない(確定申告が必要) |
| 扶養控除等申告書を、ほかの勤務先に出している | この会社では行わない |
| 役員報酬を払っていない | 給与がないので不要 |
| 年の途中で退任した | 原則として対象外(例外あり) |
配偶者など家族にも給与を払っているなら、1人ずつ同じ作業をします。家族への給与の考え方はひとり会社で家族に給与を払うをご覧ください。
年末調整の手順
全体の流れは次のとおりです。
| 順番 | 作業 | 時期 |
|---|---|---|
| 1 | 申告書をそろえる | 11月〜最後の給与の前 |
| 2 | 1年の給与と源泉徴収税額を集計する | 12月 |
| 3 | 所得控除を集計する | 12月 |
| 4 | 年税額を計算する | 12月 |
| 5 | 差額を精算する | その年最後の給与 |
| 6 | 源泉所得税を納付する | 令和9年1月12日(納期の特例は1月20日) |
| 7 | 源泉徴収票を交付し、給与支払報告書を提出する | 令和9年2月1日 |
1. 申告書をそろえる
社長自身が書き、会社が受け取る形にします。税務署には出しません。
- 令和8年分 扶養控除等(異動)申告書
- 令和8年分 基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 特定親族特別控除申告書 兼 所得金額調整控除申告書
- 令和8年分 保険料控除申告書(生命保険料・地震保険料の控除証明書を添付)
- 住宅ローン控除の2年目以降なら、住宅借入金等特別控除申告書
様式は国税庁の各種申告書のページにあります。社長が個人で払った配偶者の国民年金保険料や、小規模企業共済の掛金なども、ここで申告します。
これらの申告書は、提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間、会社で保存します(No.2503)。
2. 給与を集計する
対象は、その年に支払うことが確定した給与です。賞与も含みます。実際に払ったかどうかは関係がないので、資金繰りで未払いにしている役員報酬も対象です(No.2668)。
支給日が決まっている給与は、その支給日で判定します。12月勤務分を翌年1月10日に払う会社なら、その1月の給与は今年の年末調整に入りません(No.2668のQ&A)。
役員報酬の決め方についてはひとり会社の役員報酬の決め方をご覧ください。
3〜4. 控除を集計し、年税額を計算する
計算の順番は次のとおりです。
給与所得控除後の金額 − 所得控除の合計 = 課税給与所得金額(1,000円未満切捨て)
課税給与所得金額 × 税率 = 算出所得税額(速算表で計算)
(算出所得税額 − 住宅ローン控除)× 102.1% = 年調年税額(100円未満切捨て)
表や速算表は「令和8年分 年末調整のしかた」に載っています。国税庁の年末調整の手順の説明には、Excelの年末調整計算シートへの案内もあります。会計ソフトや給与計算ソフトを使っている場合は、令和8年分に対応しているかを先に確認しましょう。
令和8年分で変わった点
令和8年度の税制改正は、原則として令和8年12月1日に施行され、令和8年分の所得税から適用されます。11月までの源泉徴収事務は変わりません(国税庁「基礎控除の引上げ等について」、Q&A)。
| 項目 | 令和8年分の内容 |
|---|---|
| 基礎控除 | 合計所得金額489万円以下は104万円、489万円超655万円以下は67万円、655万円超2,350万円以下は62万円(令和8・9年分の金額) |
| 給与所得控除 | 最低保障額が65万円から74万円に。令和8・9年分は、給与収入220万円未満の人にさらに特例あり |
| 扶養親族などの所得要件 | 合計所得金額58万円以下から62万円以下に(給与だけなら収入136万円以下) |
| 源泉徴収税額表 | 令和9年1月1日以後に支払う給与から新しい表を使う |
給与収入だけの場合、基礎控除が104万円になるのは収入665万5,556円以下です(No.1199)。
注意したいのは年の途中で役員報酬をやめた場合です。 年末調整は、その年最後の給与を払うときに行います。最後の給与を11月30日以前に払っていると、その年末調整には改正後の控除が適用されません。改正後の控除を受けるには、確定申告などが必要です(同Q&A Q1-3)。
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オンライン記帳・申告サポートを見る差額の精算と納付
年税額と、1年間に実際に源泉徴収した税額を比べます。
| 結果 | 処理 |
|---|---|
| 源泉徴収した税額のほうが多い(過納額) | 差額を本人に還付する |
| 源泉徴収した税額のほうが少ない(不足額) | 差額を本人の給与から徴収する |
精算は、その年最後の給与で行います。令和8年分は、毎月の税額を改正前の税額表で計算し、年税額を改正後の控除で計算します。そのため、過納額が出やすいと考えられます。
例(金額は仮のものです):源泉徴収した税額が1年で12万円、年税額が8万円なら、過納額は4万円です。4万円を社長に払い、会社が納める源泉所得税から差し引きます。納期の特例を受けている会社で、7〜12月分の源泉徴収税額が6万円なら、1月20日に納めるのは差引2万円です。
過納額のほうが大きく納付額がなくなる場合でも、納付税額0円の所得税徴収高計算書を税務署に提出します(国税庁年末調整の手順の説明)。全額還付の処理は年末調整で全額還付になったときの書き方も参考にしてください。
納付期限は、原則の会社が令和9年1月12日(火)、納期の特例の承認を受けている会社が令和9年1月20日(水)です。納期の特例の使い方は源泉所得税の納期の特例で解説しています。
源泉徴収票と給与支払報告書
ここは令和8年分で大きく変わった点です。
| 書類 | 相手 | 期限(令和8年分) | 内容 |
|---|---|---|---|
| 源泉徴収票 | 給与を受ける全員(社長本人も) | 令和9年2月1日(月) | 金額にかかわらず作成・交付 |
| 給与支払報告書 | 本人の住所地の市区町村 | 令和9年2月1日(月) | 年の途中の退職者で30万円以下を除き、全員分 |
| 源泉徴収票(税務署提出用) | 税務署 | ― | 給与支払報告書を市区町村に出せば提出不要 |
これまで、年末調整をした役員の源泉徴収票を税務署に出すのは、年150万円を超える場合でした。令和9年1月1日以後に提出するものからは、提出範囲が給与支払報告書と同じになりました。 一方で、市区町村に給与支払報告書を出せば、税務署に出したものとみなされます(「源泉徴収票のみなし提出の特例」。No.7411、国税庁の特設ページ)。
「法定調書合計表」も、給与所得の源泉徴収票だけなら不要になります。ただし、税理士報酬の支払調書など、ほかの法定調書を税務署に出すときは引き続き必要です(みなし提出の特例のQ&A)。
同じ時期には償却資産の申告もあります。償却資産税の申告も確認しておきましょう。そのほかの届出は法人設立後の届出一覧にまとめています。
年末調整のあとで確定申告が必要な社長
年末調整をしても、社長個人の確定申告が必要になる、または申告したほうがよい場合があります。
| 状況 | 扱い |
|---|---|
| 給与の総額が2,000万円を超える | 確定申告が必要 |
| 給与・退職所得以外の所得の合計が20万円を超える | 確定申告が必要 |
| 会社から家賃や貸付金の利子を受け取っている | 20万円以下でも確定申告が必要 |
| 医療費控除、雑損控除を受ける | 年末調整ではできないので確定申告 |
| 寄附金控除を受ける(ふるさと納税など) | 確定申告(ワンストップ特例を使う場合を除く) |
| 住宅ローン控除の1年目 | 確定申告 |
見落としやすいのは3行目です。ひとり会社は同族会社にあたることがほとんどで、社長が会社に部屋を貸していたり、会社にお金を貸して利子を受け取っていたりすると、金額が小さくても確定申告が必要です(No.1900)。社長と会社の貸し借りは役員借入金・役員貸付金をご覧ください。
まとめ
- 社長が扶養控除等申告書を出していれば、社長1人でも年末調整が必要
- 手順は、申告書の準備 → 集計 → 年税額の計算 → 最後の給与で精算 → 納付 → 書類の交付・提出
- 令和8年分は、12月の年末調整で改正後の基礎控除などを適用する。新しい税額表は令和9年1月から
- 納付は令和9年1月12日(納期の特例は1月20日)。源泉徴収票の交付と給与支払報告書の提出は2月1日
- 給与支払報告書は社長の分も提出する。市区町村に出せば、源泉徴収票を税務署に出す必要はない
- 会社から家賃や利子を受け取る社長は、20万円以下でも確定申告が必要
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