「配偶者控除と専従者給与、結局どちらが得ですか?」は、個人事業主からよくいただく質問です。
先に結論を言うと、配偶者が実際に事業で働いていて、年36万円前後を超える給与が働きに見合うなら、事業主の税金の面では専従者給与のほうが有利になる計算です。逆に、配偶者がほとんど事業に関わっていないなら、そもそも専従者給与は選べません。この記事では、令和8年分の制度をもとに、損得の計算と判断の手順を整理します。
- 併用はできない。青色事業専従者として一度でも給与を受けると、配偶者控除・配偶者特別控除の対象外になる
- 配偶者控除の効果は、所得税38万円分と住民税33万円分の控除に限られる
- 専従者給与は、給与の全額が事業の経費になる。事業主の税金だけで比べると、分かれ目は年36万円前後
- ただし、専従者給与は実際に働いていて、働きに見合う金額であることが前提で、年の途中からは始めにくい
- 給与所得控除と基礎控除により、令和8年分は配偶者の給与が年178万円までなら所得税はかからない計算になる
2つの制度はどう違うか
| 項目 | 配偶者控除 | 青色事業専従者給与 |
|---|---|---|
| 仕組み | 事業主の所得から一定額を差し引く | 配偶者に払う給与を事業の経費にする |
| 金額 | 38万円(住民税は33万円)。事業主の所得が900万円超で減り、1,000万円超はゼロ | 届出の範囲内で、労務の対価として相当な額 |
| 配偶者の要件 | 合計所得金額62万円以下(給与だけなら収入136万円以下) | 年6か月超、専ら事業に従事 |
| 事業主の所得の上限 | 合計所得金額1,000万円以下 | なし |
| 事前の届出 | 不要 | 必要(原則として3月15日まで) |
| 実際の支払い | 不要 | 必要 |
| 手間 | 確定申告書に記載 | 源泉徴収、年末調整、勤務の記録 |
配偶者の所得が62万円を超えて133万円以下なら、配偶者特別控除(最高38万円)の対象になります(国税庁タックスアンサーNo.1191、No.1195)。いずれも令和8年12月1日に施行される改正後の、令和8年分の金額です。令和7年分は58万円が基準でしたので、ご注意ください。
専従者給与の要件の詳細は家族に給与を払える?青色事業専従者給与の要件をご覧ください。
事業主の税金の差を計算する
事業主の税金がどれだけ減るかは、次の計算で分かります。
専従者給与の効果 = 給与の年額 ×(所得税率 + 住民税率10%)
事業主の所得税率ごとに計算すると、次のとおりです。
| 事業主の所得税率 | 配偶者控除 | 専従者給与 年60万円 | 専従者給与 年120万円 | 分かれ目の給与額 |
|---|---|---|---|---|
| 5% | 約5.2万円 | 約9.0万円 | 約18.0万円 | 約35万円 |
| 10% | 約7.1万円 | 約12.0万円 | 約24.0万円 | 約36万円 |
| 20% | 約10.9万円 | 約18.0万円 | 約36.0万円 | 約36万円 |
| 23% | 約12.0万円 | 約19.8万円 | 約39.6万円 | 約36万円 |
※事業主の税金が減る額の概算です。給与によって税率の区分が変わる場合は、この計算どおりにはなりません。復興特別所得税、個人事業税、国民健康保険料は含めていません。
この表のとおり、給与が年36万円前後を超えると、事業主の税金の減り方は専従者給与のほうが大きくなります。月3万円ほどが分かれ目です。
配偶者の側の税金
専従者給与は、配偶者にとって給与所得です。令和8年分は、給与所得控除が最低74万円(No.1410)、基礎控除が合計所得金額489万円以下なら104万円(No.1199)なので、ほかに所得がなければ、給与が年178万円までは所得税がかからない計算です。令和8年分・令和9年分の特例による金額で、令和10年分以後は変わります。
住民税の基礎控除は43万円のままなので、給与が増えると、配偶者に住民税がかかる場合があります。かかり始める金額は自治体によって異なります。
事業主の基礎控除にも影響する
令和8年分・令和9年分の基礎控除は、合計所得金額が489万円を超えると104万円から67万円に下がります。事業主の所得がこの近くにある場合は、専従者給与で所得が489万円以下になると、上の表より税金が大きく減ることがあります。境目の近くにいる方は、実際の金額で試算しましょう。
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実際に働いていることが前提
専従者給与は、税金の比較だけで選べる制度ではありません。経費になるのは、労務の対価として相当な金額だけです。仕事の実態がなければ否認されます。まず働き方を確認し、選べる場合に損得を比べる、という順番で考えます。否認された例は家族への給与が否認された事例と記録の残し方をご覧ください。
手間と支払いの実態
専従者給与を選ぶと、事業主は給与の支払者として、毎月の源泉徴収、年末調整、給与の振込、勤務の記録が必要になります。源泉所得税の納付を年2回にまとめる方法は源泉所得税の納期の特例で扱います。
国民健康保険と国民年金
個人事業主の配偶者は、国民健康保険の世帯に入り、国民年金は第1号被保険者として保険料を納めるのが一般的です。国民健康保険料は、世帯の人それぞれの所得などをもとに計算するので、給与を払うと、事業主と配偶者の所得の配分に応じて保険料が変わります。計算方法は市区町村によって異なるので、お住まいの自治体の料率で確認しましょう。
どちらを選ぶかの判断手順
| 状況 | 選ぶ方向 |
|---|---|
| 配偶者がほとんど事業に関わらない | 配偶者控除(専従者給与は不可) |
| 配偶者がほかで長時間働いている | 配偶者の所得に応じて配偶者控除・配偶者特別控除 |
| 事業主の税金がもともと少ない(所得控除の範囲に収まる) | どちらも効果は小さい。無理に専従者給与にしない |
| 配偶者が継続して働き、相当な給与が年36万円前後を超える | 専従者給与を検討 |
| 事業主の合計所得金額が1,000万円を超える | 配偶者控除は使えない。実態があれば専従者給与を検討 |
事業主の所得が少ない年に高い給与を払うと、事業が赤字になったり、配偶者の側に税金がかかったりして、世帯全体では損になることもあります。事業主の所得の見込みと、配偶者の働き方を年初に確認しましょう。
切り替えの時期
専従者給与に切り替えるなら、「青色事業専従者給与に関する届出書」を、経費にしたい年の3月15日までに出します(1月16日以後に開業した場合や、新たに専従者ができた場合は2か月以内。No.2075)。2027年分から切り替えるなら、期限は2027年3月15日です。
配偶者控除に戻したい年は、その年に一度も専従者給与を払わないようにします。
白色申告の場合
白色申告では給与を経費にできませんが、配偶者が専ら事業に従事していれば、事業専従者控除を受けられます。控除額は、86万円と、控除前の事業所得等の金額 ÷(専従者の数 + 1)の、いずれか低いほうです(No.2075)。
この場合も配偶者控除は受けられません。ただし、配偶者控除の38万円より控除額が大きくなることが多く、給与の支払いも要件ではありません。要件を満たす配偶者がいて、白色申告を続けているなら比較してみましょう。一方、相当な給与が86万円を大きく超えるなら、青色申告にする意味があります。
ひとり会社の場合は考え方が違う
ひとり会社には、専従者の制度はありません。配偶者を会社の役員や従業員にして給与を払い、働きに見合う範囲で損金にします。
配偶者の所得が62万円以下なら、社長は配偶者控除を受けられます(社長の合計所得金額が1,000万円以下の場合)。給与と配偶者控除がどちらか一方になるのは、個人事業主の専従者の特徴です。一方で法人は、社会保険の扱いが大きな判断材料になります。詳しくはひとり会社で家族に給与を払うと、家族への給与:個人事業主と法人の比較をご覧ください。
まとめ
- 配偶者控除と専従者給与は併用できない。専従者給与を一度でも受けると配偶者控除の対象外
- 事業主の税金で比べた分かれ目は、給与が年36万円前後
- 令和8年分は、配偶者の給与が年178万円までなら所得税はかからない計算。住民税は別に確認する
- 専従者給与は働いている実態と相当な金額が前提。源泉徴収や勤務の記録も必要
- 切り替えは3月15日までの届出。ひとり会社は仕組みが異なり、配偶者控除との併用もありうる
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