「副業を事業にして赤字を出せば、給与から天引きされた税金が戻ってくる」。こうした話を聞いて、副業の赤字を給与所得と損益通算しようと考える会社員の方は少なくありません。
損益通算そのものは法律で認められた仕組みです。ただし、それが使えるのは副業の所得が事業所得と認められる場合に限られます。この記事では、損益通算が否認されるとどうなるのか、どんな場合に否認されやすいのかを整理します。
- 損益通算できるのは、不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の赤字だけ(所得税法69条)。雑所得の赤字は損益通算できない
- 副業が事業所得か雑所得かは、社会通念上の事業といえるかで判定する。令和4年改正の通達35-2では、帳簿書類の保存がなければ原則として雑所得とされた
- 帳簿があっても、収入が僅少な場合や、例年赤字で赤字解消の取組がない場合は個別に判断される
- 雑所得とされると、還付された税金を返すうえ、過少申告加算税と延滞税がかかる。公表裁決でも、給与で生活しながらの赤字の副業が雑所得とされている
損益通算の仕組みと、使える所得
損益通算とは、ある所得の赤字を、ほかの所得の黒字から差し引くことです。会社員の場合、給与所得から副業の赤字を差し引くと、総所得金額が減り、年末調整で納めた所得税の一部が還付されます。
ただし、損益通算できる赤字は、所得税法69条で次の4つに限られています。
| 所得の種類 | 赤字を損益通算できるか |
|---|---|
| 事業所得 | できる |
| 不動産所得 | できる(土地の取得のための借入金利子など、一部制限あり) |
| 山林所得・譲渡所得 | できる(譲渡所得は、土地・建物や株式などの赤字に制限あり) |
| 雑所得(業務に係る雑所得を含む) | できない |
| 一時所得・配当所得など | できない |
雑所得の赤字は他の所得と損益通算できないことは、国税庁タックスアンサー(No.1500)にも明記されています。副業の赤字で税金が戻るかどうかは、その副業が事業所得か雑所得かで決まるということです。
事業所得と認められる基準(令和4年改正の通達35-2)
国税庁は令和4年10月7日に所得税基本通達35-2を改正し、事業所得と業務に係る雑所得の判定の考え方を示しました。
- 原則:その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度かどうかで判定する
- 帳簿書類の保存がない場合:業務に係る雑所得に該当する(収入金額が300万円を超え、事業所得と認められる事実がある場合を除く)
国税庁の解説では、帳簿書類を保存していれば事業所得に区分される場合が多いとしつつ、次の場合は事業かどうかを個別に判断するとしています。
- 収入金額が僅少:例えば、例年300万円以下で、主たる収入に対する割合が10%未満
- 営利性が認められない:例えば、例年赤字で、かつ赤字を解消するための取組をしていない
給与収入が中心の会社員が、小さな収入の副業で毎年赤字を出している、というケースは、まさに個別判断の対象になります。判定の詳しい考え方は「副業は事業所得か雑所得か:帳簿と300万円の目安」で解説しています。
否認されるとどうなるか
税務調査などで副業の所得が雑所得とされると、次のような負担が生じます。
| 負担 | 内容 |
|---|---|
| 本来の所得税 | 損益通算で減らした所得が元に戻り、還付を受けた税額などを納める |
| 過少申告加算税 | 原則として新たに納める税額の10%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は15%) |
| 延滞税 | 本来の納期限からの日数に応じてかかる |
| 住民税・国民健康保険料など | 所得が増えた分、後から増える |
| 必要経費の否認 | 区分とは別に、私的な支出が経費に入っていれば、その分も否認される |
調査の対象は1年分とは限りません。毎年同じように損益通算していれば、複数年分がまとめて修正されることもあります。また、隠ぺい・仮装があると判断されれば、より重い重加算税の対象になります。税務調査で最悪どうなるかは「税務調査で最悪どうなる?」をご覧ください。
公表裁決でみる「否認されやすい副業」
損益通算が否認された公表裁決の主な例です(詳しくは「副業の赤字の損益通算が否認された事例」)。
| 裁決 | 副業の内容 | 雑所得とされた主な理由 |
|---|---|---|
| 平成26年9月1日裁決 | 大学准教授の執筆・講演 | 企画遂行性が乏しく、労力も限定的。大学から生活に十分な給与を得ていた |
| 令和8年2月6日裁決 | 講演、一般財団法人の理事など | 連年1,000万円を超える経費で大幅な赤字。給与収入によって業務が続けられていた |
| 令和4年12月14日裁決 | 自宅屋根などの太陽光発電 | 売電収入が減価償却費に満たない小規模なもので、営利性・物的設備に乏しく、人的設備もない |
| 平成12年9月19日裁決(裁決事例集No.60) | 貸金業登録をしての金銭の貸付け | 特殊関係のある法人への貸付けは営利目的と認められず、その他の貸付けは少額。主に給与で生活 |
共通しているのは、生活は給与でまかなわれ、副業は赤字が続いているという構図です。「事業として本気で取り組んでいる」という本人の意思があっても、客観的な実態がなければ事業とは認められていません。
損益通算をする前のチェックリスト
副業の赤字を損益通算する前に、次の点を確認しておきましょう。
- 帳簿をつけ、書類を保存しているか:日々の取引を記録し、請求書・領収書を保存している
- 収入を増やす取組をしているか:営業、集客、価格の見直しなど、赤字を解消する具体的な行動と記録がある
- 赤字が一時的か:開業直後の設備投資による赤字なのか、毎年続く構造的な赤字なのか
- 経費に私的な支出が混ざっていないか:家族との食事や旅行、生活と共用の物を全額入れていないか
- 事業の計画があるか:いつ黒字にするのか、数字で説明できる
- 開業届・青色申告承認申請書:出していれば事業所得になるわけではないが、事業として取り組む実態の一つになる
「赤字を出すために経費を増やす」という発想は本末転倒です。副業で使える制度と注意点は「年末の駆け込み節税の落とし穴」も参考にしてください。
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オンライン記帳・申告サポートを見るまとめ
- 損益通算できるのは事業所得などの赤字だけで、雑所得の赤字は損益通算できない
- 副業が事業所得かどうかは社会通念で判定し、令和4年改正の通達35-2で、帳簿書類の保存がなければ原則として雑所得とされた
- 帳簿があっても、収入が僅少な場合や例年赤字で取組がない場合は個別に判断される
- 否認されると、本来の税金に加えて過少申告加算税・延滞税がかかり、複数年分がまとめて修正されることもある
- 損益通算をするなら、事業の実態と、それを示す記録をそろえてから
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