副業・損益通算

競馬などをコンテンツにする配信者:馬券代は経費になる?考え方と論点

競馬予想のYouTubeチャンネル、実際に馬券を買ってレースを見届ける実況配信、競輪やボートレースの予想動画。公営競技をコンテンツにする配信者は少なくありません。そこで必ず出てくるのが「馬券代は動画の経費にできるのか」という疑問です。

この論点には、確立した基準がありません。配信者の馬券代について判断した公表裁決・判決は、この記事の執筆時点で確認できていません。この記事では「経費になる・ならない」を断定せず、関連する判決や通達から考え方と論点を整理します。

この記事の結論
  • 馬券の購入には、動画の素材にする目的と、払戻金を得る・楽しむ目的が重なっている。どちらが主かで考え方が分かれる
  • 払戻金は原則として一時所得(所得税基本通達34-1)。最高裁平成27年3月10日判決・平成29年12月15日判決の事案のような継続的・網羅的な購入なら雑所得
  • 馬券代を配信の経費にするなら、払戻金の扱いとの整合性が最大の論点。費用は配信、収入は一時所得という分け方は説明が難しい
  • 判断の材料になるのは、購入と動画の対応関係、購入額の規模、配信収入との関係、そして記録。個別の事情によって判断が分かれる

そもそも必要経費とは何か

事業所得や雑所得の必要経費は、収入を得るために直接要した費用や、業務について生じた費用です(所得税法37条1項)。一方、家事上の経費(私的な支出)は必要経費になりません(同法45条1項)。

裁判所や審判所が見ているのは、本人の気持ちではなく、客観的にみて業務の遂行上必要な支出かです。

  • 東京高裁平成24年9月19日判決は、弁護士会役員としての懇親会費の一部を、社会通念上業務の遂行上必要な支出として必要経費と認めた
  • 平成26年5月22日裁決は、ライブチャット業務の美容費について、「画面できれいに見せるため」という説明は主観的事情にすぎないとして必要経費と認めなかった

「動画のネタにしたから」という説明だけでは、主観的な事情と見られるおそれがあります。

払戻金の所得区分:最高裁判決と通達

馬券代を考えるときは、払戻金がどの所得になるかとセットで考える必要があります。

根拠内容
所得税基本通達34-1(2)競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金等は一時所得(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除く)
最高裁平成27年3月10日判決(平成26年(あ)第948号)自動購入ソフトで長期間・多数回・網羅的に購入し、多額の利益を恒常的に上げていた事案。払戻金は雑所得、外れ馬券も必要経費
最高裁平成29年12月15日判決(平成28年(行ヒ)第303号)購入パターンに従い6年間ほぼ全レースで購入し、毎年利益を上げていた事案。払戻金は雑所得、外れ馬券も必要経費
通達34-1の注書き上記のような購入で、回収率が期間総体として100%を超えるように購入し続けてきたことが客観的に明らかな場合は雑所得。それ以外は一時所得

一時所得の場合、差し引けるのは当たり馬券の購入代金だけで、特別控除(最高50万円)後の2分の1が課税されます。詳しくは「競馬・競輪の払戻金の税金:一時所得か雑所得か」をご覧ください。

考え方は3つに分かれる

配信者の馬券代と払戻金について、考えられる整理は大きく3つです。どれが正しいと決まっているわけではなく、実態に合う整理を選び、それを説明できるかが問われます。

考え方馬券代払戻金検討すべき点
A:馬券の購入は私的な楽しみ(配信は結果を紹介しているだけ)配信の経費にしない一時所得(当たり馬券代だけ差し引く)最も保守的。配信の経費は機材・編集費・取材の交通費などに限る
B:馬券の購入は配信の業務と一体(購入そのものが企画の中身)配信の業務の費用として検討同じ業務の収入として扱う考え方との整合性を検討費用だけ配信に入れ、収入は一時所得という分け方は説明が難しい。購入と動画の対応を示す必要がある
C:最高裁の事案のような継続的・網羅的な購入雑所得の必要経費(外れ馬券を含む)雑所得通達34-1の注1の実態(年間を通じたほぼ全レースの購入、毎年の多額の利益など)が客観的に明らかか

考え方Bを検討するときの論点

本来の業務と直接結び付く収入は、その業務の所得に含まれるという考え方があります。たとえば平成15年3月11日裁決は、弁護士の著書の印税について、弁護士としての知識と経験に基づき本来の職務と直接結び付くとして、弁護士業の事業所得に含めました。これは馬券の事案ではありませんが、「業務と一体」と主張するなら、費用だけでなく収入も一体として考えるという発想の参考になります。

考え方Bをとる場合に、税理士と確認したい点は次のとおりです。

  • 馬券の購入が企画の中身そのものか(例:「1万円で何倍にできるか」という企画で、購入の過程と結果を全て動画にしている)
  • 動画にしなかった購入が混ざっていないか(私的な購入と区分できるか)
  • 購入額が、配信の収入(広告・メンバーシップ・案件)と比べて不自然に大きくないか
  • 払戻金を、配信の業務の収入としてどう計上するか
  • 年間を通じて払戻金が購入額を上回った場合・下回った場合に、扱いが一貫しているか

企業案件で馬券代を負担してもらう場合

予想サイトや関連サービスの案件で、広告主から馬券代相当の金額を受け取ることがあります。この場合、受け取った金額は配信者の収入です。そのうえで、払戻金が誰のものになる契約か(配信者が受け取るのか、広告主に返すのか)を契約書で確認しましょう。払戻金の帰属によって、申告の仕方が変わります。

記録の残し方

どの考え方をとるにしても、記録がなければ説明できません。

  1. インターネット投票の購入履歴・払戻しの記録:一定期間を過ぎると見られなくなることがあるため、定期的に保存する
  2. 購入と動画の対応表:日付、レース、購入額、払戻金、公開した動画のURL
  3. 動画にしなかった購入の区分:私的な購入は分けて記録する
  4. 企画書・台本:馬券の購入が企画の中身であることがわかる資料
  5. 案件の契約書:馬券代の負担や払戻金の帰属の定め

配信者の経費全般の考え方は「配信者・クリエイターの経費の考え方」、配信収入の所得区分は「配信収入は事業所得か雑所得か」で解説しています。

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まとめ

  • 配信者の馬券代について判断した公表裁決・判決は確認できておらず、確立した基準はない
  • 馬券の購入には、動画の素材にする目的と、払戻金を得る・楽しむ目的が重なっている
  • 払戻金は原則として一時所得。最高裁平成27年・平成29年判決の事案のような継続的・網羅的な購入なら雑所得
  • 馬券代を配信の経費にするなら、払戻金の扱いとの整合性、購入と動画の対応、購入額の規模を説明できるかが論点
  • 迷う場合は、保守的な整理(考え方A)を基本に、記録をそろえて税理士に相談する

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よくある質問

競馬の動画を投稿していれば、馬券代は動画制作の経費になりますか?
一概には言えません。馬券の購入には、動画の素材にするという目的と、払戻金を得る・楽しむという私的な目的が重なっています。配信者の馬券代を必要経費と認めた、あるいは否認した公表裁決・判決は、この記事の執筆時点で確認できていません。動画との対応関係、払戻金の扱いとの整合性、記録の有無などで判断が分かれるため、申告前に税理士に相談してください。
馬券代を経費にした場合、払戻金はどう申告すればよいですか?
ここが最も難しい論点です。払戻金は原則として一時所得ですが、同じ馬券の購入代金を配信の経費にしながら、払戻金だけを一時所得として特別控除や2分の1の計算を受けると、同じ取引の費用と収入を別々の所得に分けることになり、説明が難しくなります。馬券の購入を配信の業務と一体のものと考えるなら、払戻金も同じ業務の収入として扱う考え方との整合性を検討する必要があります。

※本記事は2026年10月25日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
※本記事の無断転載・複製、商用目的での利用はお断りします。引用の際は、出典(税理士法人クレフティ・記事URL)を明記してください。

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