副業・損益通算

副業の赤字の損益通算が否認された事例:公表裁決から分かる共通点

副業の赤字を給与所得と損益通算して還付を受けたものの、税務調査で「その副業は事業ではなく雑所得だ」とされ、損益通算を否認される。こうした事例は、国税不服審判所の公表裁決にいくつも載っています。

この記事では、否認された公表裁決を出典つきで紹介し、どんな事情が「事業ではない」と判断される理由になったのかを整理します。目的は不安をあおることではなく、自分の副業を客観的に見直す材料にしていただくことです。

この記事の結論
  • 公表裁決では、執筆・講演、太陽光発電、金銭の貸付け、外国為替証拠金取引、競走馬の保有などの赤字が、雑所得として損益通算を否認されている
  • 共通点は、給与などで生活している/赤字が続いている/収入が小さい/設備や人手がない/企画や営業の裏付けがないこと
  • 「事業として行う意思がある」「届出や登録をしている」だけでは事業と認められない。客観的な実態が問われる
  • 雑所得の赤字は他の所得と損益通算できない(所得税法69条)。区分の判定は令和4年改正の通達35-2の考え方が基本になる

前提:雑所得の赤字は損益通算できない

損益通算できるのは、不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の赤字に限られます(所得税法69条1項)。副業が事業所得なら給与と通算でき、雑所得なら通算できません。

事業所得かどうかは、活動が社会通念上の事業といえるかで判定し、営利性・有償性、継続性・反復性、自己の計算と危険による企画遂行性、精神的・肉体的労力、人的・物的設備、職歴・社会的地位・生活状況などを総合的に考えます。令和4年改正の通達35-2では、帳簿書類の保存がなければ原則として雑所得とされました(詳しくは「副業は事業所得か雑所得か」)。

公表裁決の一覧

裁決副業の内容結論主な理由
令和8年2月6日裁決講演、税理士会の無料相談会への従事、一般財団法人の理事など雑所得連年1,000万円を超える経費で大幅な赤字。上場企業の社外役員などの多額の給与で業務が継続されていた。安定した収益の可能性がない
令和4年12月14日裁決太陽光発電への取組雑所得契約した太陽光設備は存在しないか他人が発電事業者として登録されており、自宅屋根の設備の売電収入は減価償却費にも満たない。役員給与で生活
平成26年9月1日裁決大学准教授の執筆・講演雑所得取材・営業の裏付けがなく企画遂行性が乏しい。週4日程度の講義の合間の活動で労力も限定的。大学から十分な給与
平成22年2月16日裁決(No.79)外国為替証拠金取引雑所得投機性が高く安定した収益の可能性が乏しい。役員報酬で生計。人的・物的設備なし
平成13年9月14日裁決(No.62)競走馬の保有雑所得登録馬は1〜3頭と少数で、事業所や設備、従業員なし。管理は第三者に委託。5年間は損失のみ。建設工事業の所得で生計
平成2年2月2日裁決(No.39)競走馬の保有雑所得頭数が極めて少なく損失のみ。代表を務める会社からの給与で生計
平成12年9月19日裁決(No.60)金銭の貸付け(貸金業登録あり)雑所得特殊関係の法人への無担保・低利の貸付けは営利目的と認められず、他の貸付けは少額。主に給与で生活。損益通算できない
平成4年12月9日裁決(No.44)金銭の貸付け(貸金業登録あり)雑所得登録はしているものの、営利を目的とした社会通念上の事業とは認め難い

(平成2年と平成4年の裁決は、国税不服審判所の要旨のページへのリンクです)

事例から分かる5つの共通点

1. 生活の糧が給与や役員報酬

ほぼすべての事例で、審判所は「請求人は給与収入で生計を立てていた」ことを指摘しています。令和8年2月6日裁決は、多額の給与があったからこそ赤字の業務を続けられたと見ています。副業の赤字を本業の収入で埋め続けている状態は、事業と認められにくい典型です。

2. 赤字が続き、黒字になる見込みが示せない

競走馬の事例では「損失を計上するのみ」、令和8年の事例では「連年大幅な赤字」が重視されました。通達35-2の解説も、例年赤字で赤字解消の取組をしていない場合は営利性が認められないと考えられるとしています。審判所は、相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性があるかを見ています。

3. 収入が小さい

太陽光の事例では、売電収入が減価償却費にも満たない規模でした。金銭貸付けの事例では、受取利息が年5万円足らずでした。

4. 設備や人手、企画・営業の裏付けがない

准教授の事例では、取材活動や営業活動をしたという説明に裏付けとなる証拠が一切なかったとされています。競走馬の事例では、事業所も従業員もなく、管理は第三者任せでした。

5. 意思や形式だけでは足りない

平成26年9月1日裁決は、活動の目的やそれを達成する意思という主観的な要素は少なくとも重要な判断要素ではないとしました。貸金業の登録をしていた金銭貸付けの事例でも、登録だけでは事業と認められていません。

記録を示して一部が取り消された事例もある

雑所得とされた事案でも、すべてが納税者に不利な結論になるわけではありません。自宅で行うライブチャット業務の平成26年5月22日裁決では、所得区分は雑所得のままでしたが、パソコン・ウェブカメラ・ネット接続料は業務に不可欠として必要経費に算入され、平成19年分から平成21年分の処分の一部が取り消されました。事実と記録をきちんと示せば、認められる部分は認められるということです。

自分の副業を見直すチェックポイント

チェック項目否認された事例の状態目指したい状態
生活費の出どころ給与・役員報酬副業の収入が生活の一部を支えている、または支える計画がある
収支毎年赤字数年で黒字化する計画と、そのための行動がある
収入の規模小さく伸びない取引先・受注件数が増えている
設備・人手ない、第三者任せ必要な設備、外注先、作業時間を確保している
記録裏付けがない帳簿、契約書、営業・企画の記録が残っている

1つでも当てはまれば否認される、というものではなく、総合的に判断されます。赤字を損益通算する前に、税理士と一緒に実態を確認しておくと安心です。損益通算のリスクそのものは「副業の赤字を給与と損益通算するリスク」、不動産での損益通算は「給与と不動産所得の損益通算」をご覧ください。

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まとめ

  • 副業の赤字が雑所得とされて損益通算を否認された公表裁決は、執筆・講演、太陽光、金銭の貸付け、FX、競走馬など幅広い
  • 共通点は、給与で生活、赤字の継続、小さな収入、設備や裏付けの欠如。意思や届出だけでは事業と認められない
  • 審判所は「相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性」を見ている
  • 事実と記録を示せば、認められる部分は認められる。帳簿と取組の記録が最大の備え

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よくある質問

副業の損益通算が否認された事例には、どんな共通点がありますか?
公表裁決を見ると、主に給与や役員報酬で生活していること、副業が毎年赤字であること、収入が小さいこと、人的・物的設備がほとんどないこと、取材や営業などの企画遂行の裏付けがないことが共通しています。本人が事業として行う意思を持っていても、客観的な実態がなければ事業とは認められていません。
開業届や貸金業の登録をしていれば、事業所得と認められますか?
届出や登録だけでは認められません。平成12年9月19日の公表裁決では、貸金業者として登録し、チラシで顧客を募っていた請求人の金銭の貸付けについて、特殊関係のある法人への低利・無担保の貸付けが中心で、他の貸付けは少額だったことなどから、事業に当たらず雑所得とされました。届出や登録は判断材料の一つにすぎず、活動の実態で判断されます。
否認されないためには、何を準備すればよいですか?
帳簿と書類の保存、収入を増やすための具体的な取組の記録、赤字を解消する計画、私的な支出を経費に入れないことが基本です。令和4年改正の所得税基本通達35-2の解説でも、例年赤字で赤字解消の取組をしていない場合は、営利性が認められない場合に当たると考えられるとしています。

※本記事は2026年10月25日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
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