「メールで届いた請求書のPDFは、印刷してファイルに綴じておけばいい?」「メールボックスに残っていれば大丈夫?」。取引先からの請求書がPDFに変わり、保存の仕方に迷う方は少なくありません。
結論からいうと、メールやWebで受け取った請求書は、PDFなどのデータのまま保存します。所得税・法人税では、印刷した紙をデータの代わりにはできません。ただし、専用のソフトは必須ではなく、フォルダとファイル名の工夫で対応できます。この記事では、国税庁の「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(令和8年7月版。以下「一問一答」)をもとに、具体的な手順を説明します。
- メール、Webサイト、クラウドで受け取った請求書は電子取引にあたり、データのまま保存する
- 所得税・法人税では、印刷して保存するだけでは足りない。データを消さないことが出発点
- 小さな事業者は、フォルダ分け+規則的なファイル名+事務処理規程で対応できる
- 基準期間の売上高が5,000万円以下なら、ダウンロードの求めに応じられれば検索機能の確保は不要
- メールソフトの中で閲覧できるだけでは不十分。決まった場所に保存する
どのデータを保存するのか
請求書だけでなく、領収書、見積書、注文書、契約書など、紙なら保存が必要な書類に相当するデータが対象です。売上や仕入だけでなく、水道光熱費や旅費交通費などの経費に関するものも含まれます(一問一答 問2)。
受け取り方ごとに、保存するものは次のとおりです。
| 受け取り方 | 保存するもの | 根拠(一問一答) |
|---|---|---|
| メールにPDFが添付されていた | 添付ファイルのPDF(メール自体の保存は不要) | 問4、問6 |
| メールの本文に金額などの取引情報が書かれている | そのメール | 問4、問6 |
| WebサイトからPDFをダウンロードできる | ダウンロードしたPDF、またはサイト上に保存 | 問36 |
| Webサイトの画面に表示されるだけ | スクリーンショット、またはPDFなどに変換して保存 | 問5、問36 |
| クラウドの請求書サービスで受け取った | クラウド上に保存、またはダウンロードして保存 | 問7、問36 |
| ExcelやWordで届いた、パスワード付きで届いた | PDFへの変換、パスワードの解除をして保存してもよい | 問42 |
取引情報が含まれていないメールまで保存する必要はありません(問6)。あいさつや日程調整だけのメールは対象外です。
全体の制度は電子帳簿保存法の基本で整理しています。
印刷だけでは足りない理由
税目によって扱いが違うので、ここが混乱しやすいところです(一問一答 問29、インボイスQ&A 問85)。
| 税目 | データで受け取った請求書 | 印刷した紙の扱い |
|---|---|---|
| 所得税・法人税 | データのまま保存が必要 | 保存書類として扱われない |
| 消費税(仕入税額控除) | 適格請求書の記載事項を満たすデータを保存 | 整然とした形式で明瞭に出力した書面の保存でも要件を満たす |
消費税だけ見れば紙でもよいのですが、個人事業主も法人も所得税や法人税の保存義務があるので、実務ではデータを残すことになります。
なお、データを要件どおりに保存したうえで、管理しやすいように印刷して綴じておくことは問題ありません(問30、問31)。禁止されているのは印刷そのものではなく、データの代わりに紙だけを残すことです。
小さな事業者の保存手順
国税庁は、配偶者と2人で事業をしている個人事業主が、特別なソフトを使わずにパソコンでPDFの請求書を保存する例を示しています(問19)。これに沿うと、手順は次の3つです。
1. フォルダを決める
「2026年」の下に「取引先別」または「月別」のフォルダを作り、データを入れます。保存先はパソコンでもクラウドストレージでもかまいません(問4)。
メールソフトの中に残して閲覧できるだけでは、十分とはいえません(問5)。受け取ったら、決めた場所に移す習慣をつけます。
2. ファイル名をそろえる
日付、取引先、金額を、規則的に入れます。国税庁の例をもとにすると、次のような形です。
`20261031_株式会社〇〇_110000.pdf`
ここは検索機能を確保するための工夫です。ファイル名の代わりに、表計算ソフトで索引簿(一覧表)を作る方法もあります(問19)。
3. 事務処理規程を定める
受け取ったPDFは、受け取った側で書き換えられるため、改ざん防止の措置が必要です。タイムスタンプを付けない場合は、不当な訂正や削除を防ぐための事務処理規程を定め、備え付けて、そのとおりに運用します(問5、問30)。規程のサンプルは一問一答の問33に掲載されています。
訂正や削除の記録が残るシステムを使う方法もありますが、データの授受もそのシステムの中で行うことが条件です。メールで受け取ったPDFを、そのようなシステムに保存するだけでは足りず、やはり事務処理規程などの措置が必要です(問43)。
売上高5,000万円以下なら検索機能は不要
基準期間の売上高が5,000万円以下で、税務調査の際にデータのダウンロードの求めに応じられるようにしている場合は、検索機能の確保は不要です(問19、問51)。手順の2は、義務ではなくなります。ただし、探しやすさのために続ける価値はあります。
| 項目 | 判定の仕方(問51) |
|---|---|
| 個人事業主 | 電子取引をした年の前々年の売上高 |
| 法人 | 電子取引をした事業年度の前々事業年度の売上高 |
| 開業1年目・2年目など | 判定する基準期間がなければ検索機能は不要 |
| 売上高の中身 | 税抜で判定。非課税の売上も含むので、消費税の課税売上高とは違う |
検索機能が不要でも、データの保存と改ざん防止の措置は必要です。
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| 場面 | 扱い | 根拠(一問一答) |
|---|---|---|
| 同じ内容の紙とPDFの両方が届いた | 紙を正本と決めていれば紙だけでよい。内容を補足する情報がデータにあれば両方を保存 | 問16 |
| 1つのPDFに複数の請求書が入っている | 内容を変えずに取引ごとに分割し、ファイル名を付けて管理する方法がある | 問54 |
| パソコンがなくスマホだけで事業をしている | スマホやクラウドに保存してよい。プリンタは、調査の際に近くの有料プリンタなどで速やかに出力できれば常設でなくてよい | 問21 |
| スマホを買い替える | データの移行が必要。移行のときも改ざん防止の措置を続ける | 問21 |
| 一時的なクラウドのデータをダウンロードして保存している | メールのPDFと同じように、タイムスタンプや事務処理規程などの対応が必要 | 問5 |
カードやスマホ決済の利用明細もデータでの保存が必要です。QRコード決済の記録と経費の証明やクレジットカードの明細と消費税もあわせてご覧ください。
何年保存するか
データの保存期間は、紙の書類と同じです(問17)。法人は原則7年、個人事業主は書類によって5年または7年です。消費税の課税事業者が仕入税額控除のために保存する請求書等は7年間です。年数の数え方はレシート・領収書は何年保存する?(個人事業主)と(法人)にまとめています。
法令の要件ではありませんが、国税庁もバックアップを望ましいとしています(問26)。パソコンの故障に備えて、別の場所にも残しておくと安心です。
対応が間に合っていないとき
要件どおりの保存を行うための環境が整っていない場合には、猶予措置があります。要件に従って保存できないことに税務署長が相当の理由があると認め、調査の際にデータのダウンロードと印刷した書面の提示・提出に応じられれば、保存時の要件は問われません(問22、問93)。事前の申請は不要です。
ただし、次の2点に注意してください。
- データ自体の保存は必要です。データを消して紙だけを残すことは認められていません
- 環境が整っていて要件どおりに保存できるのに、資金繰りや人手不足などの理由もなく保存していない場合は、猶予措置を受けられません
まずは、受け取ったデータを消さずに1か所に集めることから始めましょう。
まとめ
- メールやWebで受け取った請求書は、データのまま保存する
- 所得税・法人税では、印刷した紙はデータの代わりにならない
- 手順は、フォルダ分け、ファイル名の統一、事務処理規程の3つ
- 売上高5,000万円以下なら、ダウンロードの求めに応じられれば検索機能は不要
- 対応が間に合わないときも、データは消さない
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