「車を買うなら、個人名義と法人名義のどちらがいい?」「法人成りを考えているけれど、車は先に買うべき?後で買うべき?」。個人事業主とひとり会社の両方の立場で、迷いやすいテーマです。
この記事では、車を個人で買う場合と法人で買う場合の違いを、経費・減価償却・社会保険・売却時の税金の順に表で比べます。それぞれの詳しい処理は、個人事業主が車を買ったら:経費にできる割合と家事按分と法人で車を買ったら:全額経費になる?私的利用の注意点をご覧ください。
- 個人は仕事に使う割合で按分、法人は業務用なら按分なしで全額が経費になる
- 減価償却の方法は、個人が定額法、法人が定率法が原則。法人のほうが早く経費にできる
- 法人で社長や家族が私的に使うと役員給与とされるおそれがある。「法人なら何でも経費」ではない
- 売ったときは、個人は譲渡所得、法人は固定資産売却益。車だけで法人化を決めない
個人と法人の違いを一覧で比べる
まず、主な違いを表で並べます。
| 項目 | 個人事業主 | 法人(ひとり会社) |
|---|---|---|
| 経費にできる範囲 | 仕事に使う割合だけ(家事按分) | 業務に使う社用車なら全額 |
| 減価償却の方法(届出なし) | 定額法 | 定率法 |
| 新車の耐用年数 | 普通自動車6年、軽自動車4年 | 同じ |
| 私用に使ったとき | 私用の割合は経費にならない | 社長への経済的利益(役員給与)とされるおそれ |
| 維持費(ガソリン・保険・税金) | 仕事に使う割合で按分 | 社用車の分は会社の経費 |
| 売ったときの税金 | 譲渡所得(総合課税) | 固定資産売却益(法人税) |
| 消費税(課税事業者の場合) | 仕事に使う部分の購入が仕入税額控除の対象、売却は課税売上 | 購入は仕入税額控除の対象、売却は課税売上 |
| 必要な記録 | 按分の根拠(運転日誌など) | 業務に使っている根拠(運転日誌、車両管理のルール) |
経費にできる範囲と減価償却の違い
個人は按分、法人は全額
個人事業主の車は、生活にも使う「家事関連費」として、仕事に使った部分だけが経費になります(所得税法施行令96条)。走行距離や使用日数で割合を決めるので、たとえば仕事に6割使う車なら、減価償却費や維持費の6割が経費です。
法人には生活の部分がないので、業務に使う社用車なら、減価償却費も維持費も全額が会社の経費です。ただし、これは「業務に使っている」ことが前提です。
定額法と定率法
届出をしない場合の減価償却の方法は、個人が定額法、法人が定率法です。300万円の普通自動車(耐用年数6年)を1年間使った場合の1年目の償却費を比べると、次のようになります。
| 方法 | 償却率 | 1年目の償却費(12か月使用) |
|---|---|---|
| 定額法(個人の原則) | 0.167 | 501,000円(ここから仕事の割合だけが経費) |
| 定率法(法人の原則) | 0.333 | 999,000円(業務用なら全額が経費) |
最終的に経費にできる総額は同じでも、法人は早い時期に多く経費にできます。中古車を買うと耐用年数が短くなり、さらに早く償却できます(中古車の耐用年数と「4年落ち」の考え方)。
社会保険・住民税への影響
車をどちらで持つかは、社会保険料や住民税にも関係します。
- 個人事業主:車の経費は事業所得を減らします。国民健康保険料や住民税は所得をもとに計算されるため、車の経費がこれらの負担にも影響します
- 法人:会社の経費が増えても、社長の健康保険・厚生年金の保険料は、役員報酬の額で決まります。車の費用を会社が払うことで、社長が個人で車の費用を払うために役員報酬を高くする必要がなくなる、という形で間接的に影響します
ただし、社用車を社長が私的に使い、その分が役員給与(経済的利益)とされると、社長個人に所得税がかかるうえ、会社では損金にならないおそれがあります(法人税法34条)。
売ったときの税金の違い
車を売ったときの扱いも、個人と法人で違います。
個人:譲渡所得
個人事業主が事業に使っていた車を売ったときの利益は、事業所得ではなく譲渡所得です。給与所得などと合わせて課税される総合課税で、譲渡所得の特別控除(年50万円)があり、持っていた期間が5年を超える長期の譲渡なら、所得の2分の1が課税の対象になります。私用の部分を含む車は、計算が複雑になることがあります。
法人:固定資産売却益
法人が社用車を売ったときは、売却額と帳簿価額の差額が固定資産売却益(または売却損)として、その期の利益に入ります。定率法で早く償却している分、帳簿価額が小さく、売却益が出やすい点に注意してください。
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オンライン記帳・申告サポートを見る法人成りするときの車の扱い
個人事業主のときに買った車を、法人成りの後も使う場合、次の方法が考えられます。
- 会社に売る:時価(中古車の査定額など)で会社に売り、会社はその金額で取得して減価償却する。個人側では売却益が譲渡所得になることがある
- 個人のまま会社に貸す:社長個人の車を会社が借りて使い、使用料を払う。社長の側では使用料が所得になる
- 個人のまま持ち、業務の移動は旅費として精算する:会社の旅費規程に沿って、距離に応じたガソリン代などを精算する
ローンが残っている車は、所有者が販売会社や信販会社になっていることが多く、名義を変えるにはローンの精算が必要なことがあります。どの方法がよいかは、車の残りの価値、ローンの状況、使い方によって判断が分かれます。法人成りのときの資産の引継ぎは法人成りのとき個人の資産をどう引き継ぐか、法人成りそのものの判断は個人事業主の法人化も参考にしてください。
車のためだけに法人化しない
「法人なら車が全額経費になるから」という理由だけで法人化するのはおすすめしません。法人には、赤字でもかかる住民税の均等割、社会保険の加入、決算・申告の手間と費用がかかります。車の経費の差よりも、こうした維持費のほうが大きくなることもあります。法人の維持費はひとり会社の維持費:均等割・社会保険・税理士費用、税金全体の比較は個人と法人、どっちが税金はお得?所得別の比較で説明しています。
まとめ
- 個人は按分・定額法、法人は業務用なら全額・定率法が原則
- 法人で私的に使うと役員給与とされ、損金にならない・個人に課税されるおそれがある
- 売ったときは、個人が譲渡所得(特別控除50万円、長期は2分の1)、法人が固定資産売却益
- 法人成りのときは、時価で会社に売るなど引継ぎの方法を決める。車だけで法人化を決めない
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