エイチ・アイ・エス(HIS)は2026年10月30日、旅行会社の事業承継を目的とする中間持株会社「旅行事業承継NEXTホールディングス」を11月30日に設立すると発表しました(日本経済新聞、10月31日朝刊)。後継者や投資余力が不足する中小企業などを受け入れ、地方での顧客基盤や販路を広げるとのことです。
大手が業界の承継の「受け皿」を作る動きは、旅行業に限りません。この記事では、発表の内容を整理し、グループ入りを考える売り手のオーナーと、同じように同業を買っていきたい中小企業の買い手が考えておきたいことをまとめます。
- HISが資本金1,000万円・100%出資の中間持株会社を11月30日に設立し、旅行会社の事業承継M&Aの受け皿にする。各社の独自性を維持しつつ、専門領域や地域で補完を進める
- 大手が受け皿を作ると、後継者のいない中小企業にとって売却の選択肢が増える
- 売り手のオーナーは、価格だけでなく、社名、従業員の処遇、自分の役割、個人保証の解除、独自性を守る約束の中身を確認したい
- 中小企業が同じ形をまねる必要はないが、連続して買収するなら、グループの組み方と銀行への説明を最初に考えておくことが大切
発表の内容
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 新会社 | 旅行事業承継NEXTホールディングス(HISの中間持株会社) |
| 設立 | 2026年11月30日の予定 |
| 資本金・出資 | 1,000万円、HISが100%出資 |
| 目的 | 後継者不足や財務の課題を抱える旅行会社の事業承継M&Aを進めるプラットフォームをつくる |
| 運営の方針 | 各社の独自性を維持しながら、各社が強みを持つ専門領域や地域で相互に補完する。HISからの役職員の派遣も予定 |
| 関連する案件 | 国内のバススキーツアーに強いラド観光(大阪市)を11月に完全子会社化すると9月に発表。取得額は6億8,800万円 |
出典:日本経済新聞「HIS、中小の旅行会社を事業承継 中間持ち株会社を11月設立」(2026年10月31日朝刊)、トラベルボイス(2026年10月30日)。ラド観光が新会社の傘下に入るかどうかは、確認できた範囲では分かりません。
中間持株会社の形を図で見る
親会社の直下に小さな会社を並べていくと、親会社の管理の負担が増え、大企業の仕組みに小さな会社を無理に合わせることにもなりかねません。間に一つ会社を置けば、承継した会社の管理を任せる担当がはっきりし、「独自性を維持する」という方針も運用しやすくなります。持株会社の基本はHD(ホールディングス)とはで解説しています。
売り手のオーナーが確認したいこと
ここからは、税理士・公認会計士としての考えです。特定の会社の条件を評価するものではなく、グループ入り全般に共通する確認点です。
「独自性を維持する」という言葉は安心材料ですが、言葉だけで判断しないことが大切です。
| 確認すること | 具体的に見る点 |
|---|---|
| 社名・ブランド | 残すのか、期限はあるのか |
| 従業員 | 雇用、給与、退職金の水準が続くのか(事業譲渡で従業員はどうなるか) |
| オーナーの役割 | 譲渡後に何年残るのか、役員報酬はどうなるのか |
| 個人保証 | 借入の連帯保証を外せるのか、いつ外れるのか |
| 決裁権限 | いくらまで現場で決められるのか。親会社の承認が必要な範囲 |
| 譲渡の方式 | 全部を売るのか、一部を残すのか(HD化とM&A:一部を売却する) |
| 許認可 | 旅行業の登録の扱い。株式譲渡か事業譲渡かで手続きが変わるため、事前に行政庁に確認する(M&Aと許認可) |
税金の面では、個人のオーナーが株式を譲渡すると、一般に所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて20.315%の課税です(国税庁タックスアンサーNo.1463)。退職金と組み合わせるかどうかで手取りが変わるため、退職金と株式譲渡の比較も確認しておきましょう。
同業の買い手が考えておきたいこと
「うちも同業を買い集めたい」という中小企業の経営者の方には、次の点をお伝えしています。
- 最初から中間持株会社は不要なことが多い:会社が2〜3社のうちは、親会社の下に並べるだけで足りることがほとんどです。管理の人手と費用を先に増やさないようにしましょう(HD化の維持費用)
- 買収の前にグループの形を決める:後から形を変えると手間と税金の確認が増えます。連続買収の全体像は同業を連続して買収するで解説しています
- 買収者としての強みを整理する:HDで買うメリットはHDで買収する側の利点をご覧ください
- 税制を確認する:中小企業の買い手が使える準備金の制度があります。計画の認定は買収の実行前に必要なので、順番を誤らないようにしましょう
- 初めての買収は小さく:中小企業が初めて会社を買うときの進め方
銀行はグループ全体で見る
買収を重ねると、銀行は買った会社ごとではなくグループ全体の借入と返済力で判断します。1件ごとに融資が通っていても、合算すると債務償還年数が長くなっていることがあります(HD化と銀行融資)。
売り手の立場でも同じです。売却後に親会社の資金計画に組み込まれると、自社の借入の借り換えや取引銀行が変わることがあります。長年付き合ってきた銀行に、いつ、どう伝えるかも考えておく必要があります。
M&A仲介役員・FAS出身の公認会計士の経験をもとに、株主構成の整理、株価算定、親族内承継、外部への売却とデューデリジェンスまで支援します。初回のご相談は無料です。
事業承継・M&A支援を見る他の業界でも起きる動き
大手が受け皿を作ると、中小企業のオーナーは「廃業か、親族への承継か」以外の選択肢を持てるようになります。一方で、業績が良く、独自の強みがある会社から買い手がつくのがM&Aの現実です。売るつもりがまだなくても、決算書を整え、社長がいなくても回る体制を作っておくことは、どの道を選ぶにしても役に立ちます。
まとめ
- HISが11月30日に旅行会社の事業承継を目的とする中間持株会社を設立する。資本金1,000万円、100%出資
- 中間持株会社は、承継した会社の管理の担当をはっきりさせ、各社の独自性を保ちやすくする形
- 売り手は、社名、従業員、自分の役割、個人保証、決裁権限を具体的に確認し、契約に残す
- 中小企業の買い手が同じ形をまねる必要はない。連続買収なら、グループの組み方と銀行への説明を先に考える
事業の売却、グループ入り、同業の買収を考え始めた方は、お気軽にご相談ください。
