プロ野球選手や芸能人の「申告漏れ」が報じられると、「飲み代は経費にならないの?」「自分の経費は大丈夫?」という声が個人事業主の方からも聞かれます。
この記事では、2025年に報じられたプロ野球選手の申告漏れについて、大手報道機関が報じた事実の範囲を整理したうえで、個人事業主にとっての「交際費と必要経費の境目」を、国税不服審判所の公表裁決や判決をもとに一般論として解説します。個別の事案の当否を論じるものではありません。
- 2025年4月2日、巨人の坂本勇人選手が東京国税局の税務調査で申告漏れを指摘されたと、共同通信・時事通信・日本経済新聞などが報じた(報道された事実は下の表のとおり)
- 個人事業主の飲食費やトレーニング費用は、事業の遂行上必要な部分だけが必要経費になる。私的な交際や生活の費用(家事費)は経費にならない
- 公表裁決では「事業に何らかの利益をもたらす」だけでは足りず、客観的にみて業務に必要かが問われてきた。一方で、弁護士会の懇親会費の一部を経費と認めた高裁判決もあり、個別の事情によって判断が分かれる
- 金額の大きな個人事業主ほど、相手・目的・事業とのつながりの記録が重要になる
報道された事実
2025年4月2日、共同通信(見出し「巨人坂本選手が2億4千万円申告漏れ」)、時事通信(見出し「巨人・坂本選手が2.4億円申告漏れ 料亭の飲食代など経費計上―東京国税局」)、日本経済新聞(見出し「巨人・坂本選手が申告漏れ 約2億円、東京国税局指摘」、同日朝刊)などが報じました。いずれも関係者への取材にもとづく報道で、国税当局が公表したものではありません。
| 項目 | 報道の内容 |
|---|---|
| 指摘したとされる機関 | 東京国税局(税務調査) |
| 対象期間 | 2022年までの3年間 |
| 申告漏れの額 | 約2億4千万円(共同通信・時事通信など)。日本経済新聞は約2億円と報道 |
| 指摘の内容 | 料亭やクラブでの飲食代などを必要経費に計上していたが、経費と認められなかったとされる(日本経済新聞は「飲食費などを経費として計上し、事業所得を少なく申告した」もようと報道) |
| 追徴税額 | 過少申告加算税を含め約1億円とみられる |
| その後の対応 | すでに修正申告を済ませたとされる |
| 球団側の説明 | 従来認められていた自主トレーニングの費用なども否認されたが、税務署の指示に従って申告・納税したとし、脱税や所得隠しには当たらないという趣旨の説明をしたと報じられた |
この記事では、これ以上の事実関係や当否には触れません。以下は、著名人・スポーツ選手の申告漏れ報道でよく論点になる「飲食費」「トレーニング費用」が、一般に必要経費になるかどうかの考え方です。
個人事業主の必要経費の考え方
法人の「交際費」と個人の「必要経費」は仕組みが違う
法人の交際費には、租税特別措置法61条の4による損金算入の上限があります(中小法人は年800万円まで、など。法人の交際費はいくらまで経費にできる?)。一方、個人事業主には交際費の上限はなく、一つひとつの支出が事業に必要だったかで判断されます(個人事業主の交際費に上限はある?)。
| 個人事業主 | 法人 | |
|---|---|---|
| 交際費の上限 | なし | あり(中小法人は年800万円など) |
| 判断の基準 | 業務の遂行上必要か(所得税法37条) | 交際費等に当たるか、枠の範囲内か |
| 私的な支出を入れた場合 | 家事費として必要経費から外される | 役員給与とされることがある |
「家事費」と「家事関連費」
所得税法45条は、生活のための支出(家事費)と、生活と仕事の両方の性質をもつ支出(家事関連費)を、原則として必要経費にしないと定めています。家事関連費のうち経費にできるのは、仕事に必要な部分を明らかに区分できる部分だけです(所得税法施行令96条)。
飲食やトレーニングは、仕事にも生活にも関わるため、この区分がもっとも問題になりやすい支出です。
公表裁決・判決にみる判断の分かれ目
否認された例
| 支出 | 判断 | 出典 |
|---|---|---|
| 医師が連携先の医師らと行った飲食 | 将来の治療に役立つとしても、専ら業務の遂行上必要とまではいえず否認 | 国税不服審判所 平成25年7月9日裁決 |
| 同じ医師の、業務上の取引がない知人との飲食 | 私的な交際として家事費 | 同上 |
| 同じ医師の、医大時代の先輩後輩とのゴルフ | 業務のためにゴルフをする必要は客観的にないとして家事費 | 同上 |
| 司法書士のロータリークラブの入会金・会費 | 司法書士の業務と直接関係するとはいえず否認 | 国税不服審判所 平成26年3月6日裁決 |
これらの裁決では、「人脈が広がる」「情報が得られる」といった効果があっても、それが副次的な効果にとどまるなら必要経費にならない、という考え方がとられています。
一部が認められた例
東京高裁平成24年9月19日判決(平成23年(行コ)第298号)は、弁護士会の会長などを務めた弁護士が支出した懇親会費などについて、その一部を事業所得の必要経費と認めました。弁護士会への入会が義務であることなど、弁護士の業務と弁護士会の活動との関係の深さが考慮されたとされています。
どこまでが仕事のための支出かは、職業の性質や活動の実態によって変わります。個別の事情によって判断が分かれるところです。
スポーツ選手・著名人で論点になりやすい支出
一般論として、著名人や個人で活動するスポーツ選手の申告では、次のような支出が論点になりやすいといえます。
| 支出 | 論点 |
|---|---|
| 飲食代 | 相手が仕事の関係者か、友人・知人か。目的は何か |
| トレーニング・体のケアの費用 | 競技のための支出か、健康維持など生活の支出と区分できるか |
| 衣服・身の回り品 | 仕事専用か、普段も使えるものか |
| 移動・宿泊 | 仕事の日程と私的な旅行が混ざっていないか |
| 家族への支払い | 実際の仕事の対価か |
どの支出も「絶対に経費になる/ならない」とは言えません。相手・目的・使い道を記録で説明できる部分が経費になり得る、というのが共通の考え方です。
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オンライン記帳・申告サポートを見る個人事業主が今日からできること
- 飲食のレシートには、相手の氏名・会社名・目的をその日のうちにメモする
- 家族や友人との食事は最初から経費に入れない
- 仕事と生活の両方に使うものは、使う割合の根拠(日数・時間・用途)を残す
- 過去の申告で指摘がなかったことは、その経費が今後も認められる保証にはならない。毎年、中身で説明できる状態にしておく
- 迷う支出は、申告前に税理士に相談する
否認されやすい支出の例は交際費が否認された事例、記録の残し方は食事の記録はGoogleカレンダーに残せばいい?で詳しく取り上げています。加算税の種類は税務調査で最悪どうなる?をご覧ください。
まとめ
- 2025年4月、巨人の坂本勇人選手が東京国税局から申告漏れを指摘されたと大手報道機関が報じた。報じられた指摘の中心は、料亭やクラブでの飲食代などの経費計上
- 個人事業主には交際費の上限はないが、事業の遂行上必要な部分だけが必要経費になる
- 公表裁決では、事業に何らかの利益があるだけでは足りず、客観的にみて業務に必要かが問われてきた。高裁判決で一部が認められた例もあり、判断は個別の事情で分かれる
- 金額が大きいほど、記録で説明できるかが結果を左右する
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