青色申告をしている個人事業主にとって、青色申告特別控除の65万円は、所得から差し引ける大きな控除です。ただし、青色申告をしているだけでは65万円にはならず、記帳の方法・申告の方法・期限などの要件をすべて満たす必要があります。
さらに、令和8年度税制改正により、2027年分(令和9年分)以後は控除の要件と金額が変わります。この記事では、国税庁・財務省の資料をもとに、現在の要件と改正後の要件を整理します。
- 2026年分(令和8年分)まで:複式簿記+決算書の添付+期限内申告で55万円。これにe-Taxまたは優良な電子帳簿を加えると65万円
- 2027年分(令和9年分)以後:複式簿記+e-Taxで65万円。さらに優良な電子帳簿か請求書データ等との自動連携で75万円。書面申告は10万円
- どちらの年も、期限内(原則翌年3月15日まで)の提出が必須。1日でも遅れると最高10万円
- 控除額は、不動産所得と事業所得の黒字の合計額が上限
2026年分(令和8年分)までの要件
国税庁のタックスアンサー(No.2072、令和8年4月1日現在法令等)によると、2026年分までの青色申告特別控除は次の3段階です。
| 控除額 | 要件 |
|---|---|
| 65万円 | 55万円の要件をすべて満たし、さらにe-Taxで申告するか、優良な電子帳簿の要件を満たして仕訳帳・総勘定元帳を電子保存(届出書の提出が必要) |
| 55万円 | 不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営んでいる/正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)で記帳/貸借対照表・損益計算書などを申告書に添付し、期限内に提出 |
| 10万円 | 上記に当てはまらない青色申告者 |
e-Taxで送信するときの注意
e-Taxで申告する場合、確定申告書と貸借対照表・損益計算書などのデータを、提出期限までに送信する必要があります。国税庁は「イメージデータで送信することはできません」としています。決算書をスキャンしたPDFを添付するのではなく、データとして送信する必要があります。会計ソフトから申告データを作る、または国税庁の「確定申告書等作成コーナー」で作成すれば、この点は満たせます。
優良な電子帳簿とは
仕訳帳と総勘定元帳について、①訂正・削除・追加の履歴が残る、②帳簿どうしの関連が確認できる、③取引の日付・金額・相手方で検索できる、などの要件を満たして電子保存するものです。確定申告期限までに届出書の提出が必要です。くわしくは電子帳簿保存法の基本をご覧ください。
2027年分(令和9年分)以後の要件
令和8年度税制改正では、記帳水準の向上とデジタル化の推進を目的として、青色申告特別控除が見直されました。財務省の「令和8年度改正関係資料(納税環境整備関係)」と国税庁の資料によると、令和9年分以後の所得税から次のようになります。
| 控除額 | 改正前(〜2026年分) | 改正後(2027年分〜) |
|---|---|---|
| 75万円 | なし | 複式簿記+e-Tax+次のいずれか:優良な電子帳簿/請求書データ等との自動連携(デジタルシームレス保存) |
| 65万円 | 複式簿記+e-Tax・優良な電子帳簿などのいずれか | 複式簿記+e-Tax |
| 55万円 | 複式簿記(書面申告など) | 廃止 |
| 10万円 | 簡易簿記など | 複式簿記で書面申告/簡易簿記(対象を限定) |
変更点を整理すると、次の3つです。
- 複式簿記の控除(65万円・75万円)は、e-Taxでの申告が条件になる。書面で申告すると、複式簿記でも10万円
- 優良な電子帳簿や自動連携の仕組みを使う人は、上限が75万円に引き上げ
- 簡易簿記の10万円控除は、事業所得・不動産所得の前々年の収入が1,000万円以下の人(両方ある場合はいずれも1,000万円以下)、事業としての規模に満たない不動産所得者、山林所得者に限られる
デジタルシームレス保存とは
国税庁長官が定める基準に適合するシステムを使い、デジタル庁が管理する仕様で送受信されたデジタルインボイス、または預貯金口座の決済データを、改ざん防止などの要件を満たして保存し、帳簿と自動で連携させる方法です。あらかじめ届出書の提出が必要です。クラウド会計での自動化との関係はAIとクラウド会計で記帳はどこまで自動化できる?で解説しています。
すでに65万円の控除を受けている人
- e-Taxで65万円を受けている人:2027年分以後もe-Taxで申告すれば65万円。75万円にするには、優良な電子帳簿か自動連携の要件と届出が必要
- 優良な電子帳簿で65万円を受けている人:国税庁は、改めて届出書を出さなくても75万円の適用が受けられると案内している(e-Taxでの申告は必要)
- 紙で55万円を受けている人:2027年分からはe-Taxにしないと10万円に下がる。早めにe-Taxの準備(マイナンバーカードなど)をしておく
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オンライン記帳・申告サポートを見る見落としやすい3つの要件
1. 期限内の提出
55万円・65万円(改正後は65万円・75万円)の控除は、確定申告期限までに提出することが要件です。期限は原則として翌年3月15日で、還付申告でも同じです。記帳が終わらずに1日でも遅れると、控除は最高10万円になります。記帳の頻度の目安は個人事業主の記帳の頻度をご覧ください。
2. 控除額の上限
控除額は、不動産所得と事業所得の黒字の合計額(損益通算前)が上限です。たとえば事業所得が40万円しかなければ、控除も40万円までです。控除は不動産所得から先に差し引きます。
3. 現金主義を選んでいる人は対象外
前々年の所得が300万円以下の人が選べる「現金主義による所得計算の特例」を選んでいる場合は、55万円・65万円の控除は受けられません。
控除の差は税金と社会保険料に響く
65万円と10万円の控除の差は55万円です。この55万円分だけ所得が増えるので、所得税だけでなく、住民税や国民健康保険料にも影響します(個人事業税の計算では青色申告特別控除は差し引かれないため、事業税には影響しません)。所得が多い人ほど、差は大きくなります。
一方で、控除のために無理な経費を計上するのは本末転倒です。正しく記帳して、期限内にe-Taxで申告する、という当たり前の手順を守ることが、そのまま控除を受ける条件になっています。
まとめ
- 2026年分までは、複式簿記+決算書添付+期限内で55万円、さらにe-Taxか優良な電子帳簿で65万円
- 2027年分以後は、複式簿記+e-Taxで65万円、優良な電子帳簿か自動連携を加えて75万円、書面申告は10万円
- 簡易簿記の10万円控除は、前々年の収入1,000万円以下の人などに限られる
- 期限内提出が絶対条件。控除の上限は不動産所得と事業所得の黒字の合計額
青色申告を始める手続きは開業届と青色申告承認申請書で解説しています。
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