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パン・菓子製造小売業の動向と経営のポイント|小麦価格・消費税・職人の承継と、銀行が見る決算書

パン・菓子の製造小売業は、店の奥の厨房で焼き上げたパンや洋菓子・和菓子を、その場で売る業態です。地域の顔として長く続く店が多い一方で、小麦やバター、卵などの原材料の値上がり、早朝からの仕込みを担う人手の確保、そして飲食料品の消費税率の引下げ案への対応と、経営の論点は年々増えています。

この記事では、パン屋・洋菓子店・和菓子店の経営を公的な統計で整理したうえで、決算書の特徴、銀行が融資で見るポイント、消費税(イートイン・簡易課税)と設備の税務、事業承継までを、税理士・公認会計士の立場から解説します。

この記事の結論
  • 菓子・パン小売業の事業所は5万5,447(2021年)で、1994年の約半分。製造小売の法人は菓子9,696、パン5,172事業所
  • 公庫の調査では、パン・菓子の製造小売の粗利率は約6割と高いが、人件費と経費で消え、小規模企業の経常利益率は平均でマイナス。黒字企業は約4%
  • 輸入小麦の政府売渡価格は2026年10月期に前期比12.0%上昇。値上げと品ぞろえの見直しが利益を左右する
  • 銀行は償却前の利益と借入金の重さを見る。黒字企業と平均では、借入が月商の5〜6か月分か8か月分以上かで差がある
  • 消費税は、持ち帰り8%・イートイン10%。簡易課税では製造小売は第3種(70%)。飲食料品を1%に下げる法案は2026年11月6日時点で国会審議中

パン・菓子製造小売業の今:店の数は減り、1店あたりの規模は大きく

街のパン屋や洋菓子店は、統計では小売業の「菓子・パン小売業」のうち、自店で製造して売る「製造小売」に分類されます。工場で量産してスーパーなどに卸す会社は、製造業の「パン・菓子製造業」です。

指標数字時点
菓子・パン小売業の事業所数(全体)5万5,447(1994年は10万5,855)2021年6月1日
うち菓子小売業(製造小売)、法人のみ9,696事業所・従業者7万8,631人同上
うちパン小売業(製造小売)、法人のみ5,172事業所・従業者7万5,375人同上
パン・菓子製造業(5業種計)の事業所数4,281(前年比約−3.9%)2025年6月1日
パン・菓子製造業の製造品出荷額等約6兆1,451億円(前年比約+7.2%)2024年

出典:総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査(卸売業,小売業)産業編」第1表(2023年3月公表。令和3年は個人経営の事業所が細分類に格付けされていないため、製造小売の数字は法人のみ)、経済産業省「2025年経済構造実態調査(製造業事業所調査)」産業別統計表 第1表(2026年7月29日公表。パン製造業・生菓子製造業・ビスケット類・干菓子製造業・米菓製造業・その他のパン・菓子製造業の合計。合計と前年比は筆者の計算で、母集団の変更があるため参考値)

店の数は30年近くで半減しましたが、需要がなくなったわけではありません。総務省「家計調査」では、二人以上の世帯の1世帯当たり年間支出は、2025年にパンが3万4,244円(前年3万4,609円)、菓子類が11万527円(前年10万4,417円)で、ケーキは7,708円(前年7,549円)でした(総務省「家計調査」家計収支編 2025年平均 品目分類、2026年公表)。値上げの影響を含む金額ですが、ちょっとしたぜいたくとしての菓子への支出は底堅いといえます。

コスト面では、原材料の値上がりが続いています。農林水産省は、輸入小麦の政府売渡価格(5銘柄の加重平均、税込)を2026年10月期に1トン当たり7万20円とし、前期の6万2,520円から12.0%引き上げました(農林水産省「輸入小麦の政府売渡価格について」、2026年9月9日公表)。製粉会社を通じて小麦粉の価格に反映されるまでには時間差があるため、この秋から冬にかけての仕入値の変化を見ておく必要があります。

中小パン・菓子製造小売業の収益構造と決算書の特徴

粗利率は約6割。利益を決めるのは人件費と店の経費

日本政策金融公庫の調査で、従業者50人未満の法人の数字を見ると、次のとおりです。

指標菓子小売業(製造小売) 全体平均(70社)同 黒字企業(20社)パン小売業(製造小売) 全体平均(27社)同 黒字企業(7社)
売上高総利益率62.0%60.4%59.0%54.8%
売上高経常利益率−2.4%4.2%−0.9%3.8%
売上高経常利益率(償却前)1.3%7.4%2.0%6.6%
人件費対売上高比率37.2%33.5%38.8%32.2%
従業者1人当たり売上高693万円802万円652万円888万円
借入金回転期間7.6か月6.1か月8.6か月5.5か月
自己資本比率−21.7%28.0%−107.8%17.1%

出典:日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」(2025年度調査)業種別経営指標 小売業(公庫の融資先で従業者50人未満の法人、2026年8月掲載。決算期は2024年7月以降。「黒字企業」は黒字かつ自己資本プラス企業。千円単位を万円に丸めた。パンの黒字企業は7社と少ないため幅をもって見る)

製造小売の粗利率は約6割と、仕入れた商品を売る小売業よりずっと高くなります。原価の中心が小麦粉やバターなどの材料で、焼き上げる手間の価値が粗利に含まれるためです。ただし、その粗利の多くを人件費(売上の3〜4割)と、家賃・水道光熱費・包装資材などの経費が占め、平均では経常利益が赤字です。

黒字企業と平均を比べると、粗利率はむしろ黒字企業のほうが低く、差がついているのは1人当たり売上高と人件費の比率です。パンでは1人当たり売上高が約1.4倍違います。売れる時間帯に合わせた焼成計画、品目数の絞り込み、作業の分担など、人の時間あたりの売上をどう高めるかが利益を分けていると考えられます。

決算書に表れる業界特有のポイント

  • 売上の大半が現金・キャッシュレス:売掛金がほとんどなく、資金の回転は速い。一方で、キャッシュレス決済の入金までのずれと手数料は把握しておきたい
  • 在庫は少ないが廃棄ロスがある:期末の在庫は小麦粉・バター・包装資材などが中心。売れ残りの廃棄は原価率を押し上げる
  • 設備と内装:オーブン、ミキサー、ホイロ、冷蔵・冷凍設備、ショーケースと店舗の内装に初期投資がかかり、償却費と借入が大きくなりやすい
  • 自己資本比率が低い:平均では債務超過の会社が多い。開業時の借入と赤字の累積で、純資産がマイナスになっている店が少なくない

銀行はパン・菓子製造小売業のどこを見るか

返済能力:償却前の利益と借入金の重さ

著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内が健全、20年超は厳しいと見られます。

たとえば年商6,000万円のパン屋で考えます。黒字企業の平均(償却前の経常利益率6.6%、借入金は月商の5.5か月分)なら、償却前の利益は年約396万円、借入金は約2,750万円で、債務償還年数は約6.9年です。全体平均(償却前2.0%、8.6か月分)なら、利益は年約120万円、借入金は約4,300万円で、約35.8年となります(現預金と法人税等を考慮しない単純な試算)。利益率の数ポイントの差と借入の重さが重なると、銀行の評価はまったく違うものになることが分かります。審査の全体像は銀行融資の審査で見られるポイントも参考にしてください。

設備資金:オーブンと改装は耐用年数に合わせて

オーブンや冷蔵設備の更新、店舗の改装は、長期の設備資金で借りるのが基本です。返済期間が短すぎると、毎月の返済が利益を上回り、資金繰りが苦しくなります(借入期間と耐用年数の考え方)。銀行は、新しい設備で何が変わるかを見ます。焼成能力が上がって品切れが減る、仕込みの時間が短くなって人件費が下がるなど、効果を数字で示しましょう。小規模な店では日本政策金融公庫の利用も多く、追加の借入の考え方は日本政策金融公庫の追加融資で解説しています。

運転資金:売掛金は少ないが、季節の波がある

製造小売は売上の多くが当日に入るため、運転資金の必要は小さめです。ただし、クリスマスケーキやお中元・お歳暮、年末年始など、繁忙期の前に材料と包装資材の仕入れが先行します。季節ごとの売上と仕入れの予定を月別にまとめておくと、短期の借入の相談がしやすくなります(運転資金の融資の考え方)。

業界特有のリスクとして見られる点

リスク銀行が確認すること
原材料の値上がり値上げの実施状況、原価率の推移、品目ごとの採算
職人・人手の不足製造を担う人の数と年齢、店主への依存度
立地・競合商圏の人口、近隣の競合店、家賃の負担
食品事故衛生管理の体制(HACCPに沿った記録)、保険の加入
過大な借入開業時の借入の残高、債務超過の有無と解消の見通し
融資が通る決算書と事業計画を、一緒につくります

20行超の金融機関と折衝し、累計120億円超の融資承認を得てきたチームが、資料作成から金融機関への打診まで伴走します。

資金調達・融資支援を見る

パン・菓子製造小売業特有の税務・会計の論点

消費税:持ち帰りとイートイン、簡易課税の区分

パンや菓子の持ち帰りの販売は飲食料品の譲渡として軽減税率(8%)、店内のイートインスペースで食べる場合は「食事の提供」として標準税率(10%)です。どちらになるかは、販売するときにお客さまの意思を確認して判定します(国税庁「消費税の軽減税率制度」、軽減税率制度に関するQ&A(個別事例編))。レジの設定と、お客さまへの案内を合わせておくことが大切です。

簡易課税を選んでいる場合、製造小売業は製造業に含まれ、第3種事業(みなし仕入率70%)です(国税庁 No.6509 簡易課税制度の事業区分)。小売業の第2種(80%)と思い込んで計算しているケースがあるので、確認しておきましょう。簡易課税と一般課税の選び方は簡易課税を選ぶかどうかでも解説しています。

飲食料品の消費税率1%(案)への備え

政府は、2027年4月1日から2029年3月31日までの2年間、飲食料品の消費税率を8%から1%に下げる法案を国会に提出しています。衆議院の議案情報では、2026年11月6日時点で成立していません(衆議院 議案審議経過情報)。国税庁は、成立した場合の取扱いをQ&Aで公表しています(国税庁「飲食料品に係る2年間の消費税率引下げに関するQ&A」、2026年9月)。

項目現行引下げ期間(案)
パン・菓子の持ち帰り販売8%1%
イートインでの飲食10%10%(変わらない)
小麦粉・バター・卵などの仕入れ8%1%
家賃・水道光熱費・包装資材・設備10%10%(変わらない)

成立すれば、持ち帰りとイートインの税率の差は9%に広がります。一般課税の店では、売上にかかる消費税が大きく減る一方、10%の経費は残るため、納める消費税が減り、還付になる店も出てきます。これまで納付まで手元にあった預かり消費税が減るので、資金繰りの計画を見直しておきましょう。インボイスの書き方は飲食料品の消費税1%とインボイスで詳しく解説しています。

設備と内装の減価償却

パンや菓子をつくる機械・装置の耐用年数は、その設備でつくる最終製品の業種で判定するのが原則です(国税庁 耐用年数の適用等に関する取扱通達 1-4-2・1-4-3)。食料品製造業用設備の法定耐用年数は10年です(減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第二)。

借りている店舗に施した内装は、建物にした造作であれば、建物の耐用年数や造作の種類などから合理的に見積もった年数で償却します。賃借期間の定めがあり、更新できず、退去時に費用の請求もできないといった条件を満たす場合は、賃借期間を耐用年数にできます(同 1-1-3)。

中小企業の少額減価償却資産の特例は、2026年4月1日以後に取得等をする資産から、取得価額40万円未満が対象になりました(年300万円が上限)(国税庁 No.5408、国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」)。ただし、経費にして利益を小さくすると、その期の決算書は弱く見えます。著書の標語「払った税金の2倍、会社は強くなる」のとおり、税金を減らすことと銀行の評価を上げることは必ずしも一致しないので、借入の予定もふまえて使い方を決めましょう。

在庫と廃棄ロス

期末には、小麦粉・バター・砂糖などの原材料や包装資材の在庫を数えて計上します。製造小売では在庫が少ないため軽く見られがちですが、仕入れが増えた期末に棚卸しを省くと、利益がずれる原因になります。日々の廃棄量を記録しておくと、原価率の管理と品ぞろえの見直しにも役立ちます。

事業承継・M&A:レシピ、職人、許可をどう引き継ぐか

パン・菓子の店の価値は、看板商品のレシピと、それを毎日同じ品質で焼ける職人、店の立地と常連のお客さまが一体になって生まれます。店主自身が製造の中心にいることが多く、承継の準備は早いほど選択肢が広がります。中小企業の第三者承継は広がっており、事業承継・引継ぎ支援センターの第三者承継の成約件数は、2025年度に2,265件と過去最多でした(中小企業基盤整備機構 ニュースリリース、2026年5月29日)。

承継で確認することポイント
レシピ・製法配合や工程が文書になっているか、店主の頭の中だけにないか
職人製造を担う人が店主以外にいるか(オーナー依存のリスク)
営業許可菓子製造業などの許可を、承継の方法に合わせて引き継げるか(許認可の引継ぎ)
店舗賃貸借契約の名義と、承継時に貸主の承諾が必要か
借入と保証開業時の借入と、店主個人の保証をどう整理するか

食品衛生法の営業許可は、相続・合併・分割に加えて、2023年12月13日からは事業譲渡の場合も、譲り受けた人が届出によって営業者の地位を承継できるようになりました(厚生労働省 資料)。施設を大きく変える場合は新たな許可が必要になることもあるため、管轄の保健所に早めに確認しましょう。承継の全体の流れは中小企業M&Aの件数と最近の傾向もご覧ください。

経営者が今やっておきたいこと

  • 品目ごとの原価率と売れ行きを把握し、採算の悪い品目を見直している
  • 小麦粉・バターなどの仕入値の変化を毎月確認し、値上げの時期を決めている
  • 時間帯ごとの売上と焼成計画を合わせ、廃棄量を記録している
  • イートインの有無に応じたレジの税率設定と、お客さまへの案内を確認している
  • 簡易課税の場合、事業区分が第3種になっているか確認している
  • 消費税率1%(案)が成立した場合の、納付・還付の見込みを試算している
  • オーブンや冷蔵設備の更新時期をまとめ、設備資金の計画を立てている
  • レシピと工程を文書にし、店主以外でも製造できる体制をつくっている
  • 償却前の利益と債務償還年数を毎期確認し、銀行に説明できる

ほかの食に関わる業界の動向は、食品製造業、飲食業、食品スーパー・食品小売業でも解説しています。

まとめ

  • 菓子・パン小売業の事業所は2021年に5万5,447と、1994年の約半分。ただし菓子への家計の支出は2025年に増えている
  • 製造小売の粗利率は約6割と高いが、人件費と店の経費で消え、小規模企業の経常利益率は平均でマイナス。黒字企業は約4%
  • 差がつくのは1人当たり売上高と人件費の比率。焼成計画と品目の絞り込みが利益を左右する
  • 消費税は持ち帰り8%・イートイン10%。簡易課税では製造小売は第3種。飲食料品1%の法案は審議中で、資金繰りの試算が必要
  • 承継では、レシピと職人、営業許可、店舗の契約、開業時の借入と保証をセットで整理する

設備資金・運転資金の調達や決算書の見せ方、事業承継の進め方について相談したい方は、融資・資金調達のサポートや事業承継・M&Aのサポートをご覧ください。初回のご相談は無料です。

よくある質問

パン屋で店内飲食(イートイン)をすると、消費税の税率はどう変わりますか?
持ち帰りの販売は飲食料品の譲渡として軽減税率(8%)、店内のイートインスペースで食べる場合は「食事の提供」として標準税率(10%)です。判定は販売するときにお客さまの意思を確認して行います。大半が持ち帰りの店では、「イートインを利用する場合はお申し出ください」といった掲示で意思を確認する方法も、国税庁のQ&Aで示されています。
パン・菓子の製造小売は、簡易課税ではどの事業区分になりますか?
国税庁のタックスアンサー(No.6509)では、製造小売業は製造業に含まれ、第3種事業(みなし仕入率70%)とされています。小売業の第2種(80%)ではない点に注意が必要です。仕入れた菓子をそのまま売る部分がある場合は、区分して記帳すると、その部分に第2種を適用できます。
オーブンを買い替えたいのですが、日本政策金融公庫と銀行のどちらに相談すべきですか?
どちらも選択肢です。小規模な製造小売では、公庫の融資を使いながら、地元の信用金庫や地方銀行と取引を広げていくのが一般的です。どちらに相談する場合も、設備によって売上や作業時間がどう変わるかを数字で示し、法定耐用年数(オーブンなどの製造設備は多くの場合10年)に見合った返済期間で借りることが大切です。

※本記事は2026年11月6日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
※本記事の無断転載・複製、商用目的での利用はお断りします。引用の際は、出典(税理士法人クレフティ・記事URL)を明記してください。

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