酒造業は、米と水と微生物の力を借りて、清酒や焼酎、ビール、ワインなどをつくる業界です。とくに清酒の酒蔵は、地域の歴史や観光と深く結びついた中小企業が大半で、2024年12月には「伝統的酒造り」がユネスコの無形文化遺産に登録されました(文化庁 報道発表、2024年12月5日)。
一方で、国内の消費量は長く減り続け、主食用米の高騰で原料の酒米も値上がりしています。この記事では、清酒を中心に酒造業の経営を国税庁などの統計で整理したうえで、決算書の特徴、銀行が融資で見るポイント、酒税と在庫の税務・会計、製造免許と事業承継までを、税理士・公認会計士の立場から解説します。
- 清酒の課税数量は2024年度に37.6万klで、1975年度(174.7万kl)の約2割。製造免許場は1,514場
- 輸出は伸びている。2025年の清酒の輸出額は458.8億円(前年比+5.6%)で、中国・米国・香港が上位
- 国税庁の調査では、清酒製造者の42.0%が欠損。公庫の調査では小規模企業の借入金は月商の約23か月分と重い
- 酒税は売上に含めて回収し、移出の翌月末までに申告。資金繰りでは酒税の納付と、酒米・在庫の資金を分けて管理したい
- 国内向けの清酒免許は新規取得が難しく、免許そのものが承継の価値。承継の方法で手続が変わる
酒造業の今:国内は縮小、輸出と高付加価値で活路
| 指標 | 数字 | 時点 |
|---|---|---|
| 清酒の課税数量 | 37万5,921kl(前年度比97.1%) | 2024年度 |
| 同(参考:ピーク) | 174万7千kl | 1975年度 |
| 20歳以上1人当たりの清酒の消費量 | 3.7L(2014年度は5.4L) | 2024年度 |
| 清酒の製造免許場数 | 1,514場(1989年度は2,438場) | 2024年度 |
| 実際に清酒を製造した場 | 1,104場(前年から13場減) | 2024酒造年度 |
| 清酒の輸出額 | 458.8億円(前年比+5.6%) | 2025年 |
| 清酒の輸出数量 | 約3,355万L(前年比+8.0%) | 2025年 |
出典:国税庁「酒のしおり」(令和8年7月)、国税庁「清酒の製造状況等について」(令和8年1月)、国税庁「酒類の輸出統計」(財務省貿易統計をもとに国税庁が作成)。2024酒造年度は2024年7月〜2025年6月
国内の消費量は、この10年で3割ほど減りました。免許を持っていても実際には仕込みをしていない場が400場ほどあり、酒をつくる蔵そのものが減っていることが分かります。
その一方で、輸出は伸びています。2025年の清酒の輸出先は、中国(133億円)、米国(110億円)、香港(48億円)、韓国(44億円)の順でした。2026年1〜8月も、清酒の輸出額は309.1億円と前年同期比3.8%増えています(出典は同上、2026年8月分)。国内でも、純米酒や吟醸酒などの特定名称酒の比率が高まり、量より単価で勝負する蔵が増えています。
原料面では、酒米の値上がりが大きな課題です。農林水産省の資料によれば、2025年産の酒造好適米の生産量は約8.7万トンと前年産から約1割減る見込みで、主食用米の高騰によって、主食用米の価格が酒造好適米を上回る状況も生じました(農林水産省「日本酒原料米をめぐる状況」、2026年8月)。酒米の確保と価格は、来季の仕込みの計画と資金繰りに直結します。
中小酒造業の収益構造と決算書の特徴
4割超が赤字。規模による差が大きい
国税庁が酒類製造者に行ったアンケートで、清酒製造業の経営状況を見ると、次のとおりです。
| 指標(清酒製造業) | 数字 |
|---|---|
| 回答者数 | 1,233者 |
| 欠損(税引前の赤字)の事業者 | 518者(42.0%) |
| 低収益(税引前利益50万円未満)の事業者 | 73者(5.9%) |
| 中小企業の1者平均の売上高 | 2億5,100万円 |
| 中小企業の1者平均の営業利益 | 1,900万円 |
| 中小企業の1者平均の従業員数 | 12人(製造4・詰口4・その他4) |
| 課税移出数量100kl以下の事業者 | 852者(約69%) |
| 桶売り(未納税移出)をしている中小企業 | 407者(中小企業の約34%) |
出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況(令和7年アンケート)」清酒製造業(令和8年3月、正誤表反映後。主に2024年の実績。割合の一部は筆者が計算)
平均では営業黒字ですが、半数近くが赤字か、ほとんど利益が出ていない状態です。約7割の蔵は課税移出数量が年100kl以下の小さな規模で、大手の蔵との差が大きい業界です。
小規模な法人に限った日本政策金融公庫の調査では、さらに厳しい数字が出ています。
| 指標 | 清酒製造業(26社)平均 | 酒類製造業(33社)平均 |
|---|---|---|
| 売上高総利益率 | 37.3% | 41.7% |
| 売上高営業利益率 | −16.2% | −15.9% |
| 売上高経常利益率 | −2.2% | 0.7% |
| 借入金回転期間 | 22.6か月 | — |
| 自己資本比率 | −33.9%(中央値−3.3%) | −35.5% |
| 損益分岐点比率 | 126.4% | — |
出典:日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」(2024年度調査)業種別経営指標 製造業(公庫の融資先で従業者50人未満の法人、2025年8月掲載。決算期は2023年7月以降。社数が少ないため幅をもって見る)
営業利益は大きな赤字なのに経常利益はそれほど悪くないのは、不動産の賃貸収入や補助金など、本業以外の収入で支えている蔵があるためと考えられます。借入金が月商の2年分近くあり、自己資本もマイナスの会社が多いことから、財務の立て直しが必要な蔵が少なくないことが読み取れます。
決算書に表れる業界特有のポイント
- 売上に酒税が含まれる:清酒の酒税は1kl当たり10万円。売上高と、納める前の酒税(未払酒税)が両建てで大きくなる
- 在庫が季節で大きく動く:冬に仕込み、貯蔵して通年で出荷するため、春先には製品・半製品の在庫が膨らむ。熟成酒はさらに長く在庫として残る
- 土地・建物と設備が重い:蔵、タンク、精米機、瓶詰めラインなどの資産が多く、古い建物も多い
- 桶売り・桶買い:他の蔵に未納税のまま酒を売る(買う)取引があり、売上の中身を分けて見る必要がある
銀行は酒造業のどこを見るか
返済能力:借入の重さと、本業の利益
著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内が健全、20年超は厳しいと見られます。
たとえば年商2億5,000万円の蔵で、借入金が月商の22.6か月分(公庫調査の清酒製造業の平均)なら、借入金は約4億7,000万円です。償却前の利益が年3,000万円(売上の12%)出ていても、債務償還年数は約15.7年になります(現預金と法人税等を考慮しない単純な試算)。銀行は、本業の利益で返せる借入の額を見ています。本業以外の収入に頼っている場合は、その内訳と続く見込みも説明できるようにしておきましょう。債務超過の会社の考え方は債務超過と融資、審査の全体像は銀行融資の審査で見られるポイントも参考にしてください。
運転資金:酒米の購入と在庫の資金
酒蔵は、秋から冬に酒米を買って仕込み、売上は1年かけて入ってきます。仕込みの時期に資金が出て、回収は後からという形のため、季節の運転資金が必要です。月ごとの仕込み量、酒米の支払い、出荷と入金の予定を一覧にしておくと、短期の借入の相談がしやすくなります(運転資金の融資の考え方)。酒米の値上がりで、同じ仕込み量でも必要な資金は増えています。
設備資金:蔵の改修と、輸出・直売への投資
タンクや冷蔵設備、瓶詰めラインの更新、蔵の耐震改修などは、長期の設備資金で借りるのが基本です(借入期間と耐用年数の考え方)。輸出向けの商品開発や、蔵の見学・直売所などの酒蔵ツーリズムへの投資では、どの市場で、どれだけの単価と数量を見込むのかを数字で示すことが大切です。
業界特有のリスクとして見られる点
| リスク | 銀行が確認すること |
|---|---|
| 国内需要の減少 | 出荷量の推移、販路(地元の酒販店・飲食店・直販・輸出)の分散 |
| 酒米の価格と確保 | 契約栽培の有無、仕入値の推移、販売価格への転嫁 |
| 在庫の滞留 | 製品在庫の年数、売れ残りの評価、熟成酒の販売計画 |
| 杜氏・蔵人の確保 | 製造責任者と、技術の引継ぎの体制 |
| 酒税の滞納 | 酒税の申告・納付の状況(滞納は免許にも関わる) |
酒造業特有の税務・会計の論点
酒税の申告・納付と、会計上の扱い
酒税は、製造場から酒類を移出した月の翌月末日までに申告し、移出した月の翌々月末日までに納めます(国税庁「酒税納税申告」、酒税法30条の2・30条の4)。代金の回収に時間がかかる取引が多いなど一定の場合は、担保を出して納期限の延長を申請できます(同「納期限の延長申請」)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 清酒の税率 | 1kl当たり10万円(2023年10月から醸造酒類で一本化) |
| ビール系の税率 | 1kl当たり15万5,000円(2026年10月から一本化) |
| 小規模な製造者の軽減 | 前年度の課税移出数量が3,000kl以下の承認を受けた製造者は、移出数量と酒税の累計額に応じて最大20%軽減(2028年度まで) |
| 未納税移出・輸出 | 他の製造場への未納税での移出や、輸出する酒類は、手続を経て酒税がかからない |
出典:国税庁「酒税率一覧表(令和8年10月1日〜)」、財務省「酒税に関する資料」、租税特別措置法87条、酒税法28条・29条
酒税は販売価格に含めて回収するため、消費税の課税標準となる対価の額には酒税も含まれます(国税庁 No.6313)。法人税では、売上や在庫の金額に申告期限が来ていない酒税が含まれている場合、その酒税を損金経理で未払金に計上すれば、計上した事業年度の損金になります(法人税基本通達9-5-1)。預かった酒税は会社のお金ではないので、資金繰り表では酒税の納付を別の行に分け、手元資金と混同しないようにしましょう。
消費税:酒類は軽減税率の対象外
軽減税率(8%)の対象は「飲食料品(酒類を除く)」で、酒類は標準税率(10%)です(国税庁 No.6102)。2027年4月から2年間、飲食料品の税率を1%に下げる法案が国会で審議されていますが、対象の範囲は今の軽減税率と同じとされており、酒類は引下げの対象になりません。一方、直売所で売る酒粕や、アルコール分1度未満の甘酒などは飲食料品にあたるため、成立した場合はレジと請求書の税率の区分が増える点に注意が必要です。
在庫と設備
期末には、製品(瓶詰めした酒)、半製品(タンクで貯蔵中の酒)、原材料(酒米など)を数えて評価します。貯蔵期間の長い熟成酒は在庫として長く残るため、品質の確認と販売の見込みを記録しておくと、銀行に説明するときにも役立ちます。
酒類の製造設備は、減価償却資産の耐用年数表の別表第二で「飲料・たばこ・飼料製造業用設備」に当たり、法定耐用年数は10年です(減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第二、耐用年数通達 付表8)。古い蔵の改修では、修繕費か資本的支出かの判断が論点になります(修繕費と資本的支出の考え方)。
事業承継・M&A:免許・蔵・銘柄・杜氏をまとめて
国内向けの清酒の製造免許は、需給の調整のため、新規には原則として付与されません。付与されるのは、既存の清酒製造者が合理化のために製造場を新設する場合や、複数の製造者が共同で法人をつくる場合などに限られます(国税庁 酒税法及び酒類行政関係法令等解釈通達 第10条第11号関係)。2021年4月からは輸出用に限った免許も設けられましたが、国内には原則として出荷できません(国税庁「輸出用清酒製造免許について」)。このため、清酒の製造免許を持つ蔵そのものに、承継の価値がある業界です。
国税庁の資料では、過去10年間、年に10軒以上の酒蔵が廃業しているとされています(国税庁「伝統的酒造り」の技術承継に係る実証分析事業 資料)。中小企業全体では、事業承継・引継ぎ支援センターの第三者承継の成約件数が2025年度に2,265件と過去最多でした(中小企業基盤整備機構 ニュースリリース、2026年5月29日)。
| 承継の方法 | 製造免許の手続 |
|---|---|
| 株式を譲り渡す(会社はそのまま) | 免許を持つ会社は変わらない。役員の変更などは異動の申告 |
| 個人の蔵元の相続 | 相続人が遅滞なく税務署に申告して承継(酒税法19条) |
| 事業譲渡・合併・分割 | 新しい免許の申請と、既存の免許の取消しの申請を事前に出す |
出典:国税庁「相続による酒類製造業の承継申告」、国税庁「酒類の製造免許の申請(法人成り等)」
株式の譲渡と事業の譲渡の違いは事業譲渡と株式譲渡の違い、許認可全般はM&Aでの許認可の引継ぎで解説しています。このほか、蔵の土地・建物が創業家の個人名義になっていないか(事業用不動産の承継)、銘柄の商標を誰が持っているか、杜氏や製造責任者が引き続き働けるか、酒米の契約栽培の相手との関係も、早めに整理しておきたい点です。
経営者が今やっておきたいこと
- 販路別(地元・都市部・直販・輸出)の出荷量と単価を把握し、伸ばす市場を決めている
- 酒米の仕入値の変化を販売価格にどう反映するか、来季の計画を立てている
- 月ごとの仕込み・酒米の支払い・出荷と入金・酒税の納付を、資金繰り表に分けて書いている
- 製品・半製品の在庫の年数を把握し、滞留している在庫の販売計画がある
- 本業の利益と本業以外の収入を分けて、銀行に説明できる
- 小規模な製造者の酒税の軽減、未納税移出・輸出免税の手続を確認している
- 直売所での酒粕・甘酒などの税率の区分を、レジと請求書で確認している
- 免許の承継の方法、蔵の土地・建物の名義、銘柄の商標を整理している
- 杜氏や製造責任者の技術を、次の世代に引き継ぐ体制をつくっている
ほかの食に関わる製造業の動向は、食品製造業やパン・菓子製造小売業でも解説しています。
まとめ
- 清酒の課税数量は2024年度に37.6万klで、ピークの約2割。製造免許場は1,514場で、実際に仕込んだのは1,104場
- 輸出は2025年に458.8億円(前年比+5.6%)と伸びている。単価と輸出で活路を開く蔵が増えている
- 清酒製造者の42.0%が欠損。小規模企業では借入金が月商の約23か月分と重く、本業の利益で返せる計画が必要
- 酒税は売上に含めて回収し、移出の翌月末までに申告・翌々月末までに納付。資金繰り表で分けて管理する
- 国内向けの清酒免許は新規取得が難しく、免許を持つ蔵そのものに価値がある。承継の方法で手続が変わる
酒米・在庫の運転資金や設備資金の調達、決算書の見せ方、事業承継の進め方について相談したい方は、融資・資金調達のサポートや事業承継・M&Aのサポートをご覧ください。初回のご相談は無料です。
