機械器具製造業は、工場で使われる産業機械、工作機械、食品機械や包装機械、半導体製造装置、そして製品の形をつくる金型など、ものづくりのための機械をつくる業界です。多くの中小企業は、特定の用途に合わせた専用機の設計・製作、部品の加工、金型の製作などを受注生産で手がけています。
この記事では、統計上の「生産用機械器具製造業」と、その中の「金型」を中心に、機械器具製造業の経営を公的な統計で整理したうえで、決算書の特徴、銀行が融資で見るポイント、受注生産の運転資金、検収基準と仕掛品の税務、事業承継・M&Aまでを、税理士・公認会計士の立場から解説します。
- 生産用機械器具製造業の事業所数は2万2,562(前年比−3.6%)、製造品出荷額等は25兆2,999億円(2024年、前年比+1.9%)
- 伸びの中心は半導体製造装置(+15.3%)。これを除くと出荷額は約1.6%の減少で、分野によって景気の差が大きい
- 事業所の約8割が従業者29人以下。金型では約9割が29人以下
- 受注生産で売上が検収時に立つため、仕掛品と立替えの資金が膨らみやすい。銀行は受注残と入金予定を見る
- 小規模企業は平均では赤字だが、黒字企業の償却前経常利益率は10.8%。設計力と採算管理で差がつく
機械器具製造業の今:出荷額は伸びたが、分野で明暗
| 指標 | 生産用機械器具製造業 | うち金型(金属用・非金属用) |
|---|---|---|
| 事業所数 | 2万2,562(前年比−3.6%) | 4,077(前年比−5.6%) |
| 従業者数 | 63万9,002人(前年比−2.9%) | 6万9,553人(前年比−6.7%) |
| 製造品出荷額等 | 25兆2,999億円(前年比+1.9%) | 1兆4,548億円(前年比+1.5%) |
| 付加価値額 | 9兆4,646億円 | 6,808億円 |
| 従業者29人以下の事業所の割合 | 81.3%(うち9人以下が53.8%) | 87.6%(うち9人以下が62.4%) |
出典:経済産業省「経済構造実態調査(製造業事業所調査)の結果」(2025年調査「産業別」統計表 第1表・第4表・第5表、2026年7月29日公表。事業所数・従業者数は2025年6月1日、出荷額等は2024年の1年間。金型は産業細分類2691・2692の合計。割合・増減率は筆者が計算)
業界全体の出荷額は伸びていますが、分野ごとに見ると様子が違います。
| 分野(産業小分類) | 事業所数 | 製造品出荷額等 | 前年比 |
|---|---|---|---|
| 半導体・フラットパネルディスプレイ製造装置 | 1,982 | 5兆9,040億円 | +15.3% |
| 金属加工機械(工作機械・機械工具など) | 6,265 | 4兆5,095億円 | +3.0% |
| 建設機械・鉱山機械 | 1,531 | 5兆1,908億円 | −4.5% |
| 生活関連産業用機械(食品・包装・印刷機械など) | 2,260 | 1兆5,581億円 | +3.7% |
| その他の生産用機械(金型・ロボットなど) | 7,716 | 4兆5,439億円 | −1.3% |
出典:同上(第1表から筆者が計算)
半導体製造装置を除くと、生産用機械全体の出荷額は前年より約1.6%減っています。どの分野の、どの顧客の設備投資に依存しているかで、景気の影響の受け方が大きく変わる業界です。事業所数は金属加工機械(−6.2%)や金型(−5.6%)で減少が目立ち、小規模な事業所の廃業が続いていることがうかがえます。
価格転嫁では、中小企業庁の2026年3月の調査で、コスト上昇分のうち価格に転嫁できた割合は全体で54.2%でした。受注側の業種別に見ると、機械製造は63.9%(原材料費68.2%、エネルギー費60.6%、労務費60.0%)と、全業種の中では上位です(経済産業省「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果を公表します」、2026年6月26日公表。業種別の数字は同ページの調査結果(PDF)による)。ただし、カタログ品の価格が長年据え置かれて交渉しにくいといった声も紹介されており、製品や取引先によって差がある点には注意が必要です。
中小機械器具製造業の収益構造と決算書の特徴
材料費と人の技術、どちらに重みがあるかで構造が変わる
経済構造実態調査の数字から計算すると、生産用機械全体では原材料・燃料・電力の使用額等が出荷額の約60%、人件費等が約14%です。一方、金型では原材料等が約47%、人件費等が約24%と、設計や仕上げの技術、つまり人の比重が大きい構造です。
公庫の調査で、従業者50人未満の小規模企業の数字を見ると、次のとおりです。
| 指標 | 一般機械器具製造業 全体平均(302社) | 同 黒字企業(96社) | 金型 全体平均(63社) | 金型 黒字企業(17社) |
|---|---|---|---|---|
| 売上高経常利益率 | −3.6% | 7.0% | −5.6% | 7.2% |
| 売上高経常利益率(償却前) | 1.2% | 10.8% | 0.5% | 10.8% |
| 人件費対売上高比率 | 39.3% | 33.8% | 44.4% | 38.7% |
| 従業者1人当たり売上高 | 1,330万円 | 1,492万円 | 1,101万円 | 1,166万円 |
| 従業者1人当たり粗付加価値額 | 485万円 | 559万円 | 470万円 | 541万円 |
| 人件費対粗付加価値額比率 | 108.6% | 75.7% | 105.0% | 74.4% |
| 借入金回転期間 | 12.1か月 | 10.1か月 | 17.7か月 | 15.3か月 |
| 自己資本比率 | −25.5% | 19.6% | −55.0% | 17.9% |
出典:日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」(2024年度調査)業種別経営指標 一般機械器具製造業・金型・同部分品・附属品製造業(公庫の融資先で従業者50人未満の法人、2025年8月掲載。「黒字企業」は黒字かつ自己資本プラス企業)
平均では、生み出した付加価値を人件費が上回っており、赤字の会社が多いことが分かります。一方、黒字企業は人件費を付加価値の7割台に抑えています。1人当たりの売上高の差は1割強なので、売上の量よりも、見積りの精度と採算の良い仕事の選び方で差がついていると考えられます。金型は借入金回転期間が長く、設備への投資が重い業種であることも読み取れます。
決算書に表れる業界特有のポイント
- 仕掛品:専用機は設計から検収まで数か月かかることがあり、期末に作りかけの機械が仕掛品として残る
- 前受金・中間金:契約によっては、着手時や出荷時に代金の一部を受け取る。前受金は負債に計上する
- 外注費:部品加工、板金、制御盤、塗装などを外注する会社が多く、外注先への支払いが先行しやすい
- 工作機械:マシニングセンタや放電加工機、測定機などの設備が多く、償却費と借入が大きくなりやすい
銀行は機械器具製造業のどこを見るか
受注残と入金予定:運転資金の考え方
受注生産では、材料や外注費を先に払い、代金は検収後に入ってくるため、案件が重なると一時的に大きな資金が必要になります。銀行は、受注残の金額と内容、案件ごとの入金予定、前受金の有無を確認し、必要な運転資金の額を判断します。
案件ごとに「受注額、着手日、検収予定日、前受金・中間金、外注費の支払予定」を一覧にしておくと、短期の借入や当座貸越の相談がしやすくなります(運転資金の融資の考え方、当座貸越の使い方)。
設備資金:工作機械の投資を回収できるか
工作機械や測定機の更新は、耐用年数に合わせた長期の設備資金で借りるのが基本です(借入期間と耐用年数の考え方)。銀行は、その設備でどんな仕事を取り、いくらの付加価値を生むかを見ます。設備の稼働率や、外注していた工程を内製化することによるコスト削減など、効果を数字で示しましょう。
返済能力:償却前の利益で見る
著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で、10年以内が健全、20年超は厳しいと見られます。
たとえば年商3億円の会社で、償却前の経常利益率が黒字企業の平均の10.8%なら、年約3,240万円です。借入金が月商の10.1か月分(一般機械の黒字企業の平均、約2億5,250万円)なら債務償還年数は約7.8年ですが、15.3か月分(金型の黒字企業の平均、約3億8,250万円)なら約11.8年となります(現預金と法人税等を考慮しない単純な試算)。同じ利益率でも、設備の重さで返済年数は大きく変わるため、金型の会社ほど手元資金の厚みと利益率の改善が評価を左右します。審査全般は銀行融資の審査で見られるポイントも参考にしてください。
業界特有のリスクとして見られる点
| リスク | 銀行が確認すること |
|---|---|
| 顧客の設備投資の波 | 受注の分野・顧客の分散、受注残の推移 |
| 赤字案件 | 見積りと実績の差、案件別の採算管理 |
| 検収の遅れ | 検収条件、立上げ・調整に必要な期間 |
| 技術者の不足 | 設計・組立・制御の担い手と、その年齢構成 |
| 特定顧客への依存 | 上位顧客の売上割合(取引先の集中リスク) |
機械器具製造業特有の税務・会計の論点
売上の計上時期:引渡しの日と検収基準
棚卸資産の販売の収益は、その引渡しがあった日の事業年度に計上します。引渡しの日は、出荷した日、相手方に着荷した日、相手方が検収した日、相手方で使用できるようになった日など、製品の種類や契約の内容に応じて合理的な日のうち、会社が継続して使っている日によります(国税庁 法人税基本通達2-1-2)。据付けや試運転を要する機械では、検収日を基準にしている会社が多いでしょう。
機械の販売に伴って据付工事を行う場合、据付工事が相当の規模で、機械の代金と据付の代金を契約などにより合理的に区分できるときは、区分した単位ごとに収益を計上できます(同2-1-1の2)。また、合意した仕様に合っていることだけを保証する一般的な製品保証は、販売とは別の取引として収益を分ける必要はないとされています(同2-1-1の3)。
| 論点 | 確認すること |
|---|---|
| 計上基準 | 出荷基準か検収基準か。毎期同じ基準を続けているか |
| 期末の案件 | 検収書の日付と、売上を計上した期が一致しているか |
| 据付・試運転 | 据付の代金を区分しているか、区分の根拠となる契約があるか |
| 前受金 | 入金時に売上にしていないか(負債として計上する) |
決算前に検収をそろえようとして、実際には検収されていない機械を売上にしてしまうと、税務調査で売上の計上時期を指摘されます。検収書を案件ごとに保存し、期末をまたぐ案件は特に日付を確認しましょう。
仕掛品の評価
期末に作りかけの機械は、材料費・外注費・労務費・製造経費を集計して仕掛品として計上します。案件別に原価を集計していないと、仕掛品の金額があいまいになり、利益が正しく出ません。案件別の原価管理は、税務の正確さと見積りの精度を同時に高めることになります。
設備と金型の耐用年数
| 資産 | 法定耐用年数 |
|---|---|
| 生産用機械器具製造業用設備のうち金属加工機械製造設備 | 9年 |
| 生産用機械器具製造業用設備のうちその他の設備 | 12年 |
| プレスその他の金属加工用金型、合成樹脂・ゴム・ガラス成型用金型、鋳造用型 | 2年 |
| 切削工具 | 2年 |
出典:減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第一・別表第二
機械装置の耐用年数は、その設備でつくる最終製品の業種で判定するのが原則です(国税庁 耐用年数の適用等に関する取扱通達 1-4-2・1-4-3)。自社製品のために金型をつくる製造業の金型製造設備は、その自社製品の業種の設備として判定します(同1-4-5)。
設備投資の税制では、中小企業経営強化税制(経営力向上計画の認定を受けた設備の即時償却または税額控除。取得等の期限は2027年3月31日)があります(国税庁 No.5434)。ただし、即時償却で利益を圧縮すると、その期の決算書は弱く見えます。著書の標語「払った税金の2倍、会社は強くなる」のとおり、税金を減らすことと銀行の評価を上げることは必ずしも一致しないため、翌期以降の借入の予定もふまえて使い方を決めましょう。
事業承継・M&A:設計図、技術者、顧客をセットで
機械や金型の会社の価値は、図面と設計のノウハウ、それを形にする技術者、長く付き合ってきた顧客、そして工作機械が一体になって生まれます。事業所の多くが小規模で、社長自身が設計や営業の中心にいる会社も少なくありません。中小企業の第三者承継は広がっており、事業承継・引継ぎ支援センターの成約件数は2024年度に2,132件となっています(中小企業基盤整備機構「事業承継・引継ぎ支援事業」事業評価報告書)。
| 論点 | 承継・M&Aで確認されること |
|---|---|
| 図面・設計データ | 過去の図面や設計データが会社の資産として整理され、権利関係がはっきりしているか |
| 技術者 | 設計・組立・制御の技術が特定の人に依存していないか(キーパーソンの引き留め) |
| 顧客 | 顧客との関係が社長個人のつながりに頼っていないか(オーナー依存のリスク) |
| 保守・補修 | 納入済みの機械の保守や部品供給の約束を、誰がどう引き継ぐか |
| 工場・土地 | 工場の土地・建物が社長個人の名義になっていないか(事業用不動産の承継) |
買い手は、仕掛中の案件の採算と、過去の案件で赤字になったものの原因を確認します。案件別の原価と見積りの記録が残っている会社は、評価の話が進めやすくなります。承継の全体の流れは中小企業M&Aの件数と最近の傾向もご覧ください。
経営者が今やっておきたいこと
- 受注残と案件別の入金予定(前受金・中間金・検収予定)を一覧にしている
- 案件別に原価を集計し、見積りと実績の差を振り返っている
- 売上の計上基準(出荷基準か検収基準か)を決め、毎期続けている
- 期末をまたぐ案件の検収書の日付を確認している
- 顧客の分野・上位顧客への依存度を把握し、受注の波に備えている
- 主要な工作機械の取得年と更新予定をまとめ、設備資金の計画を立てている
- 図面・設計データを会社の資産として整理し、技術の継承を進めている
- 償却前の利益と債務償還年数を毎期確認し、銀行に説明できる
ほかの製造業の動向は、金属加工業、自動車部品製造業、プラスチック製品製造業でも解説しています。
まとめ
- 生産用機械器具製造業の出荷額は25兆2,999億円で前年比1.9%増。ただし伸びの中心は半導体製造装置で、それ以外は約1.6%減
- 事業所の約8割、金型では約9割が従業者29人以下
- 受注生産では仕掛品と立替えの資金が膨らみやすい。受注残と入金予定の一覧が融資の相談の土台になる
- 売上は引渡しの日(検収日など)に計上し、基準を毎期続ける。据付工事は条件を満たせば区分して計上できる
- 金型は借入が重くなりやすい。黒字企業の償却前経常利益率は10.8%で、案件別の採算管理が差をつける
運転資金・設備資金の調達や決算書の見せ方、事業承継の進め方について相談したい方は、融資・資金調達のサポートや事業承継・M&Aのサポートをご覧ください。初回のご相談は無料です。
