保険の活用

HDと生命保険|契約者・受取人は事業会社・HD・個人の誰にする?税金と株価への影響を整理

HD(ホールディングス)を作ると、会社がひとつ増えます。すると、オーナーの生命保険についても、「事業会社で入るのか、HDで入るのか、それとも個人で入るのか」という選択肢が増えます。保険の営業の場面では商品の話が先に出がちですが、本当に先に決めるべきなのは、誰が契約者になり、誰が保険金を受け取るかです。それによって、保険金にかかる税金、自社株の評価、保険金を何に使えるかが変わるからです。

この記事では、保険を勧める立場ではなく、HD体制で保険を検討するときの整理の仕方をお伝えします。保険は資金を準備する手段の一つで、預金や融資枠と比べて選ぶものです。

この記事の結論
  • 先に決めるのは保険で備えたい資金を、どの会社(人)が必要とするか。契約者・受取人はそこから決まる
  • 個人契約の死亡保険金は、組み合わせで相続税・所得税・贈与税のいずれか。相続税なら非課税限度額(500万円×法定相続人の数)がある
  • 法人契約の保険金は会社の益金。死亡退職金などで使えば損金と相殺できるが、残れば課税される
  • 会社が受け取る保険金は、純資産価額で生命保険金請求権として資産に計上し、株価に影響する
  • 銀行は保険積立金を解約返戻金で見直し、保険料は経常利益を下げるものとして見る

契約形態ごとの税金

死亡保険金にかかる税金は、被保険者・保険料の負担者・保険金受取人の組み合わせで決まります。

被保険者保険料の負担者(契約者)受取人税金根拠
オーナーオーナー相続人(後継者など)相続税(非課税限度額あり)タックスアンサーNo.1750・No.4114
オーナー後継者後継者所得税(一時金なら一時所得)No.1750
オーナー配偶者子贈与税No.1750
オーナー事業会社事業会社法人税(保険金は益金)法人税法22条
オーナーHDHD法人税(保険金は益金)同上
HD体制での保険の契約者・受取人の候補
オーナー個人相続人が受取人なら相続税(非課税枠)
後継者個人保険料を負担すれば一時所得
↓
HD株式取得の借入返済、HD役員としての退職金
↓ 100%
事業会社借入返済・運転資金・事業会社役員としての退職金
どの資金を、どの会社(人)が必要とするかで、契約者と受取人を決める

個人契約の特徴

オーナーが保険料を負担し、相続人が受け取る形では、保険金は相続税の対象(みなし相続財産)ですが、相続人が受け取る保険金の合計のうち500万円×法定相続人の数までは非課税です(タックスアンサーNo.4114)。受取人を指定できるため、遺産分割の対象にならず、指定した人に確実に資金が渡るのも特徴です。

ただし、受取人を後継者だけにすると、他の相続人との公平が問題になることがあります。最高裁平成16年10月29日第二小法廷決定は、死亡保険金請求権は原則として特別受益に当たらないとしつつ、相続人の間の不公平が到底是認できないほど著しい特段の事情があれば、特別受益に準じて持戻しの対象になるとしています。

法人契約の特徴

会社が契約者・受取人になる形では、保険金は会社の益金です。オーナーの死亡退職金や借入の返済など、会社の資金として使えます。死亡退職金は損金になるので、保険金と同じ年に支払えば、保険差益にかかる法人税を抑えられます。一方、保険金が退職金などを大きく上回ると、残りには法人税がかかります。

事業会社とHD、どちらが契約するか

HD体制では、同じ法人契約でも、事業会社とHDのどちらが契約するかで、保険金の使い道が変わります。

必要な資金必要とする会社補足
事業会社の借入の返済・運転資金事業会社社長の急逝で売上が落ちる期間の資金
死亡退職金(オーナーが事業会社の役員)事業会社退職金を払うのは役員として在籍していた会社
死亡退職金(オーナーがHDの役員だけ)HD事業会社を退任しHDの社長になった後など
HDが株式の取得のために借りた資金の返済HD後継者のHDが株式を買い取った場合など
相続人からHD株式を買い取る資金(金庫株)HDHDの分配可能額の範囲内(会社法461条)
相続税の納税資金相続人個人個人契約、または死亡退職金の形で個人に渡す

ポイントは、保険金を受け取った会社から別の会社に資金を移すのは簡単ではないことです。事業会社が受け取った保険金をHDに移すには配当が必要で、配当には分配可能額の制限があります。HDから事業会社に移すなら貸付や増資です。必要な資金を必要な会社に置いておくのが基本です。

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会社が受け取る保険金と自社株の評価

オーナーが亡くなり、会社が保険金を受け取ると、その会社の株価にも影響します。国税庁の質疑応答事例「評価会社が受け取った生命保険金の取扱い」は、純資産価額の計算について次のように示しています。

  1. 受け取った生命保険金の額を生命保険金請求権として資産に計上する
  2. 保険料を資産に計上していた場合は、その金額を資産から除く
  3. 保険金を原資に支払う死亡退職金の額と、退職金を控除した後の保険差益に対する法人税額等を負債に計上する

保険金が死亡退職金と法人税額等を上回れば、その分だけ純資産価額が上がります。HD体制では、事業会社が受け取ればまず事業会社の株価が上がり、HDが持つ事業会社株式の評価を通じてHDの株価にも影響します。HDが受け取ればHDの株価に直接影響します。

株式保有特定会社の判定との関係

HDは資産の大半が子会社株式のため、株式等の割合が50%以上の株式保有特定会社に当たりやすい会社です(判定は株式保有特定会社に注意)。HDが保険に加入すると、保険積立金が株式以外の資産として増えますが、財産評価基本通達189のなお書きは、課税時期前に合理的な理由もなく資産構成に変動があり、それが特定の評価会社の判定を免れるためと認められるときは、その変動はなかったものとして判定するとしています。判定を外すことを目的とした保険の加入は勧められません。

銀行から見た法人の保険

法人で保険に入るときは、銀行の見え方も確認しておきます。

  • 保険積立金は解約返戻金で見直される:帳簿の積立金と、その時点で解約したときの返戻金に差があれば、実態の純資産では返戻金の額で見られます
  • 保険料は経常利益を下げる:損金になる保険料は、そのまま利益と債務償還年数を悪化させます。著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)で、10年以内が健全の目安です
  • 万一への備えは評価される:社長が一人で事業を支えている会社では、保険金で借入を返せる、運転資金をつなげることが、事業の継続性として評価されることもあります

保険料の経理のルールは法人保険の経理処理と税務、保険の経理と銀行の見方は法人の生命保険と銀行融資への影響で解説しています。

まとめ

  • HD体制の保険は、まず「どの資金を、どの会社(人)が必要とするか」を決め、契約者・受取人を選ぶ
  • 個人契約の死亡保険金は、組み合わせで相続税・所得税・贈与税。相続税なら500万円×法定相続人の数の非課税限度額がある
  • 法人契約の保険金は益金。死亡退職金などで使えば損金と相殺できる。会社間の資金の移動には制限がある
  • 会社が受け取る保険金は、純資産価額で生命保険金請求権として計上され、株価に影響する
  • 保険は資金準備の手段の一つ。預金や融資枠と比べ、銀行の見え方も確認してから選ぶ

保険の要否や契約形態は、承継の計画とグループの資金計画の中で判断するものです。クレフティでは、保険商品の選定ではなく、HD体制の資金計画・税務の観点から、契約形態の整理や既存の保険の確認をお手伝いします。初回のご相談は無料で、担当者がお話を伺ったうえで、担当の税理士または金融機関出身のコンサルタントが対応します。

よくある質問

オーナーの生命保険は、事業会社とHDのどちらで契約すべきですか?
保険で備えたい資金を、どの会社が必要とするかで決めます。借入の返済や運転資金、オーナーが事業会社の役員のままなら死亡退職金は、事業会社に必要な資金です。HDが株式の取得資金を借りている、オーナーがHDの役員として退職金を受ける、といった場合はHDに必要な資金です。どちらにも当てはまらない納税資金などは、個人契約のほうが合う場合もあります。
会社が受け取った死亡保険金は、自社株の評価にどう影響しますか?
被相続人の死亡を保険事故として会社が受け取る保険金は、純資産価額の計算で生命保険金請求権として資産に計上します。資産に計上していた保険料は除き、保険金を原資に支払う死亡退職金と、保険差益に対する法人税額等は負債に計上します(国税庁質疑応答事例「評価会社が受け取った生命保険金の取扱い」)。保険金が退職金より大きいと、株価が上がることがあります。
個人で契約した死亡保険金には、どんな税金がかかりますか?
被保険者・保険料の負担者・受取人の組み合わせで決まります。被保険者と保険料の負担者が同じで受取人が別の人なら相続税、保険料の負担者と受取人が同じなら所得税(一時金なら一時所得)、3者が全員違えば贈与税です(国税庁タックスアンサーNo.1750)。相続税の場合、相続人が受け取る保険金には500万円×法定相続人の数の非課税限度額があります(No.4114)。

※本記事は2026年10月30日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。
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